2022年3月18日
#788 須藤 元樹 『プライドに懸けて押し切る』
久々の試合で本格的なカムバックを果たした須藤元樹選手。ブランクの期間中、苦しみから学んだことは何だったのでしょうか?ひとまわりもふたまわりも、大きくなって帰って来た須藤選手に聞きました。(取材日:2022年3月上旬)
◆精神的なブランクはなかった
――第8節コベルコ神戸スティーラーズ戦は久しぶりの試合となった復帰戦、どうでしたか?
ひと言で言うと、やっぱりラグビーは楽しいなと思いましたね。
――リザーブで後半16分からの出場でしたが、出番が来る前は「いまか、いまか」という気持ちでしたか?
出るタイミングについては事前にコーチとも話していて、だいたい後半10分過ぎくらいからということを聞いていたので、自分の中でしっかりと準備をしていました。だから、「いまか、いまか」という感じではありませんでした。自分のパフォーマンスをしっかりと出そうと思い、準備をしていました。
――そうするとブランクを感じずに、普通に試合に入っていった感じですか?
僕もそんなに試合経験がないというわけではありません。公式戦は昨シーズンのNTTコミュニケーションズ戦ではありましたが、今シーズンの練習試合でも出場はしていました。試合勘という部分ではぜんぜん足りませんでしたけど、精神的なブランクはなかったですね。
年明けからしっかりと身体の準備をしていて、ラグビー面もメンタル面も、試合に出る準備をしてきました。そこでなかなか試合に出られないというもどかしさはありましたが、試合に出ていたメンバーのパフォーマンスが良いと感じていたので、納得していました。ですので試合に出ているメンバーのパフォーマンスを超えないと試合には出られないと思っていましたし、練習でしっかりとアピールすることを心掛けてきました。
――練習から手応えを感じていましたか?
はい、自分の持ち味のスクラムはまったく問題なく、練習からしっかりと押せていましたし、チームにもコミット出来ていました。それ以外のフィールドプレーの部分で、試合のメンバーに比べてコンディション的に上がってきていない部分を感じていて、そこを自分でも理解していたので、練習から積極的にアプローチしていって、それがどんどん上がってきて、今に至っています。
――試合に出たということは、フィールドプレーの部分も高いレベルにきているということですか?
自分の中でもけっこう自信があって、スクラムは充実していますし、フィールドプレーも同じポジションの他の選手と遜色ないくらいに上がってきていると思います。
◆監督やコーチの期待に応えてやろう
――コンディションが上がってきている中、早く公式戦に出たいという気持ちはありませんでしたか?
もちろん試合に出ていないメンバーは、誰しもそういう気持ちを持っていると思います。僕の中では、試合に出られてないということは、自分の中で何か足りない部分があるということだと思っていたので、それについて監督やコーチともしっかりと話をしました。
「スクラムについては問題ない」という意見はコーチとも合致していて、「それ以外のところでもっとパフォーマンスを上げてくれ」と言われていました。それは自分が思っていたことでもあって、そこのすり合わせがしっかりと出来ていたので、「監督やコーチの期待に応えてやろう」と思っていました。なので、もどかしさもそれほど大きくありませんでした。
――課題は、具体的に言うと、どこだったんですか?
ひと言で言うとフィールドプレーです。アタック、ディフェンスでの細かい動きを含めてですね。そこは試合を積み重ねて戻ってくる部分も多少はあるので、練習試合もあまり経験できなくて、なかなか試合勘が戻せていなかった部分はありました。ただ練習も試合の強度に近い中で出来ているので、そこで自分の中で感覚も戻って来たかなと思います。あと、それにプラスして、自主練もS&Cコーチと取り組んだりしましたし、それは今でも取り組んでいます。
――では、今もけっこう走っていますか?
そうですね。全体練習の後に走ったりもしています。
――そういった練習も楽しいですか?
以前までは走るトレーニングは苦手というか、正直、嫌なところはあったんですが、そこは自分の中で絶対的に足りない部分です。そこをしっかりと認識した上で取り組んだら、楽しいまではいかないですけれど(笑)、黙々と取り組めるようになりました。
◆大きく考えると3年空いた
――公式戦出場が昨シーズンのNTTコミュニケーションズ戦だとすると、ほぼ1年ぶりですね
そうですね。昨シーズンのNTTコミュニケーションズ戦は、コンディションが万全ではなく、けが人が出たから僕が出場したというということもありました。なので、実力で試合に出たわけではありませんでした。今回のコベルコ神戸スティーラーズ戦はパフォーマンスが戻ってきていて、自分の中でも自信を持ったメンバー選考だったので、そこは昨シーズンとはぜんぜん違いました。
――大きく考えると更に長いブランクがあったということですね
大きく考えると3年くらい空いたかもしれないですね。コンスタントに試合に出ていたのは、2017-2018シーズンになるので、もう4年前ですね。2年目のシーズンでしたが、1年目、2年目はほぼ試合に出ていて、3年目の時の夏に日本代表に呼ばれました。
今でも覚えているんですが、日本代表から帰ってきて、2018年7月7日にあったリコーとの練習試合で大きな怪我をしてしまって、そこから怪我の繰り返しでした。治っても細かい怪我を繰り返して、それがずっと続いていたので、そこから考えると自信を持ってプレーが出来ているのは約4年ですね。
――怪我を繰り返したのは、怪我の個所をかばってしまってということですか?
たぶんかばったことで、他の個所を怪我してしまうということが多少なりとはあったと思います。メンタル的にもキツイ時期もあって、自分の中で波がある時期が続いていました。色々なことに取り組んで、その状況を打開しようとしましたが、また怪我をしてしまって、負のサイクルに入ってしまった感じがありました。最後の怪我が2021年の末くらいで、そこから徐々に調子が戻ってきて、今でも怪我に対するケアは行っています。
いま考えると苦しい4年間でしたが、苦しい反面、学ぶことも色々とあって、2年目までは試合に出ることへの不安が全くなく、普通にプレーしていれば試合に出られている状況でした。その時はノンメンバーの気持ちも分かりませんでしたが、そこから怪我をして試合に出られない時期が続き、怪我が治って復帰してもパフォーマンスが上がらず、また怪我をしてということを繰り返して、本当に試合に出られない時の気持ちを感じました。
やっぱりワンチームと言っても、どうしても試合に出られているメンバーと出られてないメンバーとでは違って、試合に出られていないと辛いんですよ。そういった時にグラウンドでもそうですが、グラウンド外のところでも、ノンメンバー同士で食事に行ったり、カフェに行ったりもしましたし、試合に出ていた時の経験を試合に出られてないメンバーに伝えたりしていました。
特に今のサンゴリアスは、どのポジションも100%試合に出られる選手っていないんですよ。どのポジションにも良い選手ばかりですし、その中でベストのパフォーマンスをした選手が試合に出ています。そういう部分含めて、リーグワンの中でいちばんポジション争いが激しいチームだと思っています。けれども改めて、サンゴリアスは良いチームだなと再確認が出来ました。
――競争の激しさという部分ですか?
競争の激しさはどのチームよりも激しいと思っていますし、それでもやっぱり試合に出られない悔しさって誰もが持っているんです。それでもみんなが腐らないというか、「絶対に見返してやる、絶対に試合に出てやる」という気持ちをみんなが持っています。他のチームを知らないので比較は出来ませんが、サンゴリアスには「自分なんて出られない」と思う選手がひとりもいなくて、社員選手、プロ選手問わず、みんながチームのことを大好きだと思っていますし、どうやって勝つかと常に考えているチームなので、そういうチームの中に身を置けていることが、素晴らしいことだと思っています。
◆ラグビーから離れる時間
――気持ちが下がっている時は、どう対処していたんですか?
下がっていた時って、怪我から復帰したのにまた怪我をした時だと思うんですが、その時に「またか」と思ってしまうと、どんどん気持ちが下がっていってしまいます。自分でも何が原因だったのかって、正直分かっていなくて、色々なことを試して、また怪我をしてということを繰り返していました。
メンタル的にリフレッシュさせることが必要なんじゃないかと思って、一度、怪我に対することとか、あまり深く考えることを止めたこともありました。ご存知の方もいるかと思いますが、僕は趣味がたくさんあるので、メンタルがヤバかった時は、そっちに一度シフトして、ラグビーから離れる時間を作るようにしました。
――そこに気づいたことが素晴らしいと思いますが、シフトしても気になりますよね
ゼロにはなりませんね。「なんでだろう」って気持ちは本当にありました。お祓いにも行きましたし、神様的なものにも頼ったんですが、それでもダメでした。ただ、これだけ繰り返すということは、何かしらダメなところがあると思っていました。
――学生時代から怪我は多かったんですか?
学生時代も筋肉系の怪我は多かったですね。社会人になって、3年目の途中まで全く怪我がなくて、大きな怪我をしてから繰り返すようになりました。
◆バランスが大事
――怪我をすることを積み重ねてき、いまは万全の状態ですか?
万全な感じはありますね。身体のバランスというか、生まれ持った自分の中のバランスが絶対にあると思います。身体を大きくするためにウエイトトレーニングをしますけど、ウエイトトレーニングをやり過ぎると、身体のバランスが崩れて怪我に繋がると思います。走り過ぎても怪我をすると思いますし、何事においてもバランスが大事だと思います。
――得意の"見て身につける"こともありましたか?
そう思うようになったきっかけがあって、色々なアスリートを見て、僕はあまり身長が大きくなくて、サンゴリアスのフォワードの中でいちばん身長が低いんですよ。でも体重はそこそこ重いんです。そこで怪我をした時のことを考えると、怪我をした時ってウエイトトレーニングをめちゃくちゃやっていました。
ウエイトトレーニングをやると身体は大きくなりますが、自分の中で動きが良くなることはあまりありませんでした。ただ、僕の生命線であるスクラムには絶対にパワーは必要なので、ウエイトトレーニングをガッツリやるようにしていました。それで怪我を繰り返していたので、最近は、チームのセッションはやりますが、重いウエイトはあまり持たないようにして、自分の動きをメインにしたトレーニングをするようにしています。重いウエイトを持つのではなく、軽いウエイトでいかにパワーを発揮するか。ラグビーで使う動きにフォーカスしたトレーニングをするように変えてから、怪我が無くなりました。
考えてみると、自分の中でやっぱりそうだなった思うんですよ。あれだけウエイトトレーニングをやっていれば筋肉は大きくなるけど、大きくなった筋肉を動かす関節は変わらないので、出力が増えた分、怪我をすることになります。身長が低い分、なおさら関節に負担がかかっていたと思います。
――自分のバランスを見つけたんですね
まだ模索中ではありますね。いまは良い感じで出来ていますが、もっと良いバランスがあるんじゃないかと思ってやっています。いまはピラティスやヨガもやっています。他のアスリートの人がテレビに出ているところなどを見ていると、僕みたいに身長があまり大きくない選手って、ウエイトトレーニングをガッツリやっている選手ってあまりいないんですよね。スポーツの特性にもよると思いますが、球技で身体全体を使ってやるスポーツでは、そのスポーツの動きに合わせたトレーニングをメインにやっている人がほとんどです。それと自分を照らし合わせた時に、ウエイトトレーニングなどラグビー以外のトレーニングをやり過ぎていたと思いました。
――気持ちの浮き沈みと、ヒゲは関係していますか?
ヒゲは全く関係なくて(笑)、ヒゲを生やし始めたのがプロになってからです。それまでは営業だったので、お得意様と商談をするのにヒゲは生やせませんでした。自分の中でプロになったらヒゲを生やそうと思っていたので、それで生やしています。
――ヒゲを生やしたきっかけは?
僕ってヒゲがないと、童顔なんですよ。それが嫌だったんです。それに有難いことに、僕は結構、ヒゲが生える方で、よく"逆さ絵"って言われます(笑)。ヒゲが結構生えるし、実際に生やしてみたら自分の中でしっくりきて、コンプレックスだった童顔も目立たなったと思います。
◆揺るがない
――コベルコ神戸スティーラーズ戦は、試合終了間際に何度もスクラムを組み、スクラムトライをするかというところまで来ていました。あの時はどんな気持ちでしたか?
あそこは僕のやるべき仕事なので、自分のプライドに懸けて、しっかりと押し切ろうと思っていました。感触的には「スクラムトライだな」と思ったんですが、試合後にユタカさん(流大)と話したら、レフリーから「ユーズ・イット(ボールを出せ)」のコールがかかっていたと聞きました。レフリーから声がかかったら仕方ないですけど、チームのトライに繋がったので、良かったと思っています。
――次の試合への手応えにもなりましたか?
そこは自信がありますね。
――あえて課題を挙げるとすれば、どこになりますか?
フィールドプレーはもっとやっていかなければいけないと思っていますし、自信はついてきましたが、もっともっとフィールドプレーでも魅せられれば、リザーブではなく先発出場も見えてくると思うので、これからも継続して取り組んでいきたいと思っています。
――山あり谷ありを乗り越えて、安定感がさらに増しましたね
もう何が来ても大丈夫ですかね(笑)。いろいろと辛いことを乗り越えてきたので、相当なことがない限りは揺るがないと思います。
――そんな今、ファンに注目してもらいたいポイントはどこですか?
やはり皆さん、スクラムに注目してくれるので、僕が入ったらぜひ注目してもらいたい部分です。ただ、僕としてはスクラムだけじゃなく、アタックだったりディフェンス、ラグビーに関わる全てのプレーで、僕が絡むプレー全ても見てもらいたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]