2022年7月15日
#805 金井 健雄 『サンゴリアスは世界一のチームを目指して欲しい』
サンゴリアスを離れ、新しい環境に挑む金井健雄選手。サンゴリアスにカムバックしてから現在まで、そして未来のサンゴリアスに向けて語ってもらいました。(取材日:2022年6月下旬)
◆ドアがいつでも開いている
――東京サンゴリアスを離れて今ニュージーランド、再びの海外挑戦ということになるんですか?
いや、そういう意味ではなくて、次のチームに行く前段階というイメージですね。今はニュージーランドのオークランドにいて、トレーニングという部分と、あと試合にぜんぜん出られなかったので、試合に出たいと思って来ました。
――今はオークランドのクラブチームで活動しているんですか?
そうですね。オークランドにあるグラマーテックというクラブチームで、ニュージーランドに来て翌週の試合で40分出場できました。
――いま所属しているチームは、日本国内リーグで言うところのどのくらいの位置づけになるんですか?
日本国内チームで言うと、本当に草ラグビーチームです(笑)。ただ、そこで良い選手になると、地域のラグビーチームに引き抜かれて、更にその上から引き抜かれるとスーパーラグビーになります。そういう形で繋がっていますし、良いところとしては、いつでもチームを変えられますし、場所を変えた先でも受け入れ先があるところです。例えば、今年は仕事が忙しくて一度そのチームを辞めたとしても、その翌年にはまた続けられたりもします。ドアがいつでも開いているような感じで、だから僕も来られて、チームも受け入れてくれました。そこはすごく有難いです。
――色々な国から選手が来ているんですか?
そうですね。ただ、今はコロナの関係でアイランダー系は比較的少なかったりするんですが、それなりに色々な国の選手がいます。
――以前から行ってみようと考えていたんですか?
最初にサンゴリアスを辞める前に、確か9年前くらいだと思うんですが、その時に一度留学させてもらって来ていました。
――そうすると、もうひとつのふるさとという感じでしょうか?
まあ、そうですね(笑)。いつでも帰って来れますし。
◆合理的な考え方
――慶応大学からサンゴリアスに入った時には、今の金井選手のようなイメージは無かったんですが、もともとそういうタイプだったんですか?
上手い具合に効率化と言いますか、日本で試合数が足りない部分があればこっちに来て試合をしたり、そういった中での合理的な考え方ですかね。
――その辺のスイッチが入ったのはプロになってからですか?
プロになる前に留学させてもらっていましたし、社員として仕事一本で行くのか、プロになってこれからもラグビーを続けるのかというタイミングで、そこで出した結論ですね。
――プロとしてラグビーを選んだ時の気持ちはどんな気持ちでしたか?
その時すでに31~32歳くらいで、これからどれだけ出来るかも分かりませんでしたし、すぐに終わってしまうかもしれない状況の中、残り少ないからこそエネルギーをかけてやる意味はあったのかなと思います。逆に思いっきりラグビーをやろうかなと思いましたね。
――その当時は、まだぜんぜんやり足りないという気持ちだったんですか?
気持ちが切れそうになる時に、その都度その都度で転機がありましたね。一回目はエディー・ジョーンズ(ディレクター・オブ・ラグビー)がチームに来た時に世界の広さを教えてもらいましたし、その次は留学をさせてもらいましたし、プロになる決断だったり、日本でワールドカップがあったりと、その都度に自分の中でのモチベーションを、また新しくもらっていたと思います。
◆苦しんだ4年間
――サンゴリアスを一度離れて、またサンゴリアスに戻ってくるという選手はこれまでいなかったと思いますが、その時の決断はどういうものでしたか?
もともと1年中ラグビーが出来る環境を求めていて、神戸スティーラーズにいた2年でも、春シーズンは海外にいて、日本のシーズンが始まれば日本に戻ってくるという生活をしていました。神戸スティーラーズとの契約が切れるタイミングの時に、春シーズンも日本にいることになって、そこで海外に行かずに日本にいるのであれば、まずサンゴリアスに話をするのが優先かと思って話をしました。そこでサンゴリアスから断られれば、そのまま神戸スティーラーズに残るか、他のチームを探そうかと思っていました。
――3年ぶりに帰ってきたサンゴリアスはどうでしたか?
その時は敬介さん(沢木/現 横浜キヤノンイーグルス監督)が監督3年目の時で、僕の上の選手たちであるタケさん(竹本隼太郎)、アオさん(青木佑輔/現アシスタントコーチ)、剛さん(有賀/現 静岡ブルーレヴズ アシスタントコーチ)など引退して、コーチになった人もいました。だから、ほぼ別のチームという印象でしたね。あとは、昔よりも入れ替えが激しいと感じましたね。
――自分の中で、年間通じでラグビーをやるというテーマと、サンゴリアスで試合に出るというテーマがあったと思いますが、その点はどうでしたか?
選手のレベルが高かったので、試合に出ればそれなりにプレー出来る自信はありましたが、チームとしては若い選手を使いたい意向があったと思いますし、その選手の方が動きも良いだろうし、そういった意味では苦しんだ4年間でしたね。
◆工夫がないチームは勝てなくなっていく
――サンゴリアスに戻ってきて良かったと思うことはありましたか?
苦しんで打破しようとする、そう思えることが、人間的に成長できたのかなと思います。プレー面では成長できたか分からないですけどね。ただ、現にまだプレーしているので、どこにいたらどうなっていたかは分かりませんが、その悔しさをバネに続けられている部分はあるので、そういう意味では良かったのかなと思います。
――改めてラグビーの魅力は何ですか?
ラグビーは毎年少しずつルールが変わりますし、トレンドも変わるので、ラグビーはこうすれば勝てるということが毎年違いますし、色んなチームが少しずつ色々なものを組み合わせて変えたりするので、そういうところが面白いですね。工夫がないチームは勝てなくなっていくと思うので、変わらなさそうでどんどん変わっていくところに、対応できるかできないか、そういうところが楽しかったですね。
――この後は、日本国内でプレーするチームを探すんですか?
そうですね。国内でも試合に出ることを狙っていますし、求められるのであれば、コーチングやマネジメントも含めてやっていきたいと思っています。その中でも、もちろんいちばんはプレーヤーとしてです。
◆アグレッシブ・アタッキング・ラグビーをトライを取るまでやり続ける
――戻ってきて過ごした4年間で、2022シーズンがいちばん苦しんだのかなと思いますが、どんなシーズンでしたか?
2シーズン連続、決勝でワイルドナイツに負けましたが、サンゴリアスはアタッキングチームで、ワイルドナイツはディフェンスのチームという中で、自分たちのラグビーがやり切れなかった部分があったと思います。そこに関しては残念でしたね。
――どうすれば、やり切れると思いますか?
まずはボールキープでアタックし続けること。グラウンドの中盤からは、自分たちのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーをしっかり出して、トライを取るまでやり続けることが必要だったのかなと思います。
――チームの中にいて、選手という立場ではどうでしたか?
選手同士はまとまっていて、意思疎通も取れていました。あえて言うなら、優勝への逆算のところが足りなかったのかなと思います。スーパーラグビーでもそうでしたが、クルセイダーズが最終的に決勝でコンディションをトップに持っていって、ブルーズに勝ったように、それをサンゴリアスは出来なかったと思います。
――これまでの経験から、そこは改善できる部分だと思いますか?
ぜんぜん出来る部分ですし、選手の中ではどうやれば勝てるかという部分は、それなりには見えています。選手たちは分かっていて、こうやればという考えがあるので、まだまだ成長過程というか、自分たちの中でまだ完成形が出来ていない感じですかね。逆にワイルドナイツは良い形が出来ているので、素晴らしいクラブだと思います。
◆全てを含めて世界一
――今後の自分のラグビー人生をどう描いていますか?
今まで何かの形を掴んできていないので、例えば、サンゴリアスでの100キャップであったり、リーグ戦100キャップだったり、そういうことが届きそうで届いていないので、逆に手にしていないことが続けられる理由になっているのかなと思います。そういう意味では、自分の中でゴールは見えていないです。
――肉体的にも精神的にもまだまだ続けられますか?
そう思っているからニュージーランドにも来ましたし、何を持って限界なのかという感じですね。ただ、若返った方がチームは良くなるとは思います。要所要所で、相談できる相手とかキーになる選手がいれば良いと思います。
――サンゴリアスのメンバーにメッセージをお願いします
サントリーは世界一を狙っている会社なので、サンゴリアスは世界一のチームを目指して欲しいと思っています。日本一に留まって胡坐をかいていても、すでに何度も日本一にはなっていますし、何も味わい深くないので、やるのであれば、全てを含めて世界一を目指して、日頃の行動を行って欲しいと思っています。
世界一のチームを決める大会が無いので、表現が難しいんですが、世界中の子どもたちがどんなクラブに憧れているかと言った時に、サンゴリアスと名前が出てくるようなチームになって欲しいですね。
――ファンに向けてメッセージをお願いします
勢いのあるチームで、思いっきりアタックをする姿を見て、皆さんが感動できるようなラグビーを、これからもやっていくと思うので、そこに期待して欲しいと思います。もしそれが出来ていなかったら、叱咤激励して、色々な形で応援していただければと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]