2022年11月14日
#822 流 大 『ラグビーの魅力に改めて気づけたトライ』
流大選手がキャプテンになった時、レギュラーは約束されていませんでした。今シーズン後輩の齋藤直人選手がキャプテンになって、やはりレギュラーは約束されていません。流選手はいま何を考え、何を目指しているのでしょうか。(取材日:2022年11月上旬)
◆勝てると思って試合に臨んだ
――10月29日に行われたオールブラックス(ニュージーランド代表)戦では見事なトライをあげましたが、手応えはどうでしたか?
試合前から自信があって、勝てる自信がありましたし、4年前の2018年に対戦した頃とはマインドセットがぜんぜん違って、ほとんどのメンバーが勝てると思って試合に臨んだと思います。7点差で負けてしまい、正直、とても悔しいですね。
――オールブラックスにほとんどの選手が勝てると思っていたという、マインドセットが変わった要因は何でしょう?
やっぱり2019年のワールドカップを経験して、どんな相手にもしっかりとした準備とその遂行力があれば、勝てると実感したメンバーが多くいました。その後も、なかなかティア1には勝てませんでしたが、良い試合が出来たことは何度もあって、その度にしっかりとした準備が出来れば、ティア1にも戦っていけるという経験を積んできていたので、それが以前とは違う要因かなと思います。
――実際にやっている選手としては、どんどん力がついていくのは、面白いですよね
恐怖心も全くないですし、本当にワクワクした気持ちにしかなっていないですね。以前まではティア1と試合をする時には、委縮してしまったり、セーフティなプレーが増えてしまったりすることがありましたが、今の日本代表は本当にチャレンジングですし、何事も恐れずに向かって行くという気持ちが全員にあるので、今はどこと試合をしても自信を持って臨めると思っています。
――あと勝つためには何が必要だったと思いますか?
ラインアウトを起点にしたプレーから淡泊にトライを取られましたし、その辺は無くしていかないと勝っていけないです。そして後半の初めで僕たちがモーメンタムを取っていきたいところでトライを取られたり、時間帯の流れ、細かいミス、ペナルティも相手と比べると相当多いので、小さいことですけど、そういう細かいことが積み重なっているので、修正ポイントはたくさんあります。
――体力的な面で劣勢になることはありませんでしたか?
そこは全くないですね。フィットネスで負けていたとは思っていませんし、フィジカル的にも戦えていたと思うので、先ほど挙げた細かいところの差が、オールブラックスとの差だなと思いました。
◆どこまででも行けるという心
――ずっと成長を続けていると思いますが、自分自身の手応えとしては、まだいけるという感じですか?
まだまだ成長できると思いますし、個人的にもチームとしても、伸びしろはたくさんあると思っています。
――個人的にもまだ成長過程という感じでしょうか?
自分の心が成長を止めてしまったら、それで終わりだと思うので、どこまででも行けるという心があれば、成長は出来ると思っているので、まだまだ上手くなりたいですし、チームのためにもっと出来ると常に思っています。
――昨シーズンが終わってから病気にかかってしまいましたが、完全に復活しましたね
そうですね。もう完全に完治しました。9月の代表合宿までは、定期的に検査をしてもらっていましたが、その検査でずっと正常値だったので、完全に戻れるようになりました。今は体力的にもバッチリですし、自分のコンディションも100%に戻りました。
――疲れが原因だったんですか?
色々な原因が考えられるので一概には言えませんし、このひとつという原因は分かりませんが、疲れや脱水であったり、そういうことが重なったことだと思います。
――それを乗り越えて、新たな自信は生まれましたか?
いや、最初になった時は身体的にもしんどくて、少し不安にはなりましたが、ドクターをはじめ色々な人がサポートしてくれて、「必ず復帰できるし、元の状態に戻れる」と言ってもらっていたので、あまり焦らず、ゆっくり治していこうと思ってやっていました。ですので、乗り越えたという気持ちはありません。今は精神的なダメージもありませんし、体調もバッチリです。心配してくれた方々には申し訳なかったと思いますね。
◆トライを取れなかった
――昨シーズンの話をすると、残念ながらまた決勝で敗れました。何が足りなかったと思いますか?
もう全てですね。今のワイルドナイツとサンゴリアスを比べると、ワイルドナイツの方が一枚も二枚も上手だと思いましたし、あの試合でサンゴリアスとしてトライを取れなかったということが、試合を象徴していたと思います。
――自分たちの攻撃よりも相手の守りが強かったということですか?
やっぱり守りは堅いですね。彼らは自分たちのシステムを本当に信じていて、1人ずつそれぞれの役割を遂行できているチームなので、なかなか簡単には崩せません。もちろん崩しかけたシーンはありましたが、そこでトライを取り切れないというのは、まだまだ自分たちの未熟な部分だと思います。
――埼玉ワイルドナイツのように守りを強くすることよりも、その守りを崩せる攻撃を強くするということになりますか?
そうですね。あの試合ではどうしてもセーフティな判断をしてしまったという部分がチームにあって、ワイルドナイツに対してセーフティにゲームコントロールのところで上回ろうとするよりは、相手がサンゴリアスを脅威に思うのは、どこからでもアタックする、フィットネスに自信があってボールを継続して回せるというところだと思います。そこで相手に脅威を与えられなかったということが、いちばん悔いが残るポイントです。
ゲームプランなど、シーズンが進んでいく上で、もっとこういうラグビーがしたい、攻撃的に行きたいという気持ちはあったんですが、それを自分の中だけで消化してしまって、チームに対して反映できなかったということが、僕の中でも悔いが残っています。今は日本代表に参加していてサンゴリアスには合流できていませんが、次のシーズンでは、昔の自分に戻ってというか、誰に対しても臆せず、自分の思っていることは伝えて、悔いのないシーズンを送りたいと思っています。
――流選手の後にキャプテンになった中村亮土キャプテンを勝たせられなかったということついて、どういう気持ちがありますか?
亮土さんは周りを使いながらリーダーシップを取っていくスタイルを取っていて、周りの意見を優先することもありました。ただ、とても負けず嫌いな人で、責任感もあるので、2年連続準優勝、決勝まで行ったけれども勝てなかったというのは、亮土さんも相当悔しかったと思います。
僕も出来る最大限のサポートはしたいと思っていて、それ自体は出来たと思うので、それに結果が伴わなかったというだけだと思います。自分の行動には悔いはないです。
◆お互いの意見が違った時に遠慮しない
――次のシーズンのキャプテンは、若手の2人になります。流選手がキャプテンになった時と状況が似ているような気がしますが、どうでしょう?
僕がキャプテンの時より、直人(齋藤)は入ってきた時からいずれキャプテンになるだろうと誰しもが思うような存在でしたし、ホリ(堀越康介)も、絶対にいずれはリーダーになるべき存在として入ってきたので、当然と言えば当然の人選だと思います。なので、周りを気にせず思い切りやって欲しいですね。結構、気を遣うタイプの2人ではあるので、自分らしさというか、周りに流されずに自分たちが思うようなチーム作りを、どんどんしていって欲しいと思っています。
――キャプテンが複数いることは流選手も経験したと思いますが、気を付ける点は何ですか?
2人とも仲が良いと思うので、コミュニケーションは取れると思いますけど、その中でも絶対にぶつかることってあるんですよ。お互いの意見が違ったりした時に、そこで遠慮をしないことですね。お互いに、相手がそう思っているならそうしようとなるだけじゃなくて、意見をぶつけ合って出た答えがいちばん重いものですし、それがリーダーとしての答えだと思うので、とことんぶつかって良いと思います。そして協力しながらという関係がとても大事だと思います。遠慮せず、お互いの意見を言えるような関係になることが、大事だと思います。
――流選手の時もそうでしたが、キャプテンだからと言ってポジションが約束されているわけではないと思います。齋藤キャプテンに9番は渡さないということでしょうか?
そうですね(笑)。先発か、リザーブか、メンバー外かはキヨさん(田中澄憲監督)が決めることなので、そこに対しての意見は全くありません。ただ、自分が出来る最大限の努力をすることだけしか頭には無いです。
だいたい月曜か火曜日のミーティングで次の試合のメンバーが発表されて、そこで9番であれば9番の役割を遂行しますし、21番であれば日本の中でのいちばんの21番になれるよう努力をしますし、メンバー外であればその立場でのやることもあります。ただ、こうは言いますけど、負けず嫌いなので(笑)、常に9番を目指して、アピールをしたいと思っています。
◆トライシーンを増やしたい
――9番をずっとつけていくべく、まだまだ成長過程と言うことですよね?
そうですね。チームを動かすとか、チームを勝たせるとか、そういうところの経験値は、自分の中でも自信があって、技術的なところはもっともっと成長したいと思っています。いつも言うことですが、ライバルだけど、一緒に成長したいと思っています。
――成長したいと思っているところはどこですか?
スキル面はもっともっと成長できると思っています。すぐに結果が出るようなことではありませんが、しっかりと自分の練習を積み重ねながら、パスやキック、その辺のスキルは伸ばしていきたいと思っています。
――次のシーズンでその成長したところを見たいですね
どうですかね(笑)。なかなか見えにくい部分だと思います。日本代表でやっと良い形でトライが取れたので、サンゴリアスでもトライシーンを増やしたいと思っています。
――9番のポジション争いは、サンゴリアスだけじゃなく日本代表でも同じですね
いつもプレッシャーを感じながら、プレッシャーを与えながらやっている関係ではあるので、日本代表でもメンバー発表があるまで分かりませんし、そういう関係だからこそお互いに上手くなれるし、成長できると思っているので、もっと頑張りたいと思っています。
――とても楽しみなポジション争いだと思います
世間はとても注目してくれていますし、メディア的にも取り上げやすい内容だと思います(笑)。答えにくい部分はありますが、プライベートは仲が良いですけど、グラウンドに入ったら競争心を持って、どんどん自分を出していきたいと思っています。その結果として、どっちが9番でどっちが21番でも、それは結果でしかないので、今はあまり結果にフォーカスせずに、とにかく自分に出来る最大限の準備をすることにフォーカスしています。
◆2023年で代表を引退
――2023年のラグビーワールドカップはもちろんターゲットにしていると思いますが、その後はどんなイメージがありますか?
2027年は絶対にないと思いますよ(笑)。自分の中で2023年で代表を引退すると区切りをつけています。
前回のワールドカップが終わった時に、もう1大会を覚悟を持ってやり切ると決めたことと、今後のラグビー人生でプレーヤーとしてどれだけやるかは決まっていませんし、いずれはコーチとして、指導者として成功したいという夢があるので、それに向けての準備という意味でも、2023年で日本代表には区切りをつけたいと思っています。
――サンゴリアスとしてはどうですか?
まあ、色々と考えているところではありますが、僕自身、あまり長く現役を続けるつもりはなくて、こんなことを言っていていつまでも引退しなかったらあれですけど(笑)、なるべく自分の中で区切りをつけて人生を進めていきたいと思っているので、自分がやりたいことをいちばんに優先して、人生の選択をしていきたいと思っています。
――区切りをつけるからこそ100%できるということですね
そうですね。そう長くはないので、毎日毎日が勝負ですし、毎試合毎試合が勝負で、毎年毎年が勝負です。だから、常にワクワクした気持ちで、マンネリ化することなく、毎日を送れていると思います。
◆ワールドカップでベスト4、佐治会長を絶対に胴上げしたい
――日本代表として目指す目標は?
11月にイングランド代表とフランス代表と試合をするので、そこで絶対に勝つと思っています。ワールドカップでベスト8以上とか、ベスト4、優勝とか、そういうことはまだチームでも話をしていないので、まずはワールドカップに向けてしっかりとベースを作るという話をしています。
でも、僕自身は、前回大会よりは良い成績を残したいと強く思っているので、ベスト4には進みたいですね。ワールドカップでベスト4に行けて代表を終えられたら、僕の中ではこれ以上ないことだと思っているので、そのために覚悟を持って、自分自身をどんどんプッシュして、日本のために頑張りたいと思っています。
――トライもしたいですか?
したいですね。やっぱり気持ち良かったです(笑)。
――トライを取る前にポーズも出ていましたね
あれは、無意識に出ちゃいました。本当に無意識なので恥ずかしいです(笑)。僕自身、あまりトライもなくて、周りの選手のトライをアシストすることが多かったんですけど、あの時はみんなが本当に良いスキルを発揮して、色々な選手がハードワークしたからこそ、最終的に僕のところに転がって来ただけです。ラグビーの魅力に改めて気づけたトライでした。
――じゃあ、あのポーズは喜びを表していたんですね
あの時はディラン(ライリー/埼玉ワイルドナイツ)のパスも最高でしたし、それまでの連続攻撃の中でフォワードがすごくハードワークしていて、みんなに感謝したいトライでした。
――東京サンゴリアスでの目標は?
優勝です。ワイルドナイツを倒す。もうそれだけです。ワイルドナイツの名前を出したのは、2年連続で決勝で負けているからであって、リーグワンになって本当にレベルが上がっていて、以前と比べてタフな試合が増えたので、どの試合に対しても気持ちは上がります。やっぱりワイルドナイツに対しては、決勝で当たるのであれば、ワイルドナイツだと思っています。
昨シーズンもリーグ戦は1位通過できましたが、やっぱり決勝で勝つ準備はもっともっとやらなければいけないと思っています。決勝と準決勝もまるで違いますし、決勝とリーグ戦では全く違うものです。最終的には決勝に向けた準備をしますが、まずは開幕戦のスピアーズ戦から足元をしっかりと見て、どんな相手にもチャレンジングな姿勢を見せて、佐治会長を胴上げしたいという気持ちが本当に強いですね。
サンゴリアスは佐治会長あってのラグビーチームなので、佐治会長を絶対に胴上げしたい、その気持ちを本当に強く持っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]