2021年10月15日
#767 村田 大志 『みんなで「いま何が必要か」を探していく』
インタビューしてみて改めて、なぜ村田大志選手が皆に頼りにされているかが、わかった気がします。ベテランと呼ばれるようになっても、日々成長している村田選手の、ラグビーへの想いを聞きました。(取材日:2021年9月下旬)
◆メンバー選考に関われなかった
――昨シーズンは公式戦での出場がないシーズンでした
1年目のシーズン以来でしたし、もちろん悔しかったです。練習試合もなかなか組めない状況の中で、徐々にコンディションが上がっていったという感じでしたが、なかなかアピールする場がなく、コンディションが上がるのが遅れたので、メンバー選考に関われなかったな、というのが率直な想いです。
――コンディションが遅れた原因は?
痛いところがあったことももちろんですが、シーズン途中から若井さん(正樹/前サンゴリアスS&Cコーチ)にみっちりとついてもらってトレーニングをしたら、コンディションが上がってきました。今の状況と年齢に合ったトレーニングが見つかったことでコンディションが上がりましたが、メンバー選考のところには引っかからなかったですね。
別に大きな怪我をしたわけではなかったんですが、ちょっとずつ年齢と共に身体も変わっていっていたんだなと、改めて気づきましたね。出来る限り他のメンバーと同じトレーニングをした方がコンディションがキープできると何となく思っていた部分があったんですが、練習量を減らすとかではなく、同じボリュームの中で他とはちょっと違うトレーニングをしていった方が上手くいくことが分かったので、今シーズンは割とコンディションが良い状態でスタートが切れています。
――毎年やってみないと分からないことがあるということですね
そうですね。変化していっているんだなと改めて感じましたし、変えることを恐れていた部分もあったと思うので、若井さんには感謝しています。
――今のところは新しいやり方で順調に来ているんですね
オフシーズンも上手くいっていたやり方で準備をしてきたら、スムーズにトレーニングに入れたので、出来る限り同じことを続けながらやっていきたいと思います。今のS&Cコーチも自分に合うトレーニングを探してくれているので、それをしっかりと受け入れて、一緒に試しながらもっともっと良い方向に進められればと思っています。
◆持っている力を全部出し切る自信
――更なるレベルアップへの自信はどうですか?
今の状態であれば、シーズン開幕のところに絡んでいきたいという想いはあります。ただ、しばらく公式戦には出られていなくて、ミルトン(ヘイグ/監督)などにはプレーを見せられていないので、プレシーズンなどで実際に使ってもらって信頼を勝ち取るしかないと思っています。
――次に使ってもらえる試合が大事になりますね
まあ、そういうものじゃないですかね(笑)。チャンスは平等にあると言われますけど、そうじゃないですし、信頼を勝ち取っている選手はその選手の努力だと思います。そういう意味で僕は、これから信頼を勝ち取らなければいけませんし、チャンスは少ないけれど、そこでベストパフォーマンスを出せるように準備をするだけです。
――そこでのポイントは何になりますか?
ここを見て欲しいということではなくて、試合をトータルで見て、スタンダードの高いプレーをすることが大事だと思います。僕はボールキャリーで大きくラインブレイクをするタイプではありませんが、チャンスでしっかりと外にボールを運ぶとか、ファンダメンタルスキルのところで質の高いプレーをやり続けるとか、そういう基礎の部分で信頼してもらうしかないと思っています。
ディフェンスはある程度は自信があるので、チームのディフェンスを引き締められれば「次も使ってみよう」と思ってもらい、その次の試合でも質の高いプレーをしていると思ってもらう、ということの繰り返しだと思っています。なので、1つの試合にこだわるというわけではありませんが、ある程度のクオリティーのものを見せないと、次の試合はないと思っています。
――そういった中でも変に力が入っている様子はないですね
この歳になると、自分の出来ることは分かっていますし、試合で120%の力を出そうという気持ちもない。ただ、自分の持っている力を全部出し切る自信はあるので、それを評価してもらえるかどうかだと思います。
決勝などを見ていると、ビッグゲームになるほど、いつもと違ったプレーがあったり、ミスが多かったりしたので、まだまだ自分の価値を出せるところが、このチームにもあるのかなと思いましたね。
◆まだまだ足りないものがある
――試合を外から見ていたシーズンを過ごして、今のチームのことをどう見ていましたか?
強いと思いますよ。爆発力がありますし、勢いに乗ったら止められないというか。ただ、決勝というところに絞ると、やっぱり決勝で勝つチームはパナソニックだったなと思います。
シーズントータルのパフォーマンスとか、シーズンでのベストゲームを比べると、サントリーの方が良いチームだったと思いますけど、決勝1試合に関して言えば、圧倒的に試合の入りはパナソニックの方が良かったですし、実際に勝ったのはパナソニック、優勝したのはパナソニックというのは事実なので、最後で勝ち切るチームになるには、まだまだサントリーには足りないものがあるんだろうなと思います。
――その足りないものは、もう見えているんですか?
いやー、明確に見えていたら優勝できていたと思うので(笑)。なんだろうなー、これからですね。それが楽しいんじゃないですかね。あと1ピースが何だろうとみんなで探しながらやって、それがハマったら優勝できると思います。それを探すのが難しいですけどね。
やっぱり後輩からすると、僕らは"勝ったことがある世代"という印象があるみたいで「どうですかね?」とか聞かれますけど、それは過去の実績でしかないので、「俺らの時はこうだった」という事実でしかありません。それがいま正しいかは、また別の話だと思います。やっぱりみんなで「いま何が必要か」を一生懸命考えながら、探していくしかないんでしょうね。
――他の選手にインタビューをしていると、いちばん名前が出てくるのは村田選手です
マジですか(笑)。僕も一生懸命やっているだけです(笑)。年齢を重ねているから、ベテランだからということではなく、僕もチームの一員として一生懸命頑張って、自分の成長のために頑張っているだけなので、あまり変わらないようにはしています。
◆明らかに前に進んでいる
――試合に出られなかった時に、「これで終わりか」ということは思いませんでしたか?
どうだろうな。「なんでメンバーに選んでくれなかったんだ」ということは無かったですね。自分のアピールが遅くなったり、アピールの場が少なかったということもありましたし、実際にサム(ケレビ)とか将伍(中野)のパフォーマンスも良かったので、彼らと比べて圧倒的に勝っている部分があったかというと、昨シーズンは自信がなかったですね。そういう意味では仕方ないかなと。試合に出ていないのであれば、結果を受け入れるしかない立場だと思うので、メンバーたちは本当によく頑張ったと思います。
次のシーズンでも現役を続けるかどうかという話をスタッフとしなかったわけではなくて、色々と話し合いをしていました。自分としては、やっぱりパフォーマンスがなかなか上げられない時期は、チームの力になれていないという想いがありましたし、チームのためになる選手がいるべきだと思っていたので、僕じゃない方が良いのかなと思う時もありました。僕のことを必要としてくれる人もいましたし、「もう1シーズンやって欲しい」ということを言ってもらえたので、決勝が終わった時点では、もう1シーズン続けることは分かっていました。
――もう1シーズンとは言わず、40歳くらいまで続けて欲しいですが、やはり1年1年が勝負ですか?
そうですね。僕は先を見てやってきたタイプではなくて、本当に入社した時から、怪我をしたら終わりですし、このシーズンで終わりになっても後悔が無いようにと、毎年やってきました。プロ選手ではないので、「終わり」と言われたら、すんなり受け入れられるのかなと今は思っています。まあ、実際に言われたら寂しいんだろうなとは思いますけどね。
――プロ選手が増えてきたり、海外の有名選手がプレーするようになったりと、村田選手が現役を続けている中で変化してきていると思います。それについてはどんな印象を持っていますか?
明らかに前に進んでいるんじゃないですかね。ラグビーワールドカップでの結果が、何よりも示していると思いますし、僕が入社した2011年のワールドカップなんてニュージーランドに大敗して、それを現地でみんなで見たんですけれど、「うわー」と思って帰ってきました。
その年はエディーさん(ジョーンズ/現ディレクター・オブ・ラグビー)に指導してもらい、その後にエディーさんは日本代表ヘッドコーチになって2015年ワールドカップでは南アフリカを倒して、2019年はベスト8まで進んで、着実に進んでいます。それに伴ってリーグのレベルも上がっていますし、その中でもまだ自分がやれているということは、自分自身のレベルも上がっていると感じます。
――進化という部分では、日本代表じゃなくても感じていますか?
そうですね。ラグビーの質も変わってきていると思います。よりフレキシブルというか、それぞれの判断の中でプレーしていますし、昔であればラックになっていたところがオフロードパスで繋いだり、1つ1つのスキルを見てもとても進化していると思いますし、それを見て育っている子どもたちが同じことを真似してやっていたら「そりゃ上手くなるな」と思うので、やっぱりルーキーたちが即戦力になっていますもんね。サントリーに入って育っていく選手たちがメインだったのが、即戦力として入ってそこから更に進化していっている後輩たちを見て、素晴らしいなって思います。
◆やっぱり試合がいちばん楽しい
――今シーズンの目標は?
チームが優勝するところに、自分の持っているものを100%出して貢献したいですね。もちろんその中には、試合に出て貢献したいという想いがあります。
――試合に出られなかった苦しいシーズンを経て、改めて感じるラグビーの面白さは何ですか?
やっぱり試合がいちばん楽しいですね。試合でパフォーマンスを出すためにトレーニングをしていると思いますし、試合でパフォーマンスを出して、勝ってみんなで喜ぶことがいちばん楽しいので、改めて試合に出たいと思いましたね。
やっぱり試合に出ないと、人間性が出ると思いました。「俺にはこういう一面があったんだな」って思うこともありました(笑)。「もういいや」って思っちゃいそうになった時もありましたけど、「それは違うな」っていう、自分との葛藤は、改めてすごく勉強になりました。
――それらは初めての感覚に近かったんですか?
1年目の時は怪我もあったんですが、本当に10年振りでしたね。1年目の時には順調にいけば試合には出られそうだなと思っていたけど、怪我をしてチャンスがなくなったという感じでした。そう言われてみると、怪我でもなくて、チャンスがない、試合に出られそうにないというのは、社会人になって初めてだったかもしれないですね。
――そういう経験で、改めて勉強になったところはどこですか?
なんか人生は修行の連続だなと思いながらやっていました(笑)。なんかそれが良かったと思いますし、このまま綺麗に辞めたりしていたら、この後の人生はヤバかったんじゃないかなって思います。なんか弱くなっていた気がします。改めて、そういう1シーズンを過ごして、修行を覚えましたね(笑)。
まだ人生のほんの一部ですけど、振り返った時に「あの時は苦しかったな」と思い出せることがあるって大事じゃないですか。そういう意味では、久しぶりにそういう経験が出来ましたし、いま振り返ると良かったと思いますね。その時は苦しいことでも、振り返ったら笑えるし、良かったと思えることだったりしますよね。人生は修行です(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]