2022年3月25日
#789 辻 雄康 『ハードコンタクト--どんな状況でも自分の身体をぶつけていきたい』
スターティングかリザーブかにかかわらず、この2シーズンほぼ試合メンバーに名を連ねている辻雄康選手。力を発揮し始めながらもまだまだ成長途上の今、ラグビーに向き合う姿勢や意識について聞きました。(取材日:2022年3月中旬)
◆プレーオフでも出場することを目標
――今シーズンは全試合でメンバーに入っていますね
サンゴリアスのロックとして出場して、チームの勝利に貢献できるようにと心掛けています。自分がインパクトを残すことももちろんですし、それだけではなく、サンゴリアスのラグビーを体現できるようにプレーしています。例えば、ボールのリリース、ブレイクダウン周りのアクションについて、昨シーズンよりもこだわって取り組んでいます。そういった意味で、昨シーズンよりも精度が高いんじゃないかなと思っています。
――精度の他に、パワフルさ、タフネスさも目立っていると思いますが、どうですか?
チャンスを絶対に無駄にしないようにと考えていますし、そこで自分の持ち味を出さなければいけないと、毎試合で感じています。そういった場面で自分のパワフルさを発揮できなければ、自分が出場する意味がないと思いながらプレーしているので、毎試合、そこに対して強い気持ちを持ってやっています。
――出来についてはどうですか?
もちろん良い時も良くない時もあるんですが、あまり大それたことは言えないかなと思っています(笑)。
――昨シーズンのデビューからコンスタントに試合に出続けていることについてはどうですか?
多くの試合に出ることが出来ましたが、昨シーズンの準決勝と決勝ではメンバーから外れていて、そういった試合でチャンスを得ることが出来なかったというのは、自分に落ち度があったと思っています。今シーズンはそういった試合でも何としても出場したいという気持ちがあるので、チームからの信頼を試合を重ねるごとに高めていって、プレーオフでも出場することを目標に取り組んでいます。
◆最後までこだわり切る
――現時点での課題は何ですか?
ひとつひとつの細かいところを、最後までこだわり切るというところです。試合の色々なシチュエーションにおいて、細かいところが疎かになる場面があるので、例えば、ハンドリンクミスやディフェンスでのコミュニケーションなど、そういうところをもっともっと精度高くやらなければいけないと思います。課題と言えば、全てになりますが、少しずつ毎試合でレベルアップ出来るようにと心掛けています。
――昨シーズンのインタビューでは、MVPを取りたいと言っていましたが、今シーズンも狙っていますか?
昨シーズンの気持ちとしては、自分が試合に出てインパクトを残し、継続的に試合に出たい、勝利に貢献したいという想いがあり、MVPを取りたいと言ったと思います。今シーズンもMVPを取るつもりでプレーするんですが、どちらかと言うと、プレーの精度、安定して常に良いボールキャリーをするというところにフォーカスしています。
――永遠のテーマの「ネバーギブアップ」は、今シーズンも継続ですね
そうですね。それはどんな状況でも頑張っていきたいと思います。そこは先輩を見習って、色んなタフなチョイスをしている先輩たちが多いですし、先輩後輩問わず、サンゴリアスメンバーは全員そういう選択をしているので、そこをもって意識して頑張っていきたいと思います。
――ネバーギブアップは辻選手のお爺さんの辻静雄さん(料理研究家,辻調理師専門学校理事長)の言葉なんですね!伝記小説『美味礼賛』(海老沢泰久/文藝春秋)は以前、夢中になって読みました
僕が生まれる前に亡くなってしまったので、直接会ったことは無いんですが、僕も『美味礼賛』は読みました。色々とお話ししたいところですが、残念ながら会ったことはありません。僕の顔は、父親よりも祖父に似ていると思います。
◆"勝ち切る"のがサンゴリアス
――試合に出続けているいま、ラグビーをやっていて面白いと感じるところはどこですか?
あまり良いことではないかもしれませんが、今シーズンはギリギリの厳しい展開の試合もあって、そういう試合で勝ち切ることが出来ています。パナソニックには負けてしまいましたが、ギリギリの展開で勝ち切れたり、相手を圧倒する試合もあって、そういうところがサンゴリアスの強さなのかなと思っていますし、そういうところが文化的にもあります。誰もミスしちゃいけない状況で責任あるプレーを遂行しているので、その点でもメンバーを尊敬しています。"勝ち切る"のがサンゴリアスなんだと思っています。
――敗れたパナソニック戦で残った課題は?
ボールキャリーのテンポが出ていなくて、サンゴリアスのラグビーが出来なかったことと、自分たちで防げるペナルティーの数が多く、そこで相手にリズムを与えてしまいました。それらが課題だと思いました。
――それらの課題は、日々意識しながら練習しているんですか?
チームとしてパナソニック戦が終わった後、練習からもっと試合を想定して、ひとつひとつのプレーについて、お互いに厳しく言い合うようにしています。練習中にミスが起きてしまった時に「これが試合だったら」と危機感を持って練習することで、それが試合に繋がると思います。パナソニック戦以降は、より精度が上がっていると思います。
――次に対戦する時には雪辱を果たす自信は湧いてきていますか?
そうですね。僕は15分くらいしか出場できなかったので、次はもっと長い時間出場して、自分の役目を全うして、チームを良いテンポにしていくことができたらと思っています。
◆100%で取り組む
――今のチーム状況は100点満点中、何点まで来ていますか?
いやー、それは分からないですね(笑)。けど、まだまだ強くなると思います。サンゴリアスには良い文化があるので、そこでまず自分をレベルアップさせて、もっとチームに貢献できるようになれば良いなと思います。点数はつけられないですが、サンゴリアスのレベルアップに繋がるように、もっと自分が頑張りたいという気持ちです。
――では自分自身に点数をつけるとすると、今はどのくらいですか?
いまロックで出場しているヘンディ(ツイヘンドリック)と比べて、ボールキャリーやタックルで上回れているかと言えば、まだそうではないので、僕もロックとしてもっとアグレッシブに、チームに良いモメンタムをもたらすことが出来るようにならなければいけないと常に思っています。
――選手みんなから"サンゴリアス愛"を強く感じますが、辻選手の場合、サンゴリアス愛のもとは?
ひとりひとりが練習を100%で取り組む。そういう姿勢からみんなを尊敬しているので、そこがもとになっていると思います。
――辻選手は目力が強いと言われますが、意識していますか?
練習中のコンタクトのところで、相手に強いメッセージを伝えられるように、まずは自分の気持ちを上げていかなければいけないと思っています。自分で目に力を入れているつもりはないんですけど(笑)、自分の気持ちを上げることで、そういう状態になっているんだと思います。
――そうやって超集中状態であるゾーンには入ったことがありますか?
実際にこれがゾーンだなってことはありませんが、ゾーンに入るために意識している感じですね。チームのやるべきことを守りつつ、それが無意識に思いっきりプレー出来ている時がいちばん良い状態だと思います。僕はそんなにメンタルが強い方ではなくて、自分で自分の気持ちを作っていかなければいけないと思っているので、ゾーンに入れるように努力しています。
自分のゾーンがどういうものか分かりませんが、振り返った時に、思いっきりプレーしていた感覚の時に、いちばん良いプレーが出来ているので、それがゾーンと呼べるものなのかなと思っています。
◆チャンスを無駄にしない
――メンタルが弱いと、自分でかなり意識しているんですか?
そうですね。ひとつのミスで浮き沈みがあったり、コンタクトがしっかり出来なかった時に罪悪感を感じてしまうので、常に試合のテーマや何が必要なのかを考えてプレーしています。
――メンタルが沈んでしまった時にはどうやって回復させるんですか?
試合前に亮土さん(中村)や流さんが言った言葉をノートに書いて、その言葉を自分の心に刻むようにして、そこにしっかりと立ち帰れるようにしています。今回の自分のテーマは何なのか、「チャンスを無駄にしない」とか、「ネクスト・ジョブ」であったり、「強いコンタクトで相手にメッセージを伝える」とか、そういうことを意識して、常に出来るように取り組んでいます。
自分の役割ややらなければいけないことは明確なので、それに対してどういうモチベーションで出来るかというところが大事だと思います。サンゴリアスのメンバーの言葉や、自分が意識しなければいけないこと、自分の課題など、試合前に書いたりして、常にそういう気持ちを持ってグラウンドに出たりしています。自分の状態によってプレーの精度が変わってしまうと理解しているので、そういったところを意識してやっています。
――テーマやメッセージは、毎試合あるんですね
毎試合、書くようにしています。ただ、そういったものがなくても、自分の気持ちを上げていかなければいけないと思うので、敵が相手かもしれませんが、まずは自分にベクトルに向けて、良い状態を作っていきたいと思ってます。モチベーションもそうですが、意識しているのは身体の準備のところなので、そこは人一倍しっかりやりたいと思います。
――ファンの人にどういうところに注目してもらいたいですか?
ハードコンタクトのところですね。しっかりとそこで負けないで、どんな状況でも自分の身体をぶつけていきたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]