2023年3月24日
#841 大越 元気 『あ、来たな、嬉しいなぁ』
試合後のロッカールームでインタビューの打診をすると、抱きついて喜んでくれた大越選手。スピリッツ史上初のハグを経てのインタビューとなりました。 (取材日:2023年3月下旬)
◆同じ準備を毎週
――今回インタビューを依頼した際、ハグをしてくれましたが、どんな気持ちだったんですか?
待っていました!というか、インタビューをされるというのは、やはり試合に出て活躍しないとインタビューされないことだと思いますので、嬉しかったです。
――今シーズン12試合目に初出場し、いきなり素晴らしいプレーが出来るというのは、普段の準備の賜物ですね?
ラグビーの準備というのは、メンバーとノンメンバー関係なく、試合の対戦相手に対して、チームとしてまたスクラムハーフとして何をしなければいけないかというところだと思いますが、試合に出る・出ないに関係なく、それをずっと考えて練習をして来ました。今回メンバーに入った時に、そのことを出せたのかなと思います。ノンメンバーだから違う準備をしているのではなくて、メンバー・ノンメンバーに関係なく、同じ準備を毎週毎週していたというのが、ポイントだったのかなと思います。
――シーズン後半になってきて出番がないと挫けそうになったりしませんか?
挫けそうになることもありましたが、毎週淡々とメンバーに入るために準備をするということは、今はもう退団された先輩方からいちばん教えてもらったことです。一喜一憂することなく、目の前のことを淡々とやることや、メンバー・ノンメンバーに関係なくこのチームのために準備をするということが、僕が先輩から学んだ大きなことだったので、それを意識してやっています。
◆これじゃあかんよ
――それを先輩から学んだきっかけは何かあったんですか?
1、2年目の時はそれがぜんぜん出来ていなくて、どこかチームのためというよりは自分のためにやっていたところがありました。試合に出られない原因をどこか他に探したりして、逃げていた自分もいたのかもしれません。キャリアを重ねてその思いがやっとシャープになって、今の自分になれているのではないかと思います。
――自分から気づいたというより先輩がアドバイスをしてくれたんですか?
はい、何回も言われました。「元気、これじゃあかんよ」と口酸っぱく言ってもらいました。その当時は、「はぁ?」と思う時もありましたが、中堅くらいになってくると、「言ってくれた先輩の言葉って大事だったんだな」と改めて認識をして、そういう準備が出来たと思います。
――改めて認識したきっかけはありましたか?
一昨年くらいからカルチャーグループ入って、より自分のことだけではなくチームのことを考える視点を持った時に、いろいろと考え方が変わったというのはあります。
――人が見えてくると自分も見えるということですか?
そうですね、自分が試合に出られない時の態度を普段から示していかないといけないと思っています。後輩もいますし、チームが良くなるためにそれをやっていかなければいけないと思ってやっています。
――大越選手も含めて替わって出場した選手がそれぞれ良いプレーをしていますね
本当に良い状態だと思います。これまで負けた試合もありましたが、負けをポジティブに捉えてしっかり前に進めているので、確実にチームとして進んでいると思っています。埼玉パナソニックワイルドナイツにも勝ってというのが理想かもしれませんが、"置かれた環境で100%やる"ということが大事で、結果として最終のプレーオフで決勝に進出して優勝をするということがゴールなので、前を向いてやっています。
◆やってやろう
――前回の試合、出てきた瞬間から100%の力を発揮しているように見えましたが、自分ではどうでしたか?
やることもシンプルで明確だったので、あとは「楽しむぞ、やってやるぞ」という思いで入りました。
――明確なやることとは何だったんですか?
アタックはキヨさん(田中監督)に言われた2つのポイントがあったので、そこをやることです。あとはディフェンスのオーガナイズのやり方をキヨさんからずっと言われていたので、それらをどの時間帯に入ってもしっかり遂行しようという思いで入りました。
――出て行く時は大体2つくらい言われるんですか?
どうでしょう、選手によると思います。僕はそれをシンプルに言ってもらいました。
――スクラムハーフはディフェンスでも全体の司令塔なんですね?
そうですね、指示をして動かさないといけないですね。
――試合の前の週、メンバーとして名前を呼ばれた時には、いよいよ来たなという感じでしたか?
単純に嬉しかったですね。やっとかと言うより、「あ、来たな、嬉しいなぁ」という感じでした。
――これを待っていたぞ、という感じ?
待っていたぞと言うより、このために準備をし続けていたので、「やってやろう」という感じでした。
◆これを変えることが重要
――攻めで2つ、守りで1つ田中監督から指示されて、この3つは自分としてはそれなりに出来たと思いますか?
出場時間もそんなに多くはなかったので、言われたシーンが全てあったかというと無かったですが、落ち着いてコミュニケーションを取りながら、やるべきことは出来たかなと思います。
――交替する前とは、何かを変えようという意識はあるんですか?
いちばん大切なのは試合の状況だと思うので、僕が何かしてやろうというよりも、チームが勝つためにいま自分が何をしないといけないかということを、言われた指示によってしっかりと考えてやっています。
――言われた指示というのは?
シンプルに、ハーフの技術のところです。チーム全体のことというよりも、自分自身のことを指示してくれます。
――得意なことを出すように言われるんですか?
試合に出るまで、ずっとキヨさんから言ってもらった改善すべきポイントでもあります。その改善すべきポイントを徐々に改善出来てきていたので、そうやって準備してきたポイント2つを、しっかり試合で出せよという感じでした。
――それは何でしょうか?
全然大したことではないですよ。
――自分でも課題だと思っていたことですか?
思っていました。本当に思っていました。
――なかなか改善出来なかったところでもあるんですか?
そうですね。意識して「これを変えることが重要だ」と思って変えるようになったのは今シーズンからですし、監督がキヨさんになってからです。
――その"変えること"とは何ですか?
技術的なことです。アタックではどのエリアでどういう持ち出し方をするか、誰にボールを放るか、走ってくるランナーの誰をチョイスするのか。そして、広いサイドではなくて、狭いブラインドサイドを攻める時に、僕自身がバーっとパスをすぐに出すのではなくて、少し自分で持ち出して、余裕を持ってどの選手に放るのか。裏表をしっかり判断してやれよ、ということです。
――その指示は「さすがスクラムハーフ出身監督ならでは」ですか?
キヨさんだからですね。キヨさんになって、僕自身スクラムハーフとしてとても勉強になっていますし、いろいろとアドバイスをくれます。それが今後もっと上手くなるため、成長するために必要な部分だったので、それを言ってもらえて改めて良かったなと思っています。
◆エナジーを持って運動量で勝負
――そういうところを含め改めて今の自分の長所をどう認識していますか?
いちばんの僕の持ち味は、アグレッシブにエナジーを持って、アタックでもデイフェンスでも運動量で勝負するというところだと思うので、そこをがむしゃらにやるのではなくて、ハーフとして冷静にしっかりとやることだと思います。キヨさんからも「スクラムハーフはゲームのリーダーで、スクラムハーフは肝だから、ゲームを読む力、試合の状況や時間帯で、相手の状況、味方の状況を考えて、しっかりプレーを選択すること」と言われています。これからもっともっとそこを伸ばしていきたいなと思っています。
――そこを伸ばすための練習をしたり映像を見たりするんですか?
キヨさんも仰っていますが、試合で経験するというのがいちばんだと思います。でもそれだけではなく、練習中もそこを意識してやってますし、練習や試合の映像を毎回見て意識して取り組んでいるところです。
――先日の試合では真横へのパスもありましたね
それはフォワードが走り込んでくれていたので、そこに合わせたというだけです。勢いがあったので、その勢いを止めることなく行きたいなと思い、そのようなパスをしたんだと思います。
――それが周りをよく見ているってことですね?
勢いがあったので。
――他に自分でここが良かったなと思う部分や足りなかったなと思う課題はありますか?
ここが良かったなというのは、試合でないのですが、僕は試合に出ていなくても幸せなことにリザーブのリザーブとして、アップを一緒にしたり、遠征に一緒について行ったりしています。それで試合に出るメンバーと試合の直前まで一緒に過ごす時間が多く、例えば亮土さん(中村)と試合前に一緒にアップをするんですが、そんな亮土さんと今回、後半にスクラムハーフとスタンドオフとして試合に出られたことがとても大きかったです。
そういうコミュニケーションがあったので、今回落ち着いてプレー出来た部分もありました。一緒に過ごしているからメンバーの遠征先の状況とかも分かっていて、いざ試合に入ったりしてもロッカーの雰囲気も分かりますし、アップも一緒にやっているから感覚が分かります。本当に試合にいつも出ていたかのように一緒に過ごせているので、いつも気持ちは出ているメンバーと一緒に勝負をしていました。そういうことが、今回試合に出るにあたって落ち着いてパフォーマンスが出来た要因のひとつかなと思います。
――リザーブのリザーブということは、基本的に試合に出る可能性はないということですよね?
はい、試合の前日や試合前のアップで出場予定選手にアクシデントがない限り、基本的にはないですね。
◆声掛けを大事に
――カルチャーグループというのは今シーズンもあるんですね?
あります。今年は慎太郎さん(石原)と僕が幹事なんですが、今年は僕でなく慎太郎さんがリーダーでやってくださっています。
――カルチャーグループの動きは活発なんですか?
今年は慎太郎さんに任せています。慎太郎さんもこのチームに長くいて、あぁいうキャラクターの方で、チームに対して愛を持っている方なので、その人柄なのか、チームで何か行事をする時のバリエーションも多く、僕が持っていない考えを持っている方なので、今年は慎太郎さんにやって頂いていて、とても勉強になっています。こういう考え方もあるんだなと、慎太郎さんから学んでいます。
――役割としてはいろんな選手に足りていないところを言ったりすることもあるわけですよね?
チーム内容を良くすることがいちばんの目的なので、楽しいことももちろん考えますが、僕はどっちかというとノンメンバーとして過ごす時間が多かったので、若手選手に対しても声掛けすることは多かったですね。
――選手がどんどん増えてきて、チームカルチャーという意味では大変な年だと思いますが?
外国人選手や若い日本人選手も多い中で、サンゴリアスはこういうチームだということを伝えたりしていますが、いちばんは在籍年数に関係なく、このチームを好きになってもらってプレーしてもらいたいということです。サンゴリアスに来たら、そのような思いでやってもらいたいですし、短い時間でそれを思ってもらうようにするというのは、とても大変だなと思います。
――そのポイントは"サンゴリアス愛"だと思いますが、サンゴリアス愛を浸透させる方法はありますか?
グラウンド外のことは慎太郎さんが企画してくださっているので、僕はメンバー・ノンメンバーに対しての声掛けを大事にしています。目の前のことを一つひとつ一生懸命やっていかないと試合には出られないと思うので、試合に出られなくて苦しんでいる選手に対して、「一緒に頑張っていこう!」という声掛けをしています。
――それは先輩から引き継いできたことですか?
はい、本当にそうです。僕はそれをずっと言われ続けていたので。1年目は試合に出られず不貞腐れていた時期もありましたが、そういう時に啓希さん(宮本/現 同志社大学ラグビー部監督)やその当時いた先輩方が僕を変えてくれたので、次は僕がしっかりそれを受け継いでいく番だと思っています。
◆愛
――大越選手にとってのサンゴリアス愛とは何ですか?どれくらい愛していますか?
怒られるかもしれませんが、妻より愛しているかもしれないです(笑)。
――それは怒られます(笑)。
それくらい愛しています。
――それだけ愛せる魅力は何ですか?
このチームはぜんぶが詰まっているチームです。試合に出て勝つ喜び、優勝するチームのプライド...やはりなんだかんだで苦しい時間もたくさんある中、人として成長できる部分や社員選手として成長できる部分、人として男として成長できる部分など、ぜんぶが詰まっていると思います。だから好きです。そしてみんなで助け合って、乗り越えて、全員で優勝を目指してひとつの方向に向かって行くというところが良いなと思っています。
――現時点での目標は?
このチームで、リーグワンで優勝するということです。個人的にはメンバーであってもノンメンバーであっても関係なく、常にしっかりと毎週準備をして、1試合でも多く試合に出て、チームの勝利に貢献したいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]