SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2022年10月21日

#819 中村 亮土 歴代キャプテンが語るサンゴリアス史『いちばんのサポーター』

特別編"HISTORY OF SUNGOLIATH" 19代目キャプテン 中村 亮土
キャプテンとしての優勝を体験して欲しかったと、強く思わせてくれる中村亮土選手。冷静にそして熱く、次のサンゴリアスを見据えているようです。(取材日:2022年10月上旬)

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◆離れないようにすること

――東京サンゴリアスのキャプテン、お疲れさまでした。残念ながらキャプテンとして優勝することは出来ませんでしたね

まあ、そんなに抱え込むようなことではないですし、僕の責任なのかもしれないですけれど、僕が出来ることは大したことではないので、それほど悲観はしていません。

――悔しさはキャプテンという立場で強く感じましたか?

いや、キャプテンの時もそうじゃない時も、悔しさは一緒で、あまり変わらないかもしれないですね。

――やるべきことは出来ましたか?

そうですね。キャプテンという立場で、僕が出来る範囲でのチームに対しての貢献はやれたんじゃないかなと思います。

――キャプテンで大変だったことは何ですか?

大変というか、コネクションの部分で離れないようにすることに気を遣いました。選手同士ももちろんありますが、スタッフと選手間のコネクションのところで、同じ方向を向けるようにすることに気を遣いましたね。

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――スタッフ、コーチに外国人が多いことも関係していますか?

いや、どうですかね。それは日本人でもあるんじゃないですかね。ただ外国人だと、言葉の細かいところまで伝えられないという部分はあるかもしれないですね。コーチたちが発する1つの言葉を、もっともっと噛み砕いて説明しないと、中身が見えない部分もあったかなと思います。

コーチたちが考え抜いて出した言葉なんですが、選手側からすると「実際にどうすれば良いのか」と感じる部分はあったと思うので、その言葉の深いところまで噛み砕いて説明しなければいけなかったということはありました。まあ、それは一部ですけどね。あとは、ラグビー面やチームを作っているという部分で、選手とスタッフ陣で思っていることが違っていた部分はあったと思います。

――そういう状況があった時に、リーダーグループの意見としては統一されていましたか?

基本的にそうでしたね。同じ絵は見ることが出来ていたと思います。もちろんスタッフともそういうことを話した上で、お互いに共通認識や意思統一が出来た部分はありました。

――選手側の意思が統一されていたということは中村キャプテンの貢献ですね

ありがとうございます(笑)。ミルトン体制の時は、最初から主体性を強調していて、自分たちでチームを作っていくという心構えを持っていなければいけないと思っていました。だから選手がチームに良い影響を及ぼすためには、どういうチームにしたいのかを考えてやっていくことが必要だったので、そういう意味では、自分たちがちゃんと意見を持って、チームをどうリードしていくかということを考えられた時期でもありました。僕にとっても良い勉強になりました。

――自分たちで考えてやっていくということは、これまでチームでは課題となっていた部分でしたね

これまで細かいところまでシステム化されていたところが無くなって、それを自分たちで作っていかないとベースが無くなってしまうと思いました。やらないといけない状況でしたね。そういう状況だったので、自分たちで考えてやっていくという方向に持っていきました。

――東京サンゴリアスでの新しいキャプテンシップを開拓したんですね

まあ、そうせざるを得なかったのかなと。

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◆自分たちで決めたことを納得してやり切ること

――それをやってみて良かったと思うところはどこですか?

やっぱり楽しさはありました。自分たちで何かを決めて、それを意思統一してと。僕らが思っていた意見を反映させやすい環境だったので、そこは楽しかった部分ですね。

――選手の意見は正しかったんですか?

正しいか正しくないかは別として、自分たちで決めたことを納得してやり切ることが大事だと思います。他から言われたことをやるよりも、自分たちで何が良いかを考えて答えを編み出した方が納得しやすいですよね。それで一回やってみて上手くいかなかったら別のやり方を考えてやってみるということの繰り返しです。

――自分たちで考えてやるということは、出来るようになりましたか?

どこまでやると出来ていることになるかは分かりませんが、まあ勉強にはなりました(笑)。

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――キャプテンをやる前は、自分で考えてやるという部分は意識していた部分ですか?

いち選手の立場の時は、余計なストレスだったり、その人が考えなくていいこと、そもそも受けなくていいプレッシャーだったり、その選手が思い切り出来るような環境を、他の選手がサポートして作ることがチームだと思っていました。僕の立場上、それが出来るのがキャプテンだったので、そういう環境になるように、スタッフと話しながらやっていました。

――色々な選手がいるのでひとつのやり方ではいけないと思うんですが、相当、目を行き届かせていたんじゃないですか?

そうですね。相当、気を遣いましたね。肉体的な負荷じゃなくて、すごく気を遣って判断していました。

――色々なことに気を遣って、選手としてのパフォーマンスには影響しませんでしたか?

あまりしていなかったですね。グラウンドに入れば関係ないですし、僕自身、大したことは出来ないと思っています。チームのキャプテンとしての影響力はあると思いますが、ただのいち選手には変わりありませんし、グラウンドで良いパフォーマンスを出してなんぼの世界なので、とにかく自分のやるべきこと、グラウンド上での自分の仕事にフォーカスしてやっていました。そこはいちばんブレないようにしていましたね。

――キャプテンをやっている期間も選手として成長したと感じていますか?

だいぶ成長しましたね。昨シーズンは怪我などもあって、パフォーマンスに波がありましたが、キャプテンをやったことでパフォーマンスが落ちたということは全然なくて、毎年成長している感じです。

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◆全てを任せて自分の時間に充てていた

――自分は大したことは出来ないと何度か出てきましたが、周りにサポートしてもらったという感じですか?

みんなに仕事を振ってやってもらいました。アタック、ディフェンス、ブレイクダウンと、各リーダーがいたんですが、そのグループの中には僕は一度も入りませんでした。全てを任せて、そこは自分の時間に充てていました。

――それは後から共有されるんですか?

僕が思っていることや、やりたいことなどはリーダーには伝えますが、すべてを任せていたので、各リーダー陣が決めたことは率先してやっていました。

僕の場合は、全てを自分でやっても良いことは無いと思っているので、同じ絵を見ることができる選手が近くにいて、その人たちに任せて、共有してもらうというサイクルでやっていました。

――それぞれ得意な選手にその分野を任せるということですか?

それもそうですし、僕がいることで別の意見が生まれなかったりすると思います。僕もチームの中で年齢が上の方ですし、若い選手からしたら僕の意見がその選手の正解になってしまうこともあると思います。それはチームという組織においては、あまり良いことではないと思うので、これからサンゴリアスを支える世代が、しっかりとリーダーという認識を持ってチームを作っていく。そういう自覚を持たせる、育てる時期でもあったのかなと思います。

――中村選手から見て、若い選手たちは育ってきましたか?

僕が育てたということはありませんが、任せることによってチームのことを考える時間が多くなるので、若くてもチームを引っ張っていくという自覚は出てきたのかなと思います。

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――楽しみですね

そうですね。僕はキャプテンになった時に、次の世代のリーダーが生まれて欲しいと思ったので、周りを信頼して任せました。ホリ(堀越)や直人(齋藤)、晟也(尾﨑)などには、特に色々なことを任せてやってもらいました。

――東京サンゴリアスが強くなるのは、これからかもしれませんね

はい、そう思いますね。だから僕は、こういう時期も大事だったんじゃないかなと思っています。

――キャプテンをやっている期間を振り返って、いちばんに思い浮かぶものは何ですか?

ミルトンとケンカしたことですかね(笑)。キャプテン2年目のプレシーズンの時だったと思います。何度か意見の食い違いで言い合うことはありましたが、2年目のプレシーズンの時は、急にトレーニングマッチをやるやらないという話が出て来て、それがリーダーミーティングで共有されていなくて、選手としては「準備をしていないから、急に試合をしたら怪我をするリスクがある」という意見が出たんですが、ミルトンとしては「一度トレーニングマッチをして試した方が良い」と考えていたみたいです。

それで選手の声を聞いて、リーダーグループのメンバーを集めて「トレーニングマッチはやらず、練習で強度を上げていきたい」という意見をミルトンに伝えました。けれど聞き入れてくれず、頑なに「やった方が良い。サントリーの"やってみなはれ"の精神はどこに行った」と言われました。僕も社員経験があるので、「"やってみはなれ"とは準備をしっかりした上で、最後は大胆にやれということ」という説明をして、結果としては選手側の意見を聞いてくれて、トレーニングマッチは無くなりました。

僕としては常に中立な立場でいようと心掛けていましたが、その時には選手の声を拾って、チームを代表して特攻していきました(笑)。僕は、そういうことは大切なことだとは思いますが、そういうことをすることを大したことだとは思っていません。

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◆自分たちのスタイルを理解すること

――2年連続準優勝となりましが、その結果についてはどう思っていますか?

実力が足りなかったと思います。日本代表合宿などで、埼玉ワイルドナイツの選手と一緒にやっていますが、どの選手を見ても強さが垣間見えます。

――東京サンゴリアスの選手も強さがあると思いますが、どこが違うんですか?

精神が安定しているというところと、ラグビーに対する理解度が高いと思います。試合を読んだり、プレーを予測したり、そういうことが出来る選手が多いと思います、

――どうすれば、そういう選手たちになれると思いますか?

まずは自分たちのスタイルを理解することと、自分の仕事やチームのやるべきことをちゃんと理解するところかなと思います。スタイルをちゃんと追及して、こうやって戦うんだと理解して、自分の仕事もそれぞれ違ってくるので、そこもちゃんと理解してやることがとても大事だと思います。

――それを構築することはとても大変なことですよね

大変ですね。自分の仕事を100%やれば良いことなんですが、自分1人でやる競技ではないので、誰かしらと関係性がありますし、プレーの流動性もありますし、同じシチュエーションでやることはないので、そういう色々な状況の中で対応しなければいけません。

――そういう選手たちになれそうですか?

なれると思いますよ。そんなに難しいことではないけど、自分たちがなぜ負けたかを、チームとしてちゃんと理解しないといけないと思います。まずは理解すること、明確にすることからですね。

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◆キャプテンが言ったことを体現すること

――新チームでは、そこを明確にしてスタートしているんですか?

始まっていると思います。キヨさん(田中澄憲監督)は、そこを分かってやってくれると思います。

――みんなが本当に理解して、意識がひとつになれば、優勝できる可能性はありますか?

ぜんぜん出来ると思います。ポテンシャルはすごく高いので、あとは一致させるだけだと思っています。

――キャプテンを終え、新シーズンからの自分の役目は何だと思いますか?

直人とホリがキャプテンなので、そこのいちばんのサポーターじゃないですけど、同調して彼らが言ったことを体現することが良いのかなと思っています。

――堀越選手と齋藤選手にメッセージはありますか?

ないですね。遠慮せずに思い切りやって欲しいと思っています。彼らは分かっていると思いますが、考えすぎず、自分の直感ややりたいこと、思っていることに自信を持ってやって欲しいと思っています。僕らが後押しして、それをいちばんに体現してあげられれば良いんじゃないかなと思っています。

――東京サンゴリアスでは共同キャプテンは2回目だと思いますが、気をつけなければいけないことはありますか?

お互いに遠慮しないことですね。そこはいちばん大事だと思います。気を遣うと、変に譲り合ってしまうので。

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◆自分のベストを作るということ

――新シーズンの目標は?

日本代表では次のワールドカップにベストの状態を持って行くことが、今の自分にいちばん必要なことだと思っています。それに向けて少しずつやっていっている感じです。

――ワールドカップメンバーに入る自信は?

いやー、やるべきことをやって、それで外れたら、それはそれで良いという状態です。そこはコントロール出来ない部分なので、本当に悔いが残らないように自分の状態を作っていって、毎日やるべきことをやるという感じですね。

――もしワールドカップに出場できることになった時には、どんなことを思い描きますか?

正直、まだそこまで考えていないですね。結果などはコントロール出来ない部分なので、自分のベストを作るということだけにフォーカスしてやっています。

――また出場したいと思う、ワールドカップの魅力は何ですか?

なんですかねー。大きい大会だからですかね(笑)。世界最高峰を体験したいということですかね。前回のワールドカップは日本大会だったので特例なのかもしれないですけど、実際に出場して、自分が日本に対して貢献していると実感できました。良いプレーをすればファンが喜んでくれますし、日本に貢献しているという感覚が、ワールドカップではより強く感じるのかもしれません。テストマッチでも日本を代表していると感じますが、ワールドカップではより強く日本国旗に対してプライドを感じます。

――自分自身のプレーで注目してもらいたいプレーはどこですか?

タックルですね。ラグビーと言えばタックルですよ。更に磨きがかかるよう頑張ります。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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