2022年6月10日
#800 中村 亮土 『チームも生き物なんだ』
トップリーグがリーグワンに変われど同じ対戦となった決勝戦。2年連続で負けた悔しさと来季に対する課題を、中村亮土キャプテンに聞きました。(取材日:2022年6月上旬)
◆選手がチームを動かしていく経験
――決勝戦は悔しい敗戦となりましたが、今の心境は?
決勝が終わってからの1週間くらいはドタバタした生活を送っていたので、あまりその試合について考える時間がなく、感情的になることはなかったですね。
――試合翌日の報道では「仲間の肩を借りて号泣する中村キャプテン」という記事がありました
それは、たぶん嘘です(笑)。・・・いちばんの感情としては悔しさですね。他のチームメイト、試合に出ていないメンバーとか、今シーズンでチームを離れるということを聞いていたメンバーもいて、そういうメンバーに優勝を味わってもらいたいという気持ちがあったので、より悔しさがありました。
――2シーズン連続でワイルドナイツに決勝で敗れましたが、今シーズンのチームはどうでしたか?
どの選手も、シーズンを振り返った時に同じような課題を持っているだろうなとは思っています。そういった状況で良かったこととしては、選手がより主体性を持ってチームを動かしていくということを経験できたことですね。ただ、シーズンを通してストレスはありました。もっと大きく、チームとしてどうしていくかという改善が必要だと思っています。
――今シーズンは色々な選手が出場し、レギュラーを固定しないような形でしたが、そういうチームをキャプテンとして引っ張っていくことは難しくなかったですか?
もちろんコンビネーションや阿吽の呼吸という部分は間違いなく必要なので、1週間ごとに違う選手と合わせていくことは難しいことです。ですが、もともとサンゴリアスのラグビーを理解して、それを体現できる選手がたくさんいるので、そのアジャストの部分は、特に難しかったということはなかったですね。1週間の準備の中で、同じ絵を見ながら出来ていたと思います。
――選手全体のレベルは確実に上がっているんですね
そうですね。それは間違いなくあります。セレクションに入っているメンバーばかりなので、そこの層は厚いと思います。
――個人としてのレベルアップは?
レベルアップしている途中ですね。試合全体を見ながらプレーすることと、ボールのもらい方やボールを持った時の仕事は、今までよりも意識するようになりましたし、そこに特化したトレーニングをしていました。まだ完全というわけではありませんが、トレーニングしたことを少しずつ試合でも出せているかなと思っています。
――まだまだ成長過程ですね
はい、伸びしろしかないです。
――手術をされたそうですが、復帰はいつ頃になりそうですか?
順調にいけば、9月くらいからはトレーニングが出来ると思います。それよりも前から走ったりすることは出来ると思っています。
◆人が成長していく
――今シーズン、チームとして試合ごとに手応えは感じていましたか?
今シーズンは特にひとつひとつの試合に対してコミットしながら、毎週成長していくというシーズンだったと思います。もちろん上手くいかない週、上手くいかない試合などもありましたが、それを続かせない、1週間で改善するということは目に見えて出来たと思います。
――その象徴的な試合が、リーグ戦15節とプレーオフ準決勝の東芝2連戦ですよね
そうですね。それがとても現れた2つの試合だったと思います。
――15節の東芝戦を振り返ると、どうでしたか?
東芝がかなり良かったと思います。東芝側の強度としては、15節も準決勝も同じくらいだったと思います。
――準決勝の東芝戦ではどこを改善したんですか?
マインドセットだけです。東芝戦に何となく向かって行っていたのと、ちゃんとスイッチを入れてその試合に対してリスペクトを持って臨んだということの違いで、それがラグビーの良さでもあり怖い部分でもあると思います。そういうことも含めて楽しいシーズンでしたよ。人が成長していくじゃないですけど、チームも生き物なんだなと感じながら、その差を感じられたシーズンでした。
――リーグ戦1位でプレーオフに進出しましたが、それは納得した結果でしたか?
課題は常にありました。リーグ戦の中で2試合、敗戦もありました。けれど、自信を持ってプレーオフに進めたと思っています。
――昨シーズンと今シーズンでは違いましたか?
昨シーズンのことはあまり覚えてないですね(笑)。昨シーズンの方が、スムーズにリーグ戦を戦っていたと思います。何となくやっていてもやれているような感じだったと思います。今シーズンは何となくやってしまうと、足元をすくわれるような感じがありました。
◆未来を考えて
――他の選手の話を聞くと、中村キャプテンは色々な人に役割を持ってもらい、みんなでリーダーシップを取ってやっていくスタイルだと感じましたが、意識してそのスタイルにしたんですか?
意識していやっていましたね。僕が昨シーズン、キャプテンを引き受けた時に、今後の未来を考えて、今の若手にもっとリードして欲しいという気持ちがありました。より自覚を持ち、より自信を持ってチームをリードしていくためには、ある程度は周りを信頼して任せることが大事だと思ったので、リーダーミーティングでも若手とベテランを入れながら、バランスを保ちながらやっていました。
――そこは面白かったですか?
面白かったですよ。他の選手もリーダーの経験があるので、心配していませんでしたし、周りの選手たちが本当にチームのためにエネルギーを使ってやってくれたと思っています。
――若手を信頼して任せるということは大変なことだと思いますが、どういう形で任せていたんですか?
任せる以上は、僕は関与しないことが大事だと思っていたので、彼らが決めたことを尊重して、チームとしてやり切るということをやっていました。彼らが決めたことで、少し違うんじゃないかと思ったとしても、一度それをやってみて、そこでレビューして改善すればいいだけと思ってやっていました。
――そのキャプテンシップは、大学時代からのスタイルなんですか?
そうかもしれないですね。僕は1人で何でも出来るタイプではないので、適材適所に人を立ててやってもらうことが、僕のスタイルかなと思っています。
――1人で何でも出来ないと思ったのはいつ頃ですか?
いや、出来なくないですか?(笑)。そんな器用な人はいないと思うので、最初からその考えですね。僕よりも足が速い人はたくさんいますし、身体が強い人もたくさんいますし、計算が得意な人もたくさんいますし、何でも出来るなんて思っていないです。
◆誇りに思えるチーム
――今シーズン感じたラグビーの魅力はどこですか?
緊張感のある試合だったり、大勢のファンの中でやる試合は、やっぱり楽しいですね。なので、準決勝、決勝が緊張感があって、ラグビーしてるなって感じがありました。
――決勝では、新しい国立競技場で初めて試合をしたと思いますが、どうでしたか?
非常に良かったですね。囲まれている感もありましたし、グラウンドコンディションも良かったですし、日本じゃないスタジアムの感じがありました。
――次の目標は何でしょうか?
もう一度、みんなでリセットして、自分たちで誇りに思えるチームを作りながら、最後に優勝できるようにやりたいと思います。
――来年2023年はフランスでラグビーワールドカップがありますが、もちろん目指していますよね?
もちろん目指しています。まずは手術したところをしっかりと治して、自分のパフォーマンスを高めることだと思います。けれど、今はまだあまり先のことまでは考えていないです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]