SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2023年8月25日

#864 中靍 隆彰 『チーム全員で心を鍛えていきたい』

トップリーグでトライを連発しMVPに輝いた実績のある中靏選手。なかなか出番のなかったシーズンを経て、いま何を目指し、どんな練習を積み重ねているのでしょうか。(取材日:2023年7月下旬)

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◆ラグビーが出来るだけで楽しい

――久しぶりのスピリッツ・オブ・サンゴリアスですね

試合に出る準備はいつもしていますし、出るために毎日考えてやっていますが、なかなか難しかったですね。

――どこが足りていなかったと考えていますか?

調子はずっと良かったですし、いつでも試合に出せるパフォーマンスを出してくれているというフィードバックはもらっていました。2022-2023シーズンで言えば、同じポジションの晟也(尾﨑)がトライ王になり、毎試合であぁいった結果を残していましたし、そしてティー(テビタ・リー)や幸太朗(松島)もいて、僕が監督でもメンバーは変えなかったと思います(笑)。

例えば、僕がいくら練習試合で活躍しても、トライ王を取っている選手がいるので、公式戦のメンバーは変えないんじゃないかなと思います。それでもポジティブに取り組んでいます。本音を言うと、僕はラグビーが出来るだけで楽しい人間で、練習も楽しいですし、練習試合に出ることも楽しいです。

そうやって頑張っていたら、思ってもいないタイミングの近鉄戦でチャンスをもらえて、そこが勝負の分かれ目だったかなと思います。チャンスはもらったので、そこで例えば4トライや5トライを取っていれば、またチャンスをもらえたかもしれません。実際にはチャンスで取り切れなかったので、悔しかったですね。

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――これまでの最高は1試合4トライですか?

4トライですね。

――その時は身体の調子が最高に良かったんですか?

いや、トライの数は調子じゃないと思っています。身体はめちゃくちゃ調子が良いのに、良いタイミングでボールが右ウイングには回って来なくて、左サイドばかりでトライが取れるということもあります。そこは運も影響していると思います。その中でコミュニケーションなどで、どれだけ確率を高められるかになると思います。

例えば2対1の状況で、ボールをもらえばトライになるとしても、ボールを持っている人に主導権があり、その人がパスをしなければ、僕がトライをすることは出来ません。トライを取ることが仕事ですが、試合に勝つことが大事ですし、僕は特に周りに活かされてなんぼです。

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◆スポーツの本来の楽しみ

――スピードやテクニックはずっと向上し続けているんですか?

スピードも落ちていないと思っていますし、試合でもスピードを活かしたプレーは良かったと思っています。スピードに一番のプライオリティを置いてトレーニングしています。

テクニックの部分も、ずっとノンメンバーだったので、パスやキックなど色々なテクニックのトレーニングをしてきました。それが試合でもプレーに結びついたりして、これがスポーツの本来の楽しみだなと感じましたし、コーチからも恥ずかしいくらい褒めてもらいました(笑)。

もちろん試合に出られない悔しさもありますし、そういう気持ちも大事だと思いますが、そういう姿を後輩たちに見せるのは違うかなと思っています。

――そういう世代になってきたということですね

上の年代の選手がポジティブにやっていたら、下の年代の選手たちは見てくれると思いますし、チームがポジティブになるんじゃないかなと思っています。ただ、無理やりポジティブにやっているわけじゃなくて、どうせやるなら楽しく、主体的にやりたいと思っています。

――それだけ楽しいラグビーなら、ずっとやりたいですよね

やりたいですね。ただ、このチームはそういうチームではないので、いつかは辞めなければいけない時が来ると思います。サンゴリアスには毎年、良い選手が入ってきますし、その分、出ていなかければいけない選手もいます。だから、毎年、最後という気持ちでやっています。

――毎年成長するためにトップでやりたい、という気持ちがあるんですか?

そう言われるとそうかもしれないですね。サンゴリアスを離れることになっても、他のチームやクラブチームなどで続ける方法もあるかもしれませんし、子どももラグビーをやっているので、一緒にやるかもしれません。とにかくラグビーとの関わりはずっと続いていくと思いますが、ただ自分の人生の中で、優勝を目指してトップのチームで本気でやるというのは、サンゴリアスが最後だと思っています。

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◆足を速くすることに正解はない

――コーチングには興味はありますか?

無いですね。教えられる分野はあると思いますが、僕自身が合理的ではないトレーニングも好きだったりして、それを他の人に勧められないんですよね。足を速くすることに正解はないと思うんですよ。自分でいろいろと考えて試してみたりするので、そういうやり方を信じられない人に勧めることは出来ないですね。

――自分で考えて効果があったトレーニングはありますか?

自分の中ではありますね。自分には効果があったかもしれないですが、チームに対して教えることは向いていないと思います。これだけラグビーを続けて来て、これをすれば良くなるというポイントはいくつかあるので、それを教えたいという気持ちはありますし、そういうモチベーションがある人から「教えて欲しい」と来てもらいたいなと思います。

――それだけ厳しい練習をしているということですよね

その自負はあります。

――それだけ厳しい練習をしてきて、試合に出るためには更にどうしようと考えていますか?

今のままではダメだと思うので、変えていかなければいけないと思っています。次のシーズンに向けて、若手合宿から参加させてもらおうと思っていますし、これまでやってきたことに加えて、これまでやってこなかったこともやらなければいけないと思っています。

――やっていなかったこととは、例えばどんなことですか?

いっぱいあります。自分が特化していなかったところで、例えば、ブレイクダウンやタックルなどがそうですし、春シーズンからしっかりとアピールしなければいけないと思っています。

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◆後輩の成長は嬉しい

――ウイングがなかなか定着しないように感じますが、それはなぜだと思いますか?

まずは良い選手がたくさんいるんだと思います。良い選手でも出られないシーズンがありますし、試合に出た人は活躍をします。それで出ていない選手は、日々の悔しさを努力に変えて試合に出たりするので、定着しないことは悪いことではないと思います。

――次のシーズンではかなりチャンスがあると思いますか?

結構、厳しいと思っています。今の状況だと、晟也、幸太朗がいて、コルビ(チェスリン)が来ます。ただ、何があるか分からないですからね。僕が優勝したシーズンで初めて試合に出た時も、開幕戦はノンメンバーで、練習試合でどれだけトライを取っても怒られていました。ですので絶対にシーズン中は出られないと思っていましたが、練習で頑張っていたら試合に出してもらえるようになって、メンバーに定着して優勝することが出来ました。そういうこともあるので、常に準備をしておかないとチャンスは来ないと思います。

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――改めてラグビーの楽しさはどこですか?

練習試合や公式戦含め、試合に勝ってみんなで飲んだりすることが楽しいと思いますし、試合で活躍すると家族やファンの方が喜んでくれますし、会社でも声をかけてくれたりするので、いろいろな楽しさがありますね。10個くらい年下の選手と一緒に練習をしたりすることも、楽しいですね。

――後輩がたくさん増えてきたことで意識も変わってきましたか?

もちろん後輩の成長は嬉しいですし、後輩が試合で活躍する姿を見ることも嬉しいです。その中で自分も試合に出たいという気持ちがあるので、難しいですよね。

――サンゴリアスの後輩でいろいろ訊いてくる選手はいますか?

いないですね。別に仲が悪いというわけじゃないんですけれど、僕が教えられるのはスキルじゃなくてトレーニング方法ですからね。そういう意味では、石原とか江見、将伍(中野)とかとよくトレーニングをしていて、将伍はあれだけポテンシャルがあるんですけど、とてもストイックにトレーニングをしています。すでに素晴らしい選手ですけど、更に素晴らしい選手になるんじゃないかなと思っています。トレーニングに対しては考え方が似ていますね。

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◆ラグビーの最後

――新シーズンに向けての目標をお願いします

もちろん優勝がいちばんの目標ですし、そのために取り組むんですけれど、ここ5年くらい優勝できていませんし、本当に優勝は重たいなと思っています。練習から私生活まで、本当にチーム全員で目の前のことを良い方向に積み重ねていって、その結果が優勝だと思います。

個人としては、悲壮感が出て嫌なんですけど、10歳から始めたラグビーの最後になると思っています。そういう気持ちを常に持って取り組みたいと思っています。もちろんチームからまだ必要だと言われたら、まだ続けたいですし、そうでなければあれが最後の練習だったのかって思わないようにしたいですね。

チームの優勝のために僕が出来ることはいっぱいあると思うので、規律の部分を含めて、やっていきたいです。そのためには心を鍛えないといけないですね。私生活も含めて、ラグビーに繋がっていくと思います。負けてもやることはやったと思える試合は、気持ちを持ったプレーが出来ていると思うので、心が大事かなと思います。チーム全員で心を鍛えていきたいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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