2022年7月 8日
#804 田村 煕 『もっと勢いをつけられるプレーを見せる』
ほぼ10番が定位置となった田村煕選手。チームと自分自身を冷静に見つめつつ、熱い思いで継続力、忍耐力、安定性を発揮してきたシーズンをじっくりと振り返ってもらいました。(取材日:2022年6月下旬)
◆サンゴリアスがサンゴリアスらしく
――改めてリーグワン2022決勝を戦ってみてどうでしたか?
リーグ戦ではワイルドナイツとブレイブルーパスに敗れているので1位通過という意識はなくて、僕はずっとチャレンジャーという意識でプレーオフを迎えました。決勝では、個人的には最後まで出たかったのがいちばん大きかったですね。僕が交代するまで、点差でいえば想定の範囲内(9対10)で、最後に僕が1年間こだわってやってきたことを、出し切れればという気持ちがありました。
チームが負けてしまったことに関しては、結果が全てなので、特に言うことはないですが、僕としてはサンゴリアスがこだわる部分、サンゴリアスがサンゴリアスらしく勝つためにという意味で言うと、もちろんワイルドナイツは良いチームですが、ワイルドナイツにしてやられたと言うよりは、サンゴリアスらしくない部分があったのかなと。
――ブレイブルーパスに対しては、15節で敗れた後すぐに、プレーオフ準決勝では勝ちましたね
準決勝の時は、めちゃくちゃ良い感じでした。もちろん勝つ気でいたんですが、15節ではこれまでにないくらいにボロ負けしました。そして16節のヴェルブリッツ戦がなくなり、準決勝までの間に練習以外で自信をつける機会がなかったので、選手やスタッフはナーバスになっていたと思います。
準決勝前の練習は、週の初めから緊張感があって、正直、みんなが自信を持って何かを掴んで準決勝に臨んだという感じではなかったんです。上手くいかないことの方がたくさんあって、いま振り返ると、そのまま準決勝に入って行ったと思います。
そんな中で準決勝には、サンゴリアスの良さが試合の中で成長していった感じがあって、1人1人がファイナルラグビーで気持ちの部分をしっかりと出していくということが出来ました。試合開始の笛が鳴った瞬間から、15節の負けや練習がどうだったかということは関係なく、自分で自信をつけていくというところが、やはりサンゴリアスは強いなと感じました。
――決勝はサンゴリアスらしくない部分があったということですが、どこがらしくなかったんですか?
1位と2位は全く違いますし、準決勝と決勝も全く違います。もちろん今までやってきたことが全て上手くいかなかったというわけではありませんが、トップ4に入るのも大変でしたし、準決勝に勝って決勝に行くのも大変、決勝で勝って優勝するのも大変で、そこの1つ1つの間には大きなギャップがあると思っています。
トップ4のテーブルに乗ったらメンタリティーのスイッチを入れて1つ1つの勝負で勝っていくことが大事で、そこで強さを出せたのは事実なんですけれど、決勝はそこにプラスαして、チームとしてのスタイルやこだわりを持っていなければなりません。
メンバーの23名が試合に出ない選手の分も含めて、サンゴリアスはこうするというスタイルのこだわりがあるかどうかが、大きな差を分けるところだと思います。ワイルドナイツは2シーズン勝っていて、自信があって迷いがないと思います。
◆こだわりを持ってやる
――こだわりの部分や自信という部分で揺らぎがあったんですね
別にサンゴリアスのスタイルを信じていないということではないんですが、「うゎーっ サンゴリアスのラグビーをこだわっているな」という感じでもなかったです。ただ普通に良い選手がたくさんいますし、相手からしても嫌なチームであることは間違いないと思います。
少々言い方が悪いですけど、腹をくくって、「他のチームはこうするけど、うちはここをやる」という偏りがあったら、強い時はそれが相手の嫌な部分になると思います。そういう意味で、もちろんラグビーのスタイルはありますが、チームとして自信を持っていくという意味では、普通じゃない部分も必要なのかなと思います。
――シーズンを通して普通にいったという感じですか?
まあ、そうですね。コーチがどういうラグビーをしたいかということに対して、選手がしっかりとアジャストしていって、選手は100%やったと思いますし、それをやったらまた新しいサンゴリアスの部分も見えてきたり、これはあった方が良いよねという部分もあったりして、なかなか結果は出ていないですけど、決勝に行きながら学んで、成長はしていると思います。けれど、やっぱり勝っても"らしさ"がないと見ていても楽しくないと思います。
――来シーズンで勝つためのポイントは"らしさ"ですか?
こだわりを持ってやるということですね。「そのためにこのスキルが必要」とか、「ここは大事にしなければいけないよね」とか。やはり良い選手がたくさんいるので、普通にやってもそれなりに勝つ試合は増えると思います。映像などを見て振り返ってみて、2021シーズンの決勝で負けた試合と2022シーズンの決勝を比較した時に、2021シーズンと同じミスはしていなくても勝てなかったということは、そうじゃない部分が大切だったということだと思います。
サンゴリアスが優勝している時は、付け入るところが難しいと他のチームに見られていたように、いまワイルドナイツがそういう時期で、それが全て正しいわけではなくて、自信を掴んで勝った波に乗れば、いまのワイルドナイツのようになると思うので、全てがダメと思うのではなく、全てが良い経験と捉えチームでやっていかないといけないと思います。勝ったチームが全て正解ということではなく、それが全てのチームに当てはまることではなく、チームにはスタイルがあるので、それをサンゴリアスとして受け止めた時に何が足りないかを考えていくことが大事だと思います。
◆試合に出続けるということで見えてきたこと
――2022シーズンは10番としてやり通せたんじゃないですか?
シーズンが終わってみれば、その前のシーズンよりも出場機会は増えましたが、僕は毎試合のセレクションでプレッシャーをかけなければいけませんし、メンバーに選ばれたらパフォーマンスを出して、コーチや選手に次の試合でも使いたいと思ってもらい、納得させなければいけないという気持ちで、毎週月曜日にはクラブハウスに来なければいけないと思っていました。負けて終わったということもありますが、2021シーズンとはまた違って、出場機会が増えたことは嬉しかったんですが、当たり前のことはひとつもなかったと思います。
――達成感や自信にはなりましたか?
試合に出続けるということで見えてきたこともたくさんありますし、試合に出るために最低限、高いレベルでやらなければいけないことが何かも分かっているので、そういう意味では自信になっていますね。
――見えてきた部分や高いレベルでやらなければいけない部分は具体的にどこになりますか?
まず最初は、自分の準備。ラグビーに対してもそうですし、身体と頭の部分と、後はそれをチームと繋がるためにシェアして、コーチとも繋がることだと思います。少し細かくなるところはあると思いますが、そういったところを自分の中だけで解釈してグラウンドに立ってしまうと、個人個人になってしまうので、そこを繋げる役割を僕がしていくことが大事で、それが自分のパフォーマンスにも繋がると思っています。そこがとても学んだ部分ですし、重要だと感じた部分です。
――チームと繋がる時には、最初に選手に話をするんですか?
基本的にはグラウンドで感じた率直な「ここは危ないと思う」とか、「このサインプレーはもっとこうした方が良い」とか、選手と素直な話をした後で、週が始まる前にコーチに持っていくようにしていました。それが週の後半であれば、チームのミーティングのアタックの部分でみんなにプレゼンをしたり、ディフェンスはディフェンスの人がプレゼンをしたりして、チームで同じ絵を見るようにしていました。
もちろんコーチの考えもあるので、「選手としてはこう思う」と伝えて、コーチからは「こういう側面があるからこうしている」という話があれば、それを踏まえてどうしていくかを話していっていました。
◆"繋げる"という役割
――前回のインタビューでは、少しでも疑問に思ったことは必ず解決していくという話をでしたが、それは2022シーズンでも出来ましたか?
それがグラウンドで見えているかは分かりませんが、僕はそこを意識しました。2022シーズンはバックスもフォワードも色々な選手が試合に出ましたけれど、例えば、準決勝で相手のバックファイブ(4~8番)は全員外国人に対して、サンゴリアスはほぼ日本人で、龍雅(箸本)なんてそれまで3試合くらいしか出ていないのに、準決勝はナンバーエイトで先発でした。
シーズンの前半は甲嗣(下川)が出て、後半は凱(山本)が出たりしましたけど、そんな中でも「まだ動きが分かってないな」と感じることは無かったと思いますし、そういう選手がパフォーマンスを出してくれたということは、目に見えない"繋げる"という役割が出来ていたんじゃないかなという自信があります。
――それは大変なことですよね
けれどその部分は結果には出なくて、「言われてみればそうだね」というくらいだと思います。ただそれをやらないとグチャグチャになっちゃうので、そこは自分なりにやれていたかなと思います。
――継続力、忍耐力、安定性が必要な役割ですよね
フラストレーションが溜まるところはありましたし、外国人選手はあまり細かい部分を気にしないので、「自分のパフォーマンスを100%発揮してくれ」で終わってしまうと、選手によっては不安を感じてしまう部分もあります。ちょっとした間合いであったり、サインプレーを確認してあげたり、そういう気遣いの部分をやるということには我慢は必要ですね。アンテナを張らなければいけないので。もちろん個人のパフォーマンスはそれで上がるんですが、正直に言うと、チームが大崩れしない方を優先するというか。
来シーズンは、もっと自分のプレーを出せるようにしたいという気持ちはあります。今シーズン自分のパフォーマンスが出せていなかったわけではないですが、ある程度の土台は出来たと思うので、あとはもっと自分が勢いをつけられるプレーを見せられるようにしたいと思っています。
――その土台作りも継続しないといけないですね
そうですね。その土台があってのポジションだと思います。それを掴む前は、自分のプレーをどんどんやっていて、そこで良い部分もありましたけど、いま話した部分が足りていなかったところもあります。今はどちらも分かりますし、あとは自分でシンプルにしてやっていくだけかなと思っています。
◆色んなことがあった
――色々な選手が出て選手のベースが上がったシーズンだと思いますが、ある程度はメンバーを固定することも必要かもしれませんね
2022シーズンのサンゴリアスのラグビーは、試合が始まって噛み合うまでに時間がかかっていて、勝ったんだけど大味な試合になってしまっていたこともあったと思います。カッチリ勝てた試合って、2節のヴェルブリッツ戦や8節スティーラーズ戦の後の9節スピアーズ戦だと思います。
その試合でも少しメンバーが入れ替わったりしましたが、ポジションによってはポジションの固定は大事だと思います。選手は120%やったと思うので、外から見ても分からない部分だと思いますが、その経験をしたということで、今までにない成長をしたと思っています。
――個人としてレベルアップしているように見えましたが、どうですか?
繋ぎ目となるパスの精度とか、キックの精度とか、サインプレーの出し方とか、このエリアでこのテンポで攻めるとか、そういう部分は上手くいっていないと決勝まで進めませんし、そこは自信を持っています。シーズンを通しても、ちょっとダメだなという試合はなかったかなと思います。
――いまサンゴリアスのホームページのプロフィールページを見ると、10番は1人になりましたね
一時には、ギタウ(マット)、小野晃征、ジョシュア(スタンダー)、僕の4人とかいて、「うわー」とか思っていたのが、今は1人になって、ここ数年間、色んなことがあったなって思いますね(笑)。
◆あまり考えないでやる
――今の課題は?
もっと自分の良さを出すところを、加えていきたいと思っています。これまで周りを活かすことの優先度が高くて、例えば、前が開いているのに思いっきり行けなかったりしていたと思います。それは行きたくなくてそうなっているんじゃなくて、色々なことを考えすぎているところがあったと思います。そうしなければ回らない部分もあったので、一長一短ではあるんですが、今をベースとして、これからは身体に沁みついている部分は自信を持って出来ると考えて、いい意味で、あまり考えないでやることを意識しようと思っています。
強みに立ち戻るじゃないですけど、それをやればバランスが取れると思うので、その中で上手くいかないことは絶対にあると思いますが、サンゴリアスの仲間と長く過ごしてきた時間は圧倒的なアドバンテージだと思っています。ちょっと上手くいかないことがあっても、準決勝のブレイブルーパス戦じゃないですけれど、時間が経てば思い出すという余裕を持った上で自分のプレーに集中することが良い、と思えるベースは少しは出来たと思っています。
――来シーズンは楽しみですね
2022シーズンが楽しい予定だったんですけどね(笑)。まあ、楽しくはあったんですが、もっと色んなプレーが出来るかなと思っています。ダミアン(マッケンジー)がいて色んなコンビネーションがありましたが、2022シーズンは本当にたくさんのことを学んだので、大きく変えることは無いですけど、自分のプレーとサンゴリアスとしてのスタイルをもっともっと、普通のラグビーじゃなくて、こだわりを持ってやる中で、自分のプレーを入れていきつつ、土台はキープして伸ばし続けるというシーズンにしたいと思っています。
2022シーズンで感じたのが、プレシーズンが始まって途中でオフがあったりしましたが、僕はやるんだったら100%チームにコミットしたいので、ちょっとのことも気になって、コーチにすぐ連絡したり、分析の須藤さんに「この映像を用意しておいてください」とか連絡していました。
今のオフの期間は、プレシーズンの準備をすることが大事なんですけれど、もう一度冷静になって、チームの始動時期、開幕戦時期、そして決勝の時期を頭に入れながら、プレシーズンが始まる今のオフ期間は、準備はしつつ何もしない、ちょっと物足りなくてやりたくなるような準備にしておかないと、と思っています。僕の性格上、そう考えないと、今から色々と準備をし過ぎちゃうんです。
そこが2022シーズンは上手くいきました。もちろんプレシーズンとしてのフィットネスのターゲットなどがあってその準備はしますけれど、11月くらいから練習試合が始まると思うので、それまではあまり色々とやろうとし過ぎないようにします。12月とか1月にピークを迎えてしまうと、5月まで持たなくなってしまいます。それが2022シーズンは上手くいって、良いスタートを切れたので、今の時期に何もやらないということも大事だと感じています。
もう少ししたら、しっかりとレビューを全部して頭を整理して、こだわる部分を決めて、どこをやる、どこをやらないということを決めてから、オフに入ることが大事かなと思っています。
――日本代表についてはどうですか?
足りない部分があるんだと思います。もちろんチャンスがあれば行きたいですし、どの監督、どのコーチにも評価をされるようなパフォーマンスをしなければいけない、もっともっと足りない部分があるというモチベーションがあります。
でも日本代表に呼ばれることを100%の目標でやっていたら、ガス欠しちゃうと思います。サンゴリアスで試合に出られているのは自信になってはいますけれど、サンゴリアスを優勝させられていないというのが結果ですし、そういう意味で色々とモチベーションは作りやすいですし、プラスに働かせられる要素ばかりなので、日本代表はあまり気にしていないです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]