2022年4月15日
#792 森谷 圭介 『いちばん良いプレーを選択できる選手でありたい』
現在の理想型を思い描き、それに向けてチャレンジし、それができるようになったら理想型を更新してまたチャレンジしていく。インタビューを通じて、森谷圭介選手はそんなふうに進化し続けていると感じさせてくれました。その進化を目撃し、同時体験し、新しいラグビーを共に楽しむ。それこそが我々サンゴリアスファンの特権なのではないでしょうか。 (取材日:2022年4月中旬)
◆パスを取るだけで抜けるシーン
――出場機会が増えていますが手応えはどうですか?
色々と出られている要因があって、運良く出られているという感じです(笑)。アタックの部分で言えば、スキルや内側と外側とのリンクの部分を意識してやっています。良いランナーがたくさんいるので、良いスペースに良いボールを繋ぐために、ボールキャリアーとしても意識しているところはありますけれど、強いランナーが良いところで走れるようにプレーしようと思っています。
――ダミアン・マッケンジー選手のパスが真横で速くて、それに応えるのが大変ではないかと見ていましたが、実際にプレーしていてどうですか?
いや、めちゃくちゃ走りやすいですよ。ディフェンスがついて来られないような速いパスが来るので、パスを取るだけで抜けるというシーンが何度かあったと思います。僕個人としては好きなパスですね。最初、合流したての頃は、反応できなくてミスしたりしましたけど、チーム全体としてもフィットしてきているかなと思います。
――自分自身のチームへのフィットはどうですか?
そうですね。入った時からやり難さは感じていませんでした。「もっとこうしたら良くなる」という部分はありますが、フィットはしていると思います。
――なぜスムーズにフィット出来たんですか?
サンゴリアスとして、難しいことはしていません。その簡単なことのクオリティーや精度の部分、そこでサンゴリアスは違いを出そうとしていると思います。その点を理解するまでに、そんなに長い時間はかかりませんでした。その精度を上げ属性を自分の中で覚えるために、周りの選手やスタッフがやりやすいように一緒にやってくれました。チームのみんなが入りやすい環境を作ってくれたということが、大きかったと思います。
◆居心地が良い
――前所属のパナソニックと現所属のサンゴリアスでは、どこに共通点そして違いがありますか?
共通して言えることは、居心地が良いですね。もちろんプレーのことで言い合う場面はありますが、どちらのチームも選手1人1人がやりやすい環境を作るために、良いコミュニケーションを取るチームですね。
違いという部分で僕が感じたこととしては、パナソニックはどの選手が出ても、同じプレー、同じクオリティーを求められます。パナソニックの中に高い基準があって、そこを目指してチームの決まり事を守って、高い基準のラグビーをずっと続けていると思います。
逆にサンゴリアスは良い意味で1人1人に違いがあって、強みがみんな違います。誰かが出た時に、その人の強みに合わせてプレーを選択したり、パフォーマンスに応じてコミュニケーションを取ってやっていくので、逆にそれも強みかなと思います。
――どちらも素晴らしく、パナソニックは熟練の"職人" 、サンゴリアスは"芸術家"という感じですね
スタッフのアプローチの仕方についても、極端に大きくは変わりませんが、先ほど言った部分の違いがあるので、アプローチの仕方がちょっと違うと感じますね。例えば、僕の良さはここだから、この場面ではこういうプレー選択をした方が良かったんじゃないかなというレビューの仕方。そういうことが多くなった気がします。
――選手それぞれのことを理解していないと活かしきれないのではないでしょうか
そうですね。ただ、シンプルなので、それに対する難しさはあまり感じていません。
――シンプルとは、具体的に言うとどういうことですか?
自分自身が自分の強みに気づくようにコーチングをしてくれますし、選手自身も自分の強いところでプレーしたいという気持ちが強くあると思います。練習中には、お互いに「ここでプレーしたい」という主張はありますが、理解し合うのは難しいことではないですね。もちろんサンゴリアスにも最低限の決まりはありますけど、チームの決まりごとがパナソニックと比べてシンプルで、細かく決めきっていない部分があると思います。
――どちらのチームもそれぞれ楽しそうですね
そうですね。どちらも楽しいです。
◆まずは周りと繋がること
――サンゴリアスで試合に出て、改めて感じる自分の強みは?
パス、ボールキャリーなど、自分の中で出来ないと思うことはあまりありません。いつも意識していることは、「ボールを持った時に何をしてくるか分からない選手でいたい」とずっと思っています。たくさんオプションがある中でボールをもらって、その時にいちばん良いプレーを選択できる選手でありたい。そういうことも含めたスキルが強みだと思っていますし、もっともっと磨いていければと思っています。
――サンゴリアスに入って、その部分はさらに磨かれたのでは?
そうですね。サンゴリアスに来てからの方が、意識できていると思います。
――出場機会が増えてきて、トライも多いですよね。どんどんフィットしてきているという感じですか?
フィットするということよりも、自分の強みを出来るだけ出すことにフォーカスしてやっています。パナソニックであれば、いるべきところにいなきゃいけないチームであり、僕が出場した時には「ここにいた方が良い」ということを意識していました。今はチャンスがあれば、チームの決まり事を無視してでも行く時には行ったりもします。元々、そういうことが好きでもあったので、そこまで固く考えずにプレー出来ていると思います。
――先ほど「いちばん良いプレーを選択できる選手でありたい」と言っていましたが、選択肢が多すぎて悩むことはありませんか?
そこは悩まないようにすることを考えています。何個もオプションは出てきますけど、いちばん最初に思い付いたことをすぐ判断して、遂行することを意識しています。
――それを思い付くための準備が大事なのではないですか?
まずは周りと繋がることがいちばんで、それを最初に意識します。周りからのコミュニケーションがあったり、オプションのコールがあった時には、そっちを優先するようにしています。コールがなかったり、コールよりも先に「このプレーをした方が良い」と思った時には、それをすぐにやるようにしています。
――レビューをした時に、その時の判断は合っていることが多いですか?
いや、半分半分くらいです(笑)。見返すと、自分が指示を待ったり、何か出来事が起きるのを待ってからプレーしている時よりは、自分で決めて、判断して動いている時の方が良いプレーが多いので、受け身にならずに動くことは意識しています。
◆ボールを触って動く回数を増やしたい
――前回「身体を張ってディフェンスでも認められたい」と言ってましたが、そこはどうでしょう?
元々ディフェンスが課題ではあったので、自分の中でも意識していますし、「ディフェンスをする人の方が信頼される」と思っています。もちろんミスはありますけど、ディフェンスをする姿勢は、ずっと出していきたいです。
――そこは出せてますか?
出しているつもりではいるんですけど(笑)、見てもらう人にもよると思うんですが、「出ていれば良いな」と思っています。
――シーズンが終盤に入ってきましたが、現時点での課題は何ですか?
ディフェンスの精度のところは、完璧になることは無いとは思いますが、もっと良くしていける部分は試合中にあると感じています。あとアタックで、もっとボールに絡んでいきたいと思っています。
――アタックではより積極的にプレーするということですか?
積極性もそうですし、ボールを触ってチームの中で動く回数を増やしていきたいですね。
――よりボールを触るためには何が必要ですか?
試合だけコミュニケーションを取ってもボールは来ないので、練習中から信頼してもらえるくらい、周りの人とコミュニケーションを取って結果を出して、試合でもパスをもらえる状態にしてということは、毎日やっていかなければいけないことだと思います。今はサム・ケレビにばかり良いボールが行っていますからね(笑)。
◆みんな分かりやすく教えてくれて楽しい
――サム・ケレビ選手やダミアン・マッケンジー選手など、世界で活躍する選手たちと一緒にプレーして、自分の身についている部分はありますか?
まず一緒にプレーしていて楽しいということがあります。周りの良い選手が行ったら自分も行けますし、その選手たちを活かしたいという気持ちもあります。周りの選手たちは、こちらが思いつかないようなことをしているわけじゃなくて、プレーの精度や質が高いのですが、そういうところを学びながらやっています。僕としては、サムよりはDMAC(ダミアン・マッケンジー)のプレーの方が、見ていて勉強になります。
――森谷選手は器用なので、見たり一緒にプレーしたら、すぐに出来るようになりそうですね
結構、聞いたりします。「こういうプレーはどういうことを考えてやっているの?」とか、「どうやって練習しているの?」とか。結構聞きますね。
――その答えは的確に返ってきますか?
DMACもサムも、その2人だけじゃなくて、日本人の選手にも聞いたりしますが、みんな分かりやすく教えてくれて、そういうことも含めて楽しいですね。
――課題に挙げていたディフェンスでは、何に気を付けていますか?
1対1のタックルで外されたりする場面があって、そういうところもそうですし、チームの中でディフェンスリーダーに入っているので、チームとしてのディフェンスが良くなればいいなと思っています。
――チームとしてのディフェンスは、今のところどのくらい上手くいっていますか?
シーズンの最初よりは、隣と繋がってディフェンスするという意識は出てきています。そういうところを理解できるように試合や練習のレビューをしているつもりなので、チームとしてそうなっていれば良いなと思っています。
――シーズン序盤は得点するけど失点も多い試合がありましたね
個人のタックル成功率が上がれば失点が少なくなるという考え方もありますが、ラグビーはそれだけじゃなくて、チームでディフェンスすることが大事とずっと伝えながら、それがちょっとずつでも浸透していけば、もっと良くなるかなと思っています。
◆信頼は繰り返していかないと生まれないもの
――プレーオフに向けての目標は?
個人としては、決勝のグラウンドに立って優勝すること。それはシーズンが始まる前からの目標ですし、変わらないですね。
――その手応えは?
まだ、「行けるな」とはなってないですね(笑)。まだまだ課題がありますし、移籍してきて信頼を勝ち取ったり、信頼してもらうということは、繰り返していかないと生まれないものだと思っています。ただ、そうなるように良い感じに進んできているとは思っています。
――ファンの人に注目してもらいたいところはどこですか?
僕の周りで何か違いを出せれば、いちばん良いなと思っているので、僕の周りでラインブレイクが起きたり、ゲインラインを切ったり、そういうところを見て欲しいですね。僕は能力的にサムみたいに1人でラインブレイクしたり、ディフェンスを突破したりなど、まだできる状態ではありません。
オプションがたくさんある状態でディフェンスを迷わせながらプレーしている時は、ラインブレイクしたり、ディフェンスを突破したりすることが出来ると思っています。そして自分の身体やスキルを、1人でも突破できる状態に持っていくためのトレーニングはずっと続けていますし、そうなれば良いなと思っています。
僕は能力が高くないので、団体競技の楽しさという部分を感じながらやっています。色んな選手がいて、色んな強みを持った選手がいて、そういうことをプレー中にも考えながらやるのが、とっても楽しいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]