2023年6月20日
#853 中村 駿太 『優勝かそれ以外か』
サンゴリアスを勇退し他チームへ移籍する選手へのラスト・インタビュー・シリーズをお届けします。第1弾は中村駿太選手。流選手が以前のインタビューで「一度このチームで一緒になったら、サンゴリアス・ファミリーであることに変わりありません」と語っていましたが、そのサンゴリアス・ファミリーの熱い思いを聞きました。
[ナカムラ シュンタ・1994年2月28日生・明治大学卒・ポジションHO ・2016年~7シーズン在籍]
(取材日:2023年5月下旬)
◆良いパフォーマンスが出せた
――今シーズン、調子が良かったと思いますがどうですか?
とても調子が良かったです。パフォーマンスも良かったと思います。
――安定していましたね
そうですね、昨年プロになる時に「2年連続良いパフォーマンスが出来て自信がついた」という話をしたと思いますが、それよりも良いパフォーマンスが今年は出せたかなと思います。
――その要因は何ですか?
まず、昨年シーズンが終わった段階で痛めていた肩のリハビリを、時間をかけてしっかり出来たということ。それに付随して、フィジカルのベースもしっかり作れました。ラグビーから少し離れて、リハビリとコンディショニングの時間をたくさん作ることが出来たのが良かったと思います。
――身体がより強くなったということでしょうか?
そうですね、イメージ的にはそんな感じです。
◆モールは今年の武器
――8トライ挙げました
それはたまたまです。
――フォワードが良かったということですね
モールはこのチームの今年の武器だったなって思います。
――目指していたと思いますが、実際に武器になった理由は?
そこに時間をかけて出来たということと、もともと能力がある選手が多いので、やるべきことだったり、やり方というのを同じ方向を向いて、みんなで出来たということがいちばんかなと思います。
――練習を積めば必ず良い成果が出るということでしょうか?
いや、正しいやり方で、正しい練習が出来ていれば、です。何をもって正しいかは難しいですが、結果が出たということはやり方も正しかったし、やっていることも正しかったんだろうなと思います。
――今年上手くいったけれど、来年はやはり各チーム対策を考えてきて上手くいかなくなることもありますか?
あると思います。サンゴリアスがここからもっと強みにするために、やはり成長していかないといけないし、今年サンゴリアスにモールでやられたチームも多いと思うので、対策はもちろんしてくると思います。
◆取り切れなかった時の悔しさ
――フッカーはフォワードの中ではトライ出来るチャンスは多いと思いますが、トライした瞬間はやはり嬉しいですか?
そうですね、嬉しいですね。点を取るためにやっているから嬉しいです。
――トライした瞬間はどんな感じですか?
僕、あんまり感情ないんですよ(笑)。逆の話になってしまいますが、上手くトライが出来ず点が取れなかった時の方が、自分の中では印象が強く残っていています。ですからトライを取れた喜びよりも、取り切れなかった時の悔しさや、もっとこうすればよかったという気持ちの方が、あるかなという感じです。
――やはり取り切れない方が数は多いですか?
いや、多くないです。今年は取っていると思います。
――取りきれなかった時は、その悔しさから改善点を見つけて、また取っていくということですか?
そうです、そうです。週始めのミーティングで、「今週こうだったよね、だからこうしよう」と話し合い、そこで同じ方向をみんなが向いたからこそ、そのレベルですんなり入ってくるし、次に向けての改善も早く出来て、上手くいったんだと思います。
◆少しずつアベレージを上げていく
――どんどん成長し続けていると思いますが、自分としてはまだまだ成長度合いは足りないですか?
成長度合いが足りないとは思わないですが、もっと成長出来ると思うし、もう30歳になる年なので、そのスピードを早めることは、必要なのかなと思います。
――さらに良くしていきたいのはどこですか?
1年目から全く同じことを言っていますが、全部です!
――全部って、課題が多すぎませんか?
数パーセントずつ満遍なく上げていきたい。全部課題はあるけれど、全部めちゃくちゃ何かが劣っているとか、そういうことではないです。やはり少しずつアベレージを上げていくことが、自分の全体のレベルアップにつながると思っています。
――その時々で、細かいテーマはある訳ですね?
もちろんあります。例えば、今シーズンで言えば、埼玉パナソニックワイルドナイツの試合でノットストレートを放ったんですよ、僕、2本。それが今シーズン初めてのノットストレートで、自分の中では真っ直ぐに投げているとか、良いフォームで投げているという感覚はありました。ですから次の試合に向かう時には、普通にもう1回投げれば今まで通り真っ直ぐに投げられると思って入りました。
ですがその試合でもノットストレートをやりました。そういうことがあった時に、「何が悪いんだ?何を変えなきゃいけないんだ?」ということに立ち戻ったんです。そして映像を見たり、アオさん(青木アシスタントコーチ)と話したりする中で、やらないといけないことを明確にして、クリアにして、最後は修正が出来たかなと思います。
◆この動作を消したい
――そんなに簡単に修正は出来るものなのですか?
いや、もう他の方が気づいているかわかりませんが、僕、シーズンの最後のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦から、スローイングのフォームを変えているんです。
――それはより良くするために?
全試合出ていたので、シーズンが深まるとやはり体の不調も出てきて、そうなった時に「この動作を消したい」と思う動作が、ひとつあったんです。体の痛みがあったんですが、それに関係あると思った動作をやめて、球数を放ったり、ボールの向きを変えたり、そうやってフォームを作って、2週間でフィックスして、東京ベイ戦から新しい投げ方を使ったんです。
1発目は緊張しました。ですけれど、このフォームで、このボールの向きで、普通に真っ直ぐ立って真っ直ぐ投げれば上手くいくという確信はありましたけれど、ちょっと、怖かったですね、シーズン中にフォームを変えるということをしたのが初めてだったので。ですので良かったですけれど、まだ自分が納得する球は投げることが出来ていません。まだちょっとリリースのポイントが安定していません。
――新しいフォームで今後も行きますか?
どうしようかなという感じです。難しいですね、悩み中です。唯一フォームを変えたのに気づいたのは、オケ(桶谷)でした。
――よく先輩を見ているんですね
桶谷は僕の前のフォームと、全く同じなんです。
――それは教えたからですか?
そうです。教えました。教えて、多分彼は自分のやりやすいようにアレンジしてやっています。ですので、ほぼ一緒です。
――桶谷選手に「変えましたね」と言われたんですか?
はい。僕はあまり変えた方のフォームを推奨していなかったので、「やってるじゃないですか」って。だからフォームを変えた理由を伝えました。オケはフランカーからフッカーに転向して頑張っているので、試合に出るようになって欲しいです。
◆思い出に残っていることは、悔しいや負けたということ
――シーズン前半はスタメンで、後半はリザーブからが多かったですね
チームが勝つために、2番であろうが16番であろうが、与えられた役割をやるだけです。出る順番に関しては、あまり自分の中では深く考えないようにしていました。
――全試合に出ていることが大事ということですね?
僕からしたら、怪我なくシーズンを過ごせることが、選手にとってもチームにとっても大事なことだと思っています。そっちにフォーカスしていました。
――サンゴリアスでの思い出は?
ちょうど3位決定戦の前に振り返ってみました。1年目優勝しました。だけどリザーブでした。本当に喜べなかったです。2年目は開幕スタートで出ました。だけど決勝はリザーブでした。そしてそのシーズンのチームのMVPは北出さん(現 コベルコ神戸スティーラーズ)だったんです。だから優勝したけれど喜べなかった。3年目は神戸と決勝戦をやってスタメンで出ました。しかしボロ負けでした。優勝していないからもちろん喜べなかった。4年目はシーズンがなくて、5年目はスタメンで出ていましたがパナソニックに最後に負けて、準優勝で喜べなかった。6年目の昨年は、プレーオフには全く出られず、優勝も出来ず喜べない。今年も4位、しかもリザーブ、喜べない。ですので思い出に残っていることは、悔しいや負けたということです。
――でもその悔しさがバネになっている?
バネにして頑張ってきたつもりなんです。だから負けたことも覚えているんだと思います。
◆サンゴリアスでしか味わえないような声援
――サンゴリアスのスピリットって何でしょう?
難しいですね。...「優勝かそれ以外か」ですかね。優勝しないといけない環境ですから。
――サンゴリアスのメンバーに対してのメッセージをお願いします
同じポジションの後輩に対して......僕もサンゴリアス在籍中は日本代表のキャップを取れなかったですが、サンゴリアスのフッカーは坂田さん、山岡さん、アオさん、北出さん...歴代のサンゴリアスの2番、16番のジャージを着た皆さんは、日本代表のキャップを持っていて、日本代表かそれに近い存在の選手たちがでないといけないと思うんです。だからやはり僕はその責任を果たせなかったなという思いもあるし、後輩たちにはそういう責任のあるジャージなんだっていうことを胸に秘めて、自分自身のプレッシャーにして、頑張っていって欲しいなと思います。
――2番の面白さって何ですか?
僕は、スクラムとかラインアウト以外でとても自由に動けるポジションだと思うし、フロントローの気持ちももちろんわかるし、バックローやそれ以外の選手の気持ちもそれ以外の選手の気持ちも良くわかる、とても貴重なポジションだと思います。そこが魅力がと思います。
――ファンに向けてメッセージをお願いします
ファンの皆さんからは何年間も、とてもたくさんのサンゴリアスでしか味わえないような声援を頂き、感謝しかないです。本当に選手のパワーになっていたと思います。今後ともサンゴリアスの声援をお願い致します。また、僕自身まだラグビーを続けるので、会場で見かけたら声をかけて欲しいですし、僕個人にも声援を送っていただけたらなと思います。
――ワールドカップ出場への自信はどうですか?
選ばれるだけのパフォーマンスは今年リーグワンでしてきたと思うので、そういう意味では自信はあります。あとは準備をして待つことだと思います。この前、代表スタッフとミーティングをしましたが、僕のプレースタイルは日本代表に合うと思うという話と、昨年も一昨年も怪我で辞退をしているので、日本代表ジャージを着て戦う意志はあるかという確認でした。現状4番手なので、自分の出来ることを粛々とやって、来るべきチャンスに備えたいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]