2022年2月11日
#783 祝原 涼介 『自分から前に出てチームに勢いをつける』
相手の蹴ったボールをチャージしてそのままキャッチしてトライ。 なかなか見られないスーパープレーでチームを逆転勝利に導いた祝原涼介選手。ファンを魅了したプレーはいかにして生まれたのか?興奮冷めやらぬタイミングで話を聞きました。(取材日:2022年1月下旬)
◆本当にたまたま
――リコーブラックラムズ東京戦でのキックチャージからの逆転トライが感動的でした
僕がビックリしました(笑)。チャージに行きましたが、足が速くないですし、まさか手に当たるとは思っていませんでした。とにかく手を挙げたらバチンって手に当たった感覚があって、それから前を見たら顔の斜め横にボールがありました。「あ、ボールがある」と思って、ボールを取って走りました。気が付いたら目の前にボールが降ってきましたね。その瞬間は何も考えられなくて、ボールがあったので取って、走って、トライという感じで、トライをしたらヘンディ(ツイヘンドリック)とかみんなが、ワーって集まってきました(笑)。
――映像を見返したら、他の誰よりも一歩目が速かったんですが、全力では走ってはいませんでしたね
全速力ではなかったですね。走り出したら、周りにチャージに行っている人がいなかったので、前に出られたら嫌ですし、自分が行くしかないと思って走りました。他の選手がチャージに行っていれば、僕はチャージには行かず、次のプレーに備えていたと思います。あの時は身体が勝手に反応したという感覚です。蹴るだろうなと思ったコースに向かって走りましたけど、本当にたまたま手に当たっただけです。それにそのままボールをキャッチ出来るとも思っていませんでした。良い感じにボールが落ちて来てくれました。
◆嬉しいという感情とビックリしたという感情
――キックチャージに行く時はある種の勇気がいるのではないですか?
勇気とかは考えないです。自然と行くだけです。皆そうだと思いますけど、相手が蹴ろうとしていれば、僕は行きます。そして相手が蹴る瞬間には、ボールを見ていなくて、目をつぶっていたと思います。チャージする瞬間に、なかなかボールを見てチャージできる人っていないと思います。
――ボールが手に当たった瞬間には、ボールがどこにあるかは分からないものですか?
向こうが蹴る瞬間は目をつぶっていて、当たったと思って目を開けたら、目の前にボールがあって、それを取っただけでした。その後は無心でしたね。走り出したら「あ、足を触られた」と思いましたが、そのまま走れたので、「あぶねー」と思いながらトライしました。
――トライをした直後にはもう笑顔でしたね
逆転したということと、あんな形で自分がトライを取るなんてという思いで、自分でも笑ってしまいました。嬉しいという感情とビックリしたという感情が混ざって、笑顔になっていたと思います。
――これまでのラグビー人生の中で、同じプレーをやったことはありましたか?
ないです、ないです(笑)。あれは狙って出来るようなプレーじゃないと思います。
――キックチャージ自体は得意ですか?
練習中であれば、たまに手に当たることはありますが、得意ではありません。あまりチャージにいくポジションじゃないので、試合ではあまりそういったシチュエーションがないですね。
――あのチャージでボールをキャッチできたのは、ラグビーを含めた多彩な球技の経験、バスケットボール、ハンドボール、ソフトボールなどやってきたこともあるのでは?
どうなんですかねー(笑)!球技が得意なのはありますけど、あれはたまたまだったので!でも色んなスポーツ経験するのは良いって言いますね。親に感謝ですね。
◆何かしらやらなければという思い
――あのトライの前、ずっと相手に攻められて、後半35分にトライを取られ、37分にコンバージョンを決められたので、残り時間が本当にわずかでしたね
「この時間で取られたか」と思いましたね。個人的にもリーグワン初試合で、残り20分しかない状況での出場で、試合終了間際まで自分の強みであるボールキャリーなどを出せていないと思っていました。このまま終わってしまったら、次のチャンスがまた遠のいてしまうとか、色々と考えていました。こちらのキックオフになって、何かしらやらなければという思いがありましたし、チーム全員が「点を取りに行く」というマインドになっていたので、その中でキックチャージが上手くいって逆転できました。
――あのキックチャージがなければ、結果がどうなっていたか分からなかったのでは
結果論ですけど、分からなかったかもしれません。ゲームの流れは向こうにありましたし、後半20分くらいからずっと攻められませんでしたからね。
――トライの後は辻選手が抱きついて、ずっと喜んでくれていました
そうですね(笑)。同期です。
――祝原選手のプロフィールで「サンゴリアス内の注目選手」に辻選手を挙げていますよね
同期ですし、将来的に日本代表にも関わってくる選手だと思いますし、あれだけアグレッシブにアタックが出来てインパクトを残せる選手は、日本人では稀だと思うので、良い選手だと思っています。
みんな喜んでくれましたし、駿太さん(中村)や航さん(小林)など、明治大学の先輩がたくさんいますし、ヘンディやショーニー(ショーン・マクマーン)も試合が終わった後、心底笑顔でした。ショーニーがあれだけの笑顔になって話したことも初めてでした(笑)。試合が終わったら、慎太郎さん(石原)、煕さん(田村)など、みんなが駆け寄ってくれて、ミルトン(ヘイグ監督)もめちゃくちゃ喜んでいました。
――家族や周りの反応はどうでしたか?
終わった後のLINEやSNSの通知がたくさんありました(笑)。亮土さん(中村)、ユタカさん(流大)はじめ、色々な先輩たちから連絡をもらったり、家族や会社の同期、大学の同期からも連絡がきました。みんな見ていてくれたんだなと思いましたね。
◆チームが勝ったことがいちばん嬉しい
――次も上手くいくようなチャージの感覚は掴みましたか?
いやいや、次もキックチャージを狙おうという考えは全くないです。あの位置に立つ機会があればキックチャージに行きますが、隣に足の速い選手がいればその選手に任せます。
――今回のキックチャージのように、他の状況でも、考えずに身体が勝手に反応するプレーはありますか?
普段は考えてプレーしていますけど、あのキックチャージのような場面では、考えてプレー出来る人はいないと思います。試合中は、スペースが空いたら走り込むとか、コール通りに動いてボールをもらったり、ディフェンスをしたり、練習でやってきたことが出るので、これまでやってきたことに自信を持って動くようにしています。
――改めて、あのトライは、自分にとってどんなものでしたか?
チームが勝ったことがいちばん嬉しいです。1節、2節とはメンバーを入れ替えて臨んで、準備期間が短い中でチームとして勝ち切れたことが良かったと思いますし、あの試合で勝つか負けるかでは大きく違っていたと思います。僕は最後にトライをしただけなので、自分個人としてじゃなく、チームが勝ったことがいちばんです。
――試合での個人の出来という面ではどうでしたか?
基本的にはディフェンスしかやる機会がなかったので、あの時に出せることは出せたかなと思います。1回ジャッカルに入ったシーンがあったんですが、そこで上手くボールを取り切れなかったり、もう少しうまくヒット出来たタックルもあったかなという心残りはありますが、大きなミスがなかったことは良かったかなと思います。もっとインパクトが残せるようなパフォーマンスを、継続して出せるようにしたいと思います。
――インパクトは充分でした
いや、最後だけですからね(笑)。毎試合で、何かしら印象に残るようなプレーをしなければいけないと、アオさん(青木佑輔アシスタントコーチ)とも話していますし、自分としてもそう思っています。それはスクラムであったり、タックル、フィールドプレー、アタックであったり、何かしらで目立つような、印象に残るようなプレーが出来れば、試合のメンバーに入る機会も増えると思っています。
同じ1番の慎太郎さんや由起乙さん(森川)は、毎試合で何かしら良いプレーをしていて、リコーブラックラムズ東京戦でも、慎太郎さんはゴール前で良いタックルをしてトライを許さなかったシーンもありました。由起乙さんはスクラムでもアタックでも良いプレーをするので、負けないように頑張りたいと思います。
――そういったプレーをするための課題はありますか?
自信を持って試合で出すだけだと思います。練習試合に出場した時、試合が終わった後に亮土さんから「もっと自信を持って自分のプレーをやれ」って声を掛けてもらいましたし、自信を持って自分が出来ることを試合で出すことが大事だと思っています。自分のプレーが出せなくて終わることが、いちばん後悔することなので、自分が持っているものを出したいと思います。
――自信を持つことって難しいことだと思いますが、そのためにはどうすればいいんですか?
消極的なプレーをするなということです。ボールを持ったら自分の強みを出す。フィジカルが自分の強みだと思っているので、タックルでもアグレッシブに仕掛けたり、スキルを使うことも大事ですが、まずは自分から前に出てチームに勢いをつけることをやっていかなければいけないと思っています。
――意識しないと消極的になってしまうこともあるんですか?
スキルを使うことが消極的というわけではないんですが、まずは自分の強みを出すことを考えても良いんじゃないかと思っています。周りの状況や試合の流れを考えて判断すれば良いと思いますが、自分の中で割り切って、パフォーマンスをしっかりと出すことが大事なんじゃないかと思っています。
◆あとは試合で出すだけ
――シーズン序盤で今シーズンの初出場を果たしましたが、ここから勝負して行けそうですか?
いや、良かったのは最後だけだったので、まだまだこれからパフォーマンスを上げていかなければいけないと思っています。これから更にレギュラー争いにプレッシャーを掛けていかなければいけないので、もっと頑張っていかなければいけないと思っています。
プレシーズからやってきたことは自信になっているので、あとは試合でパフォーマンスを出して、スタッフ、コーチ、ミルトンにプレッシャーをかけることが大事だと思っています。あとは試合で出すだけだと思っています。
――昨シーズンと比べて、成長している自覚がありますか?
昨シーズンは1試合しか出られませんでしたが、その試合では緊張もあって、普段しないようなミスをしてしまうこともありました。今回の試合では適度な緊張感がありましたし、やるべきことが明確になっていたので、その部分は昨シーズンよりも成長できていると思います。
―― 一昨年のシーズンが2試合、昨シーズンが1試合出場、今回のリコーブラックラムズ東京戦を入れて、サンゴリアスでは4キャップ目ですね
出場試合数は特に考えていないですね。何試合出るとか関係なく、毎試合、出るためのチャレンジをして、次にいつチャンスが巡ってくるかは分かりませんが、またメンバーに選ばれたら、チームのためにしっかりと良い準備をして勝つだけです。
――精神的な成長に加えて、その他成長したと思う部分はどこですか?
今シーズンが3シーズン目なんですが、シーズンを重ねたことでやりやすくなった部分はありますね。サンゴリアスでの公式戦の雰囲気って独特なものがあると思うので、それに慣れたという部分もあると思います。
――次、またメンバーに入った時には何をしようと思っていますか?
自分の強みをしっかりと出すことです。ボールキャリーでしっかり前に出ること、タックルなどアグレッシブにディフェンスすること、スクラムで相手をドミネイトすること、その3つがチームから求められていることなので、それを試合で出すだけです。そこを発揮できなければ、試合には出られないので、そこが本当に大事だと思っています。
――ファンの皆さんにどういったところを注目してもらいたいですか?
スクラム、フィールドプレー、ボールキャリーで印象を残せるように頑張りますので、キックチャージだけじゃなく、そこも見ていてください。キックチャージにはあまり期待しないでください(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]