2023年7月 7日
#857 尾﨑 晟也 『もっと選手として成長したい』
最多トライゲッターとベストフィフティーンの2冠を獲得した尾﨑晟也選手。「ベストなシーズン」の次に目指すものは?(取材日:2023年6月下旬)
◆出来るプレーの幅が広がった
――狙って獲った最多トライゲッター、おめでとうございます
シーズン前にも言っていましたが、個人タイトルを狙っていたので、獲れたということは非常に良かったなと思います。
――1試合に1トライに近い数字でしたね
トライのない試合も何試合かはありましたが、18トライという結果と、今シーズンは自分の中ではそれ以外の自分の個人のプレーも手応えはあったので、良かったなと思います。
――持っている力を存分に発揮しつつ成長を続けたと思いますが、自分でも試合ごとの成長に手応えを感じていましたか?
そうですね。プレーの幅と言うかキックやランなど選択肢も増えて、ディフェンスの部分でもコミュニケーションを多く取ることが出来たり、ジャッカルが増えたり、自分の出来るプレーの幅が広がったなと思います。
――全体がよく見えているように思いましたが、その理由は?
フィジカル的な部分は、プレシーズンにしっかりと良い準備が出来たと思いますし、またスキルの部分でもとても自信がつきました。キックなどを実戦でどんどん使っていくことで、試合でも上手く行ったり、それでさらに自信がついていって、出来るプレーが多くなっていきました。
――改めて飛躍したシーズンでしたね?
そうですね。今までの自分の中では、ベストなシーズンだったと思います。
――更にいま課題にしていることは何ですか?
ディフェンスでもアタックでも、もっとワークレートを増やすことです。アタックもディフェンスも、もちろんまだまだ細かく見たら自分の課題がたくさんあると思いますが、大きく見て、目立つシーン、この選手いるなという存在感を80分間出せるようにしていくのが課題かなと思います。
――ファイナルラグビーになってくるとトライも難しくなってきますね
そうですね。トライを取ること自体がやはり簡単ではないと思うので、ファイナルラグビーになるにつれてはチャンスが回ってくればと言うシーンもありますし、それ以外にも自分の仕事はたくさんあるので、そこにフォーカス出来るかということが大事だと思います。
◆まずは口にする
――結果的にシーズン4位に終わったチームの成績については?
僕がサンゴリアスに入って、こんなに負けたシーズンも初めてだったので、本当に負けると言うのは改めて嫌だと思いました。負けたくないと言う気持ちはもちろんずっと持っていましたが上手くいかず、シーズン中モヤモヤすることもありましたけれど、シーズン中は気持ちの切り替えや、次をどうしていかないといけないかにフォーカスを当てないといけないので、シーズンが深まるにつれて徐々に改善されていったと思います。プレーオフもとても自信があったので、結果が4位という形になったのが残念だったなと思います。
――そういう中でも狙ってタイトルを獲ったということは自信になりますね
これだけリーグワンのレベルも上がってきましたし、各チームに世界で活躍する選手もいていろんなスター選手がいたり、自分のポジションにも能力が高い選手が多い中で、ウイングとして最多トライゲッターを獲れたこととベストフィフティーンに入ったということは、とても自信にもなりました。
――タイトルを目指して獲得するという有言実行を成す秘訣はありますか?
まずは、口にすることです。シーズン前に口に出しましたが、それはやはり自分へのプレッシャーにもなります。かと言って、その目標ばかりを追い続けるのも良くありません。ラグビーはやらないといけないことが沢山あってそこにフォーカスが向かなかったりするとダメなので、バランスが大事です。ですが、その目標を口にしたことで、「そのためにいま何が必要」か、それを逆算して「こういうプレーを沢山増やそう」と、トライを生むために考えなければいけないことを、しっかりと考えたシーズンでした。目標を口にしたということは、とても良かったかなと思います。
――トライを生むために具体的にはどんなことを考えたのですか?
まずひとつは、プレシーズンで自分の体を見つめ直して、足首の強化やスピードの強化など、ベースの部分の強化をしっかり行いました。そしてラグビー的なことで言えば、ボールをもらうタイミングとボールのもらい方を今までと少し変えて、シーズン中にどんどん伸ばしていきました。その2つです。
◆どれだけゲームをイメージ出来るか
――それらは頭で考えて実際に試してみて、使えるかどうか判断していくんですか?
そうですね。ディフェンスのシズテムがいろいろ変わってきて、外側までボールを回させないという意図で前にプレッシャーを相手かけてくるシーンも多いので、そうなってくると、それを超えるパスやキックを使うというプレーが今年は多かったと思います。それに対して、止まってボールをもらうのか、自分のいちばん良いトップスピードでもらうのか、そういうところで違いが生まれてくると思ったので、普段の練習から自分の感覚を試しました。そしてパスする選手も違いますし、選手ごとの癖やタインミグなど、そういう細かいところまでコミュニケーションを取りしました。自分の中では、この選手にはこの間合いで走ろうなど、細かいところまで考えてやりました。
――それは個別練習で?それともチーム練習の中で、ですか?
チーム練習の中でタイミングを合わしていくということはもちろんあります。あとは個人の練習の中で、選手を捕まえてキックをしてもらってそれに走り込んだり、パスを放ってもらいこちらがリアルに走ってボールをもらうなど、そういう練習も増やしました。
――構築力そしてそれを粘り強く練習することがポイントなんですね
そうですね。あとはどれだけゲームをイメージ出来るか、というのが自分の中ではあります。練習は練習ですが、その練習のひとつのシーン、例えば僕がトップでもらうシーンは試合だったらこのようなシーンだなとイメージしながらやることです。似たようなシチュエーションは沢山あって、その時に何も考えてなくていわゆる練習のための練習のようにプレーするのか、どれだけリアルに試合をイメージするのかというところで、大きく違ってくるんじゃないかなと思います。
――リアルに試合をイメージすると、自分の頭の中のシチュエーションに相手が登場してくる感じですか?
そうですね。練習なので思い切って出来るという状態ではあるので、「試合だったらこういうシーンこうしよう」とトライして、失敗しても「次はこういうシーンだったらこうしよう」と改善していく、それをリアルな練習でどれだけ出来るかということが大事です。練習ですが、いかに試合のリアルさを自分で追求するかということが、大事なことだと思います。
――それはやっていて面白いでしょう?
練習は面白いです。練習で上手くいった時に試合で出してそれが上手くいくというのが、今シーズンの流れだったかなと思います。
――もっとこういうこともやってみたい、というものが沢山ありそうですね
沢山あります。「次このシーンだったらこれを試してみよう」など。ラグビーは何回も同じシーンが来るわけではないですが、それが来た時に違う選択をすることが出来るようになり、選択肢が広がっていきました。
――相当面白いですね
そうですね。ひとつ一つの練習もとても楽しいです。それだけ考えてやるということが大事だということは、今シーズン学んだことです。
◆次に向かって行きたい
――当然、日本代表も目指していたと思いますが、それについては?
正直、本音を言うととても悔しいです。それをずっとターゲットにしてやってきたということもあったので、気持ちの整理は100%はついていないかなと思います。でも今シーズンも自分がいま持っている力は出せたと思っています。そこに関しての悔しさはないので、充実したシーズンでした。いま自分がこういう現在値なんだな、ということは把握しています。
――ここからの目標は?
それもいま考えているところです。プロラグビー選手としてラグビーをしている以上、やはり日本代表を目指してやりたいなという気持ちはずっと持っていますし、次のワールドカップももちろん目指してやるという気持ちはあります。一旦、ここを最大の目標でやってきたのでまだ完全に気持ちの整理が出来ていませんし、次にどうしようというはっきりとした目標は見えていません。でももっとラグビープレーヤーとして成長したいとか、そう言った意欲はあります。そこをうまく整理しながら次に向かって行きたいなと思っています。
――今は次の段階に向けて新しいトレーニングを始めているんですか?
ベースを落とさないようにトレーニングはずっとやっています。次のシーズンにどうするのかということも、コーチやS&C(ストレングス&コンディショニング)スタッフと話し合いながら、そこにフォーカスして今やっているという感じです。
◆導いていく立場
――次に向けてチームとしてはどうでしょう?
リーグワン全体のレベルはとても上がっています。サンゴリアスが全く成長していないとは思っていませんが、優勝するにはもっと違った色やサンゴリアスカラーを強く出したり、今年よりもっと違った努力をしないといけないなと思います。
――それはチームの特徴をもっと出していくということですか?
他と一緒のことをしていて勝てるのか、もちろん技術的なことや戦術もいろいろと課題はあると思いますが、準決勝のような試合を毎試合毎試合やっていくのがサンゴリアスだと思います。シーズン通してやり続けることは難しいところではありますが、そこをもっと多く出していって成長していったら、優勝が見えてくるんじゃないかなと思います。長いシーズンなので、気持ちの浮き沈みなどもあると思いますが、それをどれだけ少なくして、より高いレベルでチームが動いて行くことが大事かなと思います。
――来シーズンはいけそうですか?
今シーズン、とても悔しい思いをしましたし、退団選手も多く選手の入れ替わりもあったので、新しいチームに変わっていくのかなという楽しみと、それを導いていく立場にもなっていますし、その責任というのはとても自分で感じています。
――今年の成長によって、自分自身は目指しているところのどの辺まで来ていますか?
もっと成長出来ると思います。全然満足していないです。
――やりたいことがもっとあるということですね?
はい。もっと選手として成長したいし、完成形はまだ見えていないです。だからもっと成長出来るんじゃないかなと思っています。
――ファンに対して来シーズンへ向けてのメッセージお願いします。
今シーズン、僕より年下の若手選手の活躍もとてもあったと思いますし、いまチームの中で若手に勢いがあり、やってやろうという気持ちもとても強いので、それがチームをさらに強くしたり、良い方向に向かっていると思います。先輩には亮土(中村)さんや慎太郎(石原)さん、大(流)さんたちがいますが、若手を上手く導いていく自分たちの世代、康介(堀越)キャプテンや直人(齋藤)や将伍(中野)など、僕らの世代がもっと中心になっていかないといけないと思っています。
どうやってチームを勝利に導いていくかということを突き詰めて、若手の力とベテランの考えが合わさって、自分たちが導いていくと言う役割を全うすることが出来れば、チームは優勝できると思います。自分たちの世代が優勝のキーになってくると思っていまし、それが出来るメンバーはいると思うので、安心して来シーズンのチームの進化に注目してもらえたらと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]