2022年7月29日
#807 尾﨑 晟也 『自分の理想に近づくために』
理想の姿を求め、そこにたどり着いたと思ったらまた新たな理想が生まれてくる。目に見える形で成長を遂げている尾﨑晟也選手の、情熱の根源や思考過程に迫ってみました。(取材日:2022年6月下旬)
◆ずっと準優勝
――まずリーグワン2022で準優勝という結果についての感想は?
率直な感想としては、悔しいという気持ちがいちばん大きいですね。本当に勝つ自信がありましたし、優勝できる自信があったんですが、最後に力及ばずで、2年連続で同じ相手にファイナルで敗れたということ。僕がサンゴリアスに入ってまだ一度も優勝できていなくて、ずっと準優勝ということも悔しいですね。あと、1年間通して色んなことがあったシーズンで、コロナとの戦いもチーム内での競争にも勝って、チームメイトと喜ぶことを目標にしていたので、それが出来なかったことがいちばんの悔しさですかね。
――その悔しさを来シーズンは晴らしたいですね
悔しい気持ちは、忘れてはいけない部分で、来シーズンで大事な部分だと思いますが、冷静になって、自分たちはどうすれば勝てるのか、どこをどう伸ばしていくのかを、しっかりと考えて取り組まなければいけないと思います。
――2021-2022シーズンは、そこが足りなかった部分でしょうか?
そうですね。100%だったかと言われれば、100%完璧ではなかったと思います。
――シーズンを通してパフォーマンスがとても良かったと感じましたが、自分ではどうでしょう?
個人的なパフォーマンスで言うと、自分自身も成長を感じましたし、良いパフォーマンスを継続して出せたと思っています。
――課題であったディフェンスについてはどうですか?
ディフェンスの部分は本当に成長したと思いますし、タックル成功率も上がって、8割はキープ出来ていたと思うので、その辺はとても成長したと感じています。
――リーダーシップも発揮していたように感じました
2021-2022シーズンはリーダーグループにも入って、亮土さん(中村)が不在の時にはゲームキャプテンもやらせてもらって、そういった面での成長や学びがすごく多かったと思います。
◆相手のこともイメージして取り組んだ
――すべての面で、スピードが余裕を生み出しているように感じますが、どう思いますか?
アタックに関しては、単純に自分のスピードが上がったということもありますし、自分の中ではそこで自信がついたと思います。勝負が出来るという自信をつけたシーズンだったと思います。他の部分でも、キックやディフェンスでも、練習でやっていることがしっかりとゲームで出せて、どんどん自信に繋がっていきました。
――練習でやっていることを試合で発揮するためのコツは?
タックルに関しては、自分のインディビジュアルの時間を使って、どういうシチュエーションでタックルをするか、色々なシチュエーションでタックル練習をする工夫をしたことが、ゲームでも同じシチュエーションで発揮できていたので、練習の質が上がったんだと思います。
あとは常に考えるようになりました。以前から考えてプレーしていましたが、より相手の映像を見て、イメージをより明確にして、「相手がこう来たらこうしよう」と、より具体的なところまでイメージ出来るようになったところが成長なのかなと思います。そのイメージが漠然ではなく、自分の中でゲームのイメージを持って取り組めていると思います。
――そうなるために、具体的にどういうことに取り組んだのですか?
4年目ですし、色々なことを経験してきたということもあると思います。あと相手のこともイメージして取り組んだということがあると思います。自分のスキルを出すということはもちろんで、これまでは自分のスキルを出すだけの練習をしてきたんですが、それに加えて、どういうシチュエーションか、相手の癖など、そういうところまでしっかりと考えながら出来るようになってきました。
――練習で取り組んだことが試合で発揮できると、やっていて楽しいでしょうね
そうですね。ディフェンスリーダーもやっていたので、よく相手のアタック映像を見たり、セットプレーからの相手のアタックを何度も見たり、それを繰り返していくうちに、自分の対面の選手の癖なども見るようになりました。
◆まだちょっと伸び始めたくらい
――その元となっているのがスピードアップだと思いますが、スピードアップのためには何をしましたか?
2シーズン前のS&C(ストレングス&コンディショニング)とのレビューの時に、「自分のスピードをもう少し上げたい」と相談をして、プレシーズンから取り組んできました。走り方の部分であったり、自分が走っている時に使えていない股関節の動きだったり、そういったところをS&Cと改善したことが、2021-2022シーズンでは出たかなと思います。
――分析して取り組み、それが成果として出たんですね
そうですね。もちろん練習を100%やる、自分のスキルを磨き上げるということは大前提で、その上にどう効率よく練習するか、自分の弱点や鍛えるべきポイントを絞って取り組めたことが大きかったと思います。
――まだまだスピードは上がりそうですか?
まだまだいけると思います。まだちょっと伸び始めたくらいで、やることはいっぱいあります。
――リーグワン2022でチーム初トライをあげ、毎試合でトライを取るつもりで行くと話していましたが、プレーオフを含めると5トライという結果でした
トライについては、ウイングで出場することも多かったですし、トライを取りたいという気持ちは大きかったんですが、トライを取れるシーンではしっかりと取り切れたというイメージですね。あとは自分でゲインしたり、チャンスを作ったシーンがたくさんあったので、そこは更に良かったかなと思います。
――オフロードパスも目立っていましたが、練習していたんですか?
多少の練習はしていますし、あとはDMAC(ダミアン・マッケンジー)の能力が高いということもあったと思います。練習中から信頼してこのコースに走ってくれている、味方がここにいてくれるという信頼からオフロードパスをしています。
◆まだ半分くらい
――レベルアップした状態で日本代表に参加してみて、どうでしたか?
日本代表では2試合とも15番でプレーしましたが、100%コミット出来なかったかなと感じるところはありますね。サンゴリアスでの15番の動きと変わりますし、違うポジションのように感じたので、なかなか自分の持ち味を出せず、綺麗に上手くやろうとし過ぎて、思い切って出来なかったかなと思います。逆に、代表として世界と戦う上では、細かいキックスキルや、10番に似た動きも覚えていかなければいけないと感じました。そこは自分の今後の課題として、成長していきたいと思いました。
やはり代表で生き残っていくためには、そういうスキルが非常に重要になってきます。そこは自分でも分かっていますし、自分に足りない部分だと思っているので、更なるレベルアップのためには課題として残りました。
――ポジションによって求められることが変わってきますね
ウイングであれば求められることが変わりますし、15番ではまた違うことを求められます。自分としては両方狙っているので、どちらのスキルも磨いていきたいと思っています。
――目指す姿と比較して、今の自分はどの辺まで来ていますか?
まだ半分くらいじゃないですかね。やるべきことがたくさんありますし、もっと上手くなりたいと思っているので、まだまだできると思っています。
――大きい方ではないですが、身体に対する自信はありますか?
身体を当たるということに関しては恐怖心などは持っていないので、逃げずにやっていきたいと思っています。身体が小さいながらやっていかなければいけないことだったり、正面でぶつかっても勝てない相手に対して、かわすスキルはもっとあると思うので、そういったところをバランスとりながらやっていかなければいけないと思っています。
世界の大きい選手たちと同じ身体は作れないので、それ以外で自分自身が伸ばしていけるところ、スキルであったり考える部分であったり、身体が小さくても活躍している選手はたくさんいるので、どこで勝負するかをしっかりと考えて取り組みたいと思っています。
――若手選手の参考になる成長の歩みだと思いますが、若手選手に伝えたりしていますか?
若手選手と一緒にアタック練習をやったりしますが、全部が全部、僕のやっていることが正しいわけではないので、「僕はこういう考えでやっている」ということを伝え、相手の考えも聞いた上で、押し付けるのではなく、あくまでも自分の考えを伝えるようにしています。身体のサイズが選手によって違って、必要なことはそれぞれ違うと思うので、自分はどう考えてプレーしたかを伝えています。
――そこまで考えてプレーしているのか、と気づく若手選手は多いのでは
どうですかね。自分もすべてを話しているわけではないですし、感覚的な部分もあるので、上手く伝わっているかは分かりませんが、一緒に練習をする時には自分の考えを伝えるようにしています。
――タックルについてはかなり自信がついた感じですね
以前よりは自信がつきましたし、結果の数値を見ても、少しずつ上がってきています。ただ、まだまだ完ぺきじゃないですし、自分が求める理想にはまだ遠いですね。
◆キッキングラグビーを高めたい
――次のシーズンも含めて、目指しているものは?
スキルの部分では、世界のラグビーに対応するために、キッキングラグビーを自分の中でもっと高めたいと思っています。あとは、継続して取り組んできたスピードのところは、まだまだ伸びる可能性を感じているので、もっと伸ばしていきたいと思っています。
――キッキングについては、具体的なイメージはありますか?
自分の理想というか、イメージはあります。言葉で表現することが難しいので、プレーで見せるしかないですね。ラグビーを続けている以上は、完成はしないと思いますし、成長したら、また新たな課題が見つかるので、やらなければいけないことはめちゃくちゃあります。だから面白いんだと思います。成長した時に、もっとこれが出来るという部分が見えてくるので、完成するかは分かりませんが、自分の理想に近づくために毎日練習しています。
――取り組んでいることが違っていた、ということがなさそうですね
そうですね。けど、違ったら、また変えてひたすらやるだけですね。それを効率よくやっていくということです。ただ闇雲にやるのではなく、自己分析したり、コーチと相談しながら、どこがダメかをしっかりと見て、改善するから面白いという感じです。
――コーチの指導力や、指導されたことへの自分自身の理解力も大事ですね
お互いの意見があると思いますが、「自分はこうしたい」「自分はここが出来ていない」ということを、ちゃんと言うようにしています。自分が出来ていない部分は何となく分かっていて、それをどう改善していくべきかを相談している感じです。だから、自分の中でしっかりと納得して取り組めています。
――指摘されて初めて出来ていないことに気がつくこともあると思いますが、自分で気がつける理由は何だと思いますか?
何ですかね。理想が高いんですかね(笑)。自分がこうなっているというところは何となく分かっていて、「じゃあこうした方が良いんじゃない?」と言われて試したときに、自分の中でスッと入っていく感覚があります。
――自分自身の映像もかなり見ているんですか?
そうですね。走り方のフォームやランニングの動きは、毎回映像を撮ってもらって見たり、「悪い時はこうなっているよ、良い時はこうなっているよ」と、照らし合わせながら、自分の感覚の中にも入れ込んでいくような感じでやっています。自分の中で、今までの考え方ややり方を一度捨てるようにして、「これが理想の時の走り方なんだ」とやってみて、そこで納得するかどうかですね。
――人間の身体は毎日違うと思いますが、その違いにはどう対応しているんですか?
例えば、毎日足首の硬さが違ったりしますし、自分の身体のスイッチみたいなものがあって、走る前にスイッチを入れるためのトレーニングをしたりしています。毎日、走れる状態を作るためのトレーニングをS&Cに相談して、取り組むようにしています。これが出来るようになったらコアの力が入っているとか、自分の中でこの部分がしっくりくるまで準備をしたりしています。サンゴリアスでは、自分の中でその基準を持って取り組んでいる選手は結構いると思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]