2022年3月10日
#787 下川 甲嗣 『その一歩でレースが決まる』
チャンスをつくるプレー、そしてチャンスを拡大するプレーで活躍する下川甲嗣選手。誰もが将来を期待する新人選手の、その発展途上を記録するインタビューとなりました。(取材日:2022年3月上旬)
◆セカンドマン・レースを実行
――第7節埼玉ワイルドナイツ戦でトライを取りましたが、今回はどんなトライでしたか?
今回のトライは、日頃から意識している集散の早さや"セカンドマン・レース"というところを実行していたら、ボールをもらえたというトライでした。パナソニックはジャッカルが上手い選手、隙を見せたらジャッカルを狙ってくる選手が多いので、いかに2人目のサポートに速く入ってジャッカルをさせないかということだったり、ブレイクダウンでクリーンにボールを出してテンポに繋げるということが、セカンドマン・レースのポイントになります。ボールを持って走っている人が、いつタックルされたり捕まったりするかは分からないので、それに対してしっかりとサポートにつくことを意識して行っています。
――昨シーズンの初キャップで初トライの時には、齋藤直人選手から「いけー!!」という声がかかっていたそうですが、今回のトライでもありましたか?
今回はなかったですね。今回は、もう1人の早稲田大学の先輩である中野将伍さんからボールをもらいました。また早稲田つながりでトライが生まれました(笑)。
◆次に繋がるプレー
――第7節を終えて3試合に出場していますが、出場に関しては順調ですか?
オフシーズン中から開幕戦に出場することを考えてやってきたので、開幕戦のメンバーに入れたことは素直に嬉しかったです。トヨタ戦とパナソニック戦ではフル出場をさせてもらって、パフォーマンスに関しては良いところも悪いところも、次に繋がるプレーだったと思います。
良いところは違うシチュエーションでもやりたいという想いになりましたし、悪いところでももっとボールに絡んでいきたいという、次に繋がる課題をもらいました。まずはフル出場できたことが今後に繋がるすごく良い経験になったと思います。
――フル出場を果たしたということは、持ち味であるワークレートを活かせているということですね
そうですね。ボールに絡んでいなくても声を出したり、周りにコミットして動けているという感覚があるので、そういった部分で、まだまだ足りないと思いますが、自分の役割を果たせているのかなと思います。
――良かったところと、課題が残ったところを、さらに具体的に教えてもらえますか?
アタックで言えば東芝戦やトヨタ戦のように、チームに勢いがある時には自分自身もボールに絡めて、ボールキャリーでも自分の好きな形でボールがもらえていました。そういうシチュエーションで、自分がやりたいようにボールをもらえたということは、良い形が出たと思います。
パナソニックと試合をしてみて、あのような劣勢な試合の時にも、同じようなパフォーマンスができるようになりたいと思いました、劣勢の時でもひとつのチャンスで、しっかりとボールキャリーが出来るようになりたいと思います。
◆昨シーズンから6番
――どういうところに気を付けると、そういったプレーが出来るようになるんでしょう?
一連の流れの中でそういったプレーがあると、相手も下がりながら対応しなければいけないので、アタックが有利になります。あまり勢いがない時でも、力強く前に出られるようにならなければいけないと思います。
僕がお手本にしているのは、ヘンディー(ツイ ヘンドリック)です。ヘンディーはフットワークを使って自分の相手をずらして、ハンドオフやオフロードを使って周りを活かすプレーが上手だと思います。自分が行くのも大事ですが、それが出来ない時にいかに間合いを作ったり、横の人を活かしたりするプレーがもっと出来たら良いなと思っています。
――ツイ選手は必ず前に出ますよね
やっぱり相手をずらしたりする能力が、素晴らしいと思いますし、そういったプレーを近くで学ばせてもらっています。
――実際に本人に訊いたりしているんですか?
はい、僕は元々はロックでしたが、昨シーズンから6番でプレーしているので、どういうことを意識しているかなど、訊くことがあります。
――昨シーズンは話せなかったショーン・マクマーン選手には?
練習の時にコミュニケーションを取ることは、昨シーズンよりも増えましたし、色々と学ばせてもらっています。ショーンとコミュニケーションが取れるようになったことも、ひとつ成長したことだと思います。あと、同じグラウンドで一緒に戦う仲間で、共通理解がなければいけないと思うので、そういったところでコミュニケーションは増えたと思います。
◆恐れずにアタック
――前半17分までで17点、その後は勢いが止まってしまいましたが、その理由を選手としては何だと考えていますか?
まず試合をするにあたって、"最初の20分"をキーワードにしていました。その20分で「自分たちの流れを掴もう」「先手を取ろう」と話をしていて、そこでは自分たちがやろうとしていることが出来て、良い入りが出来たと思います。
自分たちに勢いがある中で、その後スローフォワードになってしまったり、チャレンジングなことをしてミスが起きてしまっていました。そのミス自体はネガティブではないんですが、そこでパナソニックがボールを取り返したのを機にプレッシャーをかけてきて、自分たちも少しずつプレッシャーを感じ始めてしまって、ミスをしてしまうという展開で、パナソニックがやりたい展開にしてしまったと思います。
――相手からのプレッシャーがあってもミスをしないことが重要ということでしょうか?
パナソニックはインターセプトも狙ってくるチームなので、自分たちがしつこくボールを持ち続けることが大事だと思います。ハンドリンクミスなどが出てきてしまったことから。流れを持っていかれたのかなと思います。
――アタックからリズムを作るチームと、ディフェンスからリズムを作るチームのぶつかり合いだったわけですが、そういうチームに対してまだまだアタックの仕方があるという感じですか?
難しい質問ですね。チームを指揮している立場じゃなく、自分の役割を全うするという立場なので、どういう攻め方があったかという部分は、僕よりももっと詳しい人がいると思いますけど、ミスは起きてしまうと思いますが、もっと恐れずに力強くアタックが出来れば、相手のディフェンスも崩せたのかなと思います。
――課題が見つかった試合になりましたね
今回のケースが、最悪のケースだと思うので、それをポジティブに捉えれば、リーグ戦で経験できたことは良かったと思います。
◆身体が大きくなった
――昨シーズンと比較して、自分自身がとくに成長したと思うところは?
フィジカルのところで、昨シーズンよりも体重が4kgくらい増えて、当たり負けする回数はすごく減ったと思います。オフシーズン中に一気に体重を増やしたので、多少は筋肉以外で増えている部分もあると思いますが、筋力もアップしているので、身体が大きくなったと思います。
――意図した通りに身体を大きくしている?
次のターゲットとしては、もう少し身体を絞った上で、今の体重をキープしたいと思っています。出来れば、このフィットネスを保ったまま体重を増やしたいんですが、今はもう少し絞って筋肉を増やして、体重を維持することを考えています。
――シーズン中にやっていくんですね
そうですね。毎週試合があるので、シーズン中に目指しているところまで出来るか分かりませんが、最低でも今の身体を維持して戦い抜くことを目標にしています。
◆タックルとジャッカル
――更に伸ばしたいと思っているところはどこですか?
試合をして思うのは、フランカーというポジションでもありますし、フランカーはタックルやジャッカルで目立つべきポジションだと思っています。サンゴリアスには小澤さんやショーン・マクマーンなど、そういったプレーが得意な選手がいて、そういう選手がいることでチームが救われているシーンがたくさんあると思います。
僕もそういうプレーを強みにしていければ、もっとレベルアップできると思っているので、タックルの精度を上げて、力強くタックルに入れるようになりたいと思っています。ジャッカルについても、どういう場面でジャッカルを狙っていけるのか、そういうところをもっと学びながら、タックルとジャッカルをもっと伸ばしていきたいと思っています。
――自覚を持って成長していて、自分でも楽しいのではないでしょうか?
基本的に、いまとても楽しくラグビーが出来ていると思います。最近、特に楽しいと思うのは、フィジカルのところで昨シーズンより当たり負けしなくなったので、コンタクトのところが楽しいと感じることが多くなりました。
今シーズンはこれまで3試合、僕のトイメンがリーチマイケル(東芝)、ピーターステフ・デュトイ(トヨタ)、ベン・カンター(パナソニック)でした。世界レベルの選手がトイメンで、僕としたら逆にあまりプレッシャーもなく、良い意味でプレッシャーを感じずに、チャレンジングな気持ちで対戦できているので、とても楽しいですね。
――自分が出来る範囲を決めてそこに集中しているんですね
そうですね。練習の時からあまり多くのことを考えすぎずに、自分の役割をしっかりと全うする、その役割の中で良いパフォーマンスを発揮することにフォーカスしています。
――それは学生時代からですか?
大学4年の時には副将をやっていましたが、試合になれば自分はいちプレーヤーとして、自分の役割を全うすることに集中していたので、学生時代から自分のやるべきことにフォーカスしてやってきたと思います。
◆最後まで試合に出続ける
――シーズン後半へ向けての目標は?
シーズンを通して個人的な目標としては、シーズン最後まで試合に出続けることがいちばんです。その中でチームを勝たせられるようなプレーをしたいです。シンプルに自分がやるべきことをやって、チームが勝てば良いなと思っています。
――自分がやるべきこととは?
まずはブレイクダウンのところで、自分がボールキャリーの時もサポートする時も、しっかりとボールをクリーンに出して、チームのテンポに繋げることです。その次はボールキャリーのところで、まだ発展途上ではありますが、ヘンディーのように自分でも行けるし、周りもしっかりと活かせられるようなフットワーク、ハンドオフ、オフロードなど、そういうプレーを目指してやっていきたいです。
やっぱりブレイクダウンは意識しているところで、自信を持っているところです。青木さん(佑輔/アシスタントコーチ)にも、集散の速さが良いと言ってもらっています。そこは自分の強みだと思っていて、絶対に安定したパフォーマンスを出せるようにしたいと思っています。
――集散が速いのには、何かコツがあるんですか?
僕は足がめちゃめちゃ遅いので(笑)、接点が起きることを予測することだと思います。予測が当たることが多いですね。
◆泥臭いところが自分の持ち味
――映像でもそういうところをよく見て、学んでいるのでしょうか?
映像で見ることはあまりないんですが、自分がプレーしている中で「ここはヤバいかも」と感じた時に、いかに出だしの一歩を出せるかだと思います。その一歩でレースが決まると思うので、ヤバいと思ったら行くようにしています。確実にボールが出せれば、ブレイクダウンに行って人が多くてマイナスになることはあまりないと思っています。少しでも危機を感じたところには、すぐにサポートに行くことを今までよりもより意識していて、上手くいっている部分なので、今後もやっていきたいと思っています。
――一歩遅れて受け身にならない方法は?
そこは複雑に考えていなくて、まず身体を動かすことをいちばんにしています。考えてから動いたのでは遅いと思うので、目で見た情報で危機を感じたら動き始めるという感覚でやっています。
――ファンに注目してもらいたいポイントはありますか?
僕の場合はあまり目立つことはないと思いますが、とにかく泥臭いところを見て欲しいです。そこが自分の持ち味だと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]