2022年5月13日
#796 流 大 『僕たちはチャレンジャー』
まさに SPIRITS OF SUNGOLIATH。"サンゴリアスの魂"を語る流選手のプレーオフ目前のインタビューをお届けします。(取材日:2022年5月上旬)
◆ポジティブに
――リーグ戦の最終節が中止となり、1位でプレーオフ進出となりましたが、いま選手としてはどういうことを考えていますか?
今シーズンに限らず、昨シーズンでもそうでしたが、試合が中止になるということは仕方のないことだと思うので、そこで起きたことに対応していくしかないという気持ちがあります。それと、プレーオフに向けて試合がしたかったという気持ちもありますが、試合がないことでチームの準備期間が増えましたし、身体を休める時間も持てたので、ポジティブに次に向かっていきたいと思っています。
――1位通過ということについては、手応えを感じていますか?
僕としては1位通過というものを意識していなくて、最終的に優勝するということがいちばんの目標です。その中で、1試合1試合という気持ちを持って、1位通過ということは意識していませんでした。結果として1位通過できたことは良かったことではありますし、準決勝が花園で遠征にはなりますが、そこで勝てば決勝まで1日多くアドバンテージがあるので、良かったと思います。大阪にもたくさんのラグビーファンがいますし、サントリーと東芝の試合がを大阪でやるということはなかなかないことだと思うので、僕はポジティブに捉えています。
――15節で東芝に敗れたままプレーオフに入り、準決勝でまた東芝との対戦ですね
まず正直、東芝がめちゃくちゃ強かったです。開幕戦で試合をした時と比べても強かったですし、今シーズンの中でいちばん強い相手だったという印象があります。負けた要因は色々ありますが、もう一度、「僕たちはチャレンジャーだ」ということを思い出させてくれるきっかけをもらった試合だったと思います。僕らは負けていて、次はチャレンジャーとして東芝にぶつかって行くだけだと思います。次はコンディションが変わったりしますし、今回色々と学べた部分もあって、次は違った結果を得られるように準備していくだけです。
――東芝はかなり強いんですね
強いですよ。もちろん日本人の選手も良い選手がたくさんいますが、今シーズンからチームに加わった選手たちが東芝のラグビーを体現していて、強かったですね。今シーズンの最初から力があると思っていましたが、シーズンが深まるにつれて、本当にチームとしての力が上がってきたという印象がありました。次の試合は80分のホーンが鳴るまでどうなるか分からない試合になると思います。
――サンゴリアスにとって、東芝戦での雨というのはどう影響したんですか?
出来れば晴れた状態で試合をやりたいというのが僕たちのラグビースタイルではあるんですけど、次の試合でも雨が降る可能性はあるので、そこは対応をしなければいけないと思います。雨でどう試合を運ぶかという部分で、あの試合では東芝の方が上回っていて、9番としても反省が残る試合でした。
――東芝の方が前に出る力が上回っていたように感じました
そうですね。スクラムではサントリーが勝っていたと思いますが、モールや近場のフィジカルバトルでは完全に上回られていました。その部分で東芝に上回られると、東芝の良さが出ますし、サントリーの良さが出ない試合になってしまうので、本当に完敗だったと思います。
――当然その部分は次の試合までの課題になっていますか?
はい、フォワードはこれで相当燃えたと思うので、練習の強度も上がると思います。あとは劣勢に立たされた試合で、みんながそれぞれどうにかしてやろうという気持ちを持ちすぎて、チームの役割から外れたことをやっていることが何度かあって、そうなってしまうとチームは上手く回らなくなってしまいます。あのような状況でも、チームの中での自分の役割をやり切る、やらなければいけないということを学びました。
◆力を発揮する時が来た
――昨シーズン後のインタビューでは、今季は田村選手が能力を発揮すると言っていましたが、その通りになっていますね
東芝から移籍してきて、その当時は同じポジションに小野晃征さんやマット・ギタウがいて、昨シーズンではボーディー(ボーデン・バレット)がいて、なかなか満足に試合に出られるシーズンが送れていなかったと思うんですが、練習への準備や練習中の態度含めて、ずっと変わらずに準備をしてきたと思います。
今シーズンではほとんどの試合で10番を背負ってプレーしていて、良いプレーもあれば、まだ足りないという部分もあったとは思いますが、チームを引っ張っていることには変わりないので、準決勝、決勝と力を発揮してくれたらと思っています。
――今シーズンのここまでの自分自身の出来については?
まあまあですね(笑)。悪い時はそれほどなかったと思っていますし、70点から80点のプレーが出来ているとは思っています。試合に出ない時もありましたし、今シーズンは先発とリザーブで半々くらいだと思います。他のスクラムハーフと一緒にチームを引っ張りながらゲームを組み立ててきたので、あまり浮き沈みがなく出来ていると思います。プレーオフに入って、力を発揮する時が来たと思っています。
――これまでは先発での出場が多かった中、リザーブからの出場でもすぐにフィットできましたか?
他の選手はどうか分かりませんが、チーム内でのメンバー発表の前にコーチなどから言われたりもしていて、その時点から準備しています。でも、先発もリザーブもあまり変わらないですけどね。しっかりと準備をして、自分が出る時の得点差や時間帯によってやることはちょっと変わってきますけれど、その経験は代表でもたくさんしてきているので、どちらにせよ自分の役割を果たすということです。
――サポートのランそしてパスの精度を上げたいと話していましたが、それについてはどうですか?
サポートのランについては常に行っているんですが、なかなかもらえていないことが多いので、評価することが難しい部分ではあります。パスについても目に見えて分かる部分ではないんですが、自分の感覚としては悪くはないですね。
――どの辺が良くなったと感じていますか?
僕のプレーって、目に見えて「良いプレーしている」って思われにくいというか(笑)。トライをするとか、ラインブレイクをするというプレーは、誰の目からも見ても素晴らしいと思われると思いますが、僕のプレーってなかなかそういうことがなくて、僕のひとつの判断やプレーが、数フェーズ後のトライに繋がっているとか。そういう部分は僕自身も分かっていますし、チームメイトやコーチたちは分かってくれている部分で、僕の場合はそういう評価を得るタイプですね。見ている人からすると、少し物足りなさを感じられているかもしれません(笑)。僕の場合は、チームメイトから認められていれば良い、という感じですね。
――キックのタイミングなどは、どういうところで判断しているんですか?
今までの経験と、その場で見た相手のポジショニングによって、キックの種類なども変えています。キックに関しては、8割~9割は良いキックが蹴れていると思っています。
――キックについてもテーマとして取り組んできたんですね
僕の場合はキックをいちばん練習していて、自分のいちばんの強みで、他のスクラムハーフとの違いだと思っています。サントリーというチームはとにかくアタックをしますし、ボールを持つ回数もとても多いので、それを有効にするためにもキックでしっかりと前進して、アタックに繋げるということを大事にしています。そこに関しては、チームに貢献できていると思っています。
◆いざオンにした時に力が増す
――流選手の特徴として、特に心の部分に力を注いでいると感じています
そうですね。自分の中で心構えは重要な部分だと思っていて、9番というポジション柄もそうですし、チームを引っ張るべき人間なので、その辺を意識しています。今シーズンに関してはリーダーシップグループからも外れて、若いリーダーが育ってきているので、僕が前に出て話す時もありますが、あえて何もせずに、彼らがどう引っ張っていくかを見守りながらアドバイスすることもあります。
――自分に対して集中することに力を注いでいることと、全体を見渡すことに力を注いでいることの両方がありますね
今は全体をしっかりと見ることに重きをおいていて、みんながどんなことを考えているのか、練習の空気感など、そういう部分に集中している感じですね。
――逆にラグビーから離れた時にはリラックスしているんですか?
僕はクラブハウスを出た瞬間からスイッチを切ります。そのオンとオフは自分の中にあって、1日中ラグビーのことを考えている選手もいますが、逆に僕はそれが出来なくて、それだと気持ちや集中力が持たなくなってしまいます。
――その切り替えが出来るようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
元からそういうタイプではあったんですが、サントリーに入って2年目でキャプテンになった時くらいから、「ずっと考えていても良いことは無い」と気付いて、オフの時にはしっかりとオフにすることで、いざオンにした時に力が増すことを感じたと思います。
――そのいちばんの気分転換はゴルフなんですね
間違いなくゴルフですね(笑)。
――ゴルフはメンタルが大事だと思うんですが、オフでもメンタルを使うことが好きなんですね
シリアスなメンタルの使い方じゃなく(笑)、もっと楽しい感じなので、リラックスが第一優先ですね。
―― "生まれ変わったらなりたいもの"にスケボー選手と答えていますが
オリンピックでカッコいいなと思ったので書きました(笑)。スケボーは現役のうちは出来ないので、引退したらやってみるかもしれないですね。
◆練習がどんなことに繋がっているか
――今シーズンのサンゴリアスについて、選手から見て、チーム力はあると感じていますか?
良い選手がたくさんいますし、若い力もすごく大きくなったので、チーム力はあると思います。
――これまでのシーズンと比べて、メンバーが試合ごとに変わったシーズンですよね
ルーキーを除けば、ほとんどの選手が試合に出たシーズンで、それは過去になかったと思います。試合でしか得られないものは絶対にありますし、それによってチーム力が増していると思います。試合に向かう準備や緊張感は試合でしか得られませんし、練習だけでは得られないので、それを感じることができたメンバーが多くいるということは、とても大きいと思います。
ただ、プレッシャーがかかった試合でどう力を発揮するかなど、まだまだ学ばなければいけない選手はたくさんいると思います。先日の東芝戦でその辺を学んだ選手はいると思うので、あとはプレーオフで発揮すれば良いと思います。
――ファイナルラグビーで大事にすることは何ですか?
ひとつは、まず"規律"です。第7節のパナソニック戦で負けた後、チームにプレゼンをしたんですが、今シーズンのパナソニック戦も昨シーズンの決勝のパナソニック戦も、スコア的にはペナルティーゴールの差で負けているんです。ひとつひとつの練習でやる軽いペナルティーが、どんなことに繋がっているかを、みんなでもう一度深く考えて欲しいというプレゼンをしました。
特に対パナソニックと考えた時に、彼らは本当に規律正しく、自分たちのラグビーをやり切るチームです。そこで後手を踏んでしまうと、特にファイナルラグビーでの3点は本当に大きくて、プレーオフでは規律がとても大事なものになります。
あとはファイナルになると、"自分たちのスタイル"を貫けるかどうかなので、1人1人が自分が「目立とう」「どうにかしよう」と思うのではなく、チームの中の自分の役割をしっかりと果たすことを、23人がやり切ることです。それで負ければ、自分たちのチーム力が無かったということです。それをやり切れば勝てるという準備をしてきましたし、その自信があるので、"規律"と"自分たちのスタイル"の2つですね。
――例えば、前半リードを許してハーフタイムを迎えた時に、修正する部分は戦術的な部分ですか?
サントリーの場合は戦術を変えることはほとんどないので、前半で計画していた戦術が、ここが原因で出来ていないから、もう一度そこをやろうという話になると思います。だから、やり切ることなんです。
――優勝の自信は?
もちろんずっと自信はありますし、優勝したいと思っています。ただ、いま優勝のことを考えても仕方なくて、とにかく次の花園での東芝戦に全てを賭けなければいけません。東芝に負けていて、僕らはチャレンジャーなので、次の東芝戦に全てを賭けて戦います。
◆サントリーはずっと強く、魅力あるチームであって欲しい
――先ほど今シーズンのパフォーマンスはまあまあと言っていましたが、成長は感じていますか?
もちろん感じています。どこでチームに貢献できているかを、自分の中で感じ取れています。プレーオフの準決勝、決勝の2試合で、チームを勝たせられるのは、9番10番の仕事だと思うので、そこに結果が伴って、「しっかりと貢献できた」と思ってもらえれば良いなと思っています。
――貢献という部分で言うと、若手選手に色々なことを伝えているように見えますが、同じポジションのライバルにそういうことが出来るのはなぜですか?
やっぱり僕はサントリーが好きで、サントリーはずっと強くあって欲しいチームです。僕も今年30歳の年で、この先、そんなに長くはいられないと思っています。僕がいなくてもサントリーはずっと強く、魅力あるチームであって欲しいと常に思っているので、若い選手がサントリーのラグビーを作って、より良くしていくという気持ちを持って欲しいと思っています。
よく若手とは話をしますし、厳しいことを言われて嫌な思いをした選手もいると思いますが、僕としてはその選手が成長して欲しいという気持ちと、その選手がもっとサントリーのことを好きになって欲しいという気持ちで接しているので、厳しいことを言っても、その選手が成長するのであれば、その手助けをどんどんしていきたいと思っています。
――そう接した選手が他のチームに移ることもありますよね
一度このチームで一緒になったら、サンゴリアス・ファミリーであることには変わりありませんし、その選手が移籍することになったとしても、素直に応援しますし、サンゴリアスで学んだことを自分の人生で活かして欲しいと思います。今の時代は移籍することも当たり前になってきていて、自分の人生をしっかり見据えた上での判断だと思います。ただ、その上でもサンゴリアスで学んだことは大切にして欲しいと思います。
――セミファイナルで注目して欲しいポイントは?
リーグ戦の東芝戦では全く自分たちのスタイルを貫けなかったので、まず"強いサントリーのラグビー"をしっかりと体現したいと思っています。また、花園で府中の2チームが壮絶な試合をすると思うので、その試合を楽しんでもらいたいですし、その中で少しでもサンゴリアスの後押しをしてもらえたら、僕たちの力になるので、ぜひ応援していただきたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]