SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2022年6月17日

#801 小澤 直輝 『もっと鋭く研ぎ澄まされてクリアにしていかないと勝てない』

試合では常に自分の役割を果たし続けているというイメージの小澤直輝選手。その安定感の次にあるもの、目指しているものは、個人として、チームとして、何なのでしょうか?サンゴリアスを代表するひとりの選手のスピリットに触れてみました。 (取材日:2022年6月上旬)

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◆態度で示す

――2021-2022シーズンを振り返るとどんなシーズンでしたか?

上手くいかないこともたくさんあって、亮土(中村)キャプテンを含め、各カテゴリーのリーダーたちがシーズンの後半では、チームがやるべきことをどう選手たちに落とし込んでいくかということがテーマとなっていたと思います。その点でしっかりと話し合いが出来て、選手が主体的に動けていたシーズンだと思います。

――昨シーズンも選手が考えて動くということを感じましたが、今シーズンは更にそこが進化したんですか?

動かざるを得ない状況だったかなと。新しいことにチャレンジする時って、やろうと決めたことをやり切らないと、その次が見えてこないと思います。半信半疑のまま、「これが正しいのかな」と思って行動すると中途半端な結果しか生まれません。結局は、やろうと決めたことに対して腹をくくってやってみれば、それでダメでもその次が見えてきます。そういう意味では、決めたことをやるという部分では、選手がまとまって良かったのかなと思います。

――相当な団結力が必要ですね

今までは練習前に話をして、ミーティングで落とし込んで、練習で実行するということを、個人でもチームでも繰り返すという感じでした。シーズンの最後の方はそれにプラスして、練習が終わった後にグラウンドで集まって、「この試合はこういうプランで行こう」ということを選手同士が話し合っていたので、それは今までになかったと思います。

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――新しいことをやっていることに楽しさはありましたか?

そうですね。楽しさはありましたね。

――小澤選手はチームの中でどのリーダーを任されていたんですか?

いや、僕は平社員です(笑)。

――リーダー陣の大変さは感じましたか?

ありましたよ。僕や大志(村田)は長いことサンゴリアスにいますし、もちろん大事な時には話をしますけど、色々な人が話し過ぎると分からなくなってしまうので、話をするのは基本的にはリーダーに任せていました。リーダー陣は、ラグビーにかける時間は多かったと思います。

――ベテランという立場としてはどういうことを意識していたんですか?

僕は基本的に態度で示すということしかないと思っているので、練習含めてグラウンドに立ち続けて、相手に身体をぶつけて、プレーで後輩たちに何かを伝えられればと常に思って取り組んでいました。
チームワークについては、もちろん気になることがあれば、個人とも話をしたりしますし、「今は話さない方がいいかな」と思う時には、違う選手に、例えば、大越元気に話をしたりしていました。大越元気は僕よりもぜんぜん年下ですけど、チーム全体のことをとてもよく見てくれているので、逆に僕から元気に「最近、あの選手はどうかな?」と相談したりしていました。

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◆チャンスが来た時のために準備

――今シーズンはレギュラーをあまり固定せず、多くの選手が試合に出場したと思いますが、そういう状況の時のチームはどうですか?

シーズンを通して、チャンスは多くの選手にあったかなと思います。その反面、最後まで「これで行く」というところまでは行けなかったですね。もちろん怪我人の状況などもありましたが、不思議と優勝する時って「これがベストだな」っていうメンバーが揃いますし、怪我があるスポーツですが、最後は怪我がなくベストメンバーで戦い抜けるんですよね。過去を振り返ると、優勝した時ってそうだなって思います。

けれど、結局サンゴリアスは、誰が出てもサンゴリアスのラグビーが出来ることを意識していますし、優勝している時も今も、それは変わりません。だから、あまり試合に出られていない選手は、チャンスが来た時のためにそれに向けて準備をしますし、それがあるから何かのきっかけでチャンスが来た時に、活躍できるかどうかだと思います。そこのスタンダードはブレていないと思います。

――選手が主体で動くということは、これまでと比べて、どこが大変で、どこが良かった部分ですか?

選手が主体的に動くことは、ぜんぜん悪いことではないと思っています。言われたことに対して機械的に忠実に動くということは、サンゴリアスの選手って基本的に出来ますし、それが上手いと思っています。なので、そこにさらに選手が主体的に動くことが組み込まれれば、より良いものになっていくと思っています。今シーズンはその選手が考える枠の問題で、その枠の大きさのところだったかなと思っています。

――その枠がしっかりと固まれば、今シーズンの経験が活きていますね

そうですね。やっぱり経験は必要だと思います。昨年、日本代表に参加して新しい経験をしましたが、本当に細かいところまで選手同士で話し合っていますし、ポジションごとや、フォワードとバックスというグループでも、「こうしたらもっと良くなるんじゃないか」という話をしているので、選手が主体性を持って、どうすれば良くなるのかを考えることは重要だと思います。

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◆もっとアグレッシブ・アタッキング・ラグビーを

――結果としては、また決勝で負けてしまいました。主体性を持って取り組んだ分、とてつもなく悔しいじゃないかなと思いますが

本当にそうですね。昨シーズンと同じ相手に決勝で負けましたし、本当に悔しいですね。

――ワイルドナイツに対して、こうすれば良くなるというイメージは持っていますか?

それについても選手同士で話していて、決勝の前から「ワイルドナイツに対して、こういうアタックをすればハマるよね」ということを、アタックのリーダー中心にコミュニケーションを取っていましたし、「だから、ボールのもらい方はこうしよう」とか話し合っていました。リーグ戦でも負けていて、そこでの反省もありましたし、対策は練っていました。

――それが来シーズンに持ち越された感じですか?

そうですね。難しいところではあるんですが、決勝ではいかに規律を持ってプレーして、少ないチャンスをものにしなければいけないか、なんですね。ボールを蹴り合うことが悪いことではないんですが、少ないながらもチャンスゾーンに入った時に、もっとアグレッシブ・アタッキング・ラグビーというスタイルを出した方が良かったんじゃないかなとは思いますね。

――そのスタイルを更に進化させることがテーマですね

今はどのチームも、オーソドックスなラグビーをやっていると思います。僕は戦術を考えられないですけれど(笑)、サントリーラグビー部が創部された時に掲げた「サントリーがラグビーやるならユニークなチームにする」という部分があります。そのユニークな部分が「攻めて攻めて攻める、アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」だと思うんですよ。そのユニークさを、もう一度取り戻したいという気持ちがあります。

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◆ベストタックラー賞

――リーグワン2022では、ベストタックラー賞を獲得しましたね

ラッキーです(笑)。ポジション的にも嬉しい賞です。バックローというポジションですし、タックルは外せない部分ではありますが、個人的なテーマはブレイクダウンだったので、嬉しい賞ではあるんですが...(笑)。それだけ接点の近くにいられたということかなと思っています。

――タックルというプレーは、ラグビーのひとつの象徴的なプレーで、心・技・体の全てを備えていなければ出来ないプレーですよね

褒められすぎて恥ずかしいですね(笑)。タックルにおいてもひとりでやるものではなくて、横とのコネクションを崩さずに行うのがディフェンスだと思うので、そういう意味では外国人選手にも助けてもらいながら、タックルの確率も上げて行けたのかなと思っています。

――アタックが注目されますが、ディフェンスが出来なければアタックにも繋げられないですよね

ディフェンスの目的はアタックをするためにボールを取り返すことで、タックルもブレイクダウンも自分のチームにボールを取り戻すためにやっていて、チームにとってもディフェンスは必要な部分です。そこで多少なりともチームに貢献できたことは良かったと思います。

――ディフェンスについては、チーム全体としても機能したと思いますか?

まだまだ弱い部分はあると思います。

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――試合のメンバーが変わることで、横とのコネクションは難しくなりますか?

それぞれに特徴がありますからね。そこで正直になってくれればやりやすくて、「僕はこれが得意なので、これをやります」「この部分はどちらかと言えば苦手なので気を付けておいてください」ということを、お互いに理解できていれば良いと思います。試合のメンバーによって、アタックでもディフェンスでも、その選手の得意、不得意を判断して周りが意識することが、チームのコネクションを継続させる上では重要なことだと思います。

苦手なことは誰にでもありますし、その選手にずっと苦手なことをさせる必要はないと思います。そこを割り切って出来れば良いと思います。得意なこと、苦手なことがはっきりしている選手には、得意なことを発揮してもらえればいいと思っています。身体が強い選手はアタックでは身体を当てて前に出れば良いと思いますし、ディフェンスでも低く入らず高く入ってもそのまま抱えて押し戻せばいいと思うので、そういうひとりひとりの能力を理解しながらやることが大切かなと思います。

外国人枠の関係で、辻や小林は出場機会が増えて成長したと思います。シーズン最初から、ロックで日本人選手を使うことになるだろうなと、みんなが分かっていて、そこで成長しなければいけないという気持ちもあったんだと思います。

――自分自身もまだまだ成長過程と感じていますか?

自分自身のことをとても伸びしろがあるとは思っていないですけど、経験でカバー出来ている部分、読みや余裕というところがあるということと、あとは苦手な部分を出来るだけ減らそうとはしています。これから良い部分がガンガン伸びるとは思っていませんが、そういう状況でこれから自分を成長させていくためには、良い部分をしっかりと出しながら、自分の苦手な部分を減らしていくことだと思います。今の年齢くらいになると、そういうことをやっていかなければいけないかなと思っています。

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――苦手な部分を減らすとは、どういうことをしていくんですか?

もちろん練習もしますし、プレシーズンではそこにチャレンジもしています。あまりオフロードはやっていなかったんですが、プレシーズンの練習試合などではそういうプレーにもチャレンジしたり、練習そして練習試合で繰り返しチャレンジしていくことで、公式戦でも使えるようになっていくかなと思っています。

――過去にはチームであまりオフロードをやらないという時期もありましたよね

もちろん上手く繋がればチャンスになるプレーではあると思います。繋がらなければボールを失うことにもなります。けれど、今のラグビーでは特にバックスの選手は必須のスキルくらいになっているかもしれないですね。フォワードが外側に立つチームも出てきていて、そういうところではオフロードはチャンスが作れるのかなと思っています。これまではソニービル・ウィリアムズ(元ニュージーランド代表)くらいしかやらないくらいのオフロードパスも、今は多くの選手がやったりするので、ラグビー自体も進化して変わってきているのかなと思います。

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◆足りないのはインパクトの部分

――2023年にはフランスでラグビーワールドカップがありますが、そこはターゲットにしていますか?

考え方としては慎太郎(石原)と似ていると思います。今はサンゴリアスで優勝したい気持ちがすごく強くて、僕なんかは歳も歳なので、そこでよっぽどパフォーマンスが良ければ声もかかるのかなと思います。

――今シーズンのパフォーマンスは安定していたように感じました

安定性という部分は良い部分だと思うんですが、そこで僕に足りないのはインパクトの部分で、そこは課題でもありますね。ただ、僕のスタイルとしては、インパクトプレーを狙いにいく必要はないと思っているので、次のシーズンでの課題ということでもないのかなとは思います。

――安定性があると、良い時も悪い時も楽しめるんじゃないかなと思いますが、どうでしょうか?

そうですね。ダメな時は何がダメかがすぐに分かりますし、安定性は継続させていきたいと思っています。チームとしては、ファイナルに向けて、もっと鋭く研ぎ澄まされていかなければいけないと思っていますし、フワッとした状態で試合に入らないことがすごく大切だと思うので、もっと鋭くしていかなければいけないかなと思います。明確にしてもっとクリアにしていかないと、勝てないと思いますね。何も考えずに試合に臨めるくらい、みんなが理解して、不安なく集中して試合に臨むことが、リーグ戦でも必要ですが、特にファイナルになると大事かなと思います。

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――それはプレシーズンから積み上げていくものですか?

積み上げていくものだと思います。上手く表現できず感覚的になってしまうんですが、「これで戦うんだ」というものを形にして、それに対して自信と確信を持って臨む感じですね。今そのベースはあると思うので、チームとして作り上げていかなければいけないと思います。

――そんないま、感じるラグビーの楽しさは?

いま純粋に競争を楽しめているのかなと思います。それはチーム内の競争も、相手チームとの競争も、どちらも楽しめていると思います。バックローの良い選手がたくさん入ってきて、そことの競争が楽しいですし、相手のメンバー表を見て、「この選手と試合をしてみたかった」と感じます。試合の映像を見て「やっぱりこの選手は素晴らしいな」と思う選手がたくさんいて、次に試合をする時にはメンバーに入って欲しいと思ってメンバー表を見た時に、その選手が入っている時には「よし!」と思ったりもして、そういう相手との競争も楽しみですね。

――他のどのチームにもそういう選手はいますか?

どのチームにもいますね。バックローには各国からビッグネームが来ますし、この選手と試合が出来るのが楽しみと感じますね。試合中はその選手に仕事をさせないことだけを考えて、自分が仕事をすることも重要ですが、相手に仕事をさせないことも重要なので、そういうところでお互いにやりあっていますね。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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