2022年11月11日
#821 アーロン クルーデン 『しんどい状況でも楽しみながらやっていく』
コベルコ神戸スティーラーズから移籍してきたアーロン・クルーデン選手。期待のスタンドオフは、どんな人柄でどんな考え方をして、ラグビーに取り組んでいるのでしょうか。(取材日:2022年10月下旬)
◆家族にとってプラス
――昨シーズンまでコベルコ神戸スティーラーズでプレーしましたが、日本の印象はどうですか?
本当に素晴らしいところばかりですね。日本に来る前は、日本の歴史、文化、食事、それと日本の方々と共に色々経験することを楽しみにしていました。結果として本当に素晴らしく、家族にとってプラスなことばかりでした。2人目の子どもも日本で生まれましたし、そういった意味でも、日本はいつでも自分たち家族にとって特別な場所だと思っています。
――子どもの名前は、日本にちなんだ名前をつけたんですか?
そういうことはありませんでしたが(笑)、名前はクーパー マイケルと言う名前で、トラディショナルな名前をつけました。
――コベルコ神戸スティーラーズに入る前に日本に来ることはありましたか?
2009年のアンダー20のトーナメントで、日本に6週間滞在したことがありました。予選の時には名古屋をメインにしていて、決勝トーナメントでは東京にいました。その時にも日本の文化を経験することは出来ましたが、まだ若かったので、歳をとってから日本を体験してみて、また違った形で日本を感じることができていると思います。
――当時の東京から変わっていますよね?
そうですね。神戸から東京に移ることを、家族も楽しみにしていました。ラグビーは色々なところに旅行する良いきっかけになりますし、そこで色々な文化を経験してきましたが、東京に住み、東京での生活を体験することは家族一同、本当にエキサイティングなことだと思っています。ここ数年で東京も変わったところがあるとは思いつつ、とても美しい場所ですし、多様性に富んだ都市なので、家族で楽しんで過ごしています。
◆違ったラグビーを経験する
――日本に来る前にはフランスでもプレーしたんですね
ニュージーランドでずっとプロとしてラグビーをやってきた中で、フランスでプレーするというチャンスをいただいた時、自分の中でも新しいキャリアにチャレンジしたいと思っていた時期でもありました。自分の居心地の良いところから抜け出して、新しい環境、違う環境に身を置くということをやってみたいと思っていたので、タイミングがとても良い時でした。
フランスもすぐに馴染めばいいなと思って行ったんですが、現実的には馴染んだり、調整したりすることにとても時間がかかってしまいました。自分にとってはフランスの後に日本に来られたことが、フランスの経験が活きた部分かなと思います。ラグビーそのものやその国の文化を理解するためには、時間をかけなければいけないと思いました。
あとは与えられたシステムの中で自分のやりやすい形を見つけるというところが、チャレンジングなことではありますが、大切なことだと思いました。ラグビー選手としてのキャリアが短い中で、様々なラグビーを経験したことは、その判断をして良かったといま振り返っても思っていますし、他の判断はあり得なかったと思っています。
――フランスの次に日本を選んだ理由はなぜですか?
いくつか理由がある中で、自分の家族、特に妻と話していたのは、もう少し海外での経験をしてみたかったということです。そしてまだ、ニュージーランドに戻るタイミングではないような気がしていました。色々な経験を積みたいと思っている中で、ラグビーの環境やスタイル、それぞれの国のリーグのスタイルは違ってくるので、そういった違ったラグビーを経験することで、チャレンジングなところはありながらも、自分のプラスになると思いました。
ラグビーは本当にいま世界中で大きく成長しているスポーツで、その中で様々な経験を積んで、チャレンジをしたいと思っていました。あとは先ほども言いましたが、自分の居心地が良い環境から出て、それを自分の糧にしていきたいと思っていました。
◆チャレンジは自分をアジャストしていくところ
――実際に日本でプレーして、自分に合っていた部分とチャレンジした部分を教えてください
プラスの部分は、日本のラグビーが過去5年間、10年間でいかに進歩してきたかという観点からも、日本のラグビーはハイペースでハイテンポで、ボールがよく動くオープンラグビーだと思っていて、そういうラグビーが自分もとても楽しいと思えるラグビーですし、そういうラグビーが自分のベストなパフォーマンスが出せるラグビーだと思っています。これらの部分はプラスだと思っていますし、そういうラグビーが自分には合っているのかなと思っています。
チャレンジの部分は、そういうスタイルに自分をアジャストしていくところです。あとは文化の違い、言葉の違いが大きいと思います。そこは自分の課題として、引き続き取り組んでいかなければいけない部分だと思います。日本語は自分が話せない言葉なので、15人が同じ絵を見るというところ、グラウンド上でのコミュニケーション、理解という部分が、チャレンジングな部分だと思っています。
――日本語を勉強しているんですか?
ちょっとずつですね(笑)。ラグビーに関する専門用語は日本語でも通じると思いますが、グラウンドを離れたところでは、少し恥ずかしがり屋になってしまう部分があります。皆さんの前で自分のつたない日本語を披露することも恥ずかしいと思いますし、そこはシャイになりがちです。けれど、日本の皆さんは本当に優しくて、親切にしてくれます。自分たちが迷子になっているんじゃないかと思ったら、「大丈夫?」と声をかけてくれたり助けてくれるので、本当にありがたく思っています。
――昨シーズン出場した試合では全試合で得点をしていますね。日本でプレーしてみて手応えはどうでしたか?
最初のシーズンは、序盤に怪我をしてしまい、どのアスリートも同じだと思いますが、辛い時期を経験しました。グラウンドでチームに貢献したいと思っていても、それが出来ない時がありました。
昨シーズンに関しては、全体的に満足しています。スタイルに上手くアジャストできたと思いますし、チームに貢献できているという実感もありました。あと自分が楽しみながらラグビーが出来ていたので、そういう環境でこそ自分のパフォーマンスが出せると思いました。同じような形で、それをサンゴリアスでも出せればと思っています。
◆すぐチームの一員になれた
――昨シーズン東京サンゴリアスに所属していたダミアン・マッケンジー選手と仲が良いんですか?
そうですね。昨日も日本代表との試合で来日していた彼と一緒にご飯を食べに行きました(笑)。ニュージーランドでは仲が良い選手同士で話すことが多いんですが、彼よりも先に私は日本に来ていたので、彼には日本のプラスのことしか伝えていませんでした。プラスのことしか言うことがなかったということもありますね。
ダミアンが日本に来て、とても良いプレーをしました。非常にインパクトを残した選手だったと思います。彼自身の性格上、楽しみながらラグビーをプレーする、そういった環境で彼の良さが出るということがあります。
――ダミアン・マッケンジー選手が所属した東京サンゴリアスに今度は自分自身が入りましたね
サンゴリアスからこのチャンスをもらった時に、考えるまでもなく、すぐに答えが出せるという気持ちでした。サンゴリアスの歴史や実績を考えれば、その一部に自分の名前を連ねることができるというのはとても良いことだと思いましたし、サンゴリアスはベターになること、勝つこと、チャンピオンになることに本当にハングリーに臨むチームなので、チャンスをもらった時は本当に嬉しかったです。ラグビーはチームとの契約が終われば、次の扉が開くというところがあって、サンゴリアスの扉が開いた時には、考えるまでもなくその扉に入りました。
――実際に東京サンゴリアスに入ってみて、どうですか?
正直、非常に楽しいですし、このチームが大好きです。合流初日から皆さんが親しくしてくれて、自分の家族が心地よく、この環境で過ごせるように接してくれています。すぐにチームの一員になれたと感じています。
プレシーズンも全員がハードワークしていて、非常に良い形で準備できていると思います。グラウンド内外で貢献していくということが非常に楽しみですし、実際に出来ていると実感しています。
◆プレッシャーに上手く向き合う
――これまでボーデン・バレット選手、ダミアン・マッケンジー選手、そしてアーロン・クルーデン選手と続いてきました。それについてはどう思いますか?
非常に興奮しています。自分の性格としては、自分自身に高い期待値を求めるところがあります。サンゴリアス内で求められている役割も、自分の性格が合っているのかなと思っています。どういった環境であっても、プレッシャーは避けられないものだと思います。プレッシャーもチャレンジであり、チャンスであると捉えることで、自分のプラスになっていると思います。
――プレッシャーには強い方ですか?
強い方かなと思います。場合によってよりよくプレッシャーに対処できる時もあれば、あまり上手くいかない時ももちろんありますが、全てにおいて学びのチャンスと捉えています。
チームの中には若手の選手もいればベテランの選手もいて、特に若手選手には自分の経験を共有して、試合中のプレッシャーに上手く向き合うこと、上手く付き合っていくことにチャレンジして、一緒にハードワークできればと思っています。
――ラグビーのどこが好きですか?
小さい頃は友だちと一緒にグラウンドでボールをパスしたり、キックすることが楽しかったですね。最初の「ラグビーが好き」という感情は、そこから生まれたと思います。長くプレーをしていく中で、それぞれのレベルでチャレンジングだったことが、次にいかに繋がるかといったところが、ラグビーへの気持ちが育まれたところかなと思います。
戦術やテクニック、自分のチームにおける役割、ポジションにおける役割、責任というところが、どんどんレベルが上がっていくごとに増えていったり、上がっていったりして、それを実感できることが楽しいと思える部分だと思います。
もちろんいちばん上のレベルでは、それぞれのポジションごとの争いも激しいですし、ライバルも多くなります。そういった中で、自分がしんどい状況でも楽しみながらやっていくことが、ラグビーを好きだと思うところですね。プレーヤーとして楽しくやっていく喜び、それが大勢のファンの皆さんに見てもらう喜びに繋がりますし、やりがいを感じます。
――元オールブラックスとして聞きたいのですが、日本代表とオールブラックス(ニュージーランド代表)が試合をします(10月29日)。このタイミングでの日本代表との試合は、オールブラックスにとってどういうものなのでしょうか?
全員が興奮していることが分かります。実際に何人かの選手と話をして感じたことは、チャンピオンシップが終わってツアーに行くまで、これまでは1~2週間くらいしかなかったんですが、今年に関しては4週間のオフがありました。それによってリカバリーしたり、リラックスする時間がとれて、このタイミングで日本との試合が組まれて、とても興奮している様子でした。
日本代表はオーストラリアAと試合をした後ですが、本当にテストマッチとして捉えている試合なので、プレッシャーがあり、両チームそれぞれへの期待値は、とても大きなものになっているので、そこは楽しみですね。出来れば家族と一緒に見たいとは思っていますが、両者にとってとても大きなチャンスになる試合だと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]