2021年7月16日
#755 尾﨑 晟也 『抜ける前の過程を見てもらえたら面白い』
リモート越しにもスッキリとした雰囲気で、話も明快で調子が良さそうに見える尾﨑晟也選手。新しいシーズンへの期待が高まる誕生日インタビューとなりました。(取材日:2021年7月中旬)
◆シーズン毎に違った課題
――お誕生日おめでとうございます!選手の誕生日当日にインタビューするのは初めてかもしれません
ありがとうございます。26歳になりましたが、特に大きな変化は無いですね(笑)。まあ、もう26歳かという感じです。
――サンゴリアスで4年目となりますが、早かったですか?
早かったですね。新型コロナウイルスの影響でシーズンが途中で終わってしまったということもあったので、特に早かったと感じています。でも焦りなどはありません。1年1年充実していますし、成長もしていると思っています。シーズン毎に違った課題が出てきたり、結果も違ってくるので、それは自分にとって良いことだと思っています。
――2021シーズンは8試合出場&6トライ、振り返ってみてどうですか?
そんなにトライを取っていましたか?自分の中でトライを取っているイメージがなかったですね。15番での出場が多かったので、自分としてはサンゴリアスの両ウイングをどう活かすかと考えたシーズンでした。サンゴリアスは誰が出ても決定力の高いウイングが多いので、その中で自分の強みを活かしつつ、周りを活かすことを考えながらプレーしました。
――自分の強みとは?
15番ということは、味方に最後良い形で渡せるようなチャンスを作るということが自分の仕事でもあったので、そこは常に考えていましたし、自分で行ける時には仕掛けたりしていました。あと、先に味方にパスをしてサポートに走って最後にもらうという形は、新しい形として出来たかなと思っています。
――それによってトライも増えているんですね
これまで自分から仕掛ける場面は多かったんですが、先に味方にパスをして、能力の高い味方からもう一度パスをもらう形も増えたと思います。
――日本代表対サンウルブズの試合(6/12)で、サンウルブズのメンバーとして出場した際にも、良い動きが多かったですね
そうですね。サンウルブズでは久しぶりにウイングをやらせてもらったので、どんどん自分から仕掛けてアピールしようと思ってプレーしていました。久しぶりで楽しかったですね。
――ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦、アイルランド戦の遠征メンバーには入れませんでしたが、そのことについてはどうですか?
ユキオさん(森川由起乙)は元々遠征メンバーに入っていてサンウルブズで出場しましたけど、僕は遠征メンバーから外れて、サンウルブズに選ばれたということになります。遠征メンバーに入れずとても悔しくて、サンウルブズで今後に繋がるようなアピールが出来ればという想いでやりました。自分がいま持っているものはアピール出来たと思います。評価するのはジェイミー(ジェイミー・ジョセフ/日本代表ヘッドコーチ)や日本代表のスタッフだと思っていますが、いま持っている力は出せたと思うので悔いはないですね。
◆反則、ディフェンスでの失点
――ジャパンラグビートップリーグ2021では、リーグ戦は全勝でしたが、最後のプレーオフ決勝で敗れてしまいました。いち選手としては、どう感じていますか?
2021シーズンでは、チーム全員が自信を持っていたと思いますし、チームの状態もとても良かったんですが、決勝に関しては少し硬くなった部分があったかなと思います。100%は出せたと思うんですが、最初の方に少し硬さを感じて、いつもとは少し違った雰囲気がありました。パナソニックはとても強かったですし、そこで力を発揮できなかったということは、チームとしての完成度がまだまだだったのかなというところが課題だと思います。
――あのような場面で勝つためのテーマは見えましたか?
シーズンを通しての課題としては、反則の多さだったり、ディフェンスの部分での失点が多かったと思います。アタックに関してはトップリーグ内でナンバーワンの力を誇っていたと思いますが、ディフェンスでは少し失点が多かったですし、反則も多かったですね。やはりファイナルで勝つチームはそこがしっかりしているチームだと思うので、そういった面ではパナソニックの方が上だったかなと思います。
――失点を少なくしたり、反則を少なくするためには何が必要ですか?
普段の練習からの意識を、もっともっと高めていかなければいけないと思いますし、亮土さん(中村)やサベッジ(トム・サベッジ)と一緒にディフェンスリーダーをやらせてもらって、ユタカさん(流大)などからもペナルティーを無くしていこうという話が出ていました。練習中に起こる反則は試合でも起こってしまうので、みんな意識はしていたと思いますが、実際に起こってしまっていました。そこはもっと練習からやっていかないといけないですし、「ビッグゲームで大事なことはディフェンス」だとみんなが認識していると思うので、次のシーズンではそこをより一層、序盤から意識して出来ればと思っています。
――難しいことですけれどそれを遂行して更にもう一段レベルが上がる必要があるということですね
そうですね。そこは長く時間をかけて良くなっていく部分で、急激に良くなることは難しいと思うので、1年間かけて、次のシーズンで直していければと思っています。
――個人的な課題は見つかりましたか?
15番でプレーさせてもらっていますが、ゲームのコントロール、自分自身が周りをコントロールするという部分は課題だと感じたので、周りに指示をしたり、自分がゲームを動かすことはもっともっと出来るんじゃないかなと思っています。
――ゲームを動かすとは、例えばどういうことになりますか?
2021シーズンでは、戦術的な話になってしまいますが、15番がコントロールするエリアがあったので、そこでもっともっとコントロールしてアタック出来れば、10番の助けにもなるし、自分としてもチャンスが作れる場面があると思います。そこのところを、もっともっと出来たんじゃないかなと思っています。
◆弟は真っすぐな人間
――サンゴリアスに弟さん(尾﨑泰雅)が入ってきましたが、弟が入ってくるというのはどんな感じですか?
大学の時も1年間だけは一緒にやりましたが、大学では人数が多かったので、あまり関わる機会はありませんでした。今は関わることが多くて、家族が同じチームにいるということはちょっと変な感じはしましたが、元々兄弟仲が良いので、チーム内でも普通に喋ったり、一緒にご飯を食べたりもしています。最初は少し違和感がありましたが、今は普通になっていて、弟でもありますが、チームメイトとして見ています。
――2人でラグビーの話もしたりしますか?
ラグビーの話もしますし、普通の話もします。周りからは「めっちゃ仲良いな」って言われます。上に姉が2人いて、4人姉弟なんですが、みんな仲が良いですよ。
――泰雅選手にはまだインタビューをしていないんですが、性格的には似ていますか?
似ているんですかね?僕はどちらかと言うと、言い方悪く言えばずる賢く生きてきた感じです。周りをよく見て状況を把握して行動するという人間です。弟は末っ子と言うこともあるんですが、真っすぐな性格だと思います。イメージで言うと、「昭和な人間」というか、不器用で伝え方が下手なところがあるかもしれないですが、真っすぐな人間だと思います。
――泰雅選手がサンゴリアスに入る時に、アドバイスなどはしましたか?
弟も別のチームと迷っていたところはあったと思いますが、「自分にとってもラグビーにとっても、いちばん成長できる場所を考えて選んだ方が良いよ」とアドバイスしました。「サンゴリアスに来いよ」という話はしていなくて、本人がサンゴリアスを選んでくれたので良かったですね。
――森川選手の弟もサンゴリアスに加わることになりましたね
兄弟ペアが2組になるので、面白いですよね。楽しみです。
◆スピードアップしていきたい
――次のシーズンでのターゲットは?
まず近い目標では、秋の日本代表スコッドに入ることです。いまオフシーズンではあるんですが、しっかり身体を動かしていますし、ベースはしっかりと作っています。日本代表に関わらず、徐々に次のシーズンに向けて始まっているので、自分の更なるレベルアップに向けて、身体の部分とスキルの部分を作っていっている段階です。
――身体を作るという部分に繋がるかもしれませんが、料理の腕前も上がりましたか?
コロナで家で過ごす時間が増えたので、上達はしていると思います(笑)。人に出すものではなく自分で食べるものなので、得意料理と呼べるかは分かりませんが、炒め物は結構作りますし、魚が好きなのでブリの照り焼き、ブリカマなど作ったりしています。
――ラグビーではどこを強化したいと思っていますか?
スキルの部分以外で言えば、ゲームをコントロールするところはもっとレベルアップしなければいけないと思っています。身体的な部分で言えば、スピードアップしていきたいと思っているので、スピードトレーニングなどに取り組んでいますし、身体のサイズがない分、もっとスピードで相手を圧倒できればと思っています。
――スピードに関しては、毎シーズン上がっていますか?
上がっていると思います。スピードには色々あって、トップスピードもそうですし、一瞬でトップスピードを出せるようになることもスピードだと思いますし、アジリティも含めて、レベルアップ出来ればと思っています。
◆ボールを持っていない時の動き
――ゲームコントロールの部分は、周りのみんなのことを分かっていないと難しいですよね
そうですね。1人1人特徴が違って、その選手に合った動かし方があるので、そこをもっと把握しないとダメですし、合わせていかなければいけない部分だと思います。やっぱり練習で相手が思っていることとか、相手がどう動きたいかというところは、常にコミュニケーションを取っていかなければいけない部分だと思います。だから、練習がすべてだと思っています。
――自分以外の14人をすべて把握して試合に臨むようになるんですか?
そうですね。選手の特徴や癖、その選手によって自分が合わせるべきところは合わせますし、自分が合わせてもらいたいところは合わせてもらうという感じですね。相手が思っていることを感じ取ってプレー出来ることが良いと思いますし、それが出来ると阿吽の呼吸など、コミュニケーションを取っていなくてもアイコンタクトだけでプレーが出来るようになるんじゃないかなと思っています。
――それぞれが思う通りに動ける環境を作るというのは面白いですね
10番もそういう感覚でプレーしているんじゃないですかね。自分が抜けるより、自分が組み立てた中で抜けていく方が面白いと思います。
――そういう面白さは以前から感じていたんですか?
いや、前まではウイングでプレーすることが多かったので、ラストパスをもらうなど、最後のピースにハマるようなプレーヤーだったと思います。なので、今はどうやって味方を活かすかという、違う感覚がありますね。
ただ、僕は15番で、9番や10番のようにゲームを大きくコントロールするポジションと比べると、まだまだ小さい部分だと思うんですが、それですら難しい部分があるので、10番など全体をコントロールするポジションの選手は素晴らしいと思いますね。
――コントロールする範囲が小さいかもしれないですが、それをはっきりと自覚している選手が15番だと強いのではないでしょうか
1人1人がしっかりと理解するということはチームとしても大事なことなので、そこは重要なポイントだと思います。
――ファンに注目してもらいたいポイントはどこですか?
派手さは欠けるかもしれませんが、何でここで抜けるのかというプレーが僕は多いと思います。そういうプレーには、その前に色々と自分が仕掛けているので、ぜひボールを持っていない時の動き、抜ける前のシーンなどを全体的に見てもらえれば、僕の特徴が分かるんじゃないかなと思います。
もしかしたらテレビ画面には映っていないかもしれないですが、見てくれている人は結構いるのだろうと思っています。僕にはヅルさん(中靏隆彰)の速さや江見さんの強さは無いと思うんですが、この身体のサイズ、能力でも抜けるのは、その前の過程をしっかりと考えてプレーしているので、そこを見てもらえたら面白いと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]