SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2023年3月 3日

#838 流 大 『架け橋になって繋ぎ役になる』

長らくリーダーシップを担って来た流選手。その厳しさを乗り越えてきた流選手ならではの、いくつものキャッチフレーズがインタビューで飛び出して来ました。(取材日:2023年2月下旬)

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◆プレッシャーをかけた練習

――今シーズン、リザーブでの出場が主になっていますが、調子はいかがですか?

悪くはないです。基本的には良いです。今シーズン全部リザーブでの出場で、開幕戦は落としましたがそれ以降は8連勝出来ていて、劣勢の試合を立て直すことも出来ましたし、勝っている試合をリードしたまましっかりとゲームを締めくくることが出来た試合も多かったので、自分の役割は果たせたかなと思います。

――リザーブが自分の中で定着している感じですか?

メンバーを決めるのはキヨさん(田中監督)の仕事なので、そこは任せていますし、それに対する意見は基本的にはないです。"与えられた役割をとにかくやり切ってチームの勝利に貢献する"というのが今の僕の仕事だと思っています。キヨさんから期待されている僕の役割というのは、僕自身も完全に分かっていますし、いつでも入った時に"しっかりリーダーシップを発揮してゲームをコントロールすること"だと思っているので、それは今のところ出来ていると思います。

――それは全試合で出来ているんでしょうか?

そうですね、基本的には出来ています。

――そういう中で、自分自身の今の課題は何ですか?

試合によっては少しだけ自分のスキルが不足している部分があったので、"どんな状況下でも高いスキルを発揮する"というところは、もう少し伸ばせるかなと思います。例えばちょっとしたキックが自分の思っていたよりも長くなったりとか、求めているものが高いという部分があるので、ちょっとしたことですがもっともっと伸ばせるかなと思っています。

ラグビーをトップレベルでやる中でいちばん大事なのは、"プレッシャーがある中でスキルを発揮する"というところです。プレッシャーのない中で、いくらパスやキックの練習をして出来ていても、試合ではもっとプレッシャーがかかってそこでスキルを発揮しなければいけないので、"いかにプレッシャー下でスキルを発揮出来るか"ということに重きを置いてやっています。

――プレッシャーをかけた状態での練習とはどんなふうにやるんですか?

例えばバックスの練習でいうと、基本的にハーフからのパスでスタートしますが、その時に僕がわざとラックを作って、難しい状況のボールを他のスクラムハーフの選手が捌けるような練習方法に変えたりしています。その辺も僕は工夫しながらですが、若いスクラムハーフの選手たちがプレッシャー下でボールを捌く技術やキック練習をするにしても、プレッシャーのない中でただキックをするのではなくて、例えば僕がパットを持って僕自身を大きな選手に見立てて、彼らにプレッシャーがある中で蹴ってもらう練習です。僕だけでなく他の選手にも「成長して欲しい」という気持ちがあるので、そういうことを取り入れています。

――それはいつ頃から取り入れているんですか?

今年がメインです。今年になって「こういうのをやった方が良いな」と思って、他の選手に対してプレッシャーをかけた練習を進めるようにしています。

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◆どういうコミュニケーションを取れば良いか

――交替で出場する時にはどんなことを考えて入っていくのですか?

大体、齋藤直人選手と替わるので、ゲームキャプテンをそのまま僕が引き継ぐことになります。まず点差と時間帯をしっかりと考え、またレフリーとのコミュニケーションが今どうなのか、外から見ながら感じておきます。もちろん劣勢であったり負けている状況であれば、どうやって得点してプレッシャーをかけて最後に逆転するのかを考えますし、今シーズンは「大勝出来る試合はない」と思っているので、リードしている状況であれば、"リードをしっかり保ちながらチャンスを見極めてリードを広げる"ということを考えています。とにかく"他の選手をしっかりとコントロールする"ということを、いちばん考えてやっています。

――レフリーとのコミュニケーションでポイントとなるのは?

レフリーによっての傾向というのは絶対にあるので、僕はキャプテンをやっている時から"レフリーがどんな時に笛をよく吹くのか"とか"どういうコミュニケーションがあるのか"ということを、事前にアナリストの須藤さんから情報をもらっています。

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◆前半も後半も面白い

――ボールキャリーを追いかけて最後にトライというシーンは、今年はまだないですね

そうですね、ボールをもらったりすることは何回かしてはいますが、トライまで繋がっていないです。でも良いコースは走れていて、実際に貰えていなくても、走ることによって相手の1人の選手が僕を見ることによって、前を走っている選手のスペースが開くということも多々あります。ですので自分のトライには繋がっていませんが味方のトライに繋がっていて、僕の中では成果が出ていると思っています。

――まだまだというスキルは、他にはどんなことですか?

スキル全部を伸ばしたいですが、どんな試合でも今のスタンダードを落とさないことがいちばんです。

――やはりスタメンから出る時とリザーブで出る時の感覚は違いますか?

うーん、違うこともあるし、一緒のこともあるので一概には言えないです。やはり前半は相手も元気なので難しい試合になることも多くて、前半で点差が開くこともあまりありません。我慢比べと言うか、どうやって突破口を開いていくかが前半の役割で、我慢しながら得点を重ねていきます。後半は相手もこっちも疲れていますが、スペースが空いたり、ゲームに変化があるのは後半なので、そこで適切な判断をするというのがフィニッシャーとして求められることです。ですから多少は違うと思います。

――後半の方が面白いですか?

いや、前半も後半も面白さはありますよ。前半は"どれだけ試合をコントロールしていくか"という面白さがあります。後半はなかなかゲームが動かない中で入って"ゲームを動かす"面白さがあります。両方面白いと思います。

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――スクラムハーフとしていかにみんなを使うか、というところが楽しみですか?

自分の能力は高くないと思っているので、"いかに周りの選手を使って組み立てるか"ということがいちばん考えることです。周りには本当に優秀な選手がたくさんいて、タレントもいますし、その選手たちをいかに使って勝っていくかということを僕はいちばん考えています。

――それは昔から?

昔からです。試合の中で自分が目立とうと思ったことはほぼなくて、どちらかと言えばお膳立てしたいタイプです。気づいていないところで僕が行ったコミュニケーションやちょっとしたプレーが、最終的に繋がっていたりあるいは相手のトライを防げているということが僕が求めていることであり、これからもそれは変わりません。僕はぜんぜん目立たなくて良いと思っています。

――改めて対峙してインタビューしてみると、体が大きくなったように思いますがどうでしょう?

結構周りから言われたりしますが、体重はぜんぜん変わっていません。筋力は少し上がっていますが、そんなに変わっていないと思います。ぼちぼち鍛えてはいます。

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◆楽しもうと思って、気楽に

――先程のみんなを使うという点では、日本代表の選手たちを動かすことは更に面白いですか?

サントリーでも日本代表でも一緒ですね。代表でも僕が目立つことは殆どないです。でもそれぞれでの"架け橋になって繋ぎ役になってやる"というのは、サントリーでも代表でも変わりはないですし、楽しいです。

――代表では先発の可能性がありますが、スタメンであってもやれるぞという感じですか?

もちろん。どちらでもやれる自信はあるので、どっちになろうが自分の能力を発揮してやります。

――最近見ていて笑顔が多いと思います

出来るだけ現役でいる以上は楽しんで、勝ちたいという気持ちを強く持っています。リーグワンもプレッシャーに感じることなく、とにかく楽しもうと思っていますし、自然に楽しんでいます。

――昔から毎日毎日を楽しんでいる感じですか?

昔の方が自分にプレッシャーをかけていました。キャプテンをやっていた時期もあるので、チームメイトにも本当に厳しくしていましたし、心の底からそれを楽しむという感覚はあまり強くなかったです。今は役職も何もないので、気楽にやっています。

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◆自信がある

――今のチームの状態はどうですか?

自信はついてきていると思います。また大学を出てすぐの若い選手たちがバックローを占めていたり、点差で言うと苦しんだ試合も多いのですが、それでも勝ってきているのでチームの成長を感じています。

2週間後に埼玉パナソニックワイルドナイツとの試合がありますが、いま埼玉だけでなく簡単に勝てるチームはありません。本当に強いチームが増えているので、先を見過ぎずに、まず今週のトヨタヴェルブリッツ戦にしっかりと勝つことを考えています。でもやはり僕の中では常に「埼玉パナソニックワイルドナイツに勝つためには」ということを考えていますし、昨年よりは自信があります。

――競っている試合が多く、若い選手たちが起用されたりなどで、底力が上がって来ているんでしょうか?

そうですね。キャプテン2人が若い選手なので、そういう選手たちがいろいろな経験をして、いろいろな状況をゲームの中で経験したことによって、厳しいゲームでどういうコミュニケーションを取り、どういう選択をするかということを学べていると思うので、彼らが力を発揮すれば、本当に良いチームですし、自信になるチームだと思います。

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◆リーダーは苦しむもの

――流選手から見て、今年の2人のキャプテンあるいは2人制のキャプテンはどうですか?

序盤はやはり遠慮をしていて、多分お互いも遠慮していたでしょうし、チームにも遠慮している感じがあって、「自分らしくやっていないな」という感覚がありましたが、そういうこともたまに話しながら、「もっと自分らしくやって良いと思うよ」とか、「遠慮してはダメだよ」とか、助言することもありました。ここ最近、ホリ(堀越)は怪我で試合に出ていないですが、直人もチームに対してとても厳しいことを言えるようになって遠慮もなくなってきているので、「とても良いリーダーシップになってきているな」という感覚があります。

これでホリが復帰してきて、2人でどんどん引っ張って行って欲しいなと思います。やはり序盤はチームに対して厳しいことをなかなか言えていませんでした。僕もチームに対して我慢できないことがあったりすると言ってしまうこともありましたが、今はほとんど言うこともなくなってきているので、とても成長しているなと思います。

――それはアドバイスしたことによって彼らが気づいたり、経験することによって、言えるようになってきたということですか?

そうですね。たぶんリーダーというのはいちばんミーティングも多いし、スケジュールも大変でプレッシャーもかかり、ストレスも多いと思います。そういう経験をしながら、いろいろな苦しいことも乗り越えながら、少しずつ成長した結果、良くなってきたと思います。"リーダーは苦しむもの"で、"苦しまないと成長出来ない"ので、苦しむことは別に悪いことではないと僕は思っています。彼らがどう乗り越えるかというのは楽しみですし、必要があれば手助けしたいと常に思っています。

――若いスクラムハーフのキャプテンということで、流選手と齋藤選手に共通点を感じますが

僕は2年目にキャプテンになって、それまで試合にもほとんど出ていない状態だったので少し立場違いますが、若くてという部分では一緒ですかね。

――そういう選手はライバルでありがらやはり可愛いですか?

かわいいですよ、直人なんか、顔を見て「悩んでいるな」というのが目に見えてわかるので、可愛いですよ。

――そういう場合は手を差し伸べてあげるんですか?

放って置くときもあります。いじりながら「大丈夫か」と声をかけたりもします。今朝も、前の試合後2日間休んだのでとても明るくてテンションが高かったので、「良いリフレッシュ出来たんだな」と思いました。

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◆貪欲さ、ハングリー精神で勝ってきたチーム

――今シーズンも半分が過ぎましたが、今後の目標をお願いします。

"プレーオフに行く"というのが大前提で、そこに行かないと優勝の道が消えてしまうので、少しでも勝ち点を積み重ねることが大事です。今のリーグワンで先を見過ぎてしまうと足元をすくわれる可能性があるので、毎週変わる相手に対して、"毎日毎日しっかり良い準備をする"ということを心掛けています。目標というとあまり適切ではないかもしれないですが、"毎日成長する、良い準備をする"それに尽きると思います。毎日全力でやるということです。

――流選手が思う「良い準備」というのは、どういうことがポイントですか。

チームの中で温度差が大きくなれば大きくなるほど、やはりチーム状況は上手く行かないので、"どれだけチーム全員がその試合に対してコミット出来ているか"というところが、チームの準備として大事になってきます。シーズン中盤である今は結構ノンメンバーの圧力が強いので、ノンメンバーからパッとメンバーに入って試合に出た時に能力を発揮する選手が今とても多いです。チームの中で温度差がなく、その1つの試合に対してコミット出来るかどうかというところが、良い準備に繋がると思っています。

――温度差なくやるためには、一選手としても相当役割があるということですか?

僕はリザーブですが、今シーズン全試合に出場させてもらっています。ノンメンバーの練習とかノンメンバーと過ごす時間は少ないのですが、直接僕がノンメンバーに何かを言うというよりは、ノンメンバー同士で言い合って、ノンメンバーの中でリーダーシップを取れるメンバーが引っ張って行くという方が説得力があると思います。僕はそこにはあまり関与せずに、自分のことに集中しています。たまにノンメンバーの中でリーダーシップを取っている選手に、どんな感じか聞いてみたりしながら少しコミュニケーションを取っていますが、あまり入り過ぎないようにしています。

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――今シーズンは比較的メンバーが定着していますね

その中でも入れ替わりはあります。やはり今はタフなリーグなので、その時のベストな選手が出ないと勝てない試合が多いです。練習でもいつもベストなパフォーマンスを出すために、みんな頑張っています。たぶんキヨさんも経歴とか年齢とかではなく、「良い選手を出す」ということがセレクションポリシーだと思うので、それに勝った選手がいま出ているということです。

――今までのサンゴリアス人生の中で、今のチームの状態はどうですか?

ハングリーさは絶対に上回っていますし、それぞれが競争しようという気持ちが目に見えて分かるので、良い積み重ねが出来ていると思います。だから勝てるかと言われたら、そうではありません。もっともっと強くならなくてはいけないし、もっとハングリーにならなくてはいけないし、もっとチームのコンペシションを強くしていかなくてはいけません。満足したら終わりだと思いますし、「もっともっと」という気持ちを持って、常にチャレンジしないと勝てないチームだと思います。

タレントがいたり、良い外国出身選手がいますし、日本代表もたくさんいるチームですが、それで勝てるチームではなくて、貪欲さ、ハングリー精神、そういうもので勝ってきたチームだと思います。チームが根本的に大事にしていることをこれからも大事にして、そこを僕自身も引っ張って行きたいです。チームのベテラン勢が練習からどんどんエナジーを出して、チームを引き上げたいなと思っています。

――そうしたら埼玉パナソニックワイルドナイツに勝てますか?

勝てますよ。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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