2022年4月 1日
#790 尾﨑 晟也 『出るところには出て 見るところは見て』
初のゲームキャプテンを勝利で飾った尾﨑晟也選手。その試合で、弟の尾﨑泰雅選手も初キャップ、初トライを達成。"揃い踏み"の尾﨑兄弟に喜びの声を聞きました。(取材日:2022年3月下旬)
◆リーダーシップを意識
――第10節NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安戦でのゲームキャプテン、初のゲームキャプテンはどうでしたか?
プレシーズンマッチでは、2試合くらいゲームキャプテンをやりました。その時はリーダーという役割を自覚してチームを引っ張っていましたが、日本代表メンバーもいない状態でした。その延長線上で、日本代表メンバーが帰ってきても、チームの中ではリーダーグループの一員として動いています。ですので普段からチームのことを考えたり、リーダーシップの部分を、特に今シーズンは意識しています。
――それは今シーズンからのことですか?
昨シーズンも一応、ディフェンスリーダーや、戦術的なところには入ってやっていました。今シーズンはリーダーが直人(齋藤)と僕と、ヘンディ(ツイヘンドリック)、亮土さん(中村)の4人と少なくなったので、より連携が取れていると思いますし、ベテラン選手や若手の直人や僕がいて、バランスの取れたリーダーグループを亮土さんが作ってやっていると思います。そういった意味では新しいと思います。
――新しいことをやる上で、自分の中で精神的な壁などがあったりはしましたか?
チームの中にリーダーという役割が無くても、リーダーシップを発揮している選手は多くいますし、僕もこのチームに入った時からリーダーシップを取ろうと思ってやってきたので、大きく何かを変えるということはしていません。普段通りリーダーシップを発揮して、まとめるところをしっかりまとめるという感じでやっています。
――その役割は自分に合っていると思いますか?
自分のタイプ的には"ザ・リーダー"という感じではないと思っていますが、リーダーの中にも色んなタイプがあって、自分は自然体で色々な人とコミュニケーションが取れたらと思っていますし、いま中堅の立場に差し掛かっているので、若手とベテランを繋ぐ間に入ったり、僕より下のメンバーをまとめたり、そういう部分で上手くコミュニケーションが取れたらと思っています。
――そういう意識が以前からあって、みんなが分かるように表立って役割が与えられたのは初ということですね
そうですね。公式戦のゲームキャプテンは高校生以来じゃないですかね。高校の時はキャプテンをやりましたが、大学では康介(堀越)がキャプテンで、僕はバイスキャプテンでした。
◆余裕を持ってプレーする
――ゲームキャプテンをやった試合では、しっかりと役割を果たせましたか?
周りにも助けてもらいながらですけど、1週間チームのことを考えて、どうゲームに持っていくかという部分を考えましたし、結果が出たので良かったかなと思います。
――プレーを見ていても、一回り大きくなったように感じました
周りを見る余裕など、そういう面では余裕が持てるようになったかなと思います。
――プレーのキレやスピードだじゃけなく、ある種の力強さを感じるようになりました
見ていてそう感じてもらえるなら嬉しいですね。自分自身としてはそこまで大きく変わった感じはしていないんですが、もう中堅になる年齢なので、余裕を持ってプレーするという部分は出来るようになってきたと思います。色々なことを考えながらプレー出来ていて、余裕を持てるようになっています。
――周りがよく見えているんですね
そうですね。いっぱいいっぱいになることは無いですね。
――それはキャリアを積んできたからですか?
もちろん、それもあると思いますし、日頃の練習の中でも余裕を持ってプレー出来ているので、考え方なんですかね。なぜそうなったかは、自分でもよく分からないですね(笑)。
――先ほど言った力強さは、単純にプレーの強さだけじゃなくて、"俺についてこい"というような強さも感じます
それが自然に出ているなら、良いんじゃないかなと思います。もちろんチームを引っ張るという気持ちがありますし、そういうつもりで毎日を過ごしていますけど、それを感じ取ってもらえているならOKかなと。それはとても嬉しいですね。
自分の中で心掛けているのは、それを表立って出そうとしないことです。「出るところには出て、見るところは見て」という感じでやっています。
◆どんどん自分のプレーを試したくなる
――プレーに関して言うと、右手一本でのパスなどは、それ自体がパワフルでしたが、トライに繋がるラストパスを出すことが多いですよね
そうですね。NTTコミュニケーションズ戦は15番だったので、ラストパスをしっかりと繋げるという仕事もありました。あのパスは、本当はもうひとつ前に放っても良かったんですが、自分の中で抜けると思って勝負をしたので、最終的にあのようなパスになりました。まあ、繋がったので良かったです。
――あのパスの前のカウンターアタックも良かったですね
あの辺のランニングは自分の強みで、それが試合でも多く発揮できているので、良いところかなと思います。
――身体の調子を維持したり、更に良くしていくために気を付けていることはありますか?
シーズンが長いですし、試合が続いていますが、いちばんは準備です。ケアの部分で、しっかりと自分の身体と向き合うことです。常に良い状態をキープすることを心掛けています。その上でシーズン中ですけれど、スピードの変化などにも取り組めているので、そういった意味でも今シーズンはとても調子が良いと感じています。
――そういう状態だと、プレーしていても楽しいですよね
そうですね。試合もありますし、どんどん自分のプレーを試したくなります。毎試合、そういう気持ちでいます。
◆爆発的な瞬発力
――プレーの幅も広がっているのではないでしょうか
特に個人の練習で取り組んでいるところが、ランニングではもう一段階スピードを上げるというトレーニングをしています。ラグビー面で言うと、ワイドブレイクダウンのジャッカルとか、ブレイクダウンのディフェンスの部分に取り組んでいます。
第9節クボタ戦でジャッカルを1本決めることが出来ましたし、特にワイドブレイクダウンでプレッシャーを掛けるという部分では、どんどんチャレンジ出来ているんじゃないかなと思います。クボタ戦ではサム(サム・ケレビ)がタックルに入って、僕がジャッカルに入ってターンオーバー出来たので、そういうところでプレッシャーを掛けられていたので良かったと思います。
――ランニングにもキレがありますね
元々、そこは強みにしていましたが、S&Cコーチと一緒にランニングフォームに取り組んだり、ウエイトトレーニングでも重いウエイトを上げるメニューから、爆発的な瞬発力が得られるようなメニューに変えてもらって、そういうトレーニングに取り組んでいます。そこがプレーに繋がっているんじゃないかなと思います。
――走りについても変わってきたと感じていますか?
実際にスピードで言えば、大きく変わってはいないと思いますが、走っている感覚とか、そんな走りが何本も出せたりとか、そういう部分で変わってきていると思います。
――そういう部分の変化によって、視野が広がって余裕が持てているんですかね
そうですね。自分自身の幅が広がって、選択肢も増えて、そういう意味で余裕が生まれているのかなと感じています。
◆ディフェンスの部分で目立つ選手
――いまの課題は何ですか?
これまでも課題でしたが、ディフェンスの部分です。今シーズンはタックル成功率はそれほど悪くないんですが、その精度をもっと目立つようにしたいですね。アタックで目立つ選手はたくさんいるので、ディフェンスの部分でも目立つ選手を今シーズンは目指しています。それに関しては、まだまだ目立った活躍は無いので、課題かなと思っています。
――目立つためにどうしていきたいですか?
抜かれないことやタックル成功率も大事なんですが、例えば、ビッグタックルじゃなくてもそのままボールに絡みに行ったり、2アクション出来るような選手になると、だんだん目立ってくると思うので、ひとつの仕事だけで止めないということを、ディフェンスの部分で心掛けてやっています。
――NTTコミュニケーションズ戦では、弟の尾﨑泰雅選手がデビューして、トライも取りました!
ティー(テビタ・リー)がプレゼントパスをしてくれただけですよね(笑)。こんなことを言ったら、後から色々言われそうですが、そこにちゃんとサポートに走っていたという、トライの嗅覚を持っているなと思います。それに、デビュー戦でトライを取るというのは、やっぱり何か持っているんじゃないかなと思います。
――自分自身のデビュー戦を振り返っても、大変なものでしたか?
僕の公式戦デビューは開幕戦のトヨタ戦でしたが、サンゴリアスとしての初めての試合は、6月にやったブランビーズとの試合だったので、めちゃくちゃ緊張しましたし、やっぱりファーストキャップは緊張すると思います。けれど、泰雅は伸び伸びプレーしていたので、その辺は素晴らしいなと思いました。
――同じグラウンドにお兄さんがいるから、伸び伸びプレー出来ていたんですかね?
いや、そこは性格なんじゃないですかね。本当かどうかは分かりませんが、試合前も普段通りで、緊張している様子はなかったですね。
――泰雅選手がトライを取った後に、いちばんに駆け付けたのが晟也選手でしたね
たまたまです(笑)。僕は常日頃からサポートに走っているので、たまたま弟がトライと取ったというだけですね。けど、それが良い絵に見えちゃってましたね(笑)。トライを取ってくれて、嬉しかったですよ。
――ご両親は喜んでいましたか?
聞いたんですが、母親は泣いていたみたいです。僕らが同じグラウンドに立ったら、絶対に泣くだろうなとは思っていました(笑)。僕はそれほど手がかからなかったとは思っているんですが、弟は結構、手がかかるタイプだったので、そういった面でも僕自身も嬉しかったし、両親も嬉しかったんだと思います。
――この後、弟さんにも一言を聞いてみようと思っています
面白いですね。僕も気になります。それを見たら、また母親が泣いちゃうかもしれません(笑)。
◆どれだけディフェンス力を高められるか
――これまでのサンゴリアスの戦いぶりは、選手としてはどう感じていますか?
シーズンの始まりに比べると、ディフェンスもだんだん良くなってきていますし、我慢できるところは我慢できていて、全体として見たらすべてが悪いわけではありません。けれど、ペナルティーや反則の部分で自分たちから崩れていってしまったり、課題が明確に出ていると思うので、あとはそれをシーズンが深まるにつれて修正していって、どれだけディフェンス力を高められるかだと思います。課題が明確ですし、それに対して取り組んでいるので、悲観的にはなっていません。これからの試合でも、最小失点を目指していきたいと思います。
――チーム力は試合ごとに上がってきていると感じますか?
毎日の競争の中でチームとしてレベルアップしていますし、そういった意味でもどんどんチーム力は上がっていっているんじゃないかなと思います。
――今後の個人的な目標は?
調子が良いので、この後もしっかりと継続して、高いパフォーマンスを出していくことです。その先に優勝だったり、日本代表があると思っているので、まずは1戦1戦で高いベストパフォーマンスを出すことを心掛けてやっていきます。
――今シーズンは初代チャンピオンもかかっていますし、優勝へのこだわりは?
昨シーズンは優勝できる自信があった中で負けてしまったので、今シーズンはその悔しさを絶対に晴らしたいという気持ちをチームとして持っていますし、新しいリーグになって、初代チャンピオンになるということは光栄なことだと思うので、全員が強い想いを持って取り組んでいます。
<続けて尾﨑泰雅選手にも話を聞きました>
◆尾﨑泰雅「アタックの部分では、誰にも負けてない」
――トライのシーン、パスが来た瞬間はどんな気持ちでしたか?
パスのボールが少し後ろになったので、相手に追いつかれるだろうなと思って走っていました。追いかけてきたのが、元オーストラリア代表のフォラウ(イズラエル・フォラウ)だったので、怖すぎて必死で走っていました(笑)。
――実際にトライを取った時はどんな気持ちでしたか?
サンゴリアスで初めてのトライだったので、気持ち良かったですね。
――最初に兄の晟也選手が駆けつけてくれましたね
いちばんに駆けつけてくれて嬉しかったですね。
――スタンドで見ていたお母さんが泣いていたそうですね
色々と迷惑をかけてきたので、親孝行じゃないですけど、良い形で見せられたかなと思います。
――リザーブでしたが、初めてサンゴリアスで試合のメンバーに入った時にはどんなことを感じましたか?
驚きが勝ちましたね。その後すぐに"やってやろう"という気持ちになりました。
――メンバーに入れる自信はありましたか?
メンバーに入れなかった時期は、諦めずにやろうと思っていました。自分の持ち味であるアタックの部分では、誰にも負けていないという自信があったので、諦めずに取り組んだことでメンバーに選んでもらえたと思います。
◆尾﨑晟也→尾﨑泰雅 「もうちょいの辛抱」
――晟也晟也選手からもアドバイスはありましたか?
いや、特には。「もうちょいの辛抱やな。頑張れ」とは言ってもらっていました。
――自信を持っているアタックでは、自分の力を発揮できましたか?
ディフェンスの部分は課題で、もっとやらなければいけないと思っていますが、アタックの部分でゲインは出来ましたが、もっとボールをもらう動きが出来たんじゃないかと反省しています。納得は出来ませんでした。
――もっと出来たと感じたところは、具体的にはどんなところですか?
他のみんなが強くて、どんどんゲイン出来ていたという部分はありますが、もっと声を出して、ボールをもらえるところもあったかなと思っています。もっとコミュニケーションをもっと取るべきでした。自分がボールをもらいたいタイミングと、どこにスペースがあるかという部分をもっと周りに伝えられたら、良かったなと思います。そこで出た課題を意識して、日々のトレーニングに励んでいます。
――今後の目標は?
ずっとメンバーに入ることが目標ですが、まだまだ課題であるディフェンスをもっと勉強して、取り組んでいかなければいけないと思っています。アタックの部分は通用すると自信を持っているので、ディフェンスを完璧にしていきたいと思っています。
――晟也晟也選手に向けてひと言お願いします
デビュー戦でしたけど、とてもプレーしやすくて、色々と声を掛けてくれたり、忙しい中でも適切な言葉を掛けてくれたので、感謝しています。その姿を見て、僕もそういう選手になりたいと思える兄貴です。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]