2023年1月13日
#831 箸本 龍雅 『夢中でスローボールをつくり出す』
ディフェンスの楽しさをこれだけ語ってくれた選手は、スピリッツ史上初めて。期待のフォワード箸本選手が、われわれのディフェンスを見る目を変えてくれるかもしれません。(取材日:2023年1月上旬)
◆ブレイクダウンでスローボールつくろう
――第3戦は競った試合に勝ちましたが、チームの出来、自分の出来はどうでしたか?
前半でレッドカードが出てしまいましたが、試合の週のスタートから自分たちでやることにフォーカスして練習に取り組み、やることが明確だったので、1人減ったという状況になっても、みんな焦ることなくプレー出来ていました。あれがギアチェンジになって、みんな良いマインドで試合を戦えていました。
1戦目、2戦目とも自分たちがやりたいラグビーをチャレンジしながらやっていて、去年とは違ったラグビースタイルになっているので、これがダメ、あれがダメ、これは良いとか、やりながら通用する部分と通用しない部分を、チームとして判断しながらチャレンジしているという感じがします。自分たちがやりたいラグビーが、だんだんと形になって明確になってきていると、3戦目を終えて感じています。
――そのギアチェンジというのは、どういうチェンジでしたか?
フォワードとしてはやっぱりバックスが1人足りないので、フィジカルの部分とディフェンスの部分で、相手のテンポでボールを出させないというところです。僕は山本と話して、フランカーだからなるべくブレイクダウンしてスローボールをつくってプレッシャーをかけようというところと、相手のテンポで出させちゃいけないというところです。
特にホッキングスも相手のブレイクダウンにプレッシャーをかけていたし、そういうこともチーム全体に影響して、一人ひとりが良いマインドをもって出来ていたなと思いました。1人やっていたらみんなやろうとなるし、ホッキングスのプレッシャーのかけ方は大事なプレーだなと思います。
――自分たちのやりたいラグビーに、どのように近づいてきたのでしょうか?
まさにやりながらで、やってみないとわからないというところはありました。走り勝つというところで、相手よりタフな選択をするという、サンゴリアスの文化みたいなものがあります。アグレッシブ・アタッキング・ラグビー"は、それが出来るラグビーかなと思っています。
◆「危ない」と思ったところにボールを持っていないタイミングで動く
――それをやり切るには試合でもハードワークだと思いますが、練習から相当ハードなんですね?
そうですね、練習の強度も高いですし、今年は特に、メンバー全員バチバチで、勝手に強度が上がっていくみたいな練習です。一人ひとりがしっかりと競争している環境で練習が出来ていますし、試合と同じくらいの強度で練習をしているので、3戦目みたいな厳しい状況に置かれた時に、そういう練習の成果が発揮できているのかなと思います。チームとして良い練習が出来ているから、3戦目もあのようなシチュエーションで、みんなしっかりと出来たんだと感じます。
――田中監督の練習は大学の時もかなりハードでしたか?
そうですね、田中監督とは丸被りというか、4年間全部被っていて、大学の時も結構ハードワークだったと思います。
――そうすると監督がやりたいことを選手として良くわかるんじゃないですか?
そうですね、コミュニケーションをいろんな選手と取ってくれる監督なので、一人ひとりが求められているものも、より分かりやすくなったし、やりやすいなという感じがあります。
――監督がやってほしいと求めているものは何ですか?
自分の強みである"ボールを持って前に行く"というところと、"ボールを持っていない時の危機察知能力"です。「危ない」と思ったところにボールを持っていないタイミングで動くプレーなどが、自分は求められています。あとはブレイクダウンのスローボールのところ、"相手の球出しを遅らせる"というところが、ニュージーランドへ行って自分の強みになって持って帰ってきたところです。ですので監督からは、「そこを求めている」と言われました。
◆タックルした選手がブレイクダウンを越えていく
――"危機"というのは、スペースが空いてるという危機ですか?
ディフェンスの時に、ディフェンスの枚数が足りていない方向に素早く移動するとか、危なそうなスペースを埋めるとか、相手のバックスがボールを蹴った時にいち早く下がるとかです。結果的にそこへ来なかったら無駄な走りにはなりますが、万が一の最悪なシチュエーションを想定して、自分が先に動き出すというところが自分の強みです。
――いち早く動き出せるコツは何ですか?何を見ているんですか?
うーん、勝手に動いています。大学生の時からずっと意識しているので、習慣づいているとは思うんです。
――平面的な動きだけでなく、奥が見えるみたいなことですか?
俯瞰して見ているとかではないです。予測ですかね。その時のシチュエーションを目で見て、「これやってくるかも」と先に考えて、相手より先に危なそうな場所に動きます。
――それまでの相手の試合をビデオでよく見るとか、世界のラグビーのいろいろなケースを見るとか、その成果ですか?
相手の映像はそれほど詳しくは見ていないです。どちらかと言うと自分たちがやりたいことがまず先にあります。個人的には6番、7番、8番の選手なので、1週間を通してその週のサインプレーや、ラインアウトでどこに入っても良いように、全部完璧に覚えます。
危機察知能力はどうやっているのかということでは、「相手が何をやってくるから動ける」ということではありません。常に練習で動き出しの部分の癖をつけているので、試合では相手が何をしてきても、こちらは勝手に動けます。
――なるほど、ふだんの練習相手がまさにアグレッシブ・アタッキング・ラグビーですものね(笑)。ニュージーランドで得たものというのはどんなことですか?
オークランドのクラブチームと州代表のチームに行きました。日本人だとブレイクダウンでジャッカルを狙いますが、ニュージーランドのチームではジャッカルをしているイメージはあまりなく、タックルしたらタックルした選手がそのまますぐに起きて、ブレイクダウンを越えていくというプレーです。自分は元々ジャッカルが得意ではないので、タックルと相手のブレイクダウンにプレッシャーをかけることをセットに考えて、練習をずっとやっていました。そういうところが自分のディフェンス面での強みになったと思います。アタックには元々自分の強みを持っているので、ディフェンス面でも自分の強みを出せるようになって帰ってきたと思います。
――そこは相当自信になったところですね?
はい、自信になりました。それまでディフェンスの時は倒して終わりで、倒すことが目的でしたが、ニュージーランドへ行ったら倒した後のゴールはボールを取り返すことなので、それからはボールを取り返すために倒してプレッシャーをかけるということが、ひとつのディフェンスの基準になりました。
◆ディフェンスは本能
――前に言っていたタックルは良くなっていますか?
タックルは苦手ではありますが、ディフェンス・シチュエーションは自分の好きなポイントです。
――苦手だけど好きというのは面白いですね
そうですね、苦手だけどやっている時に楽しくなれるのはディフェンスです。
――タックルが楽しいというのはどういう心境ですか?
個人的にはアタックは結構考えて動くものだと思いますが、ディフェンスは考えていたらやられてしまうので、本能です。逆に、考えて動いている時は上手くいかないです。夢中になります。夢中にならないと上手くいかない感じです。だから楽しいです。
――夢中になるようにしているんですか?
夢中になるようにはしています。自分がやらなくてはいけないことをまず明確にして、あとはそれをやるだけです。やらなくちゃいけないこととは、タックルそしてブレイクダウンでのプレッシャーをかけるということです。ボールを持った相手がそこにいれば、絶対にそれが出来ます。アタックだとボールが逆側に行ってしまったら、出来る事が限られます。ディフェンスはどのシチュエーションでも自分がやらなければいけないことがあるので、集中しやすいです。やっている最中はそれだけ考えています。
――攻撃の時は考えることがたくさんあるということですね?
そうですね、形があリますし、自分たちのラグビーのルールもあり、一人ひとりの役割もあるので、考えることが多いのですが、ディフェンスは夢中になれます。夢中でスローボールをつくり出す感じです。
――スローボールにする秘訣は何ですか?
良いディフェンスが出来ないと、ブレイクダウンで良いプレッシャーがかけられないので、まず自分の強い姿勢で相手を倒します。そしてシチュエーションにもよりますが、自分が2人目にタックルに入ったら、自分の持って行きやすい位置に相手を持っていきます。相手にもサポートする人がいるので、ディフェンスのタックルの局面で勝たないと、相手がサポートしやすい状況になってしまうので、まずはタックルで相手を前に出させないというところを意識しています。
前に出られなかったら、ブレイクダウンのサポートって難しいんです。前に出させないことが出来ることによって、相手のブレイクダウンでのプレッシャーやブレイクダウンのサポートを難しくさせます。なおかつ自分も良い姿勢なので、そこから立ち上がって相手側に越えていく。相手の弱い状況を作り出して、自分の強い姿勢で弱っている人にパンチするみたいな感じです。
――最初の「相手を前に出させない」というところがポイントですか?
そうですね、それがないと出来ないですね。
――相手を前に出させないようにするには、自分たちの態勢をちゃんとするということですか?
前に出せないようにするには、ディフェンスが揃っていないと出来ません。それがいちばん大事です。ディフェンスの時もサンゴリアスの選手たちは先にセットして、なるべく寝ている時間を短くしています。そうやって良いディフェンスのセットが出来ていたら、前に出させないということが出来るという感じです。
――1人だけの力ではできないということですね?
はい、ディフェンスは確実にチームで、横とのつながりでディフェンスします。それがいちばん大事です。
◆プレーの幅が広がっている
――3戦を通じて今シーズンの自分自身の出来はどうですか?
裏方の泥臭いプレーは出来ているかなと思います。チームから自分に求められていることは、今のところ出来ていると思います。それに加えてもう少しやりたいと思うのは、自分の強みであるのはボールキャリーなので、アタックの局面でのプレーでもっと自分の持ち味を発揮出来たら良いなと感じています。
――去年と比べて今年は手応えがありますか?
ニュージーランドから帰ってきて、去年は7番でシーズン終盤に出させてもらいましたし、ポジション的にはずっと7番だけをやってきました。今年は、6、7、8番を全部やることも出来ていますし、そういった面で自分のプレーの幅が広がっていると思います。
――そうすると今はディフェンスだけでなくて楽しいと感じているんじゃないですか?
そうですね、3戦目は楽しくてしかたなかったです。
――1人少なくて辛かったはずなのに?
3戦目はみんな楽しんでいた気がしました。
――それはなぜでしょう?みんなが「やってやろう」という気持ちがあったからでしょうか?
そうだと思います。サンゴリアスはずっと強い位置にいると言われていて、「自分たちがやってやるぞ」というマインドをいつも作っていると思います。3戦目の1人足りないという状況で、さらに一人ひとりのハングリー精神が作り出されたのかなと思います。
――これを続けていくことがポイントになりますね?
昨日の試合で自分たちがやらないといけないことが改めてはっきりして、昨日みたいなハードワークを一人ひとりすれば厳しい状況でも勝ち切れるということが自信になったと思うので、そこは続けてやっていきたいと思います。
――いま「ラグビーってここが楽しい」と思うところはどこですか?
ディフェンスでプレッシャーをかけて、相手がやりたいアタックをさせないディフェンスのブレイクダウンです。そこに一番やりがいがあります。上手く出来ているか出来ていないかが、自分でやりながらわかります。アタックでボールを持って攻撃している時だと、映像を見返して「ここが出来ていなかったな」って分かったりしますが、ディフェンスだとやっている最中に「いまダメだったな」「いま出来たな」っていうことが感覚で分かるので、やりながら分かるということも、また良いところかなと思います。
――今シーズンの課題と目標は?
課題はボールキャリーで、1歩でも2歩でももっと前に出る回数を増やしていくというところです。そしてチームを前に出させるようなプレーをもっともっとやりたいということが、もっと伸ばしたいところです。よく耕太郎さん(田原コーチングコーディネーター)が言っていますが、「フォワードのアタックはボクシングのジャブみたいなものだから、どんどん当てて、相手のディフェンスに亀裂を作って、それの積み重ねが大きな穴になっていく」という感じです。目立つラインブレイクとかは少ないのですが、1歩でも2歩でも前に出ることは、自分が意識しないといけないところだと思います。
そして今シーズン、試合に出続けることが、まずは自分の目標です。そうして試合を重ねることによって自分のパフォーマンスを上げていける自信もあります。「試合に出る」ということが去年できなかったところでもあり、今年の目標です。試合に出たら自分の強みであるハードワークを全面的に出して、チームの勝利に貢献できるような選手になりたいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]