2022年6月24日
#802 村田 大志 『成長し続けたい』
サンゴリアス11シーズン目を終え、惜しまれながら引退した村田大志選手。プレーはもとより精神的な支柱としてチームに貢献してきた村田選手の心境を聞きました。 (取材日:2022年6月中旬)
◆100%で取り組める環境
――引退を発表して、今の心境は?
納会までは何となく寂しいなと思っていたんですが、納会でみんなの前で話して、自分の中で区切りになったのか、もうスッキリして、次に向かってという感じではあります。
――納会ではどんなことを話したんですか?
まずは現役だけじゃなく、僕よりも先に引退された方も含めて、本当に皆さんのおかげで成長できたので、その感謝の気持ちと、あとは自分自身ももっともっと成長して、みんなを助けられるような人に成長していきたいと話しました。
――サンゴリアスにいて、いちばん成長したところはどこですか?
人間的にですかね。もちろんラグビー選手としてはそうですが、社会人として成長できたかなと思います。大学の時は本当に子どもだったと思うので、それをある程度、大人の男性として育ててもらったと思います。
――ラグビーと社業の両方で?
そうですね。自分の場合は社業でもそうだと思います。ラグビー関係以外の方と接する中で、社会の一般常識などを学ばせていただきました。ラグビー部の外の方と交流する機会があったことで、世間との感覚のずれはなかったと思いますし、その中でラグビーでは日本一を目指して100%で取り組めるという環境は、自分にとって本当に有難かったです。
◆サンウルブズの影響
――選手として第一線でプレーしてきたタイミングと、ラグビーが急激に日本中に認知された時代が重なりましたね
エディーさん(ジョーンズ/ディレクター・オブ・ラグビー)が日本代表の監督になって、2015年のワールドカップで結果を出したあたりから、日本のラグビーが変わり始めたと感じていて、そして2019年の日本大会でまた結果を出して、ラグビーというスポーツ自体のステータスはかなり上がったと思いますし、ラグビーのレベル自体も上がっているとヒシヒシを感じていました。
――そういう中でラグビーをやっていることは楽しいことでしたか?
どうなんですかね(笑)。同じチームメイトがワールドカップに出て活躍していたので、素晴らしいなとは思っていましたが。
――日本代表が結果を出したことで日本のリーグのレベルが上がったのか、日本のリーグのレベルが上がったから日本代表が結果を出せたのか、どちらだと思いますか?
そのどちらの理由もあった、それに加えて、サンウルブズの影響がかなり大きかったと思います。日本代表に絡むメンバーが、スーパーラグビーというレベルで戦う機会があったので、あそこでひとつレベルが変わっていったように感じます。
今は特にコロナ禍で、国内リーグの試合数もかなり絞られていましたし、世界を見ても、ヨーロッパのラグビーの方が圧倒的にパフォーマンスが良いなと感じるので、コロナ禍でのゲーム数が直結しているかなと思います。スーパーラグビーもヨーロッパと比べると、盛り上がりに欠けていると感じますね。
◆ノンメンバーといる時間
――前回のインタビューの言葉「人生は修行の連続」は印象的でしたが、今シーズンもそうでしたか?
昨年よりは気は楽だったかなと思います。ある程度は「今シーズンで終わり」ということが分かっていて、ゴールが見えている中で、とても自然体でサンゴリアスにいられたかなと思います。昨シーズンは苦しいな、ラグビーが辛いなと感じる時期がありました。今シーズンに関しては、ラグビーが辛いと感じることはありませんでした。
――そういう意味では良いシーズンでしたか?
そうですね。今まで以上に引いた立ち位置でチームを見たり、ノンメンバーといる時間が多かったです。やっぱりノンメンバーといる時間の中で、チームには色んな考えの人がいて、ひとつになることの難しさであったり、言葉をかけるタイミングの大事さとか、そういうことが改めてよく分かったので、とても良い経験だったと思います。
――ノンメンバーと一緒にいることで感じた、ノンメンバーとメンバーの境は何でしょうか?
やっぱり試合に出た時に、結果を出し続けなければいけないと思います。ラグビーは練習で評価されることがかなり少ないですし、ここ数年は練習試合もなかなか組めなくて、「試合に出たら結果を出せる」とアピールする場が少なかったので、そういう意味ではノンメンバーはかなりストレスが溜まっていたと思います。それでも、龍雅(箸本)も、泰雅(尾﨑)も、ゲームに出たメンバーが結果を出してメンバーに入っていく姿は、本当に嬉しかったですね。
◆記憶に残る試合
――リーグワン2022の第4節ブラックラムズ戦が、結果的には引退試合になりましたが、この試合はどうでしたか?
不測の事態というか、ギリギリメンバーが組める状態でメンバーに入ったので、実力でメンバーに入ったわけではなかったんですが、ゲームに出るととても楽しいと思いました。改めてゲームで勝つか負けるか分からない中でプレーするドキドキ感、それにプラスして、勝った時の嬉しさを久しぶりに感じたので、とても楽しかったですね。イワ(祝原涼介)のおかげで(笑)。
――あの祝原選手のプレーは初めて見ましたが、長いラグビー人生の中であのようなプレーは見たことありましたか?
ないですよ(笑)。笑っちゃいました(笑)。しかもその後、僕がスクラムを組みましたからね。
――あの試合は、勝った試合の中で本当にギリギリの試合でしたね
そうですね。これまでは最後に追いつめられるけど逃げ切るということはありましたが、最後にあのような形で逆転して勝ったことは、あまり記憶にないので、とても記憶に残る試合になったと思います。
――祝原選手は「偶然です」と言っていましたが、「持っているなぁ」と感じました
偶然なんでしょうけど、あそこでちゃんとボールが取れるということは、相当集中していたんだと思います。
――試合の時には、現役最後と思って試合をしていたんですか?
さすがに、これが最後と思わないように、毎試合でメンバーに入るために練習をしていたので、あまり深くは考えていませんでしたが、「これが最後かもな」ということは多少はあったかもしれないですね。
――そういう試合が、自分にとっても良い試合になって良かったですね
そうですね。負け試合じゃなかったので。
◆最後は届かなかった
――中村キャプテンへのインタビューで、仲間の肩を借りて号泣という報道が出ていましたがと訊ねたら、「たぶん嘘です(笑)」と言っていました。どうでしたか?
号泣していましたよ(笑)。
――彼の気持ちが分かる感じでしたか?
あいつがキャプテンで苦しんでいるのもよく知っていましたし、怪我でなかなかパフォーマンスが上がらない中で、あいつはずっと強気ですけど、それでも不安を感じている部分はあったと思うので、本当に1年間、よく頑張ったなと思って、「お疲れ」って言ったら泣いてました(笑)。
――昨シーズンも含めれば、2年間になりますよね
そうですね。僕はキャプテンをやっていないので、流も亮土もそうですが、キャプテンのプレッシャーは、やったことがある人にしか分かりあえないというか、自分の理解を超えたところにあると思うので、本当に大きなストレスだったんだろうなって思います。
――結果的には、決勝で同じワイルドナイツに敗れました。結果としては変わりませんが、昨シーズンのチームと今シーズンのチームとを比較すると、今シーズンの方が良いチームになっていましたか?
1年間のプロセスが、ぜんぜん違いましたね。今シーズンの方が苦しかったですね。昨シーズンは比較的ずっと良い試合が続いていましたし、チームが停滞しているというイメージの時期が少なくて、ただ決勝で勝ち切れなかった、ワイルドナイツにやられたというシーズンでした。
今シーズンに関しては、チームとしてワイルドナイツの方が上だなとずっと感じていましたし、それに対して、どうにか追いつきたいと、本当にみんなで試行錯誤しながら頑張って、頑張って、知恵を出しながら頑張ったけど、やっぱり最後は届かなかったというシーズンでしたね。
――苦しさに加えて、悔しさも大きいですか?
絶対にあると思いますね。みんなの顔を見ても、悔しい、けど勝てなかったという。今までも優勝できないシーズンは悔しかったと思いますけど、いつにも増して、本当に悔しそうな表情の選手が多かったと思います。
――村田選手も悔しかったですか?
もちろん悔しかったんですけど、ノンメンバーである以上は、メンバーを心から応援していましたし、結果に対して何かを言う立場にはないと思うので、終わった後は「本当によく頑張ったな」という気持ちでしたね。本当に、みんな苦しかったと思うので。
――今シーズンは試合にいろいろなメンバーが出ましたね
メンバーを固定できなかった理由は色々あると思うんですね。コンペティションの中で、同じくらいの力の選手がたくさんいたということもあると思いますし、コロナで急に出られなくなったということもありましたし、もちろん怪我の状況もありました。その辺は色々な理由があると思いますが、サンゴリアスはどちらかと言うと、メンバーを固定してチームを成長させていくというチームだったと思います。よく捉えれば、そこに繋がるシーズンだったと思います。
◆前向きに次のステップに進みたい
――サンゴリアスでやってきて、もっとも印象に残っているのは?
やっぱりいちばん印象的なのは、今シーズンですかね。自分にとって特別なシーズンになることも分かっていましたし、本当に悔いが残らないようにと思って、ずっと日々やってきました。そんな中で結果は残りませんでしたが、亮土も言っていましたけど、パフォーマンスだけじゃなくチームとしては本当に成長したと思いますし、それを自分は選手でありながら、少し引いた位置で成長を喜びながら見られたので、自分にとっては今シーズンはとても印象的でした。もちろん優勝したシーズンも印象的ですけどね。
――少し引いた位置で見ていて視野が広がったと思うので、この状態でもう1シーズンやりたいとは思いませんでしたか?
決勝で負けた次の日くらいは、「もう1シーズンやったら楽しいかな」と一瞬は思いましたけど、更にその次の日には、「もういいや」と思っていました(笑)。
――そう感じたということは、やり切ったと感じたということですか?
やり切ったということもありますし、自分の今の能力を選手として使うより、自分の体力も気力も次のステップに100%使っていきたいという気持ちの方が強くなっていたので、前向きに次のステップに進みたいと思っています。
――そう言われると、次のステップは何だろうと聞きたくなります
ハハハ(笑)。次のステップだけじゃなくて、これから人生、どうなっていくか分からないですけど、ずっとサンゴリアスのサポーターではありたいと思いますし、ラグビーに直接関わらない立場になったとしても、サンゴリアスの力になれるような立場に向けて成長していきたいと思っています。
◆自分に満足してはいけない
――改めて、サンゴリアスの良さは何だと思いますか?
良さか・・・・・・なんだろう。自分の中で良さも変わってきていると思います。年齢が変わってきているということもあると思いますが、サンゴリアスに入った時の監督はエディーさんで、まず「プロフェッショナルとはどういうものか」を学んで、それが自分の中で転機になりましたし、それを教えてもらったサンゴリアスというチームにとっても感謝しています。
――社会人になってすぐにプロフェッショナルを学んだということは財産ですよね
そうですね。今のエディーさんを見ても、今もエディーさんは成長しようとしていますし、その姿を見て、「自分はまだまだダメだな。まだまだ成長しなければいけないな」と思わせてもらえるので、あの人はプロフェッショナルだなと、会うたびに毎回思います。
――これからも他の何かしらのプロフェッショナルを目指していきますか?
そうですね(笑)。もちろんどんなところに行っても、プロフェッショナルな姿勢を持たないと、成長しないと思いますし、自分自身がつまらなくなると思うので、自分がこれから働く場所で、その姿勢は大事にしていきたいと思います。
――プロフェッショナルとは?
エディーさんに教えてもらったことは、成長し続けたいという姿勢を忘れないことですね。「自分に満足してはいけない」ということを常に言ってくれるので、それは大事にしなければいけないと思っています。
◆早く成果を出したいと思っていた
――指導者の道は考えていませんか?
ラグビーの指導者は、僕には向いていないと思います(笑)。絶対に我慢できないです。指導者は待たなければいけないじゃないですか。それが僕には出来ない気がしています。
――選手としては、成果がすぐに出るタイプでしたか?
いや、そういうわけじゃないですけど、せっかちなので、早く成果を出したいと思っていましたね。良くても悪くても、早く結果を出したいと。
――せっかちには見えないですよ
どちらかと言うと、せっかちだと思いますよ。あとは、僕はどちらかと言うと感覚でやるタイプなので、自分の感覚を言葉に落とし込めるのか、そこはあまり自信がありません。
――興味もありませんか?
ゼロではないですけど、もしコーチをやるのであれば、中途半端にはやりたくないので、とことんやりたいと思います。なので、中途半端になりそうなので止めておきます。
――では、サンゴリアスのメンバーに対してメッセージをお願いします
みんなのおかげで本当にラグビーをやるのが楽しかったし、みんなのおかげで自分自身が成長できたと思うので、本当に感謝しています。ありがとうございます。みんなはサンゴリアスでプレーを続けると思いますが、自分の限界を決めずに、とにかくサンゴリアスでチャレンジしてもらい成長して、サンゴリアスというクラブの成長にも貢献していって欲しいと思います。
――ファンに向けてのメッセージをお願いします
本当に長い間、応援していただいてありがとうございました。本当にみなさんの応援が力になりましたし、何回も優勝の瞬間をファンの皆さんと分かち合えたので、本当に幸せな時間を経験することが出来ました。これからは、どちらかと言えば、ファンの皆さんと近い立場になっていくと思うので、今度は一緒にクラブの成長を見守っていければと思っています。楽しみにしています。
――来シーズンはいけますかね?
行くしかないんじゃないですか(笑)。もう会長も待ってくれないですよ(笑)。あの人は本当にすごい人で、サンゴリアスのことが大好きですし、サンゴリアスの成長をいちばん願ってくれている方だと思います。ここ何年も胴上げしてあげられていないので、早くまた宙を舞ってもらいたいと思っています(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]