2022年10月 7日
#817 小林 賢太 『ボールを持つ瞬間を楽しみに』
高校、大学とチームが勝つことに貢献してきた小林賢太選手。公式戦への出場が叶わなかった社会人1年目は、どのような心境で過ごし、新シーズンへ向けてどんな課題を見つけたのでしょうか。(取材日:2022年9月上旬)
◆部屋を整える
――Spirits of SUNGOLIATHのインタビューは読みますか?
よく読んでいます。色々な話が出てくるので面白いです。
――プロフィールを見ると、優しくて几帳面で、ラグビーのプレーからは感じられないような一面があるのではと思いますが、自分の性格は?
几帳面ではあると思います。汚い家に帰るのが嫌なので、家を出る時には掃除をするようにしています。大学では寮だったんですが、特に試合の前には誰が入っても大丈夫なように、綺麗にしていました。そのくらいの覚悟で、身の回りを整えてから試合に臨みたいという気持ちで、綺麗にすることは心掛けています。
――他に気になることを無くして、目の前のことに集中するということでしょうか?
そうですね。部屋が汚いと乱れるというか、いちばん自分の身近な場所なので、そこを整えることは大事にしています。
――それは子どもの頃から?
高校から寮生活をしているんですが、その頃からですかね。部屋の掃除が自分の中で切り替えるスイッチのようなもので、高校時代から試合に向けてスイッチを入れるためにやり始めました。
――それまでは汚かったんですか?
汚かったわけじゃないですけど(笑)、昔から母親に「身の回りは綺麗にしろ」と言われていて、他の人と共通で使う洗面所など自分が使ったら次に使う人のために綺麗にしなさいと言われていたので、そういうところから派生して、自分の身の回りを綺麗にするということに繋がっていると思います。
――プレー以外の部分では、自分からガンガンいくタイプではないんですね?
大人しい方だと思います。ガツガツいくタイプではないですが、その時の状況で上手くやるという感じかなと思います。
――気は優しくて力持ち?
良く言えばそうですね(笑)。
◆強いチームの秘訣
――2022シーズンの途中からでしたが、社会人で1シーズンを経験して、どんなシーズンでしたか?
いちばん最初に感じたことは、入る前から持っていたイメージ通りで、競争が激しかったですね。外から見ている時にはギスギスしていたりするのかなと思っていましたが、実際にチームに入ってみると、同じポジションのライバルなのに、スクラムに対してアドバイスをして頂いたり、僕のプレーが良くなるために先輩たちが教えてくれる環境があって、そういうところが強いチームである秘訣なのかなと思います。その点は、入る前と実際に入った後でギャップがありました。
――自分のプレーで通用したところと通用しなかったところはどこですか?
環境面でいちばん変わったところは、外国人選手がいるというところだと思います。大学までは体格で負けることはほぼなかったんですが、社会人では対格差、フィジカルの部分で、コンタクトで通用しない場面も多かったと思います。逆に自分の強みにしているのがアタックで、シーズン中の練習などで通用することもあったので、そこは強みとして取り組んでいければと思います。
スピードはまだまだ課題がありますが、身体をひと回りもふた回りも大きくしなければいけません。どうしても足りない部分に目を向けがちになってしまいますが、パワーもスピードもまだまだ伸ばしていかなければいけない状況です。
――細身であればバックスでもプレーできるんじゃないでしょうか
いやー、足はそんなに速くないです(笑)。今のラグビーはプロップにもそういうプレーが求められるようになってきているので、そこにしっかりフィットしていければなと思います。
――ランニングコースやパスダミーなど、そういうプレーはセンスが問われると思うんですが、いつ頃から身についたんですか?
幼稚園からラグビーをやっているんですが、小学生の時には毎朝ラグビーボールを触ってパスの練習をしたり、自分の通っているスクールだけじゃなく、その他にもラグビーが出来る環境を色々と試したりしていました。ですので、小さい頃からラグビーボールに触れる回数は多かったと思います。そういうところが繋がっているのかなと思います。
◆見ることも好き
――ラグビーが好きになったきっかけは何ですか?
幼稚園の時から身体が大きくて、友だちから誘われてラグビーを始めました。その友だちは小学2年生くらいでラグビーを辞めてしまいましたが、僕だけずっと続けていました。好きになったきっかけというよりは、ずっとやっているものという感じですね。
あとは海外のラグビーを見ることが好きで、スーパーラグビーなどはプレーがスキルフルで、日本ではあまり見ないようなプレーをしているので、そういうのを見ていて面白いと思いますね。見ることもプレー以上に好きで、小学生の時から海外選手のプレーを見て、そういうところから好きになったのかなと思います。
――幼稚園からラグビーを始めて、これまで続けてこれた要因は何でしょう?
やはりラグビーをしていて、勝つことがいちばん嬉しいです。勝てる環境に自分をい続けさせるというか、その上での自分のいちばんのターニングポイントが高校を選択した時だと思います。小学生の時にはスーパーラグビーだけじゃなく、関西出身なので、花園ラグビー場などにも行っていました。垣永さんが東福岡高校で3連覇した時、会場で見ていました。その姿がすごくカッコよくて、東福岡高校に憧れを抱きました。
中学まではそのままラグビーを続けて、高校の進路選択のタイミングで、憧れていた東福岡高校に行きたいと思いました。勝てる集団、日本一を目指せるチームに身を置きたいと思って、東福岡高校に進みました。
あと、小学生の時には、畠山さん(健介/サンゴリアスOB)が4年生の時の早明戦を国立競技場で見たことがあって、早稲田大学が圧勝して、それで早稲田大学への憧れもありました。自分の中での憧れが進路として実現していって、自分の向上心を持ち続けるために、いつからかそういった環境を選び続けてきたと思います。
――それぞれのポイントでチームを選んできたんですね
勝たなければ面白くないですし、どこに行っても勝てるわけではないですし、その中で憧れという部分がいちばん強くて、ラグビーを見ることが好きだったからこそ憧れるチームがあって、そのチームに行くチャンスを得るためにラグビーを頑張りました。結果論ではありますが、自分が行きたかった高校、大学に行けて、振り返るとそうだったのかなと思います。
――求めていることは強さですか?
強さだったり、勝ちたいという気持ちですかね。結果的には。それを東京サンゴリアスで味わいたいです。
◆まずは強さ
――今の課題は何ですか?
セットピースがいちばんの課題ですね。サンゴリアスに入るにあたって、青木さん(アシスタントコーチ)から「1番に挑戦してみないか?」と言われましたが、高校から大学3年までずっと3番をやってきて、そのチャレンジを自分の中でポジティブに捉えました。
スクラムの1番と3番は別のポジションと言っていいくらい違うので、3番から1番へ変更することの不安感もあり、それはまだまだ自分の課題です。試合に出るためには、まずは強さがベースにないといけないと思っているので、そこが課題ですね。
――これまでやった3番の実力と比べて、今の1番の実力はどのくらいまで来ていますか?
昨シーズンの練習の中でも、自分の中でしっくりくるというか、自分の強いポジションで組めるスクラムが何本かありました。ただ、そのスクラムが一貫性を持って出せていなくて、その感覚や、1本1本のスクラムにムラがあるので、一貫性を持って力を出せるようにならなければいけないと思います。
――技術的な部分を頭と身体で積み上げていく感じですか?
映像を見て自分が思ったことをノートに書いたり、そこで言語化して自分がやらなければいけないことを可視化することで、次の練習で自分がやることを明確にする、というやり方でやっています。
――理論派ですね
喋ったりすることは得意ではないんですが(笑)。
――ラグビーのプレーの面白さはどこにありますか?
ボールを持ってアタックすることが楽しいですね。
――プロフィールに影響を受けた人物としてお母さんを挙げていますが、具体的にどういう影響を受けたんですか?
几帳面という部分は母親に似ていると思いますが、パワフルさや行動力という部分は自分にはないものを持っていて、そういうところをリスペクトしています。
――お母さんの行動力の部分で、具体的なエピソードはありますか?
実家は兵庫県西宮市なんですが、僕が小学4年生くらいの時に3つ下の弟と母親の3人で、自転車で淡路島に行ったことがあります。母親が前日の夜に「明日、淡路島に行こう」って言って、西宮市から淡路島の下の方まで片道80kmくらいあるんですが、1日で行ったことがありました。さすがにその日は泊まりましたが、そういう行動力がある人ですね。
いま自分がそんなことを出来るかと考えたら、そんなことは出来ないと思うので、そういう行動力であったり、パワフルさがあった、自分にはないものを持っていますね。そういうところで根性をつけられてかもしれないです(笑)。
◆悔しかった
――目標は何ですか?
まずはサンゴリアスで試合に出ることがいちばんの目標です。
――昨シーズンでは試合に出られませんでしたね
悔しかったです。大学を卒業して、4月から試合に出られる状況で、同期の山本が試合には出て、自分が出られなかった悔しさに加えて、同期が試合に出て活躍していたので、そこは悔しかったですね。まずは大きな目標の前に目の前の目標を果たしたいと思っています。
――それに対する自信のほどは?
今シーズンは必ず試合に出られるようにしたいと思います。
――各世代で日本代表などに選ばれてきましたが、日本代表についてはどうですか?
ゆくゆくは目指していきたいと思っています。サンゴリアスで試合に出なければ評価される対象にもなれませんし、大きな目標を持つことは大切だと思いますが、自分の中では目の前の目標をひとつずつクリアしていくことを考えているので、今はサンゴリアスで試合に出ることをいちばんに思っています。
――ファンの皆さんにどういうプレーを見て欲しいですか?
ボールを持てば絶対に何かをするので、僕がボールを持つ瞬間を楽しみにしていてください。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]