2023年4月 7日
#843 細木 康太郎 『嬉しいという気持ちを思い切り出す瞬間』
開幕13戦目にとうとうリーグワン・デビューを果たした細木選手。初キャップでは何を感じ、いま何を考え、これからどんなラグビーを目指していくのでしょうか。(取材日:2023年3月下旬)
◆緊張した状態
――ようやくデビューしましたがどんな気持ちですか?
素直にとても嬉しい気持ちです。そして終わったから言えますが、選ばれた直後と試合までの準備で、かなり緊張しました。
――意外に緊張するタイプですか?
僕、結構緊張しがちです。どの試合も緊張しながら準備をして試合の瞬間を迎えますが、今までは3番として試合の最初から出場することが多くて、ボールをもらったりホイッスルが鳴ったりすれば、緊張も忘れてプレーに集中していたんですが、緊張した状態で試合が始まってベンチにいて、というのは初めての感覚だったので、メンタル的なコントロールが難しかったです。
――待ち遠しい感じですか?
そうですね、早く出たいという気持ちはありましたが、雨もあって、雨の中で思うようにラグビーが出来ていない中で、自分が出て大丈夫かなという不安も少し持ちながら待っていました。
――待っている間に緊張がピークに達していたんですか?
緊張のピークは試合前日にありました。キャプテンズランで、みんなとしては「分かっているよね」という前提で最後の合わせをして、「全部100%だよね」という前提で試合に向かっていくので、その中で自分がミスをしたらどうしようとか、あそこがわからなくなったらどうしようとか、大きなプレッシャーを感じて、いちばん緊張していたなと思います。
――そのプレッシャーは続いていたんですか?
そうですね、試合の前日にクラブハウスで昼にご飯を食べてからバスでホテルへ向かう時も、メンバーとして初めてバスに乗って、会場近くのホテルに着くまでが初めてだったので、自分がメンバーに選ばれたんだなという実感と共に、試合が間近にあることへの緊張がどんどん高まっていました。
でも夜ご飯を食べている辺りから先輩と話をしたり、コンビニへ行ったりして平常心を取り戻し、緊張感が少し薄れました。睡眠も普通にとることが出来て朝を迎え、その時点では良い緊張感になっていました。いろいろなプレッシャーはあるけれど、焦ることなく、マイナスなイメージのマインドにはなりませんでした。
◆初めての感情
――すっかり緊張が取れたのはいつですか?
前日の夜の食事の時です。同じテーブルに尾﨑泰雅くんと片倉さん、中野将伍さん、江見さんなどがいて、普段はベラベラ喋ることはないんですが、みんなと上手くコミュニケーションが取れました。意識して喋っていたわけではないですけれど、テーブル全体で喋ることが出来ました。
その後も季依典さん(呉)とバックアップの髙本幹也と尾﨑泰雅くんと外を散歩したりしていくうちに、いつものテンポというか、普通の日常に戻ることが出来た感じがしました。先輩後輩の関係がありながらも気楽に話せるいつもの感じがあったので、そこで本来の自分の在り方やテンポに少し戻せたのかなと思います。
――試合に入る時はそれほど緊張せずに入れたんですね?
そうですね。若干の緊張はありましたが、どうしようとパニックになる程の緊張はしていなかったです。
――「どうしよう」となることが珍しかったということですね?
そうですね、自分の中では、焦りではないですが、どうしよう選ばれた、という気持ちでした。初めての感情でした。
――それだけ緊張している中で、ファーストタッチやファーストコンタクトはどうでしたか?
.........楽しかったです、一言で言うと。というのは練習では日本代表の選手もいたり、他の国でキャップを持っている選手がいる中で、コンタクトをして走って、考えてやります。トレーニングなので自分たちを追い込んでいく練習であって、淡々とやる練習です。そしていざ試合となると、急に楽しさが湧き始めました。
◆練習してきたことへの自信やプライド
――試合で楽しいと感じたことは、普段ラグビーをやっている時から楽しいと感じているところですか?
試合ならでは、のところです。1つ1つのプレーや結果に必ず勝ち負けがついてくるのに対して、練習だと局面で終わってその後チームがどうなっていくかというところは続いていきません。試合だとトライまで繋がるし、試合の勝利にまで繋がるというところに、試合と練習の違いがあります。試合の方が自分の1つのプレーや行動がチーム全体の勝利やチームの空気感に関わるので、自分の中ではそこに楽しさもあるし、気持ちの揺らぎもあります。
――初めての焦りの反動としての楽しさでしたか?
そんな感じです。縛られていた体が1回タックルしたことによって「行ける!」というふうに解けてきて、自信にもなりました。そして、今まで自分がノンメンバーで練習してきたことへの自信や、今までやってきたことを褒めるというか、そういうプライドが湧き上がってきました。
――そのプライドに繋がるというところは?
やはり試合に出るのと出ないのは大違いです。ノンメンバーの練習は試合さながらの強度もきつさもあるけれど、試合に出られないというメンタルを持ちながら練習をする日もあります。そしてその日の練習は次の週の選考でもあるので、自分との勝負でもあります。あの「練習がきついな」と思いながら日々過ごして、ついに出場を掴み取ったという、そこのきつい練習の意味や意義を、改めて実感するゲームになりました。
◆足りないところ
――楽しかったということは出来が良かったということですか?
自分の中では......60点くらいです。
――60点の中には何が入っているんですか?
スクラム以外です。自分が強いのはスクラムという評価を頂いているので、そこで力を見せないといけないと思います。雨でフォワードのゲームになるとわかっていた上で、僕にスクラムを組むチャンスが1回あって、結果的には相手のアーリープッシュで自分たちのボールになりました。あそこのアーリープッシュでは物理的に相手に押されていたわけで、アーリーであるかないかにかかわらず負けていた状況だったと思います。
マイボールになるにしても、自分たちがコントロールしたプレーでペナルティーを取りたかったので、相手があぁいうふうにしたから僕たちが取れた、ではなく、僕たちがこうしたから相手がこうなってフリーキックが取れた、という結果が欲しかったです。監督やコーチ陣も僕が練習で発揮しているスクラムのパフォーマンスを見てチャンスを与えてくれていると思うのですが、そこでは圧倒したパフォーマンスが出来なかったです。自分の強みであるのはスクラムなので、そこで完璧が出せなかったところが、僕の中で大幅な減点だなと思っています。
――どこを良くすれば良いのでしょう?
言い訳みたいになってしまいますが、今まで自分は下のチームでやっていて1、2、3番のパックが変わってくるとおのずとフッカーの癖とかも違いますし、100%合わない部分があります。試合までには100%近く合わせてはきていましたが、いざ試合になって疲れが出てきたり、いつもサンゴリアスを相手にして練習しているのが試合なのでNECグリーンロケッツ東葛が相手になったりと、いろいろな条件が変わった中で、100%に持っていけなかったところに自分の弱さがありました。
フッカーとのコミュニケーションも、練習では良い形になってきて出来ているけれど試合では出来ないというのは、スキル不足やフィットネス不足など自分に足りないところがあるので、自分の考える力や適応能力をもっとレベルアップしないといけないなと思いました。
◆みんなのお陰
――60点というのは相当不満ですか?
一人で考えていたら、相当不満です。
――一人で考えていたら?
スクラムでは自分の完璧なスクラムが出来なかったり、プレー時間は20分という短い時間でしたが疲労していて、結構息が上がって、これじゃダメかな、きついなって思いました。良いところもあったし良いタックルもあったと、自分中でいろいろなことを天秤にかけましたが、60点くらいだと思いました。
ハッピーな顔をしていなかったロッカールームで、隣に祝原さんがいて、「良かったよ、俺のデビュー戦なんか、負けた試合でファーストキャップを祝われず、チームメンバーにも試合に出ていたことを忘れられていた感じだったよ」という話を聞きました。それを聞いてみて、本当にチームのみんなが勝たせてくれて、良いタックルも出来て、良い状況で自分はデビューが出来たんだということを改めて感じました。チームのおかげでハッピーになれるというのは、みんなのお陰だなと思いました。
誰かと比較するわけではないですが、自分が出た試合でチームが勝ったということで、とてもポジティブになれましたし、自分の満足いくスクラムが組めなくても他のところで少しでも評価してくれている部分があるなら、60点でも極端にマイナスポイントに目を向けずに、良いところに目を向けてフォーカスすることが出来ました。今週の練習も、そうやって出来ていたかなと思います。
◆最後にグラウンドに立っていた選手が勝ち
――開幕から出場したいと言っていましたが、13試合目のデビューについては?
開幕から出たい気持ちはありました。怪我で開幕から出られなかったというのは、言い訳にしか過ぎないと思います。サンゴリアスは本当にプロの集団だと思いますし、結果が全てだと思っているので、結果を出せていない自分にイライラしたり、嫌だなと思ったりもしていました。怪我が治ってもメンバー選考に絡めていけない自分の実力不足や不甲斐なさもありましたが、そこで足を止めたり何かを諦めたりというのは、それこそ自分が求めている自分じゃありません。
みんながデビューしていく中で、焦りや自分への不満とかもありました。誰かがいちばん最初に出たとか同期が昨年出たり今期スタメンに定着したりするということに関しては、同期の中で自分が最後に出たという順番の話であるだけだと考え、特にこだわリはありません。ですが、自分がスタメンで全試合に出ると公言した以上はそれを遂行したいと思っていましたし、それが出来てない自分に悔しさや恥ずかしいと思う気持ちがありました。そんな中、自分が頑張る源として、「今やるべきことをきちんとやっていく」という信念を持ってやっていました。
――今の課題は何でしょう?
体がキツくなった時のコミュニケーションや、練習量が必要だと思います。自信のあるプレーでも、まだまだぜんぜんだということを試合で体験することが出来たので、そこは上には上がいると思って、日々勉強です。自分は本当にまだまだなのでやらないといけないと、いま思っているところです。
――今の大きな目標はなんですか?
決勝に出ることです。
――リーダーシップに関してはどうですか?
まだまだ0点くらいの状態です。自分がサインを覚えるのに精一杯ですし、それこそファーストキャップで自分にいっぱいいっぱいだった部分もありました。自分がまず試合に出るということにしか目を向けていなかったので、まだまだそこは点数もつけることが出来ないと思います。
――これからの大事な試合に出ることがとても大切になってくると思いますがいかがでしょう?
「最後にグラウンドに立っていた選手が勝ち」という僕の考えがあります。それは相手チームとのバトルのこともそうだし、味方とのポジション争いのところでもそうだと思っています。何故それが大切なのかと言われたら、今パッとは言えませんが、グラウンドに立ってプレーしている選手が認められるべきだし、自分は実際に立っている選手を認めています。それは自分の価値観ですが、この価値観をいちばん大切にしていきたいです。ですので、僕はグラウンドに立ちたいです。
――ファンに見ていて欲しい姿は?
やはり自分は大学時代の印象が強いと思うので、良いプレーをして、スクラムで勝って、スクラムトライをして、自分の嬉しいという気持ちを思い切り出す瞬間を見ていて欲しいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]