SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2023年4月14日

#844 森川 由起乙 『小さなチャンスメイクを見ていて欲しい』

復活して間もない森川選手。終盤からファイナルラグビーへ向けての現状と目指すラグビーについて聞きました。(取材日:2023年4月中旬)

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◆ボールキャリー、タックル、スクラム

――1、3節出場、そしてブランクがあって12〜14節に出場、今シーズンの状況はどうですか?

最初の3戦はなかなか思うように行かず、チームから求められていることが出来ませんでした。シーズン中なので迷惑をかけるかもしれないですが、もう1回コンディショニング調整をしたいということをキヨさん(田中監督)とメディカルスタッフに自分から伝えましたが、それが2ヶ月半出場していない理由です。

――今はコンディショニングに関しては問題ないですか?

そうですね。毎日しっかり時間をかけて体のメンテナンスとトレーニングを重ねつつ、メディカルスタッフにサポートしていただいて練習の強度などをコントロールしてもらいながら、自分で出来るオフフィート系のトレーニングを自分で補ってやっています。

――オフフィート系のトレーニングとは?

足にあまり負荷をかけずに心肺機能を高めるトレーニングです。

――再び出場し始めて自分の出来はどうですか?

キヨさんから求められていることは試合を重ねるごとに、自分の中では徐々に出来てきているなと感じています。ファイナル含めて残り4試合なので、いつも言っている精度の部分と、僕の場合はスクラムでペナルティを取れるとチームに勢いもつきますし、試合の流れもガラッと変わるので、そこの部分でチームに良い影響を及ぼし続けていかないといけないなと思っています。ここ3試合、雨の試合でとくにフォワードのプレーが大事だったのでそう思います。

――求められていることとは?

スクラムはもちろん、ボールキャリー、そしてフロントローというポジションですけれどアグレッシブさです。ボールキャリーやタックルで相手を痛めつけたりする、激しさの部分です。キヨさんからはボールキャリー、タックル、スクラムの部分で、僕の良さを出して欲しいということをずっと求められています。

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◆雨の日はフォワードで勝つ

――雨が降り続けている中での試合では、何を意識してやっているんですか?

この3試合、大事なところで復帰したと思っていますが、どこのチームも、フォワードで勝たないと絶対に苦しい展開になると思います。ボールが滑ったり上手くいかない展開になることが多く、セットピースが重要な試合になるので、そこで優勢に立つことでチャレンジも出来るようになります。垣永真之介さんがよく言うんですが、「雨の日はフォワードで勝つ」と。リザーブを含めてフォワード13人でゲームが決まるということはみんなが思っていることなので、そこしか考えていません。

――そうするとこの間の神戸戦は役割を果たせたということですね?

そうですね、相手ボールをマイボールにして、相手のデリバリーをほぼ50%以下程度に抑えられているので。

――雨だけでなく風も強かったですね

そうですね、大変でした。ですがバックスがいちばん大変です。あのような試合はどっちに転ぶかわからないので、フォワードとしてはとにかくスクラムやモール、ラインアウトというセットプレーで圧倒したいと思っています。

――ラインアウトについてはどういうことに気をつけているんですか?

シンプルです。ホッコ(ホッキングス)がでかいので、取れるところで取る。自分たちのボールをスリーフェイズしっかりやる。フェーズを重ねていく上で、いちばん最初のラインアウトの投入のところで簡単に相手にボールを渡してしまうと相手の流れになりやすいので、そういった部分ではボールを取ることを優先して組み立てて行っています。

――通常は取ることのほかにどこを意識しているんですか?

攻める位置とエリアによって、サインや組み立てを変えますし、ボールを投げた時に相手が飛ぶリアクションが早ければダミーを入れて前にずらして取ったり、速いムーブについてくるチームだったら、ダイレクトボールでテンポを上げたりしています。相手をしっかり分析して、元々形がたくさんあるので、その形の中で組み替えて、1週間かけてみんなで落とし込んでいくという感じです。

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◆そこでの1発をチャンスに変える

――いま、自分自身に課題はありますか?

2ヶ月半休んでいましたが、ゲーム感はだいぶ戻ってきて動けるようになってきました。これからの試合ではどのチームが相手でも、1点差でも勝てれば良いという試合が続くと思うので、そういう時でも変わらないパフォーマンスをずっと出し続けるということが大事だと思っています。

一喜一憂せずに自分の役割だけにフォーカスして、チームにどういう影響を及ぼさないといけないかということを考えつつ、いつコンディションが悪くなるかもわからないので、自分の調整を毎日怠らずにやっていくだけです。シーズン中なので怪我の完治はなかなか難しいですし、調子の浮き沈みの波をなくして、良い状態をずっと保ちつつ少しずつ向上させて行けるようにずっと取り組んでいます。

――点差がある試合と、ギリギリの点差の時の試合のプレーを、同じように出来るコツって何ですか?

練習で自信をつけるしかないですね。試合の日にこうしたいと言っても、なかなか上手くいきません。試合の日に、こうしよう、あぁしようと考えていると絶対に上手くいかないので、「自分はこれやってきたからこれが出来る」という確信を持って行ければ、絶対に上手くいきますし心理的な余裕も出来ます。イメージを持って実際のプレーの動きを瞬間でそこまで持っていかないと、求められているパフォーマンスは出ないかなと思います。

――それは毎日の練習で積み重ねていって、試合前日くらいに「よしO K!」となるのでしょうか?

ビデオで相手のスクラムやアタック、デフェンスライン、そしてどういうところでギャップが出来て崩れるかというところを見て、前半はどこのチームも強いので、ちょっとでもラインブレイクして少しでも前に出るためのフットワークを考えつつ、月曜から木曜の練習の中でステップワークや、スクラムの肩のコネクションなどを行って、映像で見たことに対して自分がやることを決めて、ひとつひとつ自信をつけていくということをやっています。大まかなことは変わりませんが、どこのチームにもしんどくて崩れる部分というのがあるので、そこでの1発をチャンスに変えられるように、練習で不安要素を消していきます。

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◆協力と競争

――たとえば、今の時点では、次の試合に向けて不安要素は消えているんですか?

そうでうすね、今週も雨の予報ですし、相手にはフィジカルな外国人選手もたくさんいますので、そこは真っ向勝負になります。しっかりフィジカルで勝って、スクラムは横浜キヤノンイーグルスも自信を持っているところなので、そこでまず相手の心を折ることが重要かなと思います。80分間ずっと上手くいくということはないのですが、最初の20分で優勢に立てれば、苦しい時間になっても盛り返せるので。

――例えば最初の20分間で上手くいかない時は、どうやって立て直すんですか?

やることは決まっています。今週の試合のテーマも決まっていて、そこをやるだけです。まずセットプレーが上手くいってなかったら、セットプレーをゲームの中で修正する。セットプレー以降が上手くいってなかったら、スリーフェイズの中でリスキーなプレーは少なくして、フィジカルでシンプルに崩して行って、サントリーのペースに戻して行く。そして相手の反則を狙ったりと、ケーズバイケースでいろいろなシチュエーションがあります。

――良い時はもちろんですが、上手くいかない時には、特にコミュニケーションを意識しますか?

他は上手くいっているけれど、誰かが上手くいっていないとなると、その選手は1人になってしまいます。ラグビーは15人でボールを相手の陣地まで運ぶスポーツで、誰かが欠けたら上手く行かなくなります。だから全員でやりますし、それは練習からこだわってやっているところです。1人にならないようにハドルも組みますし、お互いに目を見合います。まずはリーダーがそこをまとめます。例えば上手くいっていない時に「この10分はこう行くぞ」と言って、一気に皆が同じ方向を向ければ10分で流れを取り戻せます。終盤になるに連れて、サントリーのその面のチーム力は上がってきていると思います。

――そのフォワードの中のリーダーは?

堀越康介とホッコ(ホッキングス)、ヘンディー(ツイ)が基本やっています。あとはカッキーさん(垣永)がエナジーを上げています。

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――ここ数年を見ても今のフォワードは良いメンバーが揃っていますね

めちゃくちゃ良いです。試合に向けて意識するところやモチベーションも高いですし、スクラムに対しての意欲もとても上がりましたし、「やらなきゃいけない」「ここで勝たないといけない」という気持ちがありますし、「モールを今年は武器にする」と言って、目標達成に向けての取り組みも変わりました。

また、試合に出ていないメンバーもビッグエナジーなので、良い意味で練習が荒れる日があります。試合に出るための競争がありますし、メンバーとして出場する選手も「このジャージを渡したくない」という気持ちが強いです。スクラムもここ3試合上手くいっていますが、練習では上手くいかない方が多いんです。それはメンバー外の選手の「試合に出たい」というプレッシャーが大きいですし、相手の予想されるプレーをコピーして同じ強度と同じ質でやってくれます。協力と競争がいま、素晴らしいと思います。

――練習で上手くいかないことが試合では上手く行くことに繋がっている部分があるんですね?

そうですね、「このままではあかん」という部分を気づかされます。それで精度もまた上がりますし、練習で上手く行った週は、「もっと出来る!」というハングリーさもあるので、とても良いと思います。

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◆1番にならないと全てが楽しくない

――スタッフが求めていることは選手にとって明解ですか?

キヨさん自身も個人個人に寄り添って、一人一人にテーマやワンポイントアドバイスをくれたり、コンディションを気にかけてくれたり、会話の数も多いです。あとはフォワードだったら、ヤコ(ピナール アシスタントコーチ)が個人面談をやってくれたり、フィードバックによって自分の現状を再確認したりとコミュニケーションが取れているので、とても良いと思います。

――現状、自分自身については少しもどかしい感じですか?

いや、そんなことはなく、だいぶ不安要素はなくなっています。今週だったら横浜キヤノンイーグルスと臨む上で、100%出せるというところまで持っていかないと失礼ですし、不安要素はだいぶ消えていっています。ですがコンディショニングの調整は本当に難しくて、試合に出られない状況に戻りたくないという思いがあります。痛いところ0箇所という選手は誰もいないので、その中で自分のコンディションの良い状態を保ち続けることが必要です。昨年も決勝で同じチームに6点差で負けて、あともう一歩という結果が2シーズン続いていますし、残り4試合なので、不安要素があるとか言っていられないです。やはりサンゴリスが1番にならないと全てが楽しくないです。

――いろいろ苦労している中で、いま「ラグビーが楽しい」と思うところはどこですか?

何歳になっても気づきがあること。そしてプレースタイルは変わらない中でも、リハビリで「こうなりたい」と思った時に実際にそう動けるようになったという新しい部分が見つかったり、僕も30歳になって歳も歳なので、同じポジションの選手で僕のワンポイントアドバイスでスクラムがとても良くなった選手もいます。自分も成長しつつ、味方も成長していますが、サントリーのフロントローの成長率が素晴らしいです。だから余裕も持てません。

そんな中、新たな取り組みと言うか、いろいろと相談しながらやっています。例えば体のコンディションだったら、「こういうトレーニングが良い」と言われればやり続けて、そうしたら「変わってきたね」って言われることの楽しさもあります。それをグラウンドで生かしてチームが勝つというのがいちばん楽しいです。

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――まだまだやれるという自分への期待はどうですか?

あります。今年はワールドカップイヤーなので、試合に出られなくていろいろと難しい2ヶ月半でしたが、キヨさんも相談に乗ってくれて判断して休ませてもくれた結果、今があります。メディカルのスタッフもサポートしてくれましたし、今でも毎日お世話になっています。2ヶ月半とても苦しかったですが、「苦しい」のはずっとは続かないので。けれども、もう苦しいところには戻りたくないです。

――今の目標は?

優勝です。そこに貢献したいです。優勝して、「やはりサンゴリアスやね」って言われたいです。好きなチームでチャンピオンになりたいです。また、苦しさも嬉しさも経験しているので、大好きなチームのみんなと優勝したときの嬉しさというのを味わいたいです。良いところまで行って負けるというのは、好きなスポーツやっている限り、それは嫌なので。

――そんな中、ファンの皆さんに見ていて欲しいところは?

僕らフォワードは小さなチャンスメイクしか出来ませんが、ピンチの時も互角の戦いをしている時も、ラグビーはラインアウト、スクラムから始まりますし、あとはバックスが回すまでのディフェンスの穴を作るプレーもフォワードがやっているので、そのような小さなチャンスメイクを見ていて欲しいです。

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(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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