2022年3月 3日
#786 齋藤 直人 『トライを取りたいというよりボールに触りたいという感覚』
グラウンドでもインタビューでも笑顔がとても明るい齋藤直人選手。感覚派であるようでいて頭脳派でもあり、どこまで伸びていくのだろうという大きな期待を抱かせてくれる選手です。見る者も応援する者も明るい気持ちにさせてくれる齋藤選手の、現在進行形を聞いてみました。(取材日:2022年2月中旬)
◆リードする役割
――第6節を終えた時点で4トライでランキング3位!これまでの手応えはどうですか?
昨シーズンの経験があるので、試合に向けた1週間の準備の仕方など、準備の段階で少し余裕が出来たかなと思います。トップリーグや代表などでプレーしたことで、プレー自体にも余裕が出ているかなと感じています。
――試合に向けた準備に重点を置いているんですね
良い準備が良い結果に繋がると思っているので、やっぱり準備は大事にしています。最初からそう言った考えがあったわけではありませんが、年々レベルが上がっていくにつれて、そこの重要性に気づきました。
――代表で活動したことでスクラムハーフに求められることが明確になったということですが、具体的には?
戦術的なところですね。サンゴリアスでも同じで、今シーズンはリーダーグループにも入れてもらったので、そういった意味でも自分のプレーとは別のところにも、自分の責任、役割があります。一方で試合中には、必然的にリードするポジションなので、リーダーだろうがリーダーじゃなかろうがリードする役割があります。そういう役割が明確になりました。
◆しっかりと決めてから動きたい
――ホームページのプロフィールでは、「オフの過ごし方」が"ストレッチ"となっていて、面白いですね
僕はそれが普通になっちゃいましたね。ストレッチをしないと、逆に身体がすっきりしないんです。ストレッチをやらなきゃという感覚ではなくて、食事したり、歯を磨いたりするような感覚でストレッチをやっています。
――オフの日は、どういったタイミングでストレッチをするんですか?
ちゃんとは決めていないんですが、試合の次の休みの日は、あまりスケジュールを立てずに過ごしたいタイプです。逆に3日間のオフがあって、そのうちの2日間は身体を動かそうと決めた時には、何時に起きて、何時に何をしてと、しっかりと決めてから動きたいタイプです。
――ストレッチをやると気持ち良い、とかあるんですか?
ずっとストレッチをしているわけではないですけど(笑)、気持ち良さというか、自然とやっている感じですね。身体を柔らかくするためにやっているんじゃなくて、やらないよりやった方が、腰などへの負担が減ると感じます。身体が硬い方なので、それで気をつけてストレッチをしているという部分もありますね。あと、気になるところがない方が絶対に良いパフォーマンスが出せると思いますし、怪我をしたくないという気持ちもあります。
◆パススピードはこだわりたいところ
――同じくプロフィールで、「他の人がやっていない自分だけの○○」には"手首のケア"と書いていますね
大学の時から手首に痛みがあり、少し前くらいからやっと痛みが無くなったんですが、練習やウエイトトレーニングでは絶対に手首にテーピングを巻いています。本当に痛かった時はペットボトルを開けたり、車のドアを開けることでも痛かったくらいです。
その痛みの原因は一概には言えないんですが、たぶんウエイトトレーニングだったり、手首だけでボールを投げる練習をずっとやってきて、その蓄積で痛みが出ていたんだと思います。痛みがあるとパスを投げることも嫌になるので、手首のケアは結構やっています。今は痛みはありませんが、予防のためにテーピングしています。
もともと手首だけでパスを投げようとは思っていなくて、手首の強さがパスのスピードに繋がりますし、パススピードは自分の中でこだわりたいところなので、手首を鍛えていて痛みが出ていたということもあると思います。
――「生まれ変わったらなりたいもの」には"オールブラックス"と書いていますが、オールブラックスの選手と同じチームで一緒にやっていますよね
いやー、カッコいいですよね。そんな深い意味で書いたわけじゃないですけど、カッコいいなって思いますね。同じチームで一緒にやれるのは嬉しいです。
◆一気にアクセルを踏む
――今シーズン、トライが多いと思いますが、自分ではなぜ多くなっていると思いますか?
特にトライを狙いにいっているわけではありません。ポジション柄なのか、ラグビーというスポーツの特色なのか分からないですが、トライに対して欲はありません。トライについて聞かれると、毎回「めっちゃトライを取りたいと思っているわけじゃない」って思うんですよね。
――ボールを持っている選手のサポートで走っている時には、周りが見えていて、スペースができるであろうところに向けて走っているように感じます
そこは感覚的になってしまうんですが、空いているスペースの他に、周りに誰がいるかと味方も見ています。そこでチャンスになると思ったら、一気にアクセルを踏む感じです。トライを取りたいというよりも、ボールに触りたいという感覚なんですかね。いけると思ったら、一気に身体が動きます。
――あの瞬間はとても速いですよね
あまり足は速くないんですけどね。
――ゆっくり動いていると思えば、一気にギアを上げる時もあって、そういう時にはどういうシーンが見えているんですか?
中盤で勢いがある時には、ラックからパスした後は少し前目をタラタラと走っています。サンゴリアスでは基本的に外に選手がいて、走りながら相手ディフェンスの数も見えるので、特に外にテビタ・リーがいてそこに繋げられれば、絶対にチャンスになると思いますね。昨年末に行ったクボタとのトライアルマッチでも、ティー(テビタ・リー)からもらってトライしたりしました。上手く言語化できていないですよね(笑)。感覚でやっているんですかね。
◆キツイ時間帯でいかにアクセルを踏み込めるか
――試合中にはよくキョロキョロと周りを見ていますよね
周りを見ているんですかね。予測がすごく大事だと思っています。たまに予測を誤って、味方がここで捕まるだろうなと思ってちょっと下がろうとした時に、その味方が一気にゲインする時があります。開幕戦の東芝戦でもそういうシーンがあって、あそこでいつも通りにサポートに走れていたらトライだったと思います。そこが開幕戦で出た課題でした。
今はゲインラインを超えなければ、それほど速い球出しは要求されていません。そこで僕が少し遅れても、アタックに支障は出ないという考え方で、ですので基本的には前を走るようにしています。少し前を走れば、味方がゲインするとちょうどいいところで走り込めるようになります。だから基本的には後ろに下がらないようにしているんですが、東芝戦の時には後ろにポイントが出来ると予測して下がったら、味方がゲインして遅れてしまったので、そこを学びにしています。
――他のスクラムハーフもパスした後に前目に走るものですか?
サンゴリアスの選手は意識してやっていると思います。そこでアクセルを踏み込めるのが、自分の強みだと思っています。
――周りがよく見えているんでしょうね
あとは、フィットネスの部分もあると思います。S&Cコーチの翔さん(吉浦)とも話していて、キツイ時間帯でいかにアクセルを踏み込めるかという部分に取り組んでいます。
――どうやって鍛えているんですか?
全体練習後に、アクセルを踏み込めるようになるトレーニングをしています。アクアバッグを使って、坂道でしっかりとパワーを出して走れるようにするトレーニングをやっています。
◆僕もひとつのオプションになる
――他に課題として取り組んでいることはありますか?
パスもキックも取り組んでいますよ。ただのパスじゃなくて、少し仕掛けながらパスをしたり、空いているスペースがあれば自分が走って相手を寄らせて、味方に上手くスペースを作るとか、そういうところを伸ばしたいと思っています。
――その流れで、パスダミーをして自分でトライするというシーンもありましたよね
そうですね。僕もひとつのオプションになるというか、パスだけだと相手もディフェンスすることが簡単になってくるので、ディフェンス側のひとつの脅威となれるように取り組んでいます。
――キックについてはどうですか?
キックについては、精度のところですね。キック自体は得意だと思っていますが、ハイパントにしろ裏に転がすキックにしろ、精度のところを意識しています。
――そこを磨くためには個人練習が大事になりますか?
個人練習もそうですが、あと先ほど言ったひとつのオプションになるというところも、手の甲に書いたりして、ひとつひとつのチーム練習でも意識して取り組めるようにしています。ひとつずつやっていくと、「これが出来るようになった」と実感することがあります。
――どんな"ひとつずつ"ですか?
まずひとつのステップとして、前のスペースを見るためにもっと余裕が持てるように、パスする相手を見るというところから始めました。投げる相手が明確になっていることで、考えるべきことがひとつ減って前向きになれると思ったので、まずそこから始めました。それがだいぶ出来るようになったので、いまは相手を見るというところを意識してやっています。プレー中にはそんなにたくさんのことを考えられないので、一瞬で出来るようにして、色々なところを見るようにしています。
――キックでは第4節ではコンバージョンキックも成功しましたね
プレースキックは、あまり練習はしていないんですけど、得意ですね。高校、大学とずっと蹴ってきて、サンゴリアスに入ってからもたまに練習したりしますけれど、感覚は忘れていなくて、今でも自信を持って蹴れます。試合のメンバーが決まると、だいたいサード・キッカーくらいになるので、それから少し練習しています。
◆どういうメッセージが伝わりやすいか
――他に課題は?
第4節のリコー戦でヘンディー(ツイヘンドリック)と一緒にキャプテンをやらせてもらって思ったことが、伝え方とか、チームに対してのメッセージの出し方は、まだまだ学ばなければいけないと思いました。
――それはこれまでも経験してきた部分ですよね?
いやー、学生と社会人ではぜんぜん違うなって思いました。高校や大学では思ったことを言っていましたが、サンゴリアスに入ってから亮土さん(中村)など色々なリーダーを見てきて、しっかり考えて話していると感じます。例えば、ハドルなどで色々な人が話しすぎちゃうと、情報量が多くなりすぎてしまうので、そういう時には「情報量が多すぎるから、ここでは何も話さずに締めよう」とか、そういうことを考えながら話しているところを見てきたので、自分が伝える時もどういうメッセージが伝わりやすいかを考えるようになりました。
――もともとメッセージを発信するということについては得意な方ですか?
ラグビーにおいては、そうだと思います。サンゴリアスに入って、思ったことをそのままバンバン言えばいいということではないと感じました。
――発言した方が良い場合と、発言しない方が良い場合の見極めは難しそうですね
難しいです。ただ長く話すことと、必要なキーワードを出して話すのでは、受け取る側の飲み込みやすさも違うというところも学んでいるところです。どれだけ強いメッセージでチーム全員に伝えられるかとか、フォワードに伝えられるかとか、タイミングも含めて大事だと思います。
――第5節NTTドコモレッドハリケーンズ大阪戦後の会見で、中村亮土キャプテンが、全員が同じ絵を見ることが出来ていなかったと発言していましたね
出来ている時と出来ていない時の基準の違いが具体的にココ、というのは分からないんですが、やはりそれは必要ですよね。
――周りが見えている選手は、自分自身で絵を描きやすいと思うんですが、それを周りと共有するためには何が必要になりますか?
それは練習からですね。全員の前で話すというところじゃなければ、思ったことはその都度言うようにして、周りとすり合わせをすることが大事だと思います。
◆チャンピオンチームと戦うことにワクワク
――いまのチームの状態はどうでしょう?
まずはしっかりと勝ってきているということは、良いことだと思います。ドコモ戦は内容があまり良くなかったんですが、しっかりとレビューして次に繋がれば良いかなと思います。第6節が中止なった分、パナソニック戦に向けて早めに準備できているのはプラスの部分だと思います。
――埼玉パナソニックワイルドナイツとの試合は、現在のチームの力が試される楽しみな試合ですね
実力が分かるというよりは、単純に昨シーズン負けていますし、チャンピオンチームと戦うことに、選手のみんなはワクワクしているように感じます。
――ワイルドナイツ戦では、どこに気をつけて、どうしたいと考えていますか?
パナソニックとの試合は、絶対にキックが多くなるので、その中でエリアを取るのか、攻めるのか、そういったところの判断は9番、10番にとっては大事かなと思います。そこはパナソニック戦に限らずですけれどね。あとは自分がスタートで出るのか、リザーブ出るのかによっても変わってきます。
――その判断は、試合中に修正していったりするものですか?
アタックでミスが続いたりすれば、一度ボールを手放して、ディフェンスから始めるということもあります。ディフェンスが上手くいっていない時には、ボールキープを長くすることを考えます。
◆やりたいことはたくさん
――タックルとランについては?
そこは自分が伸ばさなければいけないポイントだと思ったので、プロフィールの「注目して欲しいプレー」に挙げました。タックルはスタッツでもあまり良い数字が出ていないので、まだまだですね。先ほどアタックのひとつのオプションになると言いまいたが、ディフェンスでもひとつの戦力にならなければいけないと思います。スクラムハーフって小さいので狙われやすいんですけど、ディフェンスでもひとつのピースとなれるようにタックルも頑張りたいです。「これで良いや」って思うことってないと思っています。
――タックルを良くするために取り組んでいることは?
今までは個人練習でもタックルの練習はしてこなかったんですが、今は週に1回はタックルの練習をするようにしています。チームから求められていることで、タックルよりもプライオリティーが高いことがたくさんあって、そっちに時間を割いていますが、ただ、タックル練習も週に1回はやるようにしています。
――1日24時間以上欲しいという感じですか?
今はそんな感じでもないんですけど(笑)、やりたいことはたくさんあります。
◆サムみたいな人になりたい
――ラグビーをやっていて楽しいと思う時はどんな時ですか?
やっぱり勝った時ですね。めちゃくちゃ嬉しいですし、あの時間をチームで共有できるのが良いなって思います。勝った後にみんなでチームソングを歌う時が更に良いですね。
――勝った後は、どのくらいのタイミングで次の試合に切り替えるんですか?
だいたい試合の次の日はオフなので、オフの日の夜くらいには、プレー映像を見返したり、次の1週間のスケジュールを立てたりしています。
――自分があまり良いパフォーマンスを出せなくても、チームが勝った時はやはり嬉しいですか?
そうですね。自分のパフォーマンスは良かったのにチームが負けてしまうことの方が素直に受け入れられないですよね。でもサンゴリアスに入って負けた経験があまりないので、実際にそうなった時にはどうなるか分からないですね。
――改めて、ファンに注目してもらいたいポイントはどこですか?
当たり前かもしれませんが、取り組む姿勢。試合でもミスボールに反応するとか、最後まで追いかけるとか、手を抜かないとか、そういった部分は自分の中で大切にしていることなので、見ていて欲しいです。
――良いプレーをしても得意げな顔はしないですよね
嬉しい時は笑顔になっちゃいますね。人柄で言ったら、サム(ケレビ)みたいな人になりたいですね。サムはめちゃくちゃプロフェッショナルだと思っていて、練習をちゃんとやるのは全員がそうなんですが、ウエイトトレーニングもチームから課される課題とは別に、自分に必要なことをコーチと話して取り組んでいますし、オフの日もクラブハウスに来てちゃんとリカバリーしています。以前、サムのノートが気になって見せてもらったことがあるんですが、1日ごとにその日に何をするかということを整理して書かれていて、そういう部分でプロフェッショナルと感じる部分があります。
そういう部分がありながら、人間関係に波がなくて、いつも明るくて、周りの人に常に良い影響を及ぼし続けています。現に、僕がサムみたいになりたいと思っているってことが、彼が周りに良い影響を及ぼしているってことの証じゃないですか。だから、そういう人になりたいと思っています。ああいう選手がトップになるんだなって思いますね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]