2022年7月 1日
#803 北出 卓也 『成長するための決断』
サンゴリアスの中でもレギュラー争い激戦区のひとつであるフッカーのポジションで、7シーズン戦ってきた北出卓也選手。移籍を選んだ理由、サンゴリアスへの思い、そしてこれからの展望を聞きました。(取材日:2022年6月中旬)
◆何が自分のプラスになるのか
――2022シーズンをもって移籍することになりましたが、その決断に至った経緯を教えてください
2022シーズンの最初の頃は試合に出られていなかったので、試合に出られていない状況の中で、何が自分のプラスになるのかと考えていました。久しぶりに試合に出たのが、第8節神戸スティーラーズ戦で、後半からの出場でした。試合をすることがとても楽しくて、試合に出る前の緊張感や高揚感、勝った後にみんなで喜んでいる時とか、練習で取り組んだことが試合で出せたこととか、それがとても嬉しかったんです。
それで、いま自分に必要なのは試合に出ることだと思いました。これから成長していく上で、試合に出ることがいちばん必要だと思って、出場機会が増える選択をした方が良いんじゃないかと思いました。
――もっと出場機会があったなら、移籍という選択肢はなかったかもしれませんか?
そうですね。けれど、最後の5~6試合は出場できていたので、やっぱりサンゴリアスのことが好きですし、愛着もありますし、試合に出られている時にはサンゴリアスで続けたいなという気持ちが出てきました。
ただ、振り返った時にここ3年くらいで10試合程度しか出場できていなくて、やはりプロとしてやるからにはラグビーでチームに貢献したいと思い、それが出来ていなかったので、移籍しようと思いました。
◆常に準備してチャンスを待っていた
――その決断はプロであるからこその決断ですか?
そうですね。チームへの貢献の仕方は色々あると思いますし、試合に出ることが全てではないですが、僕の考えとしては、プロでやる以上は試合に出てラグビーで貢献しなければ意味がないと思っているので、やはりプロになったからの決断だと思います。
――出場機会が多くないけれど、自分自身の状態については自信があるということですね
そうですね。自信があります。ずっとコンディションが良いと思っていて、「次の試合はメンバーで行く」と言われた後にコロナの影響で試合が無くなったりしてしまい、なかなかチャンスが回ってこなくて、そういう時期はモヤモヤしていました。
試合に出られればある程度のパフォーマンスを出せるという感覚がありましたし、そう感じたということはコンディションが良いということだと思います。出場した試合でパフォーマンスを出せたから出場機会も増えたと思いますし、そういった意味では2022シーズンのコンディションは良かったですね。
――久しぶりにコンディションが良いシーズンで、それを発揮する場を求めたということでしょうか
そうですね。焦ってしまうところではあると思いますが、そういう経験もしてきたので、淡々と常に準備をして、チャンスを待っていたという感じですね。
◆ラグビーにかける時間
――東京サンゴリアスでの7シーズン、いちばん印象に残っていることは何ですか?
やはり優勝した瞬間ですね。1年目の時はある程度、試合に出られて、2年目では全く試合に出られなくなって、「このままだったらヤバいな」という気持ちが自分の中で膨らんで、ラグビーに対しての意識などが、2年目から3年目にかけて大きく変わり、その取り組みが結果として出始めたのが3年目のシーズンでした。そして、最後までレギュラーとして試合に出られて優勝できたので、とても自信になりましたし、優勝の達成感など、あの瞬間は最高でした。
――改めていま考えると、2年目から3年目にかけて、どこがいちばん変わったと思いますか?
ラグビーにかける時間ですかね。より自分で何が必要かを考えました。やらされるのではなく、自分で考えて行動するようになったと思います。そういう姿勢の変化があったと思います。
――優勝から離れている期間や出場できていない期間は、どういう気持ちでしたか?
やはり選手として、出場できていない期間はモヤモヤすると思います。ただ、そこは自分ではコントロール出来ないので、試合に出るための準備をするしかないと思います。優勝に関しては、3年目の時以来できていないので、そういう悔しさは残っていますね。
◆自分にベクトルを向けて行動する
――中心選手としてこのチームに欠かせない存在になっていたと思いますが、自分自身としてはどう考えていましたか?
あまりそういう意識はなかったですね。ただ、練習への取り組みや、試合に出られていない時にどういう態度で過ごすかなどは、先輩たちを見て学んできました。大志さん(村田)や小澤さん(直輝)とか、そういう上の人たちの態度を見て学んできたので、自分もここ2~3年はあまり出場できていませんでしたが、口で伝えるというより、自分にベクトルを向けて行動するということが、少しでも周りに伝われば良いなと思っていました。
そういう先輩たちがこのチームの文化を作り続けてきたと思いますし、その姿を見て学んできましたし、それが下の世代にも続いていけばいいなと思っています。サンゴリアスはそうなっているから、強いチームであり続けられるのだと思っています。
――そこが東京サンゴリアスの良さであったり魅力だったりしますか?
他のチームのことは知らないですが、練習への取り組みなどは、間違いなくトップだと思います。試合に出られていないメンバーには必ずフラストレーションがあると思いますが、そこで腐ってしまったりやる気のない態度を出す選手はいません。難しい状況にいる選手はたくさんいると思いますが、一緒に練習をしていてもとても頑張っていて、それで僕も刺激をもらいました。
そういうメンバーが試合に出た時には、僕もめちゃくちゃ嬉しかったです。逆に僕が試合に出た時に「頑張ってください」という声掛けがとても嬉しくて、自分が活躍したいということよりも、そういうメンバーに何か伝わるようなプレーをしようと心掛けていました。そういうところが、このチームの素晴らしいところだと思っています。
◆サンゴリアスから来た奴
――移籍先のチームでも、そこをテーマに取り組みますか?
そうですね。まずは「サンゴリアスから来た奴」という見られ方をすると思いますし、態度などは常に見られると思うので、より一層しっかりやらなければという気持ちです。
――移籍先ではどんなプレーを目指していますか?
僕が加わることによってスクラムが強くなったとか、ラインアウトの成功率が上がったとか、そういうところは目に見えると思いますし、そこは貢献できるところだと思っています。フィールドプレーではシステムも変わると思うので、まずは新しいチームのやりたいことを理解して、100%やることが大事だと思います。
――日本代表については今どう考えていますか?
選手である以上は選ばれたいと思っています。代表の合宿に参加した時に、ジェイミー(ジョセフ/日本代表ヘッドコーチ)からは「良い選手と分かっていても、試合に出ていないと呼ばない」と言われていたので、試合でアピールしなければ呼ばれないと思っていますし、新しいチームに移ってしっかりと試合に出てパフォーマンスが出せれば、また近づけるのかなと思っています。
◆試合をする時にいちばんワクワクするチーム
――東京サンゴリアスのメンバーに向けてメッセージをお願いします
楽しい時間も苦しい時間も一緒に過ごしてきたメンバーなので、とても寂しさはあります。成長するためにこの決断をしましたし、これからは敵として戦いますが、自分自身はサンゴリアスと試合をする時にはワクワクすると思います。いちばん敵にしたくない相手ですが、試合をする時にはいちばんワクワクするチームだと思いますし、そこでバチバチにやり合えたらと思っています。
――流選手がインタビューで「一度サンゴリアスで一緒にプレーした選手は、いつまでもサンゴリアス・ファミリー」ということを言っていました
そうですね。そう思っています。
――ファンに向けてメッセージをお願いします
サンゴリアスに7シーズン在籍して、いつもファンの皆さんから応援されていると感じていましたし、声を掛けてくれることがとても嬉しかったです。ファンの皆さんの前で試合が出来たことは、僕にとってとても貴重な時間でした。
2022シーズンも平均観客数はサンゴリアスがいちばんと聞きましたし、そういう意味では、ファンの皆さんに支えらえれているチームだと実感しました。僕は移籍しますが、また会場で会った際には声をかけていただきたいですし、これからもサンゴリアスの応援をよろしくお願いします。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]