SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2022年4月 8日

#791 森川 由起乙 『相手にセンターラインを取られても押し返せる馬力』

尾﨑兄弟に続き、兄弟デビューを果たした森川由起乙選手&呉季依典選手。兄弟ともに、話はスクラムへ向かっていきました。(取材日:2022年3月下旬)

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◆他の1番とは違う武器

――このインタビューを受けるほどの活躍をしていないと言っていましたね

プレータイムも少ないですし、昨シーズンほどのパフォーマンスをまだ出せていないですし、それらをちょっとずつクリアにしているところです。第7節パナソニック戦後くらいから、もう一度自分にフォーカスを当てて、1番だろうが17番だろうが関係なしに、スタートにはスタートの役割、フィニッシャーにはフィニッシャーの役割があるので、その役割を全うしようと切り替えました。それからはちょっとずつパフォーマンスが上がってきて、ちょうどいま良い感じになってきたというところです。

――今シーズンはこれまでリザーブからの出場が多いということでしょうか?

慎太郎さん(石原)も調子が良いですし、僕としてはそれを覆すほどのパフォーマンスが出来ていませんでした。日本代表に入るためにはもっとプレータイムが欲しいので、シンプルにそこの点です。

――パフォーマンスについての自分自身の評価は?

まだまだですね。相手にプレッシャーをかけられている試合もありますが、自分に厳しいかもしれないですけど、そう思います。昨シーズンの頑張りでやっと日本代表に名前が挙がるようになって、僕としては日本代表で1試合は出られると思っていたのが出られませんでした。

サンゴリアスで試合に出続けなければ、また日本代表には選ばれませんし、再び日本代表に呼ばれた時に試合に出られるか、というところもあります。信頼関係もありますが、何かもっとズバ抜けるもの、他の1番とは違う武器を持たないと、日本代表でのファーストキャップは遠いと思います。2023年のラグビーワールドカップも目指しているので、自信はあるんですけど、今シーズンはまだまだ足りていないなと思っています。

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◆スクラムに対して8人の意識

――昨シーズンと比べると、もがいているような感じですか?

シーズン序盤は結構、もがいていましたね。怪我もあって、自分の中でセットプレーやフィールドプレーで噛み合わない部分がありました。3月になってだいぶパフォーマンスが戻ってきて、感覚的な部分なんですが、徐々に昨シーズンくらいまで戻って来たかなと感じています。

ここ2~3試合は、感覚的には良いスクラムが組めていると思っていますし、特にキヤノン戦は慎太郎さんにアクシデントがあって早めに出場することになりましたが、そこからセットピースでプレッシャーを掛け続けられたので、自分としての役割は果たせたのかなと思います。そこで、またひとつ自信がつきましたし、自分が思っているようなパフォーマンスに上がってきていると思っています。

――以前言っていた「すぐに結果を求めてしまう」というのが、戻ってきてしまった感じでしょうか?

自分でも気づかないような、ちょっとした驕りがあったんですかね。日本代表の秋の遠征は怪我で途中で戻ってきて、自分としてはリーグワンの開幕に向けてしっかりと準備していくことにフォーカスしていました。それでも開幕戦で1番をつけられなかったですし、フィニッシャー続きとなって、自分の中で焦りのようなものもあったかもしれません。

――そういう状態でも1番のライバルが多いチームにいるというのは、考え方によっては素晴らしいことですよね

そうですね。めちゃくちゃ良い環境だと思います。

――そこで手応えを感じてきたということは、これからの活躍に注目ですね

そうですね。やっぱり譲りたくないですからね。スクラムにプラスで昨シーズンよりもレベルを上げなければいけないと思っています。ジャパンで教わったことに加え、アオさん(青木佑輔/アシスタントコーチ)や隣のフッカーや3番の選手とのコミュニケーション、そして今シーズンはバックファイブ(4番~8番)も巻き込んで、1年間しっかりと作り込んできていて、スクラムに対して昨シーズンよりも8人の意識が強くなっているので、残りの試合が楽しみです。

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◆当たった時に90度から100度の角度

――スクラムを組んでいて、これまでと違いを感じますか?

コミュニケーションの取り方も変えましたし、今までは1番、2番、3番で共有していることを4番から8番の選手に落とし込むだけだったんですが、まずは練習でその前の準備のところから話をして、スクラムのことを理解してもらい、みんなを巻き込んでやっています。それによって、これまでとは全然違いますね。

例えば、レフリーから「セット」の声がかかった瞬間にぶつかり合いますよね。スクラムでも相手との境界線をセンターラインと呼ぶんですが、ヒットの段階で相手にセンターラインを取られても、今はそこから押し返せる馬力があります。全部のスクラムで上手くセンターラインを取ることは出来ないので、センターラインを取られた時でも簡単にやられない、やり返せるスクラムになってきています。

キヤノンとの試合でも何回かセンターラインを取られましたが、そこから押し返せたり、しっかりカウンターに行けたりする重さや強さがあったので、それは後ろの5人の力になります。僕らからしたらめちゃくちゃ助かりますし、そういう意識を後ろの5人が持ってくれているということがとても有難いことです。

――スクラムでセンターラインを取られると、通常はどうなってしまうんですか?

「よーいドン」の段階で遅れたようなものです。スクラムを組んでいて、センターラインを取られると窮屈になるんですよ。その状態で相手に足を運ばれて前に出てこられると、僕らは足を下げるしかなくなります。センターラインを取られても、相手が足を運ぶ前に重さをかけて相手を戻せる時があります。そこの意識がバックファイブの中でも上がってきました。今シーズンは特にその部分を感じますね。

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――そこの改善はスキル面によるものですか?それとも精神面によるものですか?

1番、2番、3番にも足のスタンスというか、相手との間合いがあって、それに対してバックファイブが当たって膝の角度が横から見た時に、120度や130度だと伸びすぎてしまっています。つっかえ棒みたいになってしまっていて、押されはしないけれど押せもしない、推進力がない姿勢になります。当たった時に90度から100度くらいの角度になるように、当たった後の角度を想定した足の位置に変えました。

あと、6番と7番からの、どうやって1番と3番を助けてあげるかという角度であったり、そういうところを8月、9月の準備期間から話をして、映像を見て、と繰り返してきたので、そこがシーズンに入って上手くいき始めているかなと思います。やはりスクラムは1番から8番までが繋がらないといけません。どこか欠けると、そこが穴になって崩されてしまうので、誰も欠けてはいけなくて、全員が同じ方向を向いて、同じ足の位置で同じパワーを与えないと相手にプレッシャーはかかりません。

スクラムではやはり圧倒的な差がないと崩せないんです。1番、2番、3番で作った壁を、4番から8番がまとまって押す、ウォールバトルのようなものですね。だから、フロントローの肩のコネクション部分が崩れてしまうと、バックファイブがどれだけ頑張っても押す壁がなくなって、そこから相手に押されてしまいます。最近は後ろの重さで負けることはないので、4番から8番の意識そして取り組んできたことが出てきています。それはスクラムを組んでいても感じるので、とても有難いです。

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◆全チームの全スクラムで勝ちたい

――壁が崩れてしまうと後ろが強くても勝てない、つまり1番、2番、3番が非常に重要ということですね

そこは前3人の責任ですね。いま前3人は誰と組んでもコネクションが良くて、今シーズンのサンゴリアスのスクラムはレベルアップしていると思います。

――肩のコネクションで大事なことは何ですか?

難しい質問ですね。少しのズレがあると、例えばお互いの肩の高さが合っていなかったり、間が開いていたりすると、組むと分かるんですが、ズレて間に重みがかかってしまいます。そうならないように綺麗な壁を作って押すという感じです。逆に相手の崩し方は、いかに壁の割れ目を見つけて攻めるかですね。

スクラムはボールが入る前にほぼほぼ決まります。昨シーズン感じたことですが、パナソニックはそこが上手くて、そういう部分でプレッシャーを掛けられませんでした。準備段階で全て布石を打たれて、お互いにプレッシャーがかけられない状態になってイーブンという感じでした。今シーズンでは、パナソニックだけじゃないですが、全チームの全スクラムで勝ちたいと思っています。そこで勝つだけで試合の流れに大きく影響を与えます。

そこでやられてしまうと自分たちにも大きな影響があるということを身に染みて分かっているので、スクラムに入る前の丁寧さ、細かい部分をかなり意識していますし、1番、2番、3番で誰が出ても出来るように、試合の週の月曜日にフロントローで「どういうテーマでやるか」「どこにこだわって相手を崩すか」など、映像を見ながらミーティングをしています。

――試合の後には8人での反省会などもあるんですか?

そうですね。試合でのスクラムはどうだったか話をします。スクラムは実際にやってみないと分からないと思いますし、失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、昔のスクラムと今のスクラムでは全然違います。昔は「こうしておけば、こうなる」というようなものがあったんですが、今は簡単には組めなくなっています。

――昔と今のスクラムで、いちばん大きな違いは何ですか?

攻め方とか、決まりごとの多さとかですかね。8人がまとまらなければ勝てないので、この選手がいればスクラムが勝てるというようなものではないですね。

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◆良いスクラムが組めた

――第11節キヤノン戦では、背番号は1番、2番ではありませんでしたが、1番と2番のポジションで兄弟出場を果たしましたね

表現できない嬉しさというか、そういう気持ちがいちばんでした。弟もここまでに、色々なことを犠牲にして、色々な決断をしてサンゴリアスに加わることが出来ました。チームとチームメイト、関係者に対して、同じチームにいられるというだけでも感謝の気持ちがありますし、1年目でチャンスをくれたこと、同じ試合で出してくれたことに、感謝という気持ちがいちばん大きいですね。

――実際にスクラムを組んでみてどうでしたか?

普段から一緒に住んでいますし、スクラムの話は常にしていて、試合に出る出ない関係なくグラウンドで肩を合わせています。季依典(呉)もアオさん(青木佑輔/アシスタントコーチ)を捕まえて、常にいつ試合に出ても良いように、自分のレベルを上げていけるように取り組んでいます。だから、試合でもぜんぜん違和感なく組めました。

――一緒に暮らしていて、家で組むこともありますか?

さすがにそこまで引っ付いてはいないです(笑)。キヤノン戦では、相手の球出しが速くてペナルティーは取れませんでした。1本のスクラムしかチャンスはありませんでしたが、相手にプレッシャーを与えて良いスクラムが組めたと思います。

――ご両親は喜んでいましたか?

めちゃくちゃ喜んでいましたよ。「感謝だな」って言っていました。5人兄弟で、僕が3番目で、季依典が5番目なんですが、4番目もラグビーをやっていました。もう辞めてしまったんですが、4番目の弟の想いもありました。3番目と5番目が一緒に出るにあたって、キヤノン戦を特別な試合にするために準備しました。親もそうですが、ファンの人や地元の人、よく母親のお店に来てくれる人、中学や高校で指導してくれた人、同級生の親など、色々な人から言葉をかけてくれました。

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◆文句なしで出られるように

――呉季依典選手の出来はどう見えましたか?

僕からしたら早くセーフティーな点差まで広げて、少しでも長く出場させてあげられればと思いましたが、あの点差で、試合終了間際での出場でした。とにかく一向に点差が開かなかったです(笑)。試合に集中はしていましたが、「早くデビューさせてあげたい」と思っていました。

あの短い出場時間の中で、しっかりとコミュニケーションを取って、チャンスでボールにプレッシャーを掛けていましたし、サム・ケレビのチェイスに対してしっかりとサポートに入って、こぼれ球を拾って手放した後に、またボールをもらって、最後にはトライにも繋がりました。それに加え、スクラムでも良いプレッシャーをかけていて、なかなかチャンスが回ってこない苦しさを乗り越え、プレータイムが少ない割には、それまでに準備したことを全部出してくれたんじゃないかなと思います。

――次は1番と2番のジャージを着て、スクラムを組みたいですね

僕らもそれを目指していますし、そこまでの信頼を築き上げて、文句なしで出られるようにしたいですね。弟もそれを狙っていますし、怪我をせずプレーし続けることが自身の成長にも繋がりますし、それがチームや仲間からの信頼にも繋がります。弟にも話すんですが、100点を狙いすぎるんじゃなくて、80点台をしっかり狙って、チームに貢献できるように、また一緒に出られるチャンスを待ちながら頑張りたいです。

――今シーズン、目指すところは?

チームのコンディションも良いですし、怪我人が増えているのは長いシーズンを乗り越えるためにはつきものだと思うので、しっかりとエナジーを持って取り組みたいと思います。昨シーズン負けた悔しさは誰も忘れていないので、リベンジを果たして初代リーグチャンピオンにならなければいけないという責任がありますし、それが目標でもあります。それに対して、今シーズンはこのまま楽しんでチャレンジしていきたいですね。

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<続けて呉季依典選手にも話を聞きました>

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◆兄貴とも1本スクラムを組めた

――サンゴリアス初キャップを取りましたね

出場時間は納得いくものはありませんでしたが、ファーストキャップを取れたことが率直に嬉しく思います。

――そろそろメンバーに入るという予感はありましたか?

なかなかメンバーに入れなくて、また練習試合もなかなか出来ない中で、モヤモヤする時間もありました。普段の練習からスクラムで手応えを感じていて、コーチから「だいぶ組めるようになってきたし、お前の武器になっているんじゃない?」と言われて、それからは少しはチャンスがあるかなと思うようになりました。

僕の中でも試合を見ながら、パナソニックやコベルコ戦はなかなかチャンスは無いかなと思っていましたけれど、相手どうこうではありませんが、NTTコミュニケーションズ戦、キヤノン戦、ドコモ戦などではチャンスがあるかなと思い、しっかりと準備をしていました。

――実際に出場してみてどうでしたか?

いつ出場しても良いように準備はしていたので、短い中で兄貴とも1本スクラムを組めました。ボールキャリーやディフェンスという部分では機会がありませんでしたが、1本のスクラムでしっかりとプレッシャーをかけられたので、自分としては良かったかなと思っています。

――サンゴリアスに入って、実際にサンゴリアスのスクラムのレベルはどうですか?

正直、同じフッカーの選手たちは、みんな日本代表ですし、1番の兄貴にしても、石原慎太郎さんにしても、3番の垣永さんにしても、みんな日本代表経験者ですし、そういったところを考えると、普段の練習からレベルの高い、強度の高い、仲間同士の戦いがあります。

――サンゴリアスに入ったことでの発見はありましたか?

青木さんという良いスクラム指導者がいて、それに加え代表経験者がいます。スクラムを組んだ後のフィートバックも、かなり具体的な内容が返ってきますし、知識面でもスキル面でも成長を感じています。

――スクラムについて掴んだものは?

まだまだ100%ではありませんが、ある程度、戦えるところまでは上がってきているんじゃないかなと思っています。

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◆実現までそんなに遠くはない

――キヤノン戦では2人ともリザーブからの出場でしたが、1番と2番のジャージを着て出場できるのは、いつ頃になると思いますか?

1日でも早く実現させたいですね。兄貴はいつでもいけると思うので、後は僕次第だと思います。僕がもっともっとチームから信頼されて、ゲームタイムを伸ばして、スクラムやセットプレーの安定など、結果をしっかりと出せば、実現までそんなに遠くはないんじゃないかなと思います。

――スクラムは面白いですか?

そうですね。サンゴリアスに入って、より好きになりました。僕は大学の時に、ナンバー8からフッカーにコンバートして、ホンダの時にはまだ一生懸命やるという感じで(笑)、面白いというよりも大変なポジションという感じでした。細かいことが分かってきて、大変さは変わらないですけど、「こうしたら相手はこうなる」など、意図を持ってスクラムが組めるようになってからはとても楽しくなりました。

――ポジションとして、2番と8番で共通する点はありますか?

スクラムという部分に関しては全く違います。フィールドプレーの動きは一緒とよく言われますが、スクラムでは最前列と最後列になりますし、スクラムでのフッカーの役割は奥が深いですね。

――同じポジションの選手に勝つポイントは?

フィールドプレーも好きなんですが、やはりフッカーとしては、セットプレーの部分です。スクラムワークやラインアウトスキルは避けられないので、そこでしっかりと実力を発揮して、スクラムで圧倒したいですし、フィールドプレーでも圧倒したいですね。全ての面で勝ちたいですね。

――スクラムでの自分の強みはどこだと思っていますか?

正直、スクラムでの長所はまだ見つけられていませんが、兄貴からも粘り強いと言ってくれているので、そこは強みと思ってもいいのかなと思っています。「相手に差し込まれたとしても、しっかりと我慢して、そこから返せるような力はあると思う」と言ってもらえるので、そこは強みかなと思います。

――その我慢のポイントは?

根性ですね(笑)。兄弟みんな、「負けるか」っていう根性があります。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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