2023年9月 1日
#865 中野 幹 『自分との約束』
ニュージーランドでラグビー修行中の中野選手。その充実ぶりが伝わってくるリモート・インタビューとなりました。 (取材日:2023年7月下旬)
◆休みの日を作らない
――ニュージーランドでの練習はどんな感じですか?
練習自体は週に2回位。クラブラグビーでは火曜と木曜が練習で、土曜が試合のようなスケジュールになります。月曜は州の代表の練習に参加をさせてもらっていて、水曜と金曜は何もないという感じです。その水曜と金曜はスポットコーチのディーン(カミンズ)のトレーニングを入れているので、毎日トレーニングはしています。練習時間が多いという感じではないので、出来るだけ休みの日を作らないようにしています。
――日本での練習と比べると、量としては少ない感じですか?
日によって違うんですが、練習回数が少ない分、1回の練習時間は長い気がします。2時間くらい練習する時もあるので、サンゴリアスと比べると長いと感じる日もあります。ハードさはそれほど感じませんが、反復する時間が多いですね。
――そういった練習をすることで、自分にとって新しいことが身についていますか?
練習で新しいことをやっているとは感じませんが、基礎を繰り返すということが多いと思います。
――ではその基礎のレベルアップは出来ていますか?
そうですね。ニュージーランドの選手はハンドリングが上手なイメージがあって、僕自身もハンドリングが鍛えられているように感じています。あと、試合数が多くて、ニュージーランドに来てから毎週試合をしているので、試合勘が養われていると感じています。
――ニュージーランドに行って良かったですか?
あと2ヶ月くらい留学期間があるんですが、現時点でも「来て良かった」と思っています。
――今後の2ヶ月でのテーマは?
とにかく試合に出て、試合で使えるスキルをレベルアップさせたいと思っています。疲れた状態でも激しくコンタクトが出来るか、正確なパスが放れるか、タックルミスしないかなど、そういう部分にフォーカスして取り組みたいと思っています。疲れていなければどの選手も強いので、疲れた状態でもプレーの質にこだわりたいですね。
とにかくこっちの選手はとても大きくて、パワーがある選手がたくさんいます。ただ、正確さではそれほど高くないと感じているので、僕がこっちで強みに出来ると感じた部分は、ずっと高いレベルでハードワークすること、80分間通してし続けるということで、そこが評価されるポイントでもあると思っています。
◆説得力のある発言と行動
――2022‐2023シーズンの自分自身の評価は?
難しいですね。自分自身としては先を見過すぎずに、その場面場面、1日1日を大事にして、100%取り組むと意識して出来ていたので、気持ちの持っていき方は昨シーズンでとても成長できたと感じています。ただ、ラグビー選手としては結果を残せなかったと思うので、難しいシーズンになったと思っています。悔しい思いをすることが多いシーズンでした。悔しい思いをしたことは多かったんですが、自分自身の練習への取り組み方は、自分としては成長出来ていると思ったシーズンで、そこは良かったと思っています。
――それを意識して取り組んだのはなぜですか?
僕自身、「負けたくない」という気持ちがやっぱりありました。同じポジションの選手に負けたくないという気持ちがありますし、なぜ自分が使われないのかとコーチ陣に対して思うこともありましたが、その気持ちをただぶつけるのではなく、練習への取り組み方や自分が恥ずかしくない行動を取れているのかなど、説得力のある状況の中で発言をしたかったですし、言っているだけじゃないと行動で示したかったんです。だから、適当な行動は出来ないという思いがありました。
あとはシンプルに、まだまだ「足りていない」という部分もあったので、成長したいという気持ちもあって、1日1日を大切にしようと思って取り組みました。
――その上での現在の課題は何ですか?
ニュージーランドに来たことにも繋がるんですが、オフシーズンに身体を鍛えて、シーズンに向けて整えていくという過ごし方ではなく、僕自身に足りないことは試合経験だと思ったんです。試合の中でどれだけ良いパフォーマンスが出来るかということにフォーカスして取り組むために、ニュージーランドに来ました。
――ニュージーランドに行ったことで、その課題に向けた取り組みは出来ているんですね
そうですね。やりたかったことが出来ていて、その中で試合ごとに、ここではこうすれば良かったという課題が出てきて、それをどんどん改善していっているという感じです。
――それがやりたかったことなんですね
試合じゃなければ見つからない課題があるので、それを毎試合見つけて改善するということです。それがいちばん大きかったと思います。試合経験をどれだけ積めるか、そのためにニュージーランドに来ました。
◆楽しい、幸せ
――そうすると今とてもラグビーが楽しんじゃないですか?
そうですね。充実していて、とても楽しいと同時に、幸せだなと感じています(笑)。サントリーという会社にもサポートしてもらってニュージーランドに来ることが出来ているので、とても感謝しています。
――ずっとニュージーランドにいたいんじゃないですか?
いやいや(笑)。サンゴリアスで活躍するために今やっています。今の環境は僕にとっては、願ったり叶ったりの環境ですね。
――今までのラグビー人生では、あまり試合に出られないということは無かったのでは?
いや、僕のラグビー人生は、順風満帆に試合に出られていたというわけではないですよ。高校生の時には膝の靭帯を2回ほど怪我して、試合に出られたのは高校3年の時だけでした。大学の時も1年では試合に出られず、2年生から少しずつ出られるようになって、20歳以下の日本代表に呼ばれるようになりましたが、リザーブだったりで、不動という感じではありませんでした。
順風満帆なラグビー人生ではなかったですし、けれどそれを楽しんでいる自分もいたりしました。今も忘れもしませんが、サンゴリアスの1年目のオフシーズンの時に先輩たちと食事に行った時に、「開幕戦は誰がメンバーに入れると思う?」という話になりました。もちろん僕は自信がありましたし、自分ならやれると思っていたので、「僕は行けると思います」と言ったら、「幹は無理や」みたいな雰囲気になりました。そういうことが燃料になっている自分がいて、1年目の時もそれでとても頑張ることが出来ました。
だから、なかなか試合に出られない期間を自分の燃料にして頑張るタイプなので、昨シーズンはフラストレーションが溜まりましたが、それでも自分の歩みは止めずに、毎日毎日にフォーカスして進めて行きました。それが次のシーズンで良いパフォーマンスをするための、燃料になると思っています。だから、順風満帆じゃないことも楽しめています。
――そこで楽しめることが素晴らしいですね
楽しめてるって、少しカッコつけたかもしれないです(笑)。楽しめているかは分からないですけど、ここで必死に練習することや自分の目標、自分が言ってきたことなどを止めたら、「あいつは口だけやん」ってなるような気がします。そういうフラストレーションが溜まるような状況でも、「1日1日にフォーカスしてやるって決めたよな」とか「どんなことがあっても、毎日コツコツやるって決めたよな」って、そういう自分の中での約束があったから、気持ちを切り替えられた自分がいました。だから楽しんでいたというより、自分との約束みたいな感じですね。
――その約束を守るというところがプライドですね
そうですね。そこに昨シーズンはフォーカスして、どんなことがあろうとコツコツ積み重ねていくことを考えていました。
◆質の高いプレーをし続ける
――精神的な部分や試合経験を積んで、さらに課題に思っていることは何ですか?
正直、これをすれば試合に出られるということが決められないんですよ。それはなぜかと言えば、試合のメンバーを選ぶのは監督で、自分自身が他の選手よりも優れていると思っても、監督がどう考えているかは分かりません。だから難しいポイントなんですが、僕自身の強みはフィールドだと思っています。
もちろんスクラムを高いレベルで組むのは当たり前で、「幹にボールを渡せば強いキャリーをしてくれる」、「幹の前にアタックが来たら確実に止めてくれる」、「幹はハンドリングも良いよな」、この3つで高いパフォーマンスが出せるようになれば、自ずとチームから必要とされる存在になると思っています。
だから僕がしなければいけないことは、質の高いプレーをし続けることで、それが僕にとって必要なことだと思っています。その行動の結果、チームの役に立てるのではと思います。僕のタイプとしては、口でチームを引っ張っていくよりかは、プレーでチームを引っ張っていける存在になりたいと思っています。
――その3つについては、現時点ではどのくらいの自信がありますか?
結構、自信ありますよ(笑)。ニュージーランドに来てから初めて経験することがあって、それは日本のリーグで味わうよりも強いコンタクトをしてくる選手がいるんですよ。そういう選手からタックルを受けたりすることもあったので、こういう選手にどうアタックすればいいか、どうディフェンスすればいいかを考えましたね。
だから、ここでそういう選手にドミネートするタックルが出来れば、日本に帰ったら全然いけるだろうなという自信に変わりました。あと2ヶ月くらいあるので、改善できる余地はまだまだあって、そこを出来る限り改善して、その繰り返しをして質を高めて日本に帰ることが出来たら、良いパフォーマンスが出せると思っています。
――新シーズンに向けた目標は?
個人としての目標は、垣永さんなどサンゴリアスの3番の選手たちと競い合った中で、自分が3番のジャージを着ることですね。垣永さんは日本代表に選ばれていますし、細木もすごくポテンシャルがあるんですが、そこで「絶対に負けへん」、「誰にも負けへん」という気持ちでやっていきます。
1日1日にフォーカスすることは昨シーズンでやって、そこはいちばん大事な部分なので継続するんですが、次はちゃんとした結果も掴めるようにしたいと思います。僕がサンゴリアスの3番として試合に出て、「良いパフォーマンスをする」、「自分が掴み取る」ということを目標にやっていきます。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]