2023年1月20日
#832 中村 駿太 『自分の強みをまだ発揮しきれていない』
今シーズン見るからに好調の中村駿太選手。自分自身ではどんな手応えを感じているのでしょうか? (取材日:20232年1月中旬)
◆充実
――第4戦を見てとくに調子が良さそうですがいかがですか?
本当に調子が良いですね、はい。
――良く体が動いていますね
そうですね、去年のシーズンから体重も4kg増えましたが、SC(ストレングス&コンディショニング担当)と共にコンディショニングをちゃんとやって体重が増えた中で、あれだけ動けているので、とても順調にきていると思います。
――心技体、それぞれどのような感じでしょうか?
いちばん大きいのは体の部分です。やはりプレシーズンでしっかり準備をしてきた分、それがシーズンでしっかり出せていると思います。
――体重が増えて体が大きくなると普通は「パワーはつくけれど動きが遅くなる」と言いますが、動けている理由はなんですか?
SCとプログラミングされたメニューをしっかりこなしてきたというのが全てだと思います。
――体重が増えても動きが良くなるということは、今後も体重を増やしていくということですか?
ベストは98kgとかだと思うので、上げてもあと1.2〜1.5kgくらいかなと思います。今年4kgくらい増えているので、来年再来年と益々増やしていきたいです。
――技術の面ではどうですか?
肩を怪我していたので、その影響でちょっと去年の終盤でスローイングが乱れたところはあります。その後のプレシーズン中にはチームの理解もあって、肩のリハビリに専念出来たので、その結果とても良い感触です。一昨年くらいの調子に戻り、スローイングも安定してきていると思います。
――怪我している時にスローイングが安定しないのは、投げた時にかなり痛かったということですか?
去年のシーズン終盤では本当に痛かったので、それをかばいながら投げていました。どんどんバランスが悪くなっていって、本来自分がこう投げたいというスローイングが出来なかったです。
――それほどの痛さがなくなったら、今は気持ちが良いんじゃないですか?
本当に感覚が良いです。
――心の面はどうですか?
3年連続でチャンピオンを逃して、悔しかったです。去年は決勝も準決勝も出られなかったですし、ジャパン(日本代表)のキャップも取れなかったので、今年に懸ける気持ちが強かったです。本当に充実している気がします。
◆体が反応
――ルーズボールへいち速く飛び込んで行ってますね
たまたまじゃないですかね。ルーズボールをマイボールにするか、敵のボールになってしまうかというところは大事な場面だと思うので、そのボールが自分の近くにあったら飛び込むというのは、意識しているというよりは体が反応します。
――体が反応するということはまず意識をして、無意識でも反応出来るように練習を繰り返したということでしょうか?
ジョージ・スミス(元オーストラリア代表・元サンゴリアス選手)がとても上手かったです。そういうプレーを見ていたので、自ずと出来るようになったのかなと思います。
――すごいですね、あれはすごい武器だと思って見ていました。前に出るという意味ではトライもありますね?
スクラムトライですね。5mのチャンスがあれば、そこはフロントローのフッカー責任として押し切りたいなと思いますし、モールのトライもボールを最後コントロールするのが僕の役目なので、仕事をこなしているというだけです。
――コントロールだけでなく押していますよね?
押しています。1人肩を浮かして押していなかったら、その分ウエイトが軽くなってしまうので、しっかりお尻に肩をつけて押す、というのは意識しています。
――相当体力がありますね
元々そういうキャラではなかったですが、3年ほど前から体を絞りました。そこから良いふうにモデルチェンジが出来ているなと思います。
◆体を絞るにつれて結果が出てきた
――モデルチェンジが上手くいかない選手もいるし、モデルチェンジ自体が上手くいかないこともあるかと思いますが、何を信じてチェンジしていったんですか?
信じてやりきれたのは、体を絞るにつれて結果が出てきたからです。それが自信になったので、その方向性で間違っていないんだなと思えました。また、失敗しても体重を増やすのは苦ではないなと、その当初は思っていました。苦じゃないなと思ったので、1回落としてみてそれが合わなかったらもう1度体重を戻せばいいや、と。
簡単に増やせるだろうと思っていましたが、いざやってみると、体重と体脂肪を絞るにつれてパフォーマンスが良くなりました。逆に去年のシーズンの最後に肩を怪我してウエイトが出来なかったりしたので、想定以上に筋力が落ちてしまいました。だから今年は増やさなきゃいけないという作業をしましたが、そうしたら意外に体重を増やすのも大変でした。
――体重落とす方が楽だったと?
楽でしたね。今年半年をかけて4kgアップして感じたのは、落とす方が楽だなと。
――体重を増やすためには当然食事も意識しましたか?
食事もありますし、ウエイトも週8回やりました。プレシーズンは月火木金が練習だから1日2回、練習がない日、どっかのオフでもう1回やります。2回やる時は、メインのセッション1時間、2回目のセッションは30分程です。
――その2回目がより効果的なのではないでしょうか?
そうですね、見山さん(S&Cコーチ)と話して、計画的にメニューを組んでもらっています。
――プロテインも摂取するんですか?
プロテインよりもタンパク質の肉とか豆腐など食べ物からきちんと摂取しようと思っていて、最初の2週間くらいはそれでやっていましたが、それでは体重があまり増えませんでした。それで見山さんと話して、ちゃんとプロテインとった方が良いということになり、そこからプロテインを摂取するようになりました。そうしたら着々と体重が増えていきました。あと、クレアチンとアミノ酸系のサプリメントも摂るようになりました。
◆まだまだ
――怪我をしない方だと思いますが、右肩の怪我は選手人生いちばんの怪我でしたか?
そうですね、痛くて投げれなかったので。毎回「痛い」と思いながら投げていました。ずっとストレスを感じていました。
――そうすると怪我を乗り越えた今は絶好調ですね
まだまだ絶好調ではないと思います。カッキー(垣永選手)とも神戸戦後のロッカーで話をしましたが、「まだまだだな」みたいなことを言われました。やはり自分がもともと得意なランプレーとか、スキルを使ってボールを動かすとか、今年はまだ出ていません。どちらかと言うと、淡々と仕事をこなしているという感じです。求められていることはそこでもあるので、それはそれで良いのですが、今はそういうところがメインに出ていて、自分の強みをまだ発揮しきれていないなという感覚が自分でもあります。そこが課題ですね。
――それはどのようにしたら出てきますか?
うーん、どうですかね。やはり試合を重ねていって、コンビネーションの部分というのがあると思うので、試合を重ねること、試合に出続けることが大事だなと思います。
――そこの辺の強みが出て逆に今の良いところが出なくなってしまうのは勿体無いですよね?
それは大丈夫です。
――そこが上手くいくと、どんなプレーが多くなってきますか?
ラインブレイクが増えたり、僕のパスによってボールをもらった選手が前に出たり、そういうプレーが多くなると思います。
◆モールは武器
――昨シーズン持てなかったという"飛び抜けた強み"は見えてきましたか?
今はワードで言ったらモールのところですね。本当に今年の強みです。どこのチームよりもいま押せていますし、そこはチームとして武器になりました。
――相当練習したんですか?
練習ももちろん結構しましたし、あとはやはりもともと能力が高い選手が多いので、マインドのところですね。「絶対に武器にする」という強い気持ち、いちばんはそこです。「ここは絶対フォワードの強みにするんだ」ということを、キックオフのミーティングでもスタッフが明確に話をしていましたので、そこだと思います。
――試合ではフォワードの体重比較が出ますが、たいていサントリーの方が軽いですよね
軽いですよね。
――それでも勝つのはなぜですか?
結構、練習にモールを組み込みました。だからみんながモールに慣れているし、理解度が上がっているというのがあるんじゃないですか。
――今までサンゴリアスでやってきた中でいちばんモールを練習してきた感じですか?
そうだと思います、今年は。
――そうすると、ある程度強みというのは出来て、もう少しつくりたい感じですか?
それは多くの強みをつくることに越したことはないですけれど。
――チームの戦いぶりを見て、チームとして徐々に良くなっているように見えますが?
徐々に良くなってきていると思います。言い訳する訳ではないですが、開幕のクボタスピアーズ船橋とは相手もそうだと思いますが、日本代表の選手は一緒に練習を4、5回ほどしかしていない状況で試合をしましたし、その中で新しいスタイルにチャレンジしてきたので、なかなか難しいところはありました。けれど、やはり練習を重ねるにつれてみんなの理解度も上がってきましたし、「これだったら上手くいくんだ」というところがわかってきたので、チームが良くなってきました。
――第3戦の横浜キヤノンイーグルス戦で14人で戦ったということも大きいですか?
大きいですね。あれを勝ち切るのは、本当に素晴らしいことだと思います。強いチームを相手に60分間を14人で戦い切って、勝ち切ったことは自信になりました。
◆自分の強みを出していきたい
――怪我が治り、調子が良くて、チームもどんどん上向きになって、楽しくて仕方がないのでは?
楽しいですよ。楽しいです。
――楽しい時は「次の試合、早く来て欲しい」って思いますか?
早く来て欲しいですね。それと同時に疲れもあるので、「あぁ、今週ロングウィーク、ラッキーだな」みたいなこともあります。
――この前の試合はきつかったですか?
本当にきつかった。横浜キヤノン戦の疲れは、木曜日くらいまで疲れていました。また、良い試合した後の次の試合ってとても大事で、それでコベルコ神戸スティーラーズ戦に勝ちきれたということは、チームとしてまたレベルアップできたなと思います。
――次の試合は向けては?
自分の強みを出していきたいです。あまり欲は出さずに、自分のなすべきことを出すことに専念したいなと思います。
――いよいよ今年はワールドカップイヤーですが、日本代表へ向けてはどうですか?
もちろんワールドカップに出たいです。去年は悔しい思いをしているので、チャンスをもらえれば今年こそ絶対にアピールしたいなと思います。
――怪我という苦難を乗り越えた今の目標は何ですか?
チームとして決勝戦に進んで、そこでスターティングメンバーとして出る、そして優勝する、それが明確な目標です。
――そのために、ファンにここを注目して欲しいというところはありますか?
ワークレートのところと、ボールスキルの部分、それからルーズボールの獲得を、しっかり注目して見て欲しいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]