2022年10月14日
#818 細木 康太郎 『開幕戦から全試合3番スタメン』
あのグラウンドの勢いでのインタビューになるかと想像していましたが、熱量はグラウンドと同じでも極めてクールに語る細木康太郎選手。自分を知り、相手を知り、試合に臨む姿が見えてきました。(取材日:2022年9月中旬)
◆100%の準備が出来ている
――2022シーズンはどんなシーズンでしたか?
試合に出るつもりでサンゴリアスに入ってきました。ただ、4年の時の大学選手権が終わった後に、サンゴリアスのチームドクターである塩田さんと話したんですが、その時、僕には怪我があったので、それをどうするかという相談から、僕のサンゴリアスは始まりました。
やはりプロフェッショナルなチームになると、選手生命というところをいちばん大事にしてくれていて、いま頑張るべきじゃないという判断となり、手術という選択をしました。僕も安易に考えていたわけではありませんが、手術をして練習が出来ないという状態になりました。
周りのみんながラグビーをしていて、試合する姿を見ると、自分の選択は正しかったのか、手術を伸ばしてみんなと一緒にシーズンを戦ってみたかったという葛藤もありました。手術をせずラグビーが出来る状態であれば、試合に出られるチャンスはあったと思うので、捉え方次第だと思いますが、もったいないことをしたという気持ちもありました。
今は少しずつチームの練習に参加できるようになっていて、症状は良くなっているので、次のシーズンに向けて100%の準備が出来ていることはプラスなのかなと、今は考えています。
――もう状態はバッチリですか?
もう100%治っています。大学4年の春から調子がおかしくて、握力が落ちたり痺れもある状態でした。大学中はとりあえず、痛みと痺れをなくしてプレーをしていて、言い方が悪いですが、その状態でも大学ラグビーでは通用していました。今は手術をして完璧に治りました。
――練習に復帰したのはいつからですか?
今年の8月上旬に若手だけの合宿があって、そこでチームトレーニングの8割くらいは参加して復帰しました。今は違う箇所を少し痛めていますが、それは大きな怪我じゃないので、10月からはフルで練習に参加できると思います。
――8月に復帰できた時は嬉しかったんじゃないですか?
楽しさがとてもありました。嬉しいという気持ちもありましたが、昨シーズンは本当に何も出来なかったので、みんなとラグビーが出来て楽しかったのと、その合宿はすごくハードな合宿だったんですが、その疲れが楽しく感じました。
――順調に調子が戻ってきているんですね
はい、順調にきていると思います。
◆自分のすべてを捧げる
――9月から今シーズンのチームが始動しましたが、実際に始まってみてどうですか?
日本代表メンバーはいないんですが、ベテランも中堅もいて、活気に溢れているというか、とても雰囲気が良いチームだなと思いながら一緒に活動しています。
――新シーズンへの自信やターゲットは?
自信はあります。開幕戦から全試合3番スタメンで出場したいと考えていますが、2023年にラグビーワールドカップがあるので、その目標を果たすことが出来れば、ワールドカップの日本代表候補にギリギリ入れるんじゃないかと思っています。
垣永さんが一度代表メンバーから外れましたが、その後にすぐ呼び戻されていました。ということは、僕がサンゴリアスで試合に出ていたり、垣永さんと同じレベル、もしくはそれ以上のレベルになることが出来れば、日本代表も見えてくると思っています。目の前に目標とする人がいて、自分のモチベーションになりますし、そこをいちばん目指しているので頑張れていますし、これからも頑張ろうと思っています。
――大学選手権での優勝など、目指したものは手に入れてきましたか?
そうですね。人生の中で、こうなりたい、こうしたいということは、叶えてきたと思います。
――それはどうすれば叶えられるんですか?
みんなになりたいもの、やりたいことがあると思うんですが、僕の場合は、その人たちよりも熱量を持っていると思います。僕は器用じゃないですし、頭も良くないんですが、こうなりたいと思ったことに対してだけなら自分のすべてを捧げられると思っています。その目標ひとつに対して、頑張っていける能力はあるんじゃないかなと思っています。
――こうなりたいと定める時はどんなことを考えるんですか?
僕の場合、例えば、ベンチプレスで200kg上げるとか、練習中にあの選手に勝つとか、同じポジションの他の選手よりも試合に出るとか、そういう小さい目標はあまり見ていませんでした。今までは大雑把に、高校時代は花園優勝とか、大学であれば大学選手権優勝とか、自分の立場の目標ではなく、組織の目標にフォーカスしていくと、自分の小さい目標を叶えていかなければいけなくなります。本来の目標のために取り組むことで小さな自分の目標が叶えられていって、最終目標に繋がるのかなと思います。いちばん大きい目標だけを見て、常に取り組んでいると思います。
――チームのために自分の身を捧げているように思いますが、チームスポーツの良さはどこにありますか?
みんなと喜びを分かち合えるとか、みんなと一緒に苦しいことを乗り越えた後の達成感や満足感ということはあると思いますが、それよりも自分は自分ですし、他のみんなもそう考えていると思いますし、チームの目標を叶えることが自分のためになるというか、自分のステータスになると思います。
どう言えばいいか分からないんですが(笑)、個人の目標を達成することよりも、チームの目標を達成することの方が大きいですし、結果として自分の喜びも大きくなるのかなと。だから、正直、チームで優勝したいということも、基本的には自分に軸があると思います。チームで優勝したいということも、自分自身が勝ちたいという気持ちでやっていて、勝ったら幸せです。チームスポーツなので、勝つも負けるも、自分の考えや他の人の考えが結果に関わってくると思います。なので、自分のための優勝でもありますし、自分の所属している組織の結果が自分の幸せにもなります。
――結果として自分の喜びになるにしてもチームのことを考えるということは、キャプテンタイプですよね
僕は大学4年の時にキャプテンをやっただけなので分かりませんが、一生懸命やっていたらみんながついてきてくれたので、キャプテンシップやキャプテンらしさは意識していませんでした。それについては勉強不足だなとは思います。
◆僕だけにしか出来ないこと
――細木選手と言えば吠えるということがついてくると思いますが、吠えるという行為については、自分を鼓舞しているんですか?それとも周りを鼓舞しているんですか?
自分を鼓舞する感じですね。吠える時にはもう集中しきっていて、盛り上がり切っている中での行動です。練習中も試合中も、みんなの前で話す時も、自分がいちばん盛り上げっていて熱量がないと、練習も試合も出来ませんし、周りに何か伝えたい時にも伝えきれないかなと思います。
――そうした方が良いと感じたきっかけは?
特にないんですが、これまでのキャプテンを見ていて、そうした方がいいなと思いました。賢く論理的に話すのは耳障りは良いですけど、だた言っているだけだなと感じると冷めますよね。監督や他の人がすでに言ったことを言っても、試合前に面白くないですし、ここだけに懸ける気持ち、ここにしかない魅力を、自分の言葉で話した方が伝わると思います。
これまではキャプテンが出来る人がキャプテンになっていましたが、僕は僕だけにしか出来ないことをやりたいと思いましたね。それをみんなが面白がって、ちゃんと聞いてくれていたりしていたのかなと思います。
――自分自身でも面白かったですか?
面白かったですね。正直、自分が話した内容はあまり覚えていないんですが、話している中で熱くなってくる部分もありますし、大学選手権決勝や対抗戦での早稲田大学戦、明治大学戦とかでは、僕も泣きながら話していて、周りを見ると一緒に涙を流しながら聞いてくれる人もいました。これまでの帝京大学の文化や過去を知らない1年生も、僕の目を見て話を聞いてくれていました。そういうところで伝わっていると感じますし、みんなの感情を動かせていることが、自分がキャプテンをやっている中でのやりがいになっていました。
――キャプテンシップに目覚めましたか?
ちょっとだけですね(笑)。サンゴリアスでそれを出すかは、まだ考え中です。僕がやっていたことって、学生のノリじゃないですけど、学生って周りの誰かがやっていたらやったり、気持ちが乗ったらやるという部分があると思うので、そういう人たちに対して気持ちを乗せるということには自信がありました。
社会人では、自分で考えて、やるべきこと、自分の役割を理解していると思います。そういうことをみんなが考えているので、社会人チームのキャプテンには何が必要かということから考えていかないと、リーダーシップはまだ取れないかなと思っています。
◆ゾーンに入った
――ゾーンという精神状態は経験しましたか?
経験しました。それを本当に強く感じたのは、大学選手権の決勝だけです。それ以外の試合は集中しきって良い状態で試合に入れていましたが、本当にゾーンに入ったと強く感じたのは決勝だけですね。
決勝は怪我明けで、体力的にはかなりキツかったんですが、それでも動けました。今までの練習や試合では、キツいということを先に感じていたんですが、まだ動ける、まだ走れると、常にすべてのプレーを意識しながら出来ました。試合の79分まで出場したんですが、交代して下がるまで、ひとつひとつの自分のプレー、ボールをキャッチすることだったり、タックルすることだったり、スクラムのバインドをすること、足を下げること、ひとつひとつを頭の中で理解しながら行動できていました。
その状態になるとキツいとかではなく、自分にフォーカスしていて、すべて自分の行動を考えてやっていて、そうすると勝手に時間が経っているという感覚で、それで良い結果が出て終わっていました。その状態には自分でもビックリしました。
――その状態は気持ち良かったですか?
もう、そうですね。あっという間に79分になっていました。
――いつもとは何か違う状況でしたか?環境がその状態にしてくれたんですか?
環境もそうですし、これで終わりということがいちばんだと思います。日々楽ではなくて、岩出監督からのプレッシャーだったり、色んなプレッシャーがあって、オフの日も気を張って、監督からの連絡などを待ったりもしていました。
この試合で優勝して終われば、何でもして良いんじゃないかということではないですけど、そういうことを副キャプテンと話していたり、これで終わりということが、僕のすべての原動力になっていたと思います。
◆身体をぶつけて相手を倒してボールを奪う
――プレーで自信を持っているものはスクラムですか?
そうですね。今はスクラムです。スクラムでの駆け引きに自信を持っています。
――これまでその駆け引きの勝率は?
僕自身は勝っていると思います。試合前に相手のスクラムの分析をすることもそうですが、試合の1本目のスクラムはちゃんと組まないというか、そこで映像で見たスクラムと実際のスクラムはどうかということを見るようにしていました。1本目から押し込みに行かず、一度様子を見て、その中でも少しずらしたりしてみて、1本目と2本目でプレッシャーを掛けるところを変えてみたりして、相手に「細木はこう組んでくるだろう」と思い込ませて、その裏を取るスクラムをするのが、僕のスクラムですね。
――プロップ暦は何年ですか?
僕は中学1年からなので、11年目です。
――最初からプロップをやりたいと思っていたんですか?
横浜ラグビースクールでやっていたんですが、周りよりも大きくて太っていたので、必然的にフォワードの練習に行かされ、プロップになりました。
――初めてプロップでプレーしてみて面白かったですか?
初めは何もラグビーを知らなかったので、何とも思わず、自分はここでプレーするんだなと思ってやりました。
――ラグビーを続けたモチベーションは何ですか?
ラグビーを始めるまでサッカーをやっていて、相手のボールを取りに行こうと身体をぶつけると、だいたい相手は転んで自分は立っている状態でした。それでファールを取られていました。正当に肩と肩をぶつけても、僕がファールを取られてしまうので、面白くなかったんです。
周りよりも身体が大きかったので、父親からの勧めでラグビーを始めました。中学で身体をぶつけて相手を倒してボールを奪うということが新たな快感で、それが止められなくなり続けています。
◆怪我をしなければ一生成長する
――今の課題は何ですか?
メンテナンスと身体の使い方です。高校くらいから怪我が多くなってきているので、身体の使い方であったり、トレーニングの仕方であったり、怪我の少ない身体や回復を早められる身体を作ることが課題だと思っています。怪我をしなければ一生成長すると思っていて、これまでした怪我についてもそれが無くてトレーニングが出来ていれば、さらに成長できていたと思うので、怪我をせず毎日練習が出来るようになることを考えています。
――その課題は克服できそうですか?
サンゴリアスにはプロフェッショナルなトレーナーや、S&Cコーチ、ラグビーコーチがいます。今までは自分が子どもで、トレーナーの言うことやコーチの言うことをあまり聞かず、我流でやってきてしまいましたが、サンゴリアスのプロフェッショナルな人たちに身を任せようと思っています。
短期で言えば2~3ヶ月くらいで結果は見えてくると思いますし、長期で見れば3~4年後には、自分でコントロールできるような選手になるということをS&Cコーチとも話しているので、それを信じて身を任せようと思っています。
――自分の身体を作っていくことも楽しいですよね
そうですね。僕自身、身体の変化が出やすくて、太ったり痩せたりもそうですけど、軽い怪我でもとても痛みが出たり、その翌日は痛みが無くなっていたり、身体に反応が出るので、日々面白いですね。
――ラグビーを自分の仕事として続けていこうと思ったのはいつ頃ですか?
中学2年の頃です。横浜ラグビースクールの2つ上に齋藤直人さんがいて、その人たちが推薦で高校に進学をしていると聞いて、僕も勉強が苦手だったので、ラグビーで進学することを考えました。ラグビーが上達していって、色々な高校から声を掛けてもらい、桐蔭学園に行くことになりました。
当時の僕の考えが、ラグビーの推薦で高校に行ったのならばラグビー以外してはいけないと思っていて、だったら大学もラグビーで行かなければいけないと思っていました(笑)。その考えだったので、社会人もラグビーで、一生ラグビーで行くしかないと思い込んでいましたね。
――結果的にはその選択は良かったですか?
はい、最高な選択をしたと思っています。
◆新しいことをする選手になりたい
――今後、どんな選手になりたいと思っていますか?
誰かみたいにはなりたくないと思っています。そんなことを言っておきながら変ですが、今の現役選手で言うと、埼玉ワイルドナイツの稲垣選手みたいな選手ですかね。日本代表で笑わないということがフューチャーされて、モデルさんと結婚もされて、ラグビー界の中では色々なことを初めてやられた選手だと思います。そのくらいのラグビー選手になりたいと思っています。
稲垣選手と同じことをしたいというわけじゃなくて、また何か新しいことをする選手になりたいと思っていて、ラグビーが素晴らしいだけじゃなく、それ以外でも色々なポジティブな特徴のある選手であり、ひとりの人間を目指しています。
――今シーズンの目標をお願いします
まずは開幕戦にスタメンで出場して、そこから怪我をせず、全ての試合でスタメンを勝ち取って、日本代表にアピールしていきたいと思っています。
――ファンにはどんなプレーを見せたいですか?
プロップというポジションと、僕の強みであるスクラムです。マイボールスクラムでは100%確保し、相手ボールでは50%はターンオーバーしたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]