2023年1月 6日
#830 石原 慎太郎 『我慢して成長し続ける』
一度質問すると答えが止まらない石原選手。キャリアを積み重ねて成長し続けるラガーマンならではの思いが、溢れ出る言葉の中に詰まっています。(取材日:2022年12月下旬)
◆素でどう思ったか
――新シーズン、初戦に負け2戦目に勝ちましたが、この2つの試合について聞かせてください
正直、初戦に負けたのはとても残念でした。プレシーズンにハードワークしてきたことをみんなが理解し、勝つ準備をしてきました。そして、クボタという相手を意識して準備してきたことも間違いないです。その中であのような負け方をして、点差以上にやれなかったな、準備してきたことが出せなかったな、というのが正直な感想です。その後1週間という短い期間でしたけれど、もう1回ラグビーを見つめ直して、プレシーズンで何をしてきたかということをもう1回思い出すようにしました。
とくに代表メンバーが帰ってきて、また新しいフレッシュな状態で臨んだ開幕戦で、まだ代表のメンバーと一緒に試合もしていなかった状況で、上手くマッチしないところもあるだろうなと予想はしていましたが、プレシーズンでやってきたことを共有すれば、代表メンバーならやってくれるだろうなとも思っていました。ですがそこは上手くいかなくて、それはなぜかと言うと今年違うラグビーをしていて、間違いなくこの3、4年間とも違うラグビーしているし、今まで通りの、この数年間通りのラグビーをしていたらまずできないようなラグビーです。ですのでまだ同じ絵は見ることが出来ていない部分があって、そこを負けてからの1週間、シンプルなテーマでこうやってやろうということを決めて、ずっとやってきました。
試合中も本当に上手くいかないこともありましたけど、上手くいかないことを想定して、上手くいかなくてもやり続けるよっていうことを、その1週間ずっと言ってきました。そして試合中、上手くいかなかった時に、この状況、このシチュエーションは想定通りだよね、でもここでもう一踏ん張りやり続けようと言ってやり続けた結果、2戦目は勝てました。もしかしたらもっと簡単に勝てた試合かもしれないですけれど、僕がイメージする中では、やろうとしていることをやって勝てました、これだけの結果が出ました、という結果になりました。最後の最後で点差が離れたところありますし、シーソーゲームだったということもありますけれど、やってきたことを出して結果が出たというのは、今後の長いシーズンに向けて、とても良い2試合目だったなと思います。
2試合目にこの結果が出て、結果的に1試合目は負けて良かったなと思います。あの負けがなかったら逆に代表がチームに帰ってきてやってみて、やっぱりマッチして良かった、勝って良かった、良かった良かったで終わっていたと思います。けれど1回やっぱりこれではダメなんだっていうことをクボタとの試合で学べて、代表メンバーも今年のラグビーに関するマインドが変わって、今まで通りじゃないっていうことがわかって、その共通認識を持てたことがいちばん大きいと思います。
その1週間はとても大きかったです。負けから学ぶことはもちろん多いですけど、このタイミングで負けて本当に良かったと思います。これが例えば、シーズン中盤で負けて学ぶのとは全く違います。開幕戦で自信を持った状態で負けましたということで、1回ゼロから考え直す時間があり、選手同士で話し合う時間がたくさんありました。キヨさん(田中監督)、耕太郎さん(田原コーチングコーディネーター)、ジェイソン(オハロハン アシスタントコーチ)、ヤコ(ピナール アシスタントコーチ)、アオさん(青木アシスタントコーチ)たちがシステムをクリアにしてくれて、選手に何もストレスもなくやらせてくれたので、自分たちでちゃんと話し合うことが出来ました。
その話し合い方も「良いな」と思ったのが、ちょっと話し合おうよって言って話し合うのではなくて、誰か1人が試合の映像を見ていると、そこに1人増えて、さらにもう1人増えてとなって、結果全員で映像を見始めるみたいな形でした。そして、ここはこうだったよねという話をしていて、「これ最高だな」って思いながら僕は見ていました。要するに、与えられた環境だけでやるには限界があリます。素でどう思ったかどうか、この時に何を考えてたかなっていうことを共有することが必要です。プラスアルファーのラグビーというのは、その素の部分だと思います。あのきつい状態でね、息が上がって、相手からのプレッシャーもある、その状態で出てくるものが素の部分だと思うので、その状態でのコミュニケーションが出来るということは、とても大事だと思います。
こういう環境は、ここからも続けないといけないと思います。これが難しいのは、負けというきっかけがあったからこういう出来事がありましたけれど、負けから学ぶってことを継続したくはないですよね。成長はできるかもしれないけれど、結果チームとして目標とする部分はそれではいけないと思います。だからここからが勝負です。負けた後の1週間、とても良い1週間を過ごせたということに、もちろんほっとしているし充実感もありますが、すべてはここからだなと思います。これをファイナルまで保てるかどうか、ということが大きなテーマです。
◆我慢比べ
――目指す泥臭いラグビーになってきていますか?
綺麗じゃなくて良い。例えば、2戦目のラグビー、誰かがパッと抜けました、そして華麗にステップを切ってパスしてトライ取りました、というのはあまりないと思います。
――2戦目は7人で8トライでした
8トライを7人でって、素晴らしいですよね。大体ウイングとかフルバックとかがトライを取りがちですけれど、そういうわけじゃなくて、本当に誰がトライを取るかがわからないラグビー。誰かが5cm、10cm、1mを前に出ながら、最後に誰かがトライを取る、というラグビーをしています。
ですので目指す状況になってきています。初戦のあの雰囲気、上手く行かなかったという感覚の中で、その後のミーティングでもみんながお葬式のような状況だったので、それを初戦で経験できて良かったなって思うしかないです。
――新年初戦のキヤノン戦に向けての楽しみは?
キヤノンは今シーズンとても良い試合をしています。2試合目もクボタと同点で、とても強いと思います。多分、試合終了ギリギリまでわからないような試合になると思います。だから2戦目で感じたような、我慢比べの延長線をやる感じです。もっと強いプレッシャーの延長線を、やり続けるという状態だと思います。要するに今年のラグビーは我慢なので、我慢した上で向こうが折れるのを待つ、そういうラグビーです。
だからこそ、パックメンタリティーという、みんなでやる、1人でやっているわけじゃない、というところが大事で、スクラムを組む前に声を掛けて、そしてバックスがミスした時も「大丈夫だよ、俺が取り返すから」って声掛けて、やっぱりそういうことの繰り返しです。本当にきついので、1人じゃ絶対無理です。でも声を掛けることによって、80分間やり切れます。もう本当に我慢比べです。
◆自信と武器
――その我慢比べですが2戦目でフォワードが押していた時の手応えはどうでしたか?
今年のフォワードに関しては、アオさんがベースの部分をずっとやってくれて、今はダンという外国人コーチが来てくれて、たくさん練習をやっています。これには自負があります。練習時間も、内容、ミーティングも含めて、どのチームよりもやっている自信があります。2戦目に関してはモールをあれだけ押して、その自信を武器に変えることが本当に大事です。自信と武器って別のものだと思いますが、こうやって勝つんだというスタイルにしなきゃいけない。まだ2戦目で、1戦目は1回しかモールを組んでいません。2戦目にはあれだけモールを組んで、やっぱり波があったらいけないことだし、本当の武器にするためには、このマインドをいかに継続させるかということが大事です。
わかったことは、試合には練習でやっていることしか出ないんです。間違いなく、マジックは起きないです。練習でミスが起きていたら、試合でも同じミスが起きている。もちろん練習は失敗からもう1回成長するために、失敗を経験して試合で成功するためにあると思います。練習で100%出来ていないことは、試合でも100%出来ない。それをプレシーズンでつくづく感じたので、やっぱり練習って命です。
――練習で出来ることを増やしていって、武器になるのはいつですか?
極論ですが、シーズン終わった後になって、「武器になったね」というくらいでも良いと思います。その危機感というのが大事だと思っています。武器ってもちろん通用するようになったら良いけれど、一歩間違えると慢心になってしまう可能性もあります。だから、毎回「絶対に武器にするよ」と言い続けて、毎試合繋げていって、シーズンが終わって最後にレビューした時に、「これは武器だね」となるくらいで良いのかなと思います。
◆このラグビーが好き
――個人的に調子は良いですか?
ぼちぼち良いですね。
――ぼちぼちですか?
でも、楽しいです。このラグビーが好きです、僕は。試合中、とてもきつい顔して走ったり歩いたりしていますけれど、とても楽しいです。スマートに勝とうとか、綺麗に勝とうというのは僕のスタイルにも合っていないし、みんなできついけれど走って、最後に相手に勝つということが、本当に気持ちが良いです。
――そんな中で今後の課題は?
やっぱり全てにおいて、もっと精度を上げないといけない。まずフロントローとしてセットプレーをノミネートすることに対して、プロップである以上、絶対に目を瞑ってはいけない部分だと思います。いくら僕はボールを持って走るキャラだと言っても、そこは絶対に譲ったらいけない部分です。そこだけは譲らないです。
2戦目にデビューしてファーストキャップを取ったケンタ(小林賢太)に、試合前のファーストジャージのプレゼンターをしました。その時、僕は「ケンタは、この先長い間サンゴリアスを引っ張っていく選手になると思うし、ならなければいけない選手だと思う」ということを伝えました。本当に期待をしているし、本当にそういう存在になって欲しいと思っています。ケンタはボール持っての素晴らしいワークレートがあるし、手先も器用です。ですがプロップとしての意地の部分は絶対に忘れないで欲しいし、そういうことを体現した上で、プラスアルファでボールを持ってプロップがしないような動きを見せられるプロップになって欲しいなと思っています。僕もそう言った以上、目を背けないし、やり続けようと思っています。
少し話が脱線しましたけれど、今年これだけきついラグビーをやっていて、0分から80分までワーワー叫んでるプロップが相手にいたら、とても気持ち悪いですよね。こんなにこっちは走らされているのに、なんで叫んでるんだよって。けれどもそういう選手になりたいです。こっちは膝に手をついているのに、こいつ何で叫んでるんだよ、っていうような選手になりたいです。そのためにもっとハードトレーニングしなきゃいけないし、成長すべきところはたくさんあります。そう言いながらシーズン終えられて、結果を出すことが出来れば良いなと思います。
やっぱり危機感を持ちながら一生懸命に練習して、それを自信に変えて、そういう繰り返しだと思います。たまに失敗もするし、いつも失敗じゃよくないけれど、たまに失敗して、そこでたくさん学んで、決勝が終わった後、「いいシーズンだったな」って思えるように、我慢して成長し続ける、そんな毎日を過ごしています。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]