SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2023年6月 9日

#851 小澤 直輝 『準備と予測をとことん突き詰めてやっていく』

12年間サンゴリアスでプレーし、日本代表キャップも所持する小澤選手。自身最終戦でのトライが印象的な小澤選手に勇退の心境を聞きました。 (取材日:2023年6月上旬)

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◆しっかり準備することの大切さ

――元申騎さん(サンゴリアスOB)以来のラストゲームでのトライでしたね

最後のゲームでトライできたのはラッキーでした。僕は元さんの試合の"バンザイトライ"を、めちゃくちゃ覚えています。元さんほど素晴らしいプレーヤーにはなれませんでしたが、僕は今シーズンはずっとノンメンバーだったので、後輩たちやメンバーたちに、しっかり準備することの大切さは伝えらえたかなと思います。

――それまで出られなかったことに対してはどんな気持ちですか?

もちろん試合に出たかったですし、悔しい気持ちはありますが、例えば今の若い選手たち、バックローはとても若いですし、彼らより僕が長くやることはないので、彼らの成長は間違いなく重要なことだと思います。ですので悔しかったですが、練習で手を抜くとか努力を止めるとか、そういうことは絶対にしないと決めていましたので、そういうところを見せられたシーズンだったと思います。

――サンゴリアスのジャッカルが今年は少なかったように感じましたが

まずレフェリングのところが変わってきていて、ジャッカルに関して多少厳しくなってきている部分があるかなと思いますし、もちろんフィジカルレベルも上がってきているというのもあります。3位決定戦では僕が出ている時間は、ブレイクダウンでもしっかりプレッシャーをかけられたかなと思います。

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◆ラグビーはラッキーがあるスポーツではない

――若手が今たくさん育ってきていますが、彼らに対する期待は?

めちゃくちゃ期待しています。というのも、みんなそれぞれ特徴があって、それぞれが違う選手だと思いますが、本人たちも自分が何でチームの勝ちに貢献できるかを、ちゃんと理解していると思います。僕の若い頃だと、征克(西川)さん、大島(佐利)さん、ソネ(仲宗根健太)がいました。今のウイングもそうだと思いますが、近いところにライバルがこれだけ固まっているというのも、お互い意識するところもあるでしょうし、切磋琢磨していると思います。みんな日本代表になれるポテンシャルも持っているので、サンゴリアスで活躍して、さらに日本代表でも活躍して欲しいです。

――元々外国人選手が多いポジションですが、日本人選手も体力的な部分では差がなくなってきているということですか?

僕が入部した時と比較しても、リーグ全体のラグビーの質も上がっていますし、日本代表の活躍もあって、大学生の試合を見ていても、みんな目指すところが高くなってきていて、日本全体のラグビーの質が上がってきていると思います。オールブラックス対日本で大差がついた時のような試合を見ていた子供よりも、こうやって日本代表が世界と対等に戦っている今を見ている子供たちの、ラグビーのレベルが上がってきていると思います。

――世界と対等になってきた要因は何でしょうか?

もちろん慣れもあると思います。日本代表が「世界に勝つんだ」という自信を持ち、「オールブラックスに本当に勝つんだ」という気持ちで準備をしているからだと思います。そこの自信がついてきていると思います。ターニングポイントは2015年と2019年のワールドカップですが、ラグビーはラッキーがあるスポーツではないので、本当に成長していると思います。

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◆誰が試合に出ても同じラグビーをする

――このインタビューのタイトルでもありますが、小澤選手にとってSPIRITS OF SUNGOLIATHとは?

"プライド"の部分だと思います。サンゴリアスはAチーム、Bチームが無くて、ゲームメンバーか、ノンメンバーかの2つだと思いますが、そういう意味で「誰が試合に出ても同じラグビーをする」ということが、僕の中でのプライドです。

――そのために何を大切にしてやっているのでしょうか?

"準備"の部分でしょうか。試合に臨む準備で「相手がこうやってくるだろうな」とイメージするグラウンド外での準備と、グラウンド外での準備をイメージしながらグラウンド内で"予測"を持って「自分たちがどう動くか」を、1人でなくチーム全体として選手たちが理解しているところだと思います。

――流選手から「準備でいちばん大切なのはコミュニケーション」と聞いたことがありますが、その部分でしょうか?

確かに。みんなよく"コミュニケーション"って言いますが、その中でも本当に細かいコミュニケーションがとても大事です。先ほど準備と予測と言いましたが、「こうなったらこうしよう」ということを個人でも準備をしますが、そのプレーに関係してくる人たちと共有することが大切です。それが不足すると、何かと上手くいかないことが出てきます。それは本当に細かい部分だと思うので、そこをとことん突き詰めてやっていくことが、大切だと思います。

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――それは今年、出来ていましたか?

出来ていたとは思います。ただ3位決定戦であったプレーで、1人の選手とはとことんコミュニケーションをとって準備と予測を繰り返して繋がっていたのですが、もう1人とのコミュニケーションが不足していて共有出来ていませんでした。そのことを話し始めたのは僕ですから、共有はコミュニケーションの基点としての僕の役割でしたが、そこまでやっておくことが出来ませんでした。

横との繋がりを崩してしまうとラグビーは上手くいかないので、関わる人をしっかり巻き込んでコミュニケーションをとることが大事だなと改めて思います。お互いにそれぞれ言い分を持っていますが、その折り合いをちゃんとつけるということをやっていかないと、線が切れちゃう。その場で修正はしましたが、それでは後手に回ることになります。そういう意味で相手のプレーに対して予測して仮定して、それに対してのコミュニケーションをとことんとっておくということは、めちゃくちゃ大事だと思います。最後はそこで、いかに細かい部分を徹底するかです。

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◆一流の選手で練習で手を抜いている選手はいない

――サンゴリアスのラグビーでいちばん印象的なことはなんですか?

例外もあるとは思いますが、結局基本的に「ラグビーと人間性というのは比例している」と感じました。

――それは例えば「良いラグビー選手には良い人間でないとなれない」ということですか?

基本的にそうですね。良い人間とは、「矢印が外に向いていない」ということです。矢印が誰かと比べるところへ行ったり、他人を評価したり、点数をつけたり、自分の良いところしか見ていない人ではなく、そして自分を自分で分析するのではなく、自分を達観的に分析出来ているか、毎年変わるチームに対して、「自分だったら何が出来るか」ということを分析出来る人。「チームから何を求められているか」「どのようなプレーをしたらチームが勝つことに貢献できるか」を、自分目線でなくチーム目線で分析して、自分のそれを武器にしていける人です。

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――不得意なことでも?

はい、それがチームに求められていることであればやらないと、結局「ゲームに出れません」で終わってしまうので。

――それをいち早く把握するということですね

キヨさん(田中監督)も「自分を評価するのではなく分析しろ」と言っていますが、"自己分析出来ている選手"という意味で、性格が良い悪いではなく、ベクトルが外を向いていない人ということです。性格の良い悪いではないです。あとは、一流の選手は一流であるだけの理由がちゃんとあって、一流の選手で練習で手を抜いている選手はいないと思います。自分がチームや仲間から認めてもらうことが大事だと思います。

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◆カーン!ガブッ!

――レギュラーになかなか定着出来ない人が定着出来るようになるためのヒントはありますか?

良い選手が毎年入ってきますし、実力自体は拮抗していると思いますが、"信頼"だと思います。信頼されて出してもらった試合で、絶対に活躍しないといけないと思います。そこでだめだったら、それはだめなんですよ。一発勝負ではないですが、当落線上にいる場合は、そこからカーン!って頭ひとつ抜け出すために、「チャンスが来た」という時に死に物狂いでそこをガブッ!って一気に行って喰いきらないと、噛みついたぐらいでは喰われかけた選手は復活します。

当落線上にいる人は、本当にその1回のチャンスを絶対に掴まなければいけない。そこで掴めたら、頭ひとつ出ると思います。その積み重ねが、チームという組織からの信頼に繋がると思います。

――レギュラーをとって「これで良いんだ」と安心した選手から、次の年からだめだったという話を聞いたこともあります

そうですね。やっぱりお互いに危機感を持ってやっていくということですね。「今シーズンは出たけれど来シーズンはわからないよ」という危機感がチームの中にあれば、選手も手を抜きません。もちろん慢心はよくないと思います。

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◆優勝して辞めた選手は幸せ

――サンゴリアスのメンバーへのメッセージをお願いします

今回退団する選手も多く、その分入ってくる選手も多いと思いますが、大きくメンバーは変わっても、今いる選手がサンゴリアスのスタンダードを引っ張って欲しいですし、この変化を良い方に変えてくれると信じていますので、来シーズンは本当に優勝して欲しいなと思います。優勝して辞めた選手は、幸せだなと思います。

――そこに自分自身はやり切っていないという悔いが残っていますか?

いや、やり切っているかやり切っていないかは分かりませんが、最後、優勝したかったです。5年間タイトルを取れていないので。そういう意味で、これからサンゴリアスを担っていく若い選手たちと優勝の経験をしたかったなと思います。

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――ファンのみなさんへのメッセージをお願いします

12年間、応援をしていただいて感謝しています。ありがとうございました。ラグビー場にファンがたくさんいる中で試合することは、選手は本当にモチベーションが上がりますし、これからも皆さんに応援されるような、"強くて愛されるサンゴリアス"をつくっていくと思いますので、今後もスタジアムに来て、スタジアムを満員にして、応援していただけたら嬉しいです。

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(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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