2023年5月12日
#848 垣永 真之介 『自分の人生賭けて』
チームをそのプレーで、態度で、存在で引っ張る垣永選手。ファイナルラグビーを前に、改めて中村亮土選手とのエピソードを聞きました。 (取材日:2023年5月上旬)
◆自分に与えられた役割を100%やる
――いよいよファイナルラグビーを迎えますが、現状の気持ちは?
優勝しか考えていないです。本当に。
――優勝するには、まず準決勝に勝たなくてはいけませんよね
もちろんです。そこを踏まえて準決勝を勝ち切るという感じです。
――今シーズン2連敗している相手ですね
そうですね、本当に良いチームで、フォワードも強いですし、しっかりリスペクトをした上で、しっかり良い準備をして試合に臨みたいと思います。
――フォワードが強いということは、準決勝もフォワードの対決が鍵ですか?
フォワードが主になると思います。
――サンゴリアスとしては勝ち切るためにどんな構想を練っているんですか?
それは言えないです。
――それはそうですよね。これまでとは違うことをやる感じですか?
そこも言えないです。
――こうしたら勝てるというのは?
フォワードがセットプレーでしっかり守り切って、攻めて、ということが、ひとつの鍵になると思います。
――これまでの2試合は攻められたという感じですか?
しっかりプレッシャーを受けましたし、モールトライも取られましたし、そういうところはしっかり意識をして、準備をしていくと言うことが、とても大事になってくると思います。
――そのための自分の役割は何ですか?
自分に与えられた役割を100%やる、ということだけです。それ以上のこともそれ以下のこともしないです。
◆今しなければいけないこと
――今のように自分が変わったのは中村亮土選手との話し合いだったと言っていましたが、その後も彼とは話をしましたか?
していないですね。その時だけです。深い話は1回だけです。
――中村選手の"自分を信じる力"が印象的だったんですか?
本当に素晴らしいと思います。尊敬すべきところです。
――それまではその発想を持っていなかった?
発想を持っていなかったというよりは、それまではコーチがひとつのミスにフォーカスすることもあって、ミスが出ると「もうだめです」みたいな感じの世界でした。そういうメンタルだったんですが、亮土はとても長い目で見て目標を捉え、自分がどうあるべきかを考えていて、短期的なことに捉われないという話が、とても響きました。
――ある程度先の姿を見ているんですね?
そうですね。「今、自分はこのフィールドに立っている。今しなければいけないことを相対的に見て、そのために自分がどうあるべきか」という話が、その時の自分に刺さりました。以前のひとつのミスをクローズアップするやり方が、とてもやりづらかったんです。「もうひとつミスしたら終わりだ」とか「1崩れたら100崩れる」みたいな状態でした。今はそういうメンタルから脱却して、自分に自信を持ってプレーが出来るようになりました。
――その状態で自分がこうなりたいと描いている姿はどんな姿ですか?
それはサンゴリアスの3番を着るということです。次の試合で着られなくても、その次の試合、あるいはファイナルラグビーで必ず3番を着る、というように、次に気持ちを切り替えることが出来るようになりました。
――次に切り替える考え方?
目先の良い悪いで一喜一憂するのではなくて、長い目で見てどう結果を残していくかです。ひとつのミスで一喜一憂していたらキリがないので、そういう時はすぐに切り替えて、次に向かっていくとイメージです。
◆失うものがなかった
――言うは易しでとても難しいことだと思いますが、よく転換できましたね
その時は、「上手くいかなかったらラグビーを辞めよう」と思っていたので、失うものがなかったです。「ダメならもういいや」と思っていました。
――かなり追い込まれた状態だったんですね
追い込まれていましたね。ラグビーが楽しくなかったです。そういうプレッシャーに勝てる人がトップに行くのかもしれないですが、僕には全く合わなかったですね。
――じゃぁ、今はとても楽しいですか?
楽しいというか、自分の役割が明確になっています。自分がどうあるべきかがとても明確になっているので、楽しいというよりは自信がつきました。
――自分の役割が明確になったということは、選手同士の役割も明確にわかっているんですか?
自分だけがわかっていれば良いんです。他人に合わせる必要もないし、他人になる必要もないと思います。自分がやりたいようにやって、自分の役割をやれば良いと思っています。
――そのマインドチェンジ、ブレない中村選手がそのまま感染したようですね
亮土がとても大変だった時期も見ていますし、そうやって世界のトップに仲間入りをするような姿も見ているので。
――この感染は同じように他の人には伝えないんですか?
伝えないというか、感覚は人によるので、プレッシャーが好きな人もいます。例えば僕が出ていたら、他の選手になりきるのではなくて、その人にはその人にしか出来ないことがあるから、自分が自分らしく、ここまできたら「自分の人生賭けて」と思うので、他人にならなくて良いと思います。自分であるべきだと思います。
――でも、迷っていたり悩んでいる選手がいれば、アドバイスするようなことは?
ないですね。自分で悩んだ方が良いです。
◆歯を食いしばってチームのために
――垣永選手がそれだけ悩んでいた時に、中村選手と話したきっかけは何だったんですか?
2021年のシーズン前の同期会です。デビタ リーと3人で話している時です。亮土に聞いてみたかったんです。どういう気持ちでやっているのかを。聞いたことなくて、初めて聞きました。それがとても腑に落ちました。
――他の選手にも聞いたりしたことあったんですか?
ないですね。亮土はサンゴリアスに来て1、2年目もずっと大変そうでした。亮土も鳴り物入りで入りましたが、簡単に試合に出ていないですし、試合数もサンゴリアスでは僕の方が多く出ていますし、とても大変な時期があったと思います。
――そういう後輩はたくさんいますか?
もう今はそれがサンゴリアスだと思います。素晴らしい選手が入ってきて、でも出られなかったことがある選手が沢山いて、初めてここで挫折というか己が何者かを知って、という選手は沢山いると思います。
――垣永選手と中村亮土選手でお手本を見せるしかないですね。
出ることだけが全てではないので、そこは歯を食いしばって、自分は何をすべきか、そのことをしっかり出来るのがサンゴリアスの選手だと思います。
――みんな出来つつありますか?
いや、もう本当に素晴らしいと思います。僕もそういう時期がありましたし、出ていない時期もあったし、気持ちはとてもわかります。本当に悔しいというか、歯痒いでしょうし、それでも歯を食いしばってチームのために身を粉にしてみんなやっています。試合に出ている選手も出ていない選手もです。それがサンゴリアスであるべきだと思います。
◆日々全力
――今の調子は?
悪くはないと思います。もう少しチームに影響を及ぼすプレーを、もっと出来ればなと思っています。例えば相手をしっかりドミネートする(相手を力で圧倒する)とか、スクラムを押すとか、モールを押すとかです。
――それは言葉を変えて言えば、今の課題ということですか?
そうですね。
――今のチームの勢いや雰囲気はどうですか?
良いチームだと思います。本当に。日々全力でやっていると思います。
――次の試合はどうですか?
フォワードが勝てば勝てるとか、そんな簡単なことではないのですが。ここでは言えないです。結果で見ていてください。そしてその次は優勝です。
――今年はワールドカップイヤーですね?
とりあえず今は考えていないです。もちろんラストチャンスだと思いますし、出られるなら出たいです。そこはまた終わったら考えます。
――準決勝、決勝、ここを見ていてくれというところを教えてください。
結果です!頑張っている姿とかではなく、結果です!
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]