2022年9月 9日
#813 森川 由起乙 『良いスクラムを組み続ける』
日本代表の初キャップを獲得した森川由起乙選手。ジャパンでの経験が、森川選手をひと回り大きくしたのではないでしょうか。(取材日:2022年8月中旬)
◆新しいステージの試合を経験
――夏の日本代表での初キャップ、おめでとうございます
長かったですね。長かったですし、色々な壁にぶつかり過ぎて、「あ、ホンマに初キャップとったんや」という感じです。それに加えメンバーに選ばれた時に、ジャパン暦が浅いにもかかわらず、みんなが喜んでくれました。「おめでとう」とか「こっからだな」という励ましの言葉を色々いただきましたし、両親が喜んでくれて、試合にも応援に来てくれました。たぶん母親は泣いて喜んでくれていて、そういうことを感じて、「やっとここまで来れたんだな」というのが、正直な感想ですね。
――弟・呉季依典選手にも続いて欲しいですね
たぶん言わなくても自分で感じているでしょうし、季依典も目標をブラさず頑張っているところなので、犠牲にするものをちゃんと選んで、サンゴリアスで試合に出て、しっかりとジャージを掴むということを、僕も含めて頑張らないといけないと思っています。
――メンバーに選ばれて他のメンバーが喜んでくれた時は、仲間が増えたような感じでしたか?
日本代表に入って一緒に過ごして、同じ練習をして、ずっと試合に出ている人などから、「やっとこの機会が来たな」と喜んでくれましたね。やっとここに立ててジャージを掴んで、ちょっと認められて、やっと出られるという祝福が大きかったですね。怪我にも悩まされていて、トレーナー陣も喜んでくれましたし、「何としても出したい、出て欲しいという気持ちが強かった選手だから、本当に嬉しかった」と言ってもらえました。
――日本代表で試合のメンバーに選ばれないと経験できないことですね
そうですね。僕自身、国際試合に出ることが初めての経験でした。僕は高校代表やU17やU20日本代表にも行かなかったので、ワールドレベルの国際試合が初めてで、また新しいステージの試合を経験できましたし、試合も楽しかったです。
全部が初めてで、1プレー1プレーでチャレンジして、やってきたことを出しつつ、自分の武器をどんどん出していかないといけません。その中で失敗と出来たことが半々くらいで、その失敗を次に活かして成功に繋げていかないと、またジャージが着られなくなってしまうと思っています。そういう意味で、あの場に立って経験できたことが、大きかったですね。特にフランス戦を経験できたことが、とても大きかったです。
◆1つのペナルティーで流れが変わる
――点数をつけるとすると何点くらいでしたか?
失敗と出来たことが半々くらいなので、50点くらいですかね。緊張は無かったんですけれど、プレーは硬かったですね。フランス戦の初戦はスクラムでペナルティーを取られて、タックルでも1つペナルティーを取られました。あの時間帯、あのスコアで、熱くなり過ぎてというか、正確性に欠くプレーをしてしまい、結果として2つペナルティーになってしまったので、そこは反省しなければいけないところです。
経験して良かったこととしては、その部分も経験して良かったと思いますし、スクラムで1つ取り返して、試合の中で修正できたことが良かった部分だと思います。残り時間0分で、スクラムを優勢にして、最後トライを取りきって締めきれたので、まぁスクラムを押し切りたかったですけど、そういうところは良かったかなと思います。
――世界レベルを相手にしてみて感触は?
試合タイム自体はあまり多くないので、あまり的確に言えないんですけど、もっと出られるように頑張らなければいけませんが、リーグワンと違って試合の流れにおいて、常に日本が先行していないといけないと感じました。1つのミス、歯車が少し噛み合わないだけで、ここまで逆転されるのか、勝てる試合も落としてしまうのかと感じました。だから80分間、相手を制圧しないといけないなと。
80分間、全員が気を抜かずに戦い続ける難しさ。リザーブメンバーも含めて、80分間良かったという試合をしないと、ティア1の相手には勝てないんだなと思いました。リーグワンとは試合展開がぜんぜん違うんだなと。1つのペナルティーで負ける、流れが変わるということをすごく感じました。
――それは大きな収穫ですね
そうですね。フランスとの2戦目は、出場時間は短かったんですが、緊迫した展開で、逆転を許してから出場したので、「やるしかない」という状態でした。自分自身は楽しく、「ここで逆転して勝ちたい」という気持ちで、1戦目の反省を活かして、チームとしても個人としてもペナルティーをしないということを心掛けてやりました。2戦目は7~8分くらいしか出ていないですが、とても勉強になり、あの試合をグラウンドの中で経験できたことが良かったと思っています。
――その経験を活かすためには、普段の練習やリーグワンでも、常に集中して取り組むということですね
めちゃくちゃ大変ですよ(笑)。日本代表の練習は内容も求められることも、たくさんありました。80分間、リードし続けることは難しいことですし、あの試合に勝って終わりたかったし足りない部分もありましたが、アタックでは通用していたこともありました。夏で暑いとか汗で滑るとか、そういうことは分かっていたので、そういった状況でも全員が繋がっていけるというのは、やってきたことは間違っていないと自信になりました。
全員がやれると感じたと思いますし、まだまだやらなければいけないと感じたと思います。僕自身もリーグワンの決勝が終わって、短い期間で準備して自信を持って臨みましたが、それでもまだまだ足りなかったなと。チャンスは多く回ってこないので、アタックでもディフェンスでも、とにかくミスを少なくしないと思います。
◆ラグビーの始まりのプレー
――「日本代表になるためには他とは違う武器を持たなければいけないと」と言っていたその武器は出せましたか?
まだまだですね。僕自身もあの4試合で国際舞台を経験しておかないと、日本代表の選考には入らなくなってしまうと思っていました。今回の代表では、1試合だとしても使って経験をさせてくれるだろうと信じてめちゃくちゃ頑張りました。経験という部分で使ってもらえたと思うので、明確に武器を持てたというよりは、「試合に出ても大丈夫だろ?」くらいのまだギリギリのラインじゃないですかね(笑)。
――違う武器を持つということは、これからもテーマになりますか?
そうですね。日本代表に選ばれたからには、自信を持って自分の良さを出していきますが、練習ではもっともっと頑張らないと、これがここに繋がるということをもっと細かく考えながらやっていくこと、自信を持って100%で取り組まないと、あのプレッシャーの中では通用しないことが多いですね。
――改めて、自分の武器にしたいことは何ですか?
スクラムでペナルティーを与えたくないですね。国際試合でレフリーが見ているところは、マイボール側が優勢で、ディフェンス側の時に1番や3番側に回ってしまうと、ディフェンスの反則になってしまいます。そういうところを、周りにも助けてもらいつつ自分も頑張って、良いスクラムを組み続けることですね。
やっぱり身体の大きさも違いますし、セットピースは狙われます。あとはモールでもそうで、モールディフェンスのテクニック、アタックのテクニックが大切です。フィールドプレーの前に、ラグビーの"始まりのプレー"のスキルを、もっと身につけないといけないと思っています。そっちの方が大事だと感じました。
――スクラムに入る前の細かい部分を、もう少し具体的に聞きたいです
日本代表で言うと、とにかく覚悟を持ってやることです。自分たちが100%で行ける姿勢を作って、相手には70%くらいの力しか出せないところに追い込むようなイメージです。それがジャパンでの一番強いスクラムになります。そこから更に細かいことはありますが、ざっくり言うと、100対70で戦うスクラムに持って行こうとしています。相手を詰まらせる、窮屈にさせるために、1番は3番を助けるスクラムをやっています。
組み始めると、相手が嫌がって距離を取ろうとしたりします。そうなった時には、寄せ方なども変わってくるので、本当に細かくコミュニケーションを取りながらやっています。最初のレディーの段階で遅れたら、絶対にそのスクラムは取れなくなります。
◆流れを変える
――リーグワン初年度だった2022シーズンを振り返ると、どうでしたか?
先発で試合に出たいという気持ちがとてもあったんですが、プレーオフでは試合の後半で流れを変える役割で、リザーブになっていました。コーチとコミュニケーションを取って、後半からの出場でも30分くらいはプレー時間をもらえていたので、フィニッシャーの役割として、まずはスクラムでプレッシャーを掛けることを意識していました。あとはタックルやディフェンスでのプレーで、流れを変えることに徹していました。
――出来としてはどうでしたか?
準決勝のブレイブルーパス東京戦も、後半入ってすぐのスクラムで押して、ペナルティーで3点取れました。決勝の埼玉ワイルドナイツ戦でも、タックルからテビ(テビタ・タタフ)とオザさん(小澤直輝)のジャッカルもあり、スクラムでペナルティーを取って3点取れたので、流れ自体は変えられたかなと。ただ、決勝ではもう少しプレー時間が欲しかったですね。
――決勝は6点差で敗れましたが、それを覆すイメージは持っていますか?
サンゴリアスは同じ相手に負けたりすると、堅くいきがちになります。そうじゃなくて、自分たちのテンポに持って行くくらいに上げることも必要なのかなと思いました。そっちの方が相手も嫌がると思います。
埼玉ワイルドナイツはディフェンスが強くて、ペナルティーをしてしまうと3点取られるというリスクはありますが、それを覆すような攻撃力はサンゴリアスにあると思います。嫌でも相手がこっちのペースについてこざるを得ないように、「3点を取っていてもラチが明かない。トライを取りに行こう」と思わせられれば、逆に相手もミスをするようになると思います。決勝では攻め方が堅く、それも作戦だと思いますが、今後サンゴリアスの良さを出すことを考えると、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーをもっともっと求めていかなければいけないと思っています。
◆チームにいないといけない存在
――今の期間のトレーニングはどんなことをやっているんですか?
今はリハビリ期間中です。ウルグアイ戦の2日前に怪我をして、それでウルグアイ戦のメンバーから外れました。何とかフランス戦には戻れましたが、それからあまり状態が良くなくて、やっと今は「マシになってきた」という状態です。
そんな状態なので、秋の日本代表は断念して、まずは怪我を治すことに専念しようと思っています。ここで日本代表に行っておかないと、それ以降、日本代表に呼ばれなくなってしまうという気持ちもありますが、ラグビープレーヤーの人生として考えた時に、ここでちゃんと治しておかないといけないと考えています。
――急がば回れですね
怪我をしたままやっていても、パフォーマンスは戻らないですからね。痛い部分があると、どうしてもその部分を考えてしまうので。
――次のシーズンの目標は?
1番で試合に出ることはもちろんですが、チームにいないといけない存在になれるように頑張りたいですね。もっともっと必要とされるようなプレーヤーになりたいです。言葉やコミュニケーションという部分では、あまりチームの役には立たないので(笑)、そういった意味でも、グラウンド内では頼られる、頼もしい、存在感のあるプレーヤーになりたいですね。
――そうなりつつありますよね
どうなんですかね(笑)。ありがとうございます。プロップだけど、ポジション関係なしに、そういう存在になりたいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]