2022年6月 3日
#799 石原 慎太郎 『ただ貪欲にやり続けフェーズを重ね続けるラグビー』
決勝戦のほとぼりも冷めやらぬ翌日のインタビュー。石原慎太郎選手の悔しさ、無念さが溢れたインタビューとなりました。(取材日:2022年5月下旬)
◆本当に悔しい
――決勝の埼玉ワイルドナイツ戦を終え、ひと晩経って、今の心境は?
う~ん......いま振り返ると、「100%勝てる準備をしました」という状況ではなかったのかなと。もちろん仲間を信じていましたし、自分たちがやってきたことも信じて試合に臨みましたが、言い訳にするのがいちばん良くないことですけど、いま思うと、やってはいけない後悔をしていますね。「あの時、あぁやっておけばよかった」って思うことがいちばん嫌じゃないですか。試合前にこのことを伝えるべきだったとか、ちょっとのことを言えなかったことが本当に悔しいですね。
年齢を考えても、僕は2、3年目の時とは立場が違いますし、このチームは5年連続決勝(2019-2022シーズンは途中でリーグ中止)に進んでいますし、その前もずっと決勝に進んでいるチームで、その経験を多く持っている自覚があるので、その中で大事なことを伝えるべきでした。試合が終わった後になって「あれを言っておけば良かった」と思っていますけれど、これは本当に悔しいですね。
――具体的に「これを言っておけば良かった」とは?
いちばんはラインアウトの部分で、前半はほとんど取れず0%に近い状態でしたが、そうなると間違いなくサンゴリアスのラグビーは出来ません。僕はこれまで、「最悪の状況になった時に、確実にボールを確保する方法を2つは用意しておこう」と、よく言っていたんですよ。それはラインアウトが大事な試合とか、上手くいかなくなった状態を考えてのことなんですが、それが今回言えなかった......。
いちばんベストな状態は、不安がなくプレー出来ることですが、昨シーズンの反省も踏まえて、色々なアプローチをしてきた今シーズンでしたが、がむしゃらにやってきたってことが大きすぎて、僕自身まだまとまり切れていなくて......。
◆サントリーはこうやって勝つ
――第15節東芝戦ではノートライで負けましたが、プレーオフ準決勝の東芝戦では、それを乗り越えて勝ちましたね
いろいろな面でラッキーでした。第15節で大敗して、最終節のトヨタ戦が中止になり、その時点で準決勝の相手は東芝で確定しました。準決勝まで2週空くことになって、別のチームの準備を挟まずに東芝戦に向けて準備をすることが出来ました。リベンジと言うマインドセットの部分も含めて、それがいちばん大きかったと思います。
正確に言えば、愛知に出発する前日に中止になったので、1週間強の準備期間がしっかり取れたことです。その時間が大きくて、準決勝の東芝戦は納得のいく準備が出来て臨めたことがいちばんですね。準決勝に向けて怪我人が出ず、イレギュラーな変化もなかったですからね。それが出来たことと、東芝戦から東芝戦への準備が出来たこと、個人的にはそこが大きかったと思います。
準決勝では選手のまとまりがあったと思います。ヘンディ(ツイヘンドリック)や亮土(中村)が中心になって、試合に出る選手でまとまり、「どういうアタック、どういうディフェンスをするのが良いか」、「どういうキックを使うのが良いか」という話をして、そういうミーティングの時間を多く取ることが出来ました。それでまとまれたと思います。
――決勝のパナソニック戦でも選手でミーティングを重ねて臨んだんですか?
そうですね。ミーティングを重ねて臨みました。ですが、今の状態が限界だったかもしれません。自分たちのパフォーマンス、自分たちの準備力の部分には目を背けてはいけないと思っているので、何が足りなかったのか、ただ数字だけを追うのではなく、"サントリーらしさ"の部分を追求していかなければと思います。今シーズンは極端に言うと毎回違う選手が出て、「この選手はこういう特徴があるんだな」と発見する楽しさがありました。ただ「サントリーはこうやって勝つんだ」というベースの部分も毎試合違っていたと思います。
◆とんでもない経験
――リーグ戦で2敗の1位通過、ファイナルラグビーは1勝1敗、シーズンを通してみると、今シーズンはどうでしたか?
個人的には色々な経験が出来たという部分が大きくて、今シーズンの中でいちばん覚えていることが、コロナ関連で多くの選手がプレー出来なくなって、その中でリコーと試合をした時です。更にその試合はテビ(テビタ・タタフ)がレッドカードで前半30分くらいで退場したんですが、その状態で最後の最後で勝ち切ったことですね。あの試合には大志さん(村田)が出て、久しぶりに試合に出たメンバーもいて、その中で勝ち切ることが出来ました。
言い方がおかしいかもしれないですが、あれがサントリーのラグビーだと思うんですよ。誰が活躍したということではなくて、蓋を開けてみたら「やっぱりサントリーが勝ったね」という。誰かがスペシャルなプレーをしたわけでもないですし、ボールを継続してアタックして、サントリーのラグビーってあのラグビーで良いと思うんですよ。スペシャルなアタックもディフェンスもなくて、ただ貪欲にやり続ける、フェーズを重ね続ける。逆に14人になったからこそ、出来たラグビーかもしれません。それに加え、誰かに頼らずにやり続けられたことが、チームとして成長できたと感じましたね。
大志さんもあの試合の後に「とんでもない経験をしたかもしれない」と言っていて、僕もプレーしながらそんな気がしていて、「いま成長しているタイミングなのかもしれない」と感じました。あの時は開き直っていて、自分たちのやることをやっていましたね。
◆こうやれば勝てる
――今シーズン、サンゴリアス100キャップ達成!おめでとうございます
いろいろなことを思い出しました。感慨深いこともありました。思い返してみると一瞬だったと感じますけれど、思い出はめちゃくちゃあります。準決勝後のハドルでみんなの前で話しましけど、サンゴリアスで初出場した時がNTTコミュニケーションズ戦だったんですが、出場時間は3分でした。その翌日にフィットネステストがあって、「3分しか出てないんだから、お前もフィットネステストを受けろ」って言われて、そのテストでノルマの半分しかクリア出来なくて、直弥さん(大久保/現静岡ブルーレヴズヘッドコーチ)に呼び出されて、「他のチームに移籍するか、今すぐお前が買った車を売るか決めろ」、「そんな中途半端な状態だったら辞めちまえ」って言われて、そんなところからよくここまで来たなって思いますね(笑)。
悔しさなどをバネに生きてきた人間で、これまで順風満帆な人生ではなかったんですよ。ずっとレギュラーで出てきたわけでもないですし、チヤホヤされた生活を送ってきたわけでもないので、良い感じでトラブルが起きながら、100キャップを迎えられたかなと思います。
――100キャップの中でいちばん記憶に残っているシーンは?
僕が入る前年はサントリーが全勝優勝をしていて、めちゃくちゃキツイ練習をしていました。これをやっていれば優勝がついてくるんだなって思っていたら、決勝でめちゃくちゃ負けて、「これでも勝てないのか」ということを3年間続けました。ずっとパナに勝てていなかったんです。
僕が4年目、ユタカ(流大)がキャプテン1年目の時に、監督が敬介さん(沢木/横浜キヤノンイーグルス監督)になって、練習が更にキツくなって、2016-2017シーズンの第4節のナイターの試合でパナソニックと試合をしたんです。「ここまでやってまたパナソニックに負けるのかな」、「負けたらまた自信を失うな」とか思っていたんですけれど、その試合で大勝したんですよ。その時に「やらされているんじゃなくて、自分たちがやってきたことは間違っていなかったんだな」、「こうやれば勝てるんだな」って自信がつきました。あの試合は自分の中で大きかったですね。
そして、そのシーズンは優勝できたんです。間違いなくそのシーズンは、4節のパナソニック戦がターニングポイントだったと思います。開幕戦から3節までは、上手くいったり、上手くいかなかったりしていて、「これは大丈夫か」って感じ始めていた時にパナソニックに大勝したので、「これは大丈夫だ。俺たちは間違っていない」って思えましたね。「これがサントリーらしさだな」って思えたので、あのシーズンは良いシーズンでした。
――なぜ大勝できたと思いますか?
あの試合でも特別なプレーは無かったですね。もちろん素晴らしい選手はいますが、あの時は"アタッキング・ラグビー"をしていたなって思いますね。理不尽なほどにアタッキングしていたと思います。
◆サントリーで優勝したい
――決勝での6点差、次のシーズンに向けてどうでしょうか?
この状態で何を変えるか、何を変えられるかを考えて取り組みたいと思います。昨シーズンの決勝で負けた後もアプローチしたんですが、「何かを変えなければこれ以上の結果はついてこない。それを理解して1年間やらなければいけないと思う」、それをもう一度チームに伝えようと思っています。
僕も今年10年目で、来年の4月で11年目になりますし、嫌われても良いですから、僕はシンプルにサントリーが好きで、サントリーでラグビーを終えるつもりでいるので、サントリーが勝つためだったら嫌われ者になっても良いと思っています。
――日本代表についてはどうですか?
今シーズン、自分なりに結果を出せたと思っていましたが、スコッドには名前がありませんでした。もちろん諦めているわけではないですし、呼ばれれば100%やりたいと思っています。けど、どちらかと言うと、自ら望んで掴みに行きたいものというより、いろいろな複雑な気持ちがあって、プライオリティーはサントリーですね。サントリーで優勝したいし、サントリーで優勝することが僕が第一優先することです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]