2021年11月12日
#771 木村 貴大 『弱みを見せる』
積極的に様々な試みに挑戦している木村貴大選手。サンゴリアスに加わったユニークなキャラクターが目指すラグビーと活動について聞きました。(取材日:2021年9月下旬)
◆知らないことを学ぶことが好き
――これまでの経歴を見ると、様々なことに取り組まれていますね
色々な経験をしてきて、色々なことに興味を持つようになりました。僕も以前まではラグビーしか見えていなかったんですが、海外に行ってみたり、普段と違った場所で普及活動などをしていると、視野が広がった感覚がして、そこから色々なことに興味を持ち始めました。
――視野が広がったことでの楽しさはありますか?
元々、知らないことを学ぶことが好きなんです。ラグビー界にいるとラグビーの人としか出会わないので、一歩引いて色々な景色を見ると、「こういう人がいて、こういう考え方もあるのか」と気づいて、それが好きになったという感じですね。
――その中でもラグビーがずっと好きで続けてきたんですね
そうです。ラグビーの魅力は、やっぱりカルチャーですね。他のスポーツには無いノーサイドの精神だったり、ラグビー好き同士はめちゃくちゃ仲良くなるとか、そういう部分って他のスポーツに携わっている人たちに話を聞いても無いみたいです。例えば、居酒屋とかでたまたま出会ったラグビー好きな人に、ラグビーが好きって話をすると、「え?お前はどこ高校?」みたいな話になるんです(笑)。それってラグビーならではで、ラグビーの文化を象徴していることだと思います。
――ラグビーの競技の特性上、みんなで身体を張っているからこそ通じる部分でしょうか
仲間、チームメイトと家族のようにずっと一緒にいるので、チームメイトと一緒に勝ったり負けたりを経験する中で、そういうプロセスが良いですし、チームスポーツとして好きですね。その中でもラグビーは、仲間のために身体を張るというところや、こいつがやられたからやり返すという部分など、仲間意識が強いところがラグビーの良さで、好きなところです。
――どちらかと言うと、リーダータイプですか?
これまで各カテゴリーでリーダーをやらせてもらっていましたけど、仲間がやられたらやり返すというところは、みんな持っているんじゃないかなと思います。
◆アスリートの価値
――取り組む上で、これはやらない、変えない、と決めていることはありますか?
なぜ自分が夢を持ってそこに向かっているのかとか、自分の中にはラグビーをやっている目的があって、もちろん好きだからということがいちばんなんですが、僕がチャレンジしている姿を見て、「キムタカを見て頑張れました」とか、挑戦する勇気を色々な人に届けたいという想いがあります。そのために、その軸を大事にして、ラグビー以外の発信とか、ラグビー以外の活動もやって、その中で批判されることもありますが、批判されても目的はブラさないようにしています。
――発信する役目を自覚したきっかけは何ですか?
大学を卒業して、社会人1年目は豊田自動織機に入ったんですが、当時の豊田自動織機はトップリーグの1部だったので、いわゆるトップリーガーという立場になりました。そこで地元の北九州で、「夢・スポーツ振興事業」というものがあり、僕は個人で行政を巻き込んで、子どもたちにラグビーを教える授業を行いました。その時に、「トップリーガーってこれだけ子どもたちが夢を持つことにサポートできるんだ」と気づいて、その時はふんわり気づいたという感じでしたが、僕らが発信したり、僕らの一言一言で子どもたちに響くというか、そういう活動を続けて2~3年経っていくうちに、それが伝播できるようになっていきました。
いま「なぜそういう活動をしているのか?」と聞かれた時に答えるのは、アスリートの価値をグラウンドの上だけで発揮するのはもったいないと思うので、アスリートの価値を社会に還元したい、子どもたちに還元したいという理由でやっています。
――やろうと思っても実際に行政を巻き込んでやることは難しいと思いますが、その発想はどこから?
そこには協力者がいて、ラグビー協会の人にこういうことをやりたいと伝えたら、「スポーツ振興委員会というものがあるから、一緒に当たってみようか」と言われました。まずは仲間を作ってからやることにしました。
――子どもたちに伝えることで、自分でも気づくことがあったんですね
まさにその通りで、だから続けられるんだと思います。
――他の活動も広がっていっていますか?
広がっていますし、広げようと動いてきました。元々は地元の子どもたちのラグビースクールだけでしたが、JICA(国際協力機構)で講演会をしてみたり、東福岡高校の同期の藤田慶和(パナソニック)とチャリティーイベントをやったりしています。僕らの経験や諦めない姿勢、挑戦する勇気を届けられると思ったので、活動の幅を子どもたちだけじゃなく大人にも広げています。
――社会の中でスクラムハーフをしているようですね
言われてみるとそうかもしれないですね。僕としては誰かを引き連れて、チームを作って何かをするということよりも、僕がしたくて、まずは1人で全部やっていると、見ている周りの人が協力してくれたという感じです。僕としては元々は求めていなかったことが、価値を感じてくれる人が増えてきたというイメージです。
――スクラムハーフの特徴として、チームでいちばんの負けず嫌いという印象を受けてきました。やはり木村選手も負けず嫌いですか?
自分でもそう思いますし、周りからもそう言われ続けたので、そうなのかなと思います。
――その負けず嫌いと、先ほどの発信というところは繋がっていますか?
そこは繋がっていないと思います。誰かに負けたくないからということは無いですね、いま27歳ですが、負けず嫌い感は昔と変わってきたと思います。昔は、こいつに負けたくないからこうしようと考えていたんですが、誰かと比較しなくなったと思います。
◆フィジカルとタックル
――ラグビーにおいて、いちばん得意な部分は?
フィジカルとタックルです。ディフェンス力と、自ら前に出られるフィジカルの部分です。
――今の課題は何ですか?
キックの精度と、あとはサントリーに入ってまだ少ししか経っていませんが、連携面の部分です。他のチームとシステム面で似ているところはあるんですが、サントリーのテンポとか、この選手はこうパスをもらいたいとか、そういう連携部分がまだ馴染んでいないので、そこが課題だと思っています。
――ライバルが多いチームだと思いますが、なぜ東京サンゴリアスを選んだんですか?
抽象的な言葉になってしまいますが、いちばんワクワクしたチームです。正直、前所属のコカ・コーラが廃部になって、エージェントを通じて全チームに対して所属先を探していることを伝えていました。僕の中で候補は立てていましたが、最初はその中にサントリーは入っていませんでした。その中で実際にサントリーからオファーをいただいて、僕の中でこのチームに所属したらこうしようというイメージを作っていたんですが、イメージしていたものが全てゼロになって、全てのワクワクがサントリーに向かっていました。
もう少し具体的に話すと、自分がどういう時にワクワクするかと言語化した時に、誰もしないこと、ファーストペンギンという言葉が好きで、誰もチャレンジしないことに向かうことに対してワクワクするところがあります。あとは、僕は直感を大事にしているんですが、そこでサントリーには感じるものがあって、そういう時にワクワクするんだと思っています。
――誰もやったことがないことをラグビーで言うと、どういうイメージになりますか?
サントリーで言うと、日本代表のスクラムハーフが2人もいて、さらに大越元気もいるので、そこに自ら入りたいと思うスクラムハーフって少ないと思います。そこに自分が入った時に、彼らから学べることは、サントリーに入らなければ学べないことの方が多くて、実際に彼らと競争できるということは僕しか出来ないことですよね。実際にサントリーからオファーをいただいて断ったとか、流君や齋藤がいるから行きたくないという声も聞いたことはあるんですが、僕はそれを聞いて何故かなと思っていました。
◆グラウンドに立って日本一に
――東京サンゴリアスに加わって、手応えを感じているところは?
正直、まだ試合がなく、練習しかしていないので、手応えはあまり感じていないんですが、自分が何を求められていて、何をすればチームの役に立つのかという部分が、コーチたちとミーティングを繰り返すことで明確になってきて、それさえ出来れば力を発揮できるし、チームを勝たせることが出来ると思うので、早く試合がしたいですし、自分なら出来ると思っています。
――今シーズンの目標は?
大きい目標は、グラウンドに立って日本一になることです。高校でしか日本一を経験していないので、グラウンドに立って日本一になりたいです。
個人としては、グラウンド内と外があって、グラウンド内ではやはりチャンスを掴み取らなければいけないと思っています。流君と齋藤の方が経験値とサントリーでの時間が長い中で、「この相手に木村を使ってみよう」という時にパフォーマンスをしっかりと発揮できないと、その後、一度も使ってもらえない状態になることは分かっています。レギュラーで全試合に出るということも言いたいんですが、まずは現実的に、控えから最初に出た時にどれだけインパクトを残せるか、チームのためにどれだけパフォーマンスを出せるかというところだと思います。全試合で9番を着たいという想いはありますが、それよりも来たチャンスを掴むということが大事になると思っています。
――発信という部分で目標にしていることはありますか?
僕はプロ契約になるんですが、サントリーには「やってみなはれ」という精神があって、その言葉って大好きなんですよ。サントリーに入ったからには会社にも貢献したいと思っていて、サントリーという会社もサンゴリアスというチームも、地域や社会に愛される存在にならなければいけないと思うので、僕だから出来る発信力や活動力で、「木村が来たからこれだけファンが増えた」と言われるようにやろうと思っています。
――何人くらいファンが増えたと言わせたいですか?
僕は個人でファンクラブを作っていて、その人たちが100人いて、きっとサントリーのことも好きになってくれていると思うので、100人は増えたと思います。やっぱりプロ選手の価値ってお客さんをどれだけ呼べるかだと思うので、試合に観客を連れてきたいですね。
――昔からそういうタイプでしたか?
いや、昔はただのラグビー小僧で、負けず嫌いで人の言うことを聞かなくて、アドバイスを受けても「俺はこうだから」って言って受け入れなくて、どうしようもないやつでした(笑)。
――そこが変わったきっかけは?
海外にいったり、最近まではそういうタイプだったと思います。今はひとの声をより受け入れられるようになりました。良い意味でも悪い意味でも、「俺はこうだから」ってあると思うんですが、僕の場合は悪い要素の方が多かったので、それが「こういう選択肢もある」という考えに変わったと思います。
それはラグビーにも活かせていて、学んだことを実践していて成果も出ています。プレー面ではないんですが、僕はずっとリーダーをやってきたので言いたくなっちゃうんですよ。それを言わなくしたこと、あと年齢的に後輩が多くなってきていて、彼らにラグビーについて話したりする時に絶対に否定をしないということ。そして向こうが「こうじゃないですか?ああじゃないですか?」と言ってきた時に、それを尊重して、自分の意見を言いすぎるよりも問いかけをするようにしています。
その中で、いちばん大事にしているのは、弱みを見せることです。これまでは弱みを見せることがダサいと思っていましたし、変にカッコつけて、サンウルブズで大した結果を出していないのに、「俺はサンウルブズだから、それに見合ったプレーをしなければいけない」と思っていたことが、言動にあらわれてしまっていました。だから後輩が僕に話しかけにくいとか、チームに対してバーッと言ってしまっていたので、ギャップみたいなものが生まれてしまっていました。だから、弱みを見せまくって、逆に教えてもらうということをすると、後輩から寄ってきてくれるようになりました。
――その話だけでも学びがあったんだなと感じます
すごく学びました。他の人が当たり前に出来ていることが、僕は出来ていないことばかりでしたね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]