2021年12月 3日
#774 石原 慎太郎 『明日できなくなったら嫌だから今日やろう』
サンゴリアスで"最も熱く語る男"と呼んでいい石原慎太郎選手。その思いの丈を、2年振りのインタビューにぶつけてもらいました。(取材日:2021年11月中旬)
◆徐々に戻って来た
――前回のインタビューからだいぶ時間が経ちました。この間どんなことを考えていたんですか?
昨年1年はバタバタしていましたね。今はだいぶ落ち着きましたが、この1年は色々と大変でした。昨シーズンは思い入れが強くて、背負っているものや期待されていることに対して、良い結果を出したかったんです。開幕戦で1番のジャージを着ることを目標にやって、それを果たすことは出来たんですが、そこで終わってしまったという部分がありました。シーズン終盤にはまた盛り返してきて、自分のパフォーマンス、プレーにフォーカスすることが出来たので、徐々に戻って来た感じがあります。
今シーズンはとても良い準備が出来ていて、怪我もありませんし、31歳になって「疲れがなかなか抜けなくなるかな」なんて考えながら生活しているんですが、今のところはそんなことも感じずにやれているので、ポジティブに捉えています。その中でいちばんはサンゴリアスの中での立ち位置も変わってきて、もう9年目になります。自分の中ではまだ4年目くらいの感覚なんですけど(笑)、「もう31歳か」なんて思うと、僕が1年目の時の8年目って、アオさん(青木佑輔/アシスタントコーチ)や隆道さん(佐々木/現 横浜キヤノンイーグルス アシスタントコーチ)がいて、9年目だと平浩二さん(スクール・アカデミー 兼 地域連携)の代になるんですよ。
そう考えると、大切な年代だなって思って、あの時の平浩二さんと比べると、今の自分はどうなのかな?って考えたりします。やっぱり平さんってプレーで引っ張ってくれるところが大きくて、一言一言に重みがあって、「うわー、さすがだなー」って思っていましたが、今の僕はどうなのかと思いながら生活しています。
――後輩が増えたという感じがありますか?
それは思いますね。フォワードの中で僕より年上なのは、健雄さん(金井)、ツイヘンドリック、小澤さん、トム・サベッジしかいなくて、「もう上から数えた方が早いのか」って思いますね。ただ、後輩というよりも、僕はまだ結婚していませんし、プライベートの時間が取れるので、後輩と過ごす時間も多いですし、後輩というよりは友達とかチームメイトが増えたという感覚ですね。あまり先輩と思っている後輩はいないと思いますし(笑)。
――まだ4年目の感覚というのは、一生懸命やってきたからあっという間だったということでしょうか
その感覚とはちょっと違うんですよ。6年目の時に大きな怪我をして、その翌々年にも色々とあって、内容としてはめちゃくちゃ濃いと思うんですよ。それに1年目から3年目までは優勝できない期間が続いたり、そこでもがいたりする期間もあったので、感覚としてはあっという間という感じはなかったですね。一瞬の出来事のような感じではないんですが、気が付いたらあっという間だったって感じです。めちゃくちゃ大変だったんですけど、過ぎてみたら一瞬のように思える。その中でも良い思い出もたくさんあって、思い返すことも出来るんですが、気が付いたら一瞬のような感じがあります。
◆恐れ知らず
――人のことをよく見ている印象がありますが、最近の新人たちの入団後即活躍が多いことについてはどうですか?
大学ラグビーの質が上がっているということはあると思いますが、カテゴリー別の日本代表の選手たちがインターナショナルレベルを経験していることが大きいと思います。それに2015年、2019年とワールドカップで日本代表が結果を残して、僕が大学生だった頃と今の大学生が感じる日本代表の感覚って違うと思います。僕が大学生の頃の日本代表は、ベスト8に進めるなんて考えてもいませんでしたし、そこが変わったと思います。その差は大きいと思います。
僕が思うのは、ワールドカップに出場していたメンバーが同じチームにいるわけで、そういう選手と一緒に練習をしているというのは大きいと思いますよ。ワールドカップで結果を残した中心メンバーと一緒にやって、その人たちから練習で認められたり、そういう人から学んだりすることは、ものすごく大きいことだと思います。
意識の部分の他に、あとはやっぱり、ベースとなる身体が良いと思いますよ。ポテンシャルがとても高いですし、一緒に練習をしていて「この部分が足りないな」と感じる選手はほとんどいません。箸本龍雅、下川甲嗣、尾崎泰雅、この3人は生まれ持ったものが素晴らしくて、あのポテンシャルには驚かされます。
ワールドカップに出場しているメンバーを相手にしているわけなので、公式戦であっても相手からのプレッシャーはぜんぜん違うと思います。実際に若手選手も「ツイ ヘンドリックとかショーン・マクマーン、サム・ケレビを相手にタックルしているんだから」という気持ちが少なからず持っているんじゃないかなと思いますよ。恐れ知らずになっている部分はあると思います(笑)。
――若手だけじゃなく、外国人選手も素晴らしい選手が多いですよね
その力はチームにとって大事な部分だと思います。
――その中でチームの鍵を握っている選手は?
結局、誰か人に頼っちゃダメだと思うんですよ、チームって。けど、ここ2年くらいはそのタレントに頼っていた部分はあったと思います。ワールドカップであれだけ活躍して、そのメンバーがいるサンゴリアスで、そのメンバーが活躍して、僕らもそのメンバーが活躍してくれるんだって、思ってはいないつもりだったんですが、心のどこかでは思っていたかもしれません。
サンゴリアスは、そういう人たちのチームになっている時って、絶対に結果が残っていないんですよ。準優勝では結果を残していることにはならなくて、優勝と準優勝ではまるっきり違います。勝つ時って、練習の時から何か違うんですよ。ここ2年くらいはその雰囲気が足りなかったと思います。
◆みんながチャレンジをしている
――勝つ時の雰囲気になるためには、どうすれば良いと思いますか?
いま変わってきているのが、チームにはもちろんビッグネームがいるんですけど、そういう選手たちにチャレンジするようになってきたんです。その選手が若手だったり、ルーキーだったりするんです。ショーン・マクマーンに名前負けせずに、本気で止めたり、ショーンが嫌がるようなプレーをするようになってきています。
そういうところで雰囲気が変わってきたと感じるようになってきています。みんながチャレンジをしているような感じがしていて、それはここ2年では感じなかったところですね。もちろん外国人選手たちは素晴らしい選手ばかりですけど、それを日本人選手たちが跳ね返すようにチャレンジしている、歯向かおうとしている感じがありますね。
それは思いっきりタックルに行くとか、そういうところだけじゃなくて、相手が嫌がるようなプレーをするようになっています。そういうプレーはこれまで出来なかったと思うんですよ。だから、そういうプレーの後にケンカになったりするんですけど、そういうことが起きること自体がめちゃくちゃ嬉しく思うんです。
僕は練習中にケンカが起きないと優勝できないと思っています(笑)。優勝していた時って、練習中にケンカをしまくっていたんですよ。それはミスして怒られるからとかじゃなくて、練習中であってもみんなが目の前の相手に負けたくなかったからそうなっていました。それが大事だと思います。
綺麗ごとじゃないですけど、やっぱり表面的な仲良しなだけじゃ勝てないんですよ。練習中につかみ合いのケンカになっても、練習が終わってロッカーに戻ったら、「あの時、ケンカになったな」って笑いながら話すんですよ。それって、もう仲良しじゃないですか(笑)。それが本物の仲良しなんじゃないかなって思います。練習中に「掴んじゃってゴメンね」ってその場で謝るんじゃなくて、練習中は本気でやり合って、ロッカーに戻った時にはそれをお互いに受け入れて、「あの時のあのプレーは激しかったな」って話し合える、そういう姿があるべきだと思います。だから、その中でやっていて楽しいし、その様子を見ていても楽しいですね。
引退しちゃいまいたけど、西川征克さんとか、激しかったですよ(笑)。練習でもその場で勝つために色々とやっていましたね。あのサイズで、身長も体重も走力も突出していたわけじゃないのに、あの歳まで現役を続けられていたのって、本当に気持ちが強い選手でした。
――サンゴリアスはどちらかと言うとスマートという印象を持っている人が多いと思いますが、表では見えないけれど、練習中はバチバチにやり合っているんですね
サンゴリアスは昔からバチバチやりあって、グラウンドでケンカしていますからね。その中で、僕は2年間しか優勝を経験していませんが、その時の勝ち方ってめちゃくちゃ貪欲だったと思います。そのシーズンは1試合もスマートな勝ち方なんてなかったですし、ひとつひとつ貪欲なプレー、相手が嫌がるようなプレーをやり続けた結果、優勝できたので、毎試合が本気でした。
僕が初めて優勝したのは2016-2017シーズンなんですが、そのシーズンは4節のパナソニック戦で勝ったことで、自分たちのやっていることは正しいんだと思えました。それまでの3試合はぜんぜん上手くいかなかったんですが、貪欲にやり続けて勝っていて、パナソニックに45対15で勝つことが出来たんです。その試合もスマートなプレーだったわけじゃないので、やっぱりスマートにやろうとしちゃダメなんだと思います。みんなが綺麗に連動してトライというのじゃないんですよサンゴリアスって。
――貪欲にやり続けるプレーで重要になるのがフォワードですね
そうなんですよ。そのプレーの結果、バックスがトライを取ることで、スマートに見られているんだと思います。ラグビーはフォワードが重要なんです。
◆相手が嫌がることもやる
――そのフォワードのプライドや価値をチームに浸透させていって、引っ張っていく年齢や立場になっていると思いますがどうですか?
そういう立場になったという気持ちを持っていますが、そう思いながら、その役目をやろうとしていたのが、ここ2年でした。7年目くらいから「ここで俺が伝えなきゃいけないよな」とか思ってやっていたんですが、それだと僕のプレーがまるっきり良くなかったんすでよ(笑)。そこで今シーズンは、自分の好きなようにやるし、自分が勝つためにやるし、目の前の相手を倒したいから相手が嫌がることもやるようにしています。
だから、いまプレーしていて楽しいですよ。もちろん、周りの方向が違う方に行きそうになった時には、良い方向に向くようなことを言おうと思っていますし、そういう態度を示そうと思っていますが、基本的にはいまは自分のことしか考えていないですね。それがチームにも良い影響を及ぼしていければ良いなと思っています。
――その中で、自分自身の課題は何ですか?
本当に練習が楽しくて、毎日テンション高く過ごしているんですけど、課題というか楽しみというか、今シーズンはこれまでよりも試合数が多いので、このテンションがどのくらい持つのかということです(笑)。まだ開幕していない状態で、ここからどうなっていくのかが楽しみですね。目の前のことしか見ていなくて、明日の楽しみにテンション上げていますし、先週は他のチームと合同練習があったんですが、それでもテンションを上げていました。1日1日を楽しんでいる感じです。
最初にも話しましたけど、6年目の時に大きな怪我をして、ラグビーが続けられるかどうか分からないような状態でした。それを経験して、いまラグビーが続けられているので、明日できなくなったら嫌だから今日やろうって気持ちになるんです。もちろん上手くいかないこともありますし、スクラムが上手くいかなくて「組みたくないなー」って思うこともありますけど、それをポジティブに変えて、「あの時に組みたくないって思っていた自分は情けねー」って思ったら笑えてきますし、そんなことを思っている時に限って良いスクラムが組めたりするので、「人生って面白いなー」って思ったりしますね。
――今シーズンは目の前のことを全力で取り組んでいくという感じですね
そうですね。ただ、2023年のフランスでのワールドカップは、本気で行くつもりですよ。現役でやっている以上、そこは「いいや」って思ったら終わりだと思うので、ワールドカップは絶対に目指します。今は日本代表に入っていませんし、目の前のことしか考えていないけど、その先にいる自分を想像して、毎日生きています。そうしなければ楽しくないですよね。
それを想像している自分にワクワクしますし、「2019年のワールドカップに出られなかったけど、2023年は行けるのか?」って自分にプレッシャーをかけている自分もいます。そういうのは言ったもん勝ちだと思いますし、それに向けて成長しているって思います。毎日を思いっきりやっていると思いますし、目の前のことを100%やっているけど、その先にはそういう未来があると信じてやっています。そこで結果が残せたら素晴らしいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]