2022年1月28日
#781 田村 煕 『全員で同じ絵を見る #1』
昨シーズンのボーデン・バレット選手がつけていた10番を背負う田村煕選手。大事な序盤戦でどのようにチームをリードしたのでしょうか。話が深みを帯びてのロングインタビューとなりました。(取材日:2021年1月中旬)
◆開幕戦は硬かった
――開幕戦、第2節とスタメンでの出場となりましたが、手応えは?
開幕戦はどんな試合になるかイメージがつかなくて、チームとしても硬かったという印象がありました。良い感じはありましたが、まだかっちりハマっている状態ではなくて、ひとつひとつ目の前のことをやったという感じですね。
――開幕戦は失点が多かったですね
色々な原因はありますが、全部を含めて硬かったかなと思います。もちろん東芝から圧力を受けた部分もありましたが、歯車が嚙み合っていないところで点を取られたシーンが多くて、自分たちがコントロール出来るミスを防げれば、もっと違った展開になっていたと思います。
ただ、今までの開幕戦だったら、あのままゴタゴタしてしまい、最後までもつれるような展開になっていたと思いますが、後半の最初に突き放して、あぁやって勝ち切れたということは、最後の方でまた取られはしましたが、今シーズンの良いところなのかなと思います。
――そこで自分自身が貢献したという部分は?
取って、取られての展開の中でミスをしたり、微妙な判断をしてしまうと、流れが傾いてしまうという時があります。そういった時に、プレーの判断や精度についてチームで話をして、リーダーとやるべきことを共有しながらそれが出来たというところは、良かったところだと思います。
◆マインドセットをちょっとずつ準備
――第2節ではかなり失点が減りましたが、開幕戦での課題を克服できたということですか?
気持ちの部分が大きかったと思います。開幕戦はどうしても勝ちたい、勝たなければいけないという気持ちから、みんなのプレーの判断が、丁寧にやろうとした分、少し遅くなってしまいコミュニケーションが遅れてしまったということが、全体的にあったと思います。
第2節では、全員のプレーの判断のスピードが早くて、共通認識が得られたので、そういうちょっとしたところの差だと思います。気持ちが入っている、入っていないとか、システムが変わったとか、そういうことは全くなくて、マインドセットのところをちょっとずつ、1週間かけて準備してきた結果が出たと思います。
――グラウンド上には15人の選手がいるので、そういうちょっとした心理的な部分が影響するんですね
大きいですね。特にゲームをコントロールするポジションの選手が噛み合う時間は、ある程度は必要だと思います。ですが、最初から完璧はないので、ミスをして学ぶ。これから色々な試合があると思いますが、その時にベストな判断をして、後からレビューをしてみてさらに良いものに出来れば、どんどん良くなっていくと思います。
――やはり試合を重ねることで、お互いを分かっていくというところがあるんでしょうか?
分かりますね。やっぱり練習でどんなに話していたとしても、試合の緊張感の中で、咄嗟に判断した時にどう考えていたかの方が大事だと思います。ある程度の決まりごとはあるんですが、試合では目の前の判断を大事にした方が良いですし、しなければいけないと思います。そういう時に「あぁいう判断をする時には、もうちょっとこうしよう」という理解を、ちょっとずつ積み重ねていくと、最後に全員で同じ絵を見るということに繋がると思っています。
◆目を見て話そう
――現時点で、チームとしての課題は何ですか?
正直、第2節のトヨタ戦は、トヨタが久しぶりの試合だったということもあるので、サンゴリアスが良すぎた、出来すぎた部分もあったと思いますが、それでもポジティブな部分は多かったと思います。その中で課題というと、得点が動かなかった時に、少し集中が途切れたというか、勢いが止まってしまう時がありました。そういう時は必ずあるんですが、そのままだと更に難しい展開になってくると思うので、そういう時に同じムードで始めるのではなく、強いチームであれば、チームとしてどういうコミュニケーションを取ればいいか、共通認識を持って始める必要があると思っています。
――そういうシーンではどういうコミュニケーションを取るんですか?
あの時は僕も何がしっくりくるか分からなかったんですが、あぁいうゲームになった時に、「集中しろ」と言って円陣を組んでも、選手それぞれが前のプレーで「もっとこうした方が良かったかな」とか考えながら話をしているんです。ですので最近やっているのは、「目を見て話そう」と声を掛けるようにしています。いま僕も試合のレビューをしながら改めて考えているんですけど、どういう言葉を掛ければ、もう一度リセットしてやれるかと、チームで話し合った方が良いなと思っています。
――そういう場面では言葉の力が必要ですね
間違いないと思います。あの時は得点的にもリードしていたということもあって、敵陣で上手くいっていない時も「またやり直せばいいや」という感覚がみんなの中にあったと思います。本当にチャンピオンになるためには、敵陣に入ったら仕留めなければいけないというイメージがあるので、ああいう場面では、亮土さん(中村)とかリーダーの言葉がめちゃくちゃ大事になると思います。
そこについては、みんなが同じことを思っていると思いますし、サンゴリアスで元々プレーしている日本人選手はその感覚があると思うので、いちばん大事なのは、外国人選手たちがその感覚を持っているかを確かめて、もっと良い考え方を持っていて、「ミスは多いけど、あれはあれで良い」と言うかもしれませんし、どちらの考え方になるにせよ、同じ絵を見れる話し合いをした方が良いと思っています。
◆チームのスタイルがいちばん大事、それにプラスαで個人が出てくる
――外国人だけじゃなく、日本人選手も素晴らしい選手が揃っている中で、司令塔というポジションには相当なプレッシャーがかかりませんか?
あんまりないですね。サンゴリアスに入って、色々な選手と一緒にやらせてもらったり、他のチームでも色々なメンバーと一緒にやらせてもらって思うのは、サンゴリアスには世界的な選手もいますし、日本代表選手もたくさんいますが、いちばん大事にしなければいけないことって、誰かを活かそうというよりも、チームがどういうアタックをしなければいけないか、そのチームのスタイルがいちばん大事だと思います。その中で、インディビジュアルな特徴とかスタイルがプラスαで出てくるのが、ラグビーだと思います。
映像だけ見るとサンゴリアスがそう映ってしまっているかもしれないですけど、選手にチームが合わせていってしまうと、僕としてはあまり上手くいかないんじゃないかなと思っています。だから、僕自身としては、この選手がいるからということではなく、やっていくことが大切だと思います。
2018年のカップ戦で、全員日本人で戦った時には、良い意味でも悪い意味でも一発のインディビジュアルなプレーで得点が入るということはなくて、ひとりひとりサボらずにみんながしっかりと仕事をするというサンゴリアスの色が出た試合がありました。
その時と同じイメージでやれば、それにプラスαで個人が出てくるという感じで、今いるメンバーをどうしなければいけないということは、あまり考えたことが無いですね。
◆そこから先は15人の選手のカラー
――同じ絵を見るということが大事になるんですね
皆が同じイメージを持った上で僕がコントロールしていれば、「こうなるだろうな」って思っているプレーが瞬間的にそのイメージを超える展開になったとしても、それは良い意味でプラスαの力であり、予想外な部分が出てきたということで、それはそれで選手の良いところが出た結果だと思います。例えそのプラスαが起きなくても、それはそれで「そうなるだろうな」で終わりです。ですから、あの選手がいるからこのプレーしかこのチームには当てはまらない、ということとは違うと思っています。
――プラスαの力で予想外な展開になることも、予想通りの展開になることも、どちらも楽しそうですね
楽しいですよ。良い意味で予想外な展開になった時は、やっぱりインターナショナルの選手だなって思う時もありますし、それが起きない時は、サンゴリアスの良さってインディビジュアルに頼らないところだなと感じて、そこが良いなと思う時もあります。それはどっちが良いということではなくて、僕の中のベースで、ちゃんと全員が同じ絵を見るということが前提にあれば、そこから先は15人の選手のカラーが出ると思います。
――同じ絵を見ることが出来ていない時は難しくなりますね
基本的には僕は準備の段階で、そうならないようにしています。昨シーズンは、僕があまり試合に出られませんでしたが、今シーズンの開幕戦、第2節と比べて、パッと見は同じに見えるかもしれませんが、僕としては細かいところで結構違うと思っています。例えば、第2節のトヨタ戦ではみんながちゃんと動いていました。この選手が突出して素晴らしかったというのは、僕としてはサンゴリアスらしくないなと感じてしまいますね。
――その感覚は、これまでラグビーをやってきて培った感覚なんですか?
それはあるかもしれないですね。高校からラグビーを始めて、自分のパフォーマンスに集中してやってきたということもありますが、例えば、東芝でプレーしていた時は、東芝のカラーで何がベストかを考えなければいけませんし、それが明治であれば明治だし、「サンゴリアスであれば、こうだな」ということを自分なりに理解して、その中で自分はこうしたいというスタイルがあります。サンゴリアスではそれがハマっていることが多いですし、自分がチームに合わせやすい部分もあるので、そういう感覚があると思います。
[続く]
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]