2023年5月 5日
#847 飯野 晃司 『エナジーを上げてフィールドを走りまくる』
バックローのユーティリティープレイヤーである飯野選手。その類稀なる器用さとコミュニケーション力を、いよいよ始まるファイナルラグビーにどう活かして行こうと考えているのでしょうか。 (取材日:2023年5月上旬)
◆泥臭い部分を伸ばしていこう
――いよいよファイナルラグビーですが、今シーズンのここ迄の調子はどうでしたか?
コンディションは良かったんですが、今シーズンは試合に出たり出なかったりを繰り返していて、もう1回自分を見つめ直しました。そしてバックローには若い良い選手がたくさんいるので、彼らにはない自分の良さを更に伸ばし、自分の欠点を改善していって、スタッフとしっかりコミュニケーションをとった上で、自分のポテンシャルもコンディションも上げることが出来ました。そうして1年を通して、レベルアップが出来たかなと思っています。
――スタッフともコミュニケーションを取りながら、どこを上げることが出来たんですか?
やはり僕の特徴であり良さは、いろいろなポジションを気を遣いながら、しっかり出来るというところだと思っています。そこを伸ばしつつ、そして周りとコミュニケーションを深めつつ、さらに対外国人選手と対した時のフィジカルはまだまだ足りていなかったので、そこをしっかり伸ばせるようにしました。
――以前、秀でたものを見つけたいという話がありましたが、見つかりましたか?
うーん、平均点より上のプレーをずっと平均的にやるプレーばかりだったので、まだ秀でたものというわけではありませんが、1つ武器になったら良いなというところ、目指すべきところは見えてきました。それは"器用にやる"プラス"どこのポジションでもしっかり体を当てられる" "ブレイクダウンでしっかりジャッカルを狙う"など、そんな泥臭い部分を伸ばしていこうと思いました。足が速いわけでもないですし、クイックネスやアジリティが良いわけではないので、そういう泥臭くいく部分を伸ばしていこうということが、今シーズンひとつ明確になったかなと思います。
――そこを意識するプラス体もついていかないと、それは出来ませんよね?
シーズンが始まる前やシーズン初めは体重が106kgいかないくらいでずっとやっていましたが、今は109〜110kgです。S&C(ストレングス&コンディショニング)スタッフと、しっかり相談しながらフィジカルを上げることができたので、そこは今シーズン良かった部分です。体重を上げたままフィットネスが落ちているわけでもなく、フィジカルの部分では良い感じで来ています。
――体重を上げた効果というのは実感としてはどんなところで感じますか?
対人で負けなくなったり、一つひとつのモールでしっかりと前に出ることが出来たり、本当に1個1個のぶつかりのところです。もちろんまだまだ足りないところもありますが、そこで勝てるとか前に出るという部分を、実感出来ています。
◆よりナレッジが上がった
――バックローとして様々なポジションをやる面白さは何ですか?
面白いとは思っていませんが、苦だとも思っていません。ラインアウトで言えば、どこで出るかわからないので、4・5・6・7・8番の動きはだいた頭の中に入れていますし、例えば1番と3番の動きもある程度は頭の中に残っています。ですので嫌いじゃないと言えばいいでしょうか。
――そのことは自信になるんじゃないですか?
はい、誰かがミスした後も僕がカバー出来るというふうに思っているので、面白いのかな......。
――コーラー(ラインアウトでのサインの発信者)でレベルアップしたいとも言ってましたよね?
今シーズンはコーラーは、ポジション的にやっていません。ですけれどコーラーをやっていなくても、4番〜8番のポジションを全部頭に入れていて、今ライアンアウトとコーラーのリーダーグループにも入っているので、ナレッジの部分はとても上がっていると思います。例えば新しいオプションを作る時もリーダーたちと話をして、「これはこうした方が良い」と話し合う部分はしっかりと出来てきています。昨年もそこをやっていましたが、よりナレッジが上がった感じがします。
――新しいオプションというのは選手同士で話し合って作るんですね?
そうですね。「ここが狙い目だからこういうサインの方が良いんじゃない?」とか、「相手のあの弱点を狙おう」とか、相手の弱点を探しますね。何試合も映像として見て、「こういうサインが有効」などをチームで話します。そうやって落とし込んだものをしっかりフォワード全員がやって、そこでまた上手くいかなかったらまたブラッシュアップしてレベルアップさせていきます。
――上手くいかなかった時に、全員の役割がわかっていると、ここをこうやろうということがわかりやすいのでは?
それもあると思います。ここの動きをもう少しこうした方が、結果的にこうなるからやりやすいよねとか、そういうことはあります。
――その辺がやはり、やっていて面白いんじゃないかなと思いますが
面白いのかな(笑)。面白いと思ってやっている感じはなくて......。
◆一つひとつのプレーの質を上げる
――ラグビーに対しての面白さは?
勝ったらもちろん面白いですし、負けたら面白いくないです。そこはもちろんありますが、ラグビーで勝つために一つひとつ自分らの仕事をちゃんとやります。
――「ちゃんとやる」のは我慢なんですか?
我慢ではないです。でも、楽しんでいるかはわからない。無理してやってはいませんが、わからないです。嫌いじゃないというくらいです。
――今、課題はありますか?
今は一つひとつのプレーの質の部分を上げなきゃいけないと思っています。今から体重を何キロ上げます、というのは無理ですが、残り3週間で一つひとつのプレーの細かいところを修正するということが、更に大事だと思っています。セミファイナルとファイナルでしっかり勝つためには、一つひとつ小さいところをより伸ばしていかないといけないと思います。
――先発とリザーブでは意識面で違いますか?
バックローに良い選手がたくさんいるので、そこはもちろん切磋琢磨ですが、もしスタートで出るならスタートからインパクトをしっかり出して、リザーブから出るならしっかり最後締めのところまでやり切る。スタートとリザーブにはそれぞれ役割があるので、そこは自分の中でそれぞれの意識を持った上でやりたいと思います。
――得意、不得意はありませんか?
全然ないです。僕は1発何かをバンッと出来る選手ではないので、一つひとつ積み重ねて言って、チームとして勝ち切れば、それは結果的に楽しいということになると思うので、一つひとつのプレーをしっかりやるというところです。
◆勝ち切るラグビー
――今シーズンのチームとしての成熟度は?
昨年のことプラス新しいことをやって、それらが一体になっているので、もちろん上手くいかない時も多々ありましたが、今はチームとしてしっかりまとまっていて、勝ち切るラグビーが出来ていると思っています。
――セミファイナルでは今シーズン2戦2敗の相手と当たります
3度目はないので、しっかり勝ちます。
――2試合目ではその辺の手応えが何かありましたか?
リーグ戦開幕戦の1試合目は始まったばかりで、全員がやりたいことがちぐはぐになっていた部分もあって負けてしまいましたが、最終戦の2試合目はやりたいこともしっかり出来た上で、細かい部分で上手く出来ていなくて勝ち切れませんでした。セミファイナルまで2週間あるので、ここからチーム一丸となって、細かいところをどれだけ詰められるかが勝負だと思っています。
――昨年の今頃と今のチームの違いは何ですか?
昨年は僕の印象だと既に完成されていて、"これで戦う"という感じでしたが、今はまだ上手くいっていないところもあるし、まだまだレベルアップ出来る感じ、まだまだ成長出来る感じがします。余力を残している部分があるので、その余力をどれだけ伸ばせるかということが、一人ひとりのコミュニケーションや横の繋がり、そして細かいところだと思います。それらをしっかりやって、しっかりマックスまでやり切って、セミファイナルで3度目の正直で勝った上で、良い流れでファイナルへ行ければ、勝って優勝出来ると思います。
――そのコミュニケーションというところでは、飯野選手の重要な役割がありますね?
そうですね、フォワード、バックス、誰にでも思ったことをバッと言えるタイプなので、そこはしっかり言いつつ、周りの声も聞きつつ、上手く良いバランスでやってきたいと思っています。
――ファイナルラグビーでファンに見ていて欲しいところは?
もちろん僕が出た場合はエナジーを上げて、フィールドを走りまくっていると思いますし、もし僕が出なかったとしてもサンゴリアス代表の23人がしっかり体現してくれると思うので、サンゴリアス全員で後2つ勝って優勝したいと思います!
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]