2022年5月 6日
#795 北出 卓也 『セットプレーでは絶対に負けない』
リーグ戦終盤にかけて、正フッカーのポジションに戻ってきた北出卓也選手。前節東芝ブレイブルーパス東京戦でノートライのまま敗れ「このままでは優勝できない」と感じているチーム全体の危機感、その中での自身の現状と課題について聞きました。(取材日:2022年5月上旬)
◆ずっと調子良くプレー出来ている
――今シーズンは中盤から終盤にかけて、試合メンバーに戻ってきましたね
序盤は怪我があったり、メンバーに入る予定だった試合が中止になったりと、なかなかチャンスがなかったんですが、そこから徐々に試合に出られるようになってきました。コンディションとしてはずっと調子が良くて、試合でもそういう感覚を持ちながらプレー出来ているので、それが今に繋がってきているのかなと思います。
――調子が良いと思っていても試合に出られない時は、焦りが出るものですか?
そういう経験はもうしてきているので、焦りというよりは、コンディションを維持して、試合に出られた時に自分のパフォーマンスが出せるようにという意識でやっていました。
――出られない時が続くと、いざ試合になった時に気合が入り過ぎてしまうということはありませんか?
もうちょっと若かったらそうなっていたと思います(笑)。まだベテランの年齢ではありませんが、もう中堅ですし、ある程度は経験もしてきたので、空回りするようなことは無いですかね。
――元々、周りに左右されない、動じない感じはありますね
そうなんですかね。自分ではわかりませんけれど、周りにはそう言われますね。浮き沈みがある方ではないとは思いますが、なくもないかなと思います(笑)。
――そういう性格ですか?
性格だと思います。僕は末っ子なので、自分の気持ちを意思表示するということがあまりなかったかもしれないですね。子どもの頃は、「これ以上言ったら怒られるな」と意識していました。思っていたことがあったとしても、それ以上やったら兄に怒られるので(笑)、あまり言えない状況でしたね。
――そのお兄さんは、今は応援してくれていますか?
兄が3人いて、みんな応援してくれています。怒られないようにしていたので、あまり怒られた記憶もないんですが、それは末っ子ということも関係しているのかなと思います。
◆ボールを持って一歩でも前に出る
――コンディションを維持していて、実際に試合での出来はどうですか?
まず求められていることはセットプレーです。スクラムは周りとコミュニケーションを取って、みんなで組むものですが、そこで相手にプレッシャーをかけられている感覚がありますし、ラインアウトのところでも安定したスローが出来ていると思います。基本となるセットプレーが良いと、僕自身も気持ち的にノッていけるので、フィールドプレーでのタックルだったり、ワークレートだったり、そういうプレーも出せていると思います。
――好調を維持できて、力を発揮できているんですね
感覚的にはそうですね。けれど、まだまだ出来ると思っています。
――第15節東芝戦は、スクラムは安定していましたが、モールなどでは押される場面もありました
東芝はモールに賭けていたと思いますし、こっちも受けに回っていたわけではないんですが、ペナルティーを取られてしまったり、レフリーの判断にアジャスト出来なかった部分があるのかなと思います。
――セットプレーに限らず、東芝戦では相手の方が前に出る勢いがありましたね
東芝の気迫は試合をしていて感じましたし、そこは学ばせてもらった部分だと思います。サントリーとしてもそういう部分をもっと大事にしていかないといけないと思いました。
――今シーズン2敗目、そして初のノートライでした
確かに、ノートライで負けるのは初めてかもしれないですね。ノートライだったことを引きずる感じはありませんが、「このままでは優勝できない」ということを学ばせてもらったので、改善していくだけという感覚です。
――個人としてはどういうところを改善していこうと思っていますか?
タックルやセットプレーの部分はある程度は出来ていると思うので、ボールを持った時の判断だったり、ボールを持ってキャリーする時に一歩でも前に出る、そういうところはもう少しレベルアップしていかないといけないと思います。
――相手のディフェンスを突破できなかった原因は何だと思いますか?
天気を言い訳には出来ませんが、雨の試合では、パスをもらう幅であったり、ラインの深さであったり、そういうところは晴れの日とは変えていかなければいけないので、そこがアジャスト出来なかった部分だと思います。
◆モール、スクラムで勝ちたい
――フォワードとして、いちばん改善していかなければいけない部分はどこですか?
あの試合で言えば、モールディフェンスですね。さらにモールでトライが取れるようになると、チームを救えるようになると思うので、そこはフォワードにとっては大事な部分ですね。あの試合を見た他のチームもモールを組んでくると思うので、そこはしっかりと修正しないといけないと思っています。
――例えば、プレーオフでもう一度東芝を対戦することになり、また雨の中での試合だとすると、どういうことをイメージ出来ますか?
東芝はまたモールだったり、スクラムだったり、そういうところに重点を置いてプレッシャーをかけてくると思うので、そこで勝ちたいですね。そこで勝てると試合が上手く進んでいくと思うので、セットプレーでは絶対に負けたくないです。
――フォワードの責任は大きくなりますね
そうですね。東芝と試合をする時はフォワードバトルだと思っているので、そこで絶対に勝ちたいです。
――フォワードバトルに勝つために、なくてはいけない要素は?
僕としては、一歩でも前に出るとか、フォワード同士でどれだけまとまれているかとか、技術というよりもそういう部分の方が大事かなと思います。
――前に一歩出られる時やフォワードがまとまっている時とは、どういう時ですか?
まとまることが出来る要因はたくさんあると思うんですが、やはり形として現れるのは、スクラムでペナルティーを取れたり、モールでトライを取れたり、というところだと思います。そうするとフォワードがチームに勢いをつけることが出来ると思いますし、それが出来ている時は、まとまれていると思います。そうなるためには、練習中にどれだけコミュニケーションを取れているかというところだと思います。
――練習からコミュニケーションが取れて、上手くいくだろうと思っていた試合で上手くいかなかった時には、どう立て直すんですか?
東芝戦ではスクラムは悪くなくて、モールで押されてしまっていたので、そこでペナルティーをしないということと、モールを組まれる前に相手を倒そうと思っていたんですが、準備が足りていなくて、正直、上手くいっている感覚が持てませんでした。こうなった時にこうするという想定を、練習の時からしっかりと持っていなければいけないと思うので、そこも改善しなければいけないポイントだと思います。
――東芝戦の試合後はどんな雰囲気でしたか?
みんなが「このままでは優勝できない」と思ったと思うので、「もう一度チームとして繋がっていかないと優勝できない」という感覚ですね。今までやってきたことがダメということではなくて、ここから更に成長しなければいけないというマインドです。
――良い課題が見つかったという感覚ですか?
そうですね。僕も感覚としては、ネガティブなマインドではありませんでした。
――今シーズンは、改善のポイントなども選手から自発的に出てくる形ですか?
選手がまとまって、それをコーチ陣に投げかけて、コーチと選手が一緒になってやっていく感覚です。次の試合までショートウィークになるので、どれだけ強度を上げられるか分かりませんが、いつもよりも気合の入った練習になるようなマインドじゃなければいけないと思います。
◆あの場に立ってみたい
――自分自身好調を維持している中で、更に成長するための課題は何でしょうか?
チャンスでのアタックの部分だと思います。成果が出ているスクラムやラインアウト、タックルという部分も継続的に伸ばしていかなければいけませんが、改善ということで言うと、アタックでのボールを持った時の判断だったり、キャリーのところになると思います。
――これからファイナルラグビーに向かっていく中で、改善していくイメージは?
そうですね、もっと出来ると思っています。試合の感覚はとても大事だと思っていますし、練習ではなかなか試合のような空気感や緊張感が掴めません。それらは試合に出ないと、掴めない部分だと思います。そういう感覚も試合に出ることで良くなっているので、もう少しパフォーマンスも良くなっていけると思っています。
――今の状態はきっと楽しいでしょうね
今はとても楽しいですね。やはり試合に出られているからという部分が大きいと思います。改めてチームの一員として試合に出て、試合に勝って、みんなで喜んでという原点の部分を、今とても楽しめている感覚があります。
――来年2023年はフランス・ワードカップですが、日本代表については?
このチームで試合に出ていると近づいていく部分だと思いますし、正直、強くは意識していませんが、ラグビー選手である以上、目指しているところでもあります。シーズンが終わったら日本代表スコッドが発表されると思うので、もしスコッドに入れたら、しっかりとアピールしたいと思っています。
――ワールドカップで試合に出たいという気持ちは強いですよね?
やっぱりありますね。そこは前回のワールドカップでとても感じたので、あの場に立ってみたいという想いは、人一倍強いかもしれません。
――ファンに対して、ここからの"北出選手・注目ポイント"をお願いします
個人として本当に優勝したいと思っています。そこへ向けてチームのためにどれだけ動けるか、身体を当てられるか、そういう部分を大事にしていきたいと思っているので、タックルの局面だったり、チームのために身体を当てているところ、セットプレーで相手にプレッシャーをかけているところを見ていただきたいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]