2023年8月 4日
#861 大賀 宗志 『スクラムの成長は曲線ではなくて階段』
気は優しくて力持ちのイメージに加えて度胸満点の新人・大賀選手。階段を1段ずつ上がっていく姿を、ファンの皆さんと共に見守っていきたいと思います。(取材日:2023年7月下旬)
◆来シーズンに間に合わせる
――入団そしてリーグワン1年目のシーズンはどうでしたか?
膝を手術してからの入団でした。2月から一緒にやらせてもらいましたが、練習に混ざることはなくリハビリをしていました。その時に他の選手と一緒でしたが、みんなリハビリ中でも、自分の体に対しての向き合い方など、意識の高さを感じました。
――大きな怪我をしてリハビリをした経験は?
大学生の時に腰のヘルニアで半年くらいプレーが出来なくて、最後の最後だけ試合に出ました。それ以前にも膝はずっと痛みを感じていて、そのクリーニング手術を大学のシーズン終わった時にしました。大きな怪我は腰と膝です。
――膝の手術をしてから社会人でスタートしようと考えていたわけですね?
そうですね。入団前から監督やS&Cの方と話しながら、体づくりも出来る2月に手術をして、来シーズンに間に合わせるということになりました。
――そうすると今もリハビリ中ですか?
もう復帰間近です。8月の新シーズンが始まる時には、皆と一緒に練習に入れるようにやっています。
――意識の高い中で一緒にリハビリをしてみてどうでしたか?
学生の時とは全然違いました。学生の時のリハビリは何となくやっていましたが、サントリーではS&Cの方とほぼワンツーマンで、とても良いリハビリが出来ていると思います。
◆とても楽しみ
――怪我をして復帰した後、以前より強くなったという選手が多いですが、そういうことは感じますか?
膝に関しては、思い通りに行かなかった時期もありました。今は良い状態ですが、膝を怪我しても上半身のウエイトトレーニングは出来るので、それ以外のところは強くなったなと感じます。メニューも考えてもらいながらやっているので、膝も良くなってきていますが、それ以外のところがとても強くなっているなと実感しています。
――もう体を合わせた練習もしているんですか?
そこはまだで、やってみないとわからないですが、とても楽しみです。
――膝や腰を怪我しないようにする方法は見えてきているんですか?
膝だけでなく、足首や腰の柔らかさなども関係していて、僕の膝は内に入りやすくて外側が詰まって痛くなるというのもあるので、そういうところの癖を直しながらやってもらっています。
――膝は外に行くよりは内に行く方がいいのでは?
真っ直ぐがいちばん良いです。足首が使えていないと、膝に負担がかかります。
◆スクラムと運動量
――今は3番ですね?
サンゴリアスは3番が主体で押すので真っ直ぐですが、少し左足の方が使うかもしれないです。
――両方出来るんですか?
2番は少しだけやっていました。1番はやったことないです。
――3番の方が合っているというのはどういうところで感じますか?
ずっと3番をやっていたということもありますが、1番は全く組めなかったです。バランスの取り方などが難しいです。両方組める選手は素晴らしいなと思います。
――怪我からの復帰というのがいちばんのテーマだと思いますが、学生から社会人になるにあたって自分のここがいちばん通用しそうだなと思っていたところは?
スクラムと運動量です。
――社会人になってからの課題は何ですか?
フィジカルの部分です。大学の時は体が大きいだけで、それだけで通用していました。今は外国人も当たり前にいる世界ですし、日本人でもトップの選手が集まっているリーグなので、体が大きいだけでは絶対に通用しません。そこはもっともっと強化して、その中でも圧倒出来るくらいのフィジカルを身に付けたいなと思っています。8月からが楽しみです。
――貯めに貯めていた力を出すぞという感じですか?
そうですね、まだ1回も一緒にやったことがないので、とてもフレッシュな気持ちです。ワクワクというか、通用してもしなくてもとても楽しみです。
◆生き方
――明治大学ということで諸先輩たちがたくさんチームにいますが、学生時代の感覚はありますか?
そう考えたら、リュウガさん(箸本)は学生の時からとても強く、今スタメンで活躍しているのを見ると、「よし、僕も頑張るぞ。一緒にやっていたからにはいけるんじゃないか」と感じています。
――「自分が決めたことへのこだわりがあるという性格」とプロフィールにありますが、例えば?
自分がこれだと思ったら、そこは変えないですね。どっちでもいいなという時は人に流されるタイプですが、ビビッときたらそこを追求します。
――それはプレーの選択もですか?
プレーの選択もそうですが、生き方です。
――ラグビーで生きていくことを決めたのはいつですか?
大学3年生の春に、リーグワンのチームの方から声を掛けて頂いて、「声を掛けてもらえるような選手になれたんだ」と感じた時に、まだやりたいなと思ったので、続けることを決めました。
――それまでは社会人でもラグビーを続けるイメージは持っていなかったんですか?
どちらかと言うとそれまでは夢というか、「ラグビー選手になりたい」というくらいでしたが、そこで声を掛けて頂いて、自分が選んだら「なれる」という状況になった時に、夢ではなく「やるぞ」という意識が強くなりました。
◆鬼ごっこからずっと辞めずに
――「4歳の時に幼稚園で園長先生のマジックを見破れずラグビー部に入部した」とはどういうことですか?
兵庫県の白ゆり幼稚園の園長先生がラグビー大好きな方で、垂(たれ)先生と言う方ですが、入園児に対して、「マジックが見破れなかった子はラグビー部に入部だ」と冗談混じりで言っていました。僕は見破れず、楽しい先生でもあったので、そのままラグビー部に入部しました。園児はほぼ見破れなかったので、ほとんどの子がラグビー部でした(笑)。
――入部してラグビーをやってみてどうだったんですか?
楽しかったと思います。鬼ごっこみたいな感じでしたが、そこからずっと辞めずに今までやってきました。
――最初が楽しかったことが大事だと思いますが、ある程度ラグビーらしくなってきて、ラグビーが面白いなと思ったのは?
中学生の頃です。小学生の時は全然試合に出ていなくて、やる気がなかったわけではないですが、友だちと遊びに行くみたいな感覚で練習に行っていました。試合に出たいとも、あまり思っていなかったです。中学校に上がって体が大きかったので試合に出られるようになって、試合に出られるようになってくるとボールを持って走ることや、タックルで相手を止めるのが楽しいなと思い始めました。もっと強いところでやりたいと、思うようにもなりました。
中学でも全国優勝して、それもこの先ラグビーをやりたいと思ったきっかけの一つです。仲間が報徳学園に進学するということもあり、このメンバーでまた一緒にやりたいという気持ちがあったので、報徳学園に進みました。そこからその感じで、ずっと続けたいという気持ちがありました。
――明治大学時代は田中監督と重なっていますか?
はい、3年生の春シーズンまで田中監督でした。僕が入る前に優勝しています。
――当時の田中監督が言った「勝負を決めるのは準備だ」という言葉、どういうふうにその意味をとらえていたんですか?
もちろん勝負なので、試合が始まってから点差がついて試合で勝負が決まりますが、そこに至るまでの過程がとても大事だなということを本当に感じています。例えば分析もそうで、どれだけ準備したかです。どれだけ分析してどれだけ相手のことを意識して、ということを3年生の大会の時にいちばん感じました。
対抗戦まではずっと早稲田に練習試合を含めて全部負けていましたが、大学選手権に入ってからは死ぬ気で早稲田のことを意識して準備したら、最後に勝つことが出来ました。もちろん相手のミスなどもありましたが、そういうところは自分たちの準備が勝ったのかなと感じたので、準備が大事だなと思っています。
――準備って限度がない気がしますが、どうですか?また、準備って戦術や体のコンディションだと思っていましたが、良い準備が出来るというのは、どれだけチーム全員がその試合に対してコミット出来ているかだと、流選手が言っていました
高いですね。僕ひとつ成長した気がします(笑) 。確かにそうですね。僕はまだ一つ前の段階で準備とか言っていましたね。
◆試合勘
――復帰に関して焦りはなかったですか?
最初はもちろんありました。他のチームの選手はアーリーエントリーで出ているというようなこともあって、僕も出たかったなというのは多少ありますが、やはり準備して来シーズンから出られることがいちばんだと思っています。その時期を引き延ばしていま手術をしていたら、来シーズンには絶対に間に合いません。来シーズン途中からとなってしまうので、それよりシーズン頭から絶好調で行けた方が良いなと思いました。
――中学生で優勝してからずっと試合に出て勝つことが当たり前だったのではないですか?
高校1年生から試合に出ていましたが、大学4年生の時だけ怪我が出られませんでした。それが悔いです。出たかったなというのはあります。
――大学4年生の時は少しだけ?
最後の大学選手権だけリザーブで出ました。最後にフルで試合に出たのは、昨年の6月なので、1年以上前です。
――そのブランクへの心配はありませんか?
運動量やフィットネスのところもメディカルの方がついてやってくれていますし、運動量も得意分野なので心配はありませんが、試合勘のところの不安はあります。そこは慣れていけたら良いなと思っています。
◆スクラムと運動量
――それを乗り越えて「次のシーズンこのくらいやってやるぞ」という気持ちは?
まずは試合に出ることを目標にしてやっていきたいです。そんな簡単に試合に出られると思っていないので、同じポジションの選手と勝負をして、自分の強みを思い切り出して、フレッシュに1試合でも出られたら良いなと思っています。
――自分の強みを思い切り出すとは、具体的には?
スクラムと運動量は自分の強みです。思い切り100%で行きたいと思っています。弱みで勝負が出来るほど甘い世界ではないと思っているので、自分の強いところで勝負したいと思っています。
――怪我に対する心配はもうないですか?
ないですね。
――もともと体には自信がある方ですか?
そうですね。小さな怪我はいくつかありますが、そういうのは気にせずやっています。
――「心技体」で言うと体に自信がありそうですよね。
そうですね。
――サンゴリアス・フレンズデーでの活躍を見ていると、度胸があって心も強そうですね
もしかしたら、心がいちばん強いかもしれないです。
――ビビらない方ですか?
はい。性格が前向きです。あまり落ち込むことなどないですね。
――どうして前向きになれるんですか?
もちろん試合などで、やってしまったな、など思うこともありますが、そこを考えていてもどしようもないので、どうせなら次にミスをしないように、どうしたら良いかを考えるタイプです。
――それは過去の反省からなのか、もともとそう言う考えなのか?
もともとですね(笑)。
◆自分なりのスクラム
――「心技体」の技はどうですか?
人なりにパスくらいは出来ると思います(笑)。バックスみたいに上手くではないですが。
――歴代のサンゴリアスのフォワードは、スクラムに関しても「技」の追求をしてきましたよね
はい、僕もこだわりはとてもあります。特にスクラムです。3番にしては体が大きくないので、スクラムは特にテクニックを意識して、自分なりのスクラムを考えながらやっています。
――それは体の大きさから考えるようになったんですか?
そうですね。大学1年生の時に3番が今リコーブラックラムズ東京の笹川大五さん等とても大きな方ばかりで、全然自分では話にならないくらいだったので、どうにか自分を通用させないと3番では出られないと思い、1回1回のスクラムを考えながら組むようになり始めたのがきっかけです。
――それは体の大きさを補ってあまりあるテクニックがあるということですか?
大学レベルでは通用していました。圧倒的な力はあったと思います。
――自分で考えながら、いろいろなことを試したんですね?
毎回毎回何かを意識してやっていました。めっちゃ面白いです。「ここを変えてもあまり上手くいかないな」や、「ここを変えたら上手く行ったから、じゃぁここはこれで次はここを変えよう」など、積み重ねていく感じです。
――それ1個1個聞きたいですけれど、紙に書いて残したりしているんですか?
ラグビーノートに、「これだ!」というのは書いていました。
――これだ!は、今までいくつくらいあったんですか?
そんなに多くはないです。10個あるかないかくらいです。
――今度、試合に出られるようになったらノートをぜひ見せてください
スクラムの成長は曲線ではなくて階段だと思っているので、一気に上がります。成長しない期間もありますが、ハマったら一気に上がります。
――上がると次の課題へ行ける?
そうです。また横ばいが続きますが、また見つけたら上がります。それを見つけるのが楽しいです。まずは今どのくらい通用するのかをやってますが、でもそんなに甘くはないので、またいろいろ探したいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]