2022年2月 4日
#782 田村 煕 『全員で同じ絵を見る #2』
田村煕選手のインタビュー後半です。技と心が繋がっていることに気づき、そして選手とコーチが繋がっていることの大事さを語る田村選手。チームをひとつに繋げる役割を担う自負と頼もしさが伝わってきます。 (取材日:2021年1月中旬)
◆違和感を無くす
――今シーズンの試合を見ていて、特にタッチキックの精度が高まったように感じますが、どうでしょうか?
次にどういうプレーをするかとか、ちゃんと頭を整理して、タッチキックを蹴り出すということはしているかもしれないですね。今までは色々と考えて、そのままタッチキックをしていたことがあったかもしれません。
――どうしてキックの前に整理が出来るようになったんですか?
ゲーム中は基本的には、目の前の感覚を優先するようにしています。ゲームに行くまでに映像を見たり、ゲームプランに対して自分の中で細かくイメージしたり、「こうなったら、こう、もしこうなったら、こうだな」とシミュレーションを積み重ねます。ゲームの日がいちばん頭がクリアで、そのための準備の1週間は、考えすぎがあるくらい、ひとりで準備をするようにしていますし、練習ではチームとして上手くいかないことも結構あります。1週間かけて準備してきて、ゲームの日には、クリアになっている感覚が、今のところは少しだけあります。
――頭で考えてたことを練習の中でやってみることもあるんですか?
練習の組み立ての中で、もちろん試合ほどのプレッシャーは無いですけど、あまり良いイメージばかりやっている訳ではないです。試合中にこのシチュエーションになった時の判断が難しいというところなど、練習の設計段階でコーチに「試合中のこの時にコミュニケーションが取れていなかったり、この時に何をやっていいか分からない時があったので、練習でやらせてもらってもいいですか?」と提案をして、練習にそのことを実際に入れてもらって、そこから生まれるコミュニケーションがあるんです。
以前までは、さっとやってしまって、「あとは何とかなるでしょう」と感じる時もあったんですが、今は練習中に分からないことがあれば、練習を止めて、「この時はどう思う?」と皆に聞いて、その上でやってみるようにしています。「なんかちょっと違和感があるけど大丈夫か」ということを無くすようにしています。
今までは自分の中でしか解決していなかったんですけど、サンゴリアスに来て、コーチとも選手ともコミュニケーションを取ってチームとして落とし込むということを、学んでいるところです。それをすることで自分のパフォーマンスにも絶対に繋がりますし、そこがクリアじゃないまま自分のパフォーマンスに集中しても、モヤモヤは取れないんです。
◆クリアにするのが僕の仕事でもある
――自分がクリアになるということは、一緒にプレーする周りの選手もクリアになるということですよね
そうだと思います。そんな細かいところまで気にしていなかったという選手もいるかもしれませんが、振り返った時に「確かにこの時はそうだった」と。みんなが自分のパフォーマンスに集中しているので、練習の段階から、そこをクリアにするのが僕の仕事でもあるので、そういう意味でみんなが「確かにあれをやっておいて良かったね」と感じるシーンが増える練習は、していきたいと思っています。
――その部分は今シーズンから力を入れた部分ですか?
自分の中で、毎シーズン終わった時に、振り返るようにしていて、「僕ならこうするな」、「こうしたかったな」、「スタメンで出続けていたらこうしたいな」とか、思っていても言っていなかったことが結構あったんです。今まではそれが自分のパフォーマンスに繋がっているとは思えていなくて、逆にパフォーマンスが出せたら、その先で言っていこうと思ってしまっていました。ある時にそれは逆で、伝えなければ自分のパフォーマンスは出ないなと思ったんです。その順番が、自分の中でずっと逆だったんです。
――そこになぜ気が付いたんですか?
昨シーズン、ずっと試合に出られなくて、チームは決勝まで進んで、「勝てるかな」と思っていたんですが、最後で負けた時にその思いがバーッと出て来ました。「ちょっとクリアにする」とか「ちょっとコミュニケーションを取る」とか、何となく判断を個人に任せたまま勝ち続けると、やっぱり最後のところで「ここでコミュニケーションが取れていなかったな」というところがあるんじゃないかなと感じました。
そういうことを振り返った時に、出られるようになってから伝えるのではなく、伝えるからパフォーマンスが上がって出られるようになるという順番で、僕がチャレンジしないといけないことだと思いましたし、先にシェアすることが大事だと思いました。
――それを実践するためには勇気が必要ですね
言うからにはやらなければいけないことも増えますが、そこが面白いんです。そういう話をしていくと、話して終わりじゃなくて、サンゴリアスの選手たちって「じゃあ、こういう時ってどうしたらいいの?」って聞きに来てくれて、僕もすべての状況において答えを持っているわけじゃないので、「ではそれを実際にやってみて考えよう」となった訳です。
全員がモヤモヤしているところは、ちゃんとフラットに見られるようにしたいんです。そこでの話し合いが生まれることで、お互いに何を考えているかが分かりますし、それがプレーに出るんだなと思っています。
◆「とりあえず、いいや」で終わらせない
――それは面白いところですね
コロナの影響で今は飲みに行けないですけど、振り返ってみるとそういうことを飲みに行って話したりして、同じポジションで色んな選手のスタイルがある中、経験ある選手たちはそういうベースのコミュニケーションの取り方が上手かったなというイメージがあります。
そういう選手たちと同じやり方をしなくても良くて、自分のやり方の中でどうアプローチをしていくかが大事だと思います。経験ある選手たちは、そこが上手かったなという印象があったので、僕なりにちょっとずつ、あ、こういうことなのかなと分かってきた部分はあります。
――そうなると、ちょっとしたモヤモヤがチームの中の色々なところにある、なんてことに気がついたりしませんか?
大体雰囲気で分かるんですけれど、確実に「これは言わないとチーム全体で分かっていないな」というモヤモヤと、「インディビジュアルで分かってないな」というモヤモヤがあります。そのモヤモヤはぜんぜん違っていて、確実に全員が理解しなければいけないことが出来ていない時って、みんながバラバラになっているんです。
そこだけはやらなきゃいけないという部分が、僕が「とりあえず、いいや」で終わらせない方が良いと思うポイントです。それ以外にも細かな部分で「これってどうしたらいいんだろう」って部分は出てくるんですけど、「それは自分のメンタル的なところでしょう」というところでもあったりします。ですので、そこは上手くコミュニケーションを取りながらやっていこうと思っています。
――その部分は一緒にグラウンドでプレーしているから気がつく部分ですか?それとも側から見ていて気がつく部分ですか?
僕は側から見ていても、サンゴリアスのラグビーという部分に関しては分かります。他のチームでも、「あそこの細かなコミュニケーションが取れていないな、同じ絵を見ることが出来てないな」と、僕は分かる気がしています。
◆新しいサンゴリアスを創っていく
――モヤモヤの部分を田村選手と同じように分かっている選手はチームにたくさんいますか?
基本的にリーダーに入っている人たちはもちろん分かっていますし、それを伝えられる選手も多いです。リーダーに入っていなくても、サンゴリアスには良い選手が多いので、たくさんいます。そして「そのモヤモヤは分かっているけど、同じ絵を見るためにどういう会話をしたら良いか」など、ある程度、それぞれに役割を渡していかないといけないのではないかと思っています。全員でバーッと話し始めても、まとまらなくなってしまうと思いますし。
――そこが昨シーズン足りなかった部分なのでしょうか
例えば、プロップであればスクラム、ロックはラインアウト、フランカーだったら自分のパフォーマンスとか、それぞれのパーツの精度を上げてくれることがベストなのは間違いないと思います。ただ、ちょっとしたことのように見えて、気づかないことも多いですし、いま話したようなところが変わらないと、とは思います。大枠が上手くいかないと、それぞれのパーツが良くなっても、絶対に上手くはいかないと思います。
以前上手くいっていたことと照らし合わせる必要は全くないと思いますけど、最低限、変わらないものもあると思います。細かいコミュニケーションのところとか、みんなが自信を持って同じ絵を見てやることが出来るとか、そこを選手でまとまって、さらにコーチと繋がって出来れば、今までとは違うひとつ上のランクのチームになれるような気がします。
亮土さん(中村)が、選手が意図を持って、意思を持ってやろうというタイプで、何回か選手だけでミーティングもしています。外から見たらあまり変わっている印象はないかもしれませんが、「ここで自分たちで考えてやる」ということが出来ないと、前との繰り返しになってしまうので、コーチたちと「これは良いと思う」「これは良くないと思う」ということをシェアして、それが出来れば、本当に変わることが出来るチャンスだと思います。
亮土さんからそういう話があって、選手たちはその思いを理解していると思うので、試合に出られる出られないという感情とは別に、自分たちで新しいサンゴリアスを創っていくということを全員が思って、その先にコンペティションがあれば、更に良くなっていくと思います。
◆サンゴリアスらしいラグビーをやるために
――自分自身の課題は何ですか?
チームとしてどうする、ということを考えることが多いのですが、自分自身の課題はシンプルに、アタックでもディフェンスでも、スキルの精度を高くということですね。波がなく、ベーシックなスキルを高いレベルでやり続けることです。あとは、サンゴリアスがサンゴリアスらしいラグビーをやるためにはどうすればいいかを考えています。
――スキルを発揮出来る心の持ち方も大事な訳ですよね
スキルの精度は試合に出続ければ保てて、試合に出続けられなければ保てないということではないと思います。昨シーズン、先発ではほとんど出られませんでしたが、だからと言って、スキルが落ちていた訳ではありません。
そして試合に出ているから伝える、出ていないから伝えないではなくて、伝えるから自分のパフォーマンスに影響する、それが心の在り方に繋がるのだと思います。自分で自分の在り方を作っていく。それがインディビジュアルのスキルに繋がってくると思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]