2021年7月 9日
#754 西川 征克 『自分の得意なところで勝負する』
この現役引退インタビューで「地道にやってきたから日本代表になれた」と語る西川征克選手。決して大口を叩くことなく、それでいて個性豊かなキャラクターが、グラウンドを去り、新たなチャレンジを始めます。(取材日:2021年6月中旬)
◆キツい時の一歩
――最後のスピリッツ・オブ・サンゴリアスになってしまって残念です
そうですか(笑)?日も経っていますし、引退に対して悔しさがあったわけではないので。
――最後となったシーズンについてはどうですか?
残念でしたが、終わって1ヶ月近く経っているので、みんな次に切り替えていこうという感じじゃないですかね(笑)。優勝したシーズンも勝てないシーズンも、色々と経験してきたので、結果は結果として受け止めています。
――2021シーズンを振り返って、個人としてはどうでしたか?
4試合でしたが、出場できて良かったです。シーズン前の合宿で走って山を登ったり下ったりするメニューがあって、その時にキツい時の一歩が出なくて「そろそろ引退かな」と思いました。僕は身体が大きいわけでも強いわけでもないので、疲れた時にどれだけ出来るかという部分は、絶対に負けてはいけないところだと思っていました。そこで一歩が出なかった時に、「あぁ~」って思いましたね。
――これまでその一歩が出ていたのに、なぜ今回その一歩が出なかったんでしょう?
歳も歳ですし、自分自身が守りに入っているんだなと。成長していかなければこのチームに残れないのに、守りに入っている自分がいたので、「それは違うな」と思いました。
――年齢はどういうところで感じますか?
難しいですね。歳を言い訳にするのが良くないですよね。だから、自分自身の気持ちなのかな。実際にウエイトトレーニングをやって、数値が落ちているわけでもないですし、もっと試合に出るとなれば、出られる状態でもありました。ただ、チャンピオンを目指す中で、このチームにいるべき存在ではなくなったのかなと思いました。
――その心境の変化はどこから来ているんですか?
常に満足はしていませんでした。追い込まれなければ成長は出来ないと思っているので、その追い込まれたところで出せなかったんですよね。それは気持ちが疲れているのか、何なのかははっきり分からないですけれども。
◆自分の中で迷いが生じた
――シーズン前にそれを感じた状態でシーズンを迎えるのは辛くなかったですか?
だから、開幕戦のメンバーに入れなければ、スタッフに伝えようと思っていました。そこに対してのマインドでシーズンを迎えました。コンディション的にはそんなに悪くはなかったんですが、合宿での一歩が出なかったことで、何となく不安な気持ちがありました。だから自分で設定を決めないとダメだと思って、開幕戦のメンバーに入ることにフォーカスしました。
――開幕戦、第2節と先発で出場しましたね
そうですね。だから、自分の中で迷いが生じましたね(笑)。第3節でメンバーから外れて、これまでだったらメンバーから外れたら悔しいですし、優勝したとしてもメンバーに入れていなければ素直に喜べなかったんですが、2021シーズンはメンバーから外れても「勝って欲しい」と素直に思えてしまったので、本当に保守的になってしまったんだなと思いましたね。
――そういう自分の変化に気づいて、第3節以降はどういう気持ちだったんですか?
試合に出たいという気持ちはありました。ラグビーをやっている以上は、試合に出てなんぼと言うか、試合に出るつもりで練習をしていました。ただ3~4年前と違ったのは、その当時はスタメンで出ることが多くて、スタメンで出ることを自分に課していたというか、そういう気持ちでしたが、2021シーズンでは追う立場だったので、まずやらなければいけないことは、怪我などで休まないことでした。チャンスはそんなに多くあるものではなくて、試合に出た時にどれだけパフォーマンスを出せるかに懸かっているので、怪我をせずに常にグラウンドに立ち続けることを意識してやっていました。
――シーズン前に決めたターゲットをクリアして、引退する方向に行かずに済んだんじゃないですか?
自分が大事にしていたところを失ったことと、メンバーを外れても素直に応援してしまったところです。あとは守りに入っていたところですね。決勝でも素直に「勝って欲しい」と思っていました。
◆成長し続けなければいけない中で守りに入った
――自分のプレーについてはどうでしたか?
別に悪くもないし、良くもないという感じでしたね。僕はずっと「プレーに波がある」と言われてきて、良い時も悪い時もあった中で、コンスタントにパフォーマンスを出せたことは成長かなと思います。試合に出れば、ある程度のパフォーマンスを出せたことは良かったことかなと思います。
――身体の状態やプレーを見れば、続けようと思えば続けられたわけですよね
スタッフから肩を叩かれなければ、ですけどね。引退は自分から言ったので、チームとしてどう考えていたのかは分からないですが。
――自分の中での信念が貫けなくなったということですね
信念というか、このチームがそういうチームだと思っています。優勝するためにみんなが成長し続けなければいけない中で、守りに入ってしまったということで、このチームで続けることはダメなんじゃないかなと。
――やろうと思えば出来るのに、難しいところですね
そうですね。「やれ」って言われたら、出来なくはないと思います。
◆いちばん強かった
――客観的にチームを見ていた部分もあったと思いますが、2021シーズンの良かったところはどこだと思いますか?
強かったですよ。11シーズン在籍した中で、いちばん強かったと思います。能力の高い選手が揃ってきて、簡単にトライが取れるようになりましたね。
――これまででいちばん強いと感じていた中で、優勝できなかったのはなぜだと思いますか?
そこにフォーカスし過ぎたかなと思います。例えば、負けている状態でも個人に頼ってしまっている部分があって、それってこれまでのチームとは違って、優勝するようなチームではなかったのかなと思います。あとはチームのスタイルも変わってきましたよね。これまではずっと我慢してフェーズを重ねて、やっとスペースを見つけてトライを取るというイメージだったと思いますが、それが変わってきて、オフロードパスもバンバンやりますし、前のスタイルから変わってきている段階だと思います。ただ、以前のスタイルに戻る必要はないかなと思いますし、今のスタイルを極めていって優勝できるのであれば、そういうスタイルもありだと思います。
――30歳を過ぎてから日本代表に選ばれて、3キャップ取りましたが、日本代表についてはどうですか?
「パパは日本代表だったんだよ」と語れるのは良いですね(笑)。もしかしたら仕事でも使えるかもしれないですよね。他の選手は日本代表を目指してプレーしていると思いますが、僕は逆で、地道にやってきたから日本代表になれたという感じだと思います。日本代表という目標はなかったので、やってきたことが成果として現れたんだなと思っています。その成果が現れたということは、素直に嬉しかったですね。
◆自信があったが全部ケチョンケチョンにやられた
――2010年にサンゴリアスへ入って、これまでを振り返った時にパッと思い出すことは何ですか?
新人の時のトップリーグ2010-2011の第2節(リコーブラックラムズ戦)ですかね。リザーブだったんですが試合終盤の1点ビハインドのガチガチの状態で入りました。初めてトップリーグを経験できたという部分と、そのような試合展開でノックオンをしてしまい、大きなプレッシャーを感じてプレーしていましたね(笑)。その後、逆転して勝てたので、ノックオンの影響はなかったかなと。
――初めてトップリーグに出場して、嬉しさや反省などがあったと思いますが、嬉しさの方が大きかったですか?
もちろん嬉しさの方が断然勝っていましたね。新人で第2節で出場できたので、今の選手たちは新人でも開幕戦からメンバーに入ったりしますけど、当時としては早かった方だと思います。その試合では、同期の日和佐(篤/現 神戸製鋼コベルコスティーラーズ)も、後半から出ましたね。
――サンゴリアスに入って調子が良くて、トップリーグでのレベルでも戦えるという自信を持って試合に臨んだんですか?
僕自身、あまり自信がない人なので。自信はないけど、やらなければいけないという感じだったかなと思います。メンバーに選んでもらっているので、その期待に応えなければいけない、試合に勝たなければいけない、そういう感じでしたね。そして、自分自身も次に繋げなきゃいけないと思っていました。
――自信がない人とのことですが、実は自信がある人なんじゃないかなと思うんですが、どうですか?
大学までは自信がバンバンあったんですよ。それがサンゴリアスに入って、全部ケチョンケチョンにやられましたね(笑)。エディー・ジョーンズ(当時 監督)に。たぶん全員がやられたと思うんですが、1年目は特に僕がやられたと思います。
◆やったことでそこが自分の自信になりました
――2年目、3年目では、大学時代の自信は戻りましたか?
戻って来たのはいつですかね。エディーにやられて、その中で自分はどうしなければいけないのかと分かったことが大きかったと思います。大学の習慣的なものではダメだと気付いて、言い方が悪いですが、怒られないためには何をしなければいけないのかと。今はその考え方はおかしいと思いますが、そこを考えるのに必死でした。
――どこをどう変えていったんですか?
まずはエディーと極力会わないようにしようと(笑)。当時はサテライトリーグというものがあって、その試合に出ても、10分くらいで代えられたりしましたし、次の日に監督室に呼び出されたりして、体重がどんどん減って、95kgくらいあった体重が87kgくらいまでになりましたね。
直弥さん(大久保/現 ヤマハ発動機ジュビロヘッドコーチ)がコーチにいて、色々とサポートしていただいたことが大きかったと思います。それで怒られなくなったかどうかは分かりませんが、下から新たなターゲットが入ってきただけかもしれないです(笑)。
エディーが監督だった2年は本当に大変でしたね。言い方は悪いですが、やらされるので。でもそれをやったことで、最終的にはそこが自分の自信になりましたね。辛い時にもあと一歩が出るとか、そういう自信をつけさせてもらったのに、今年はシーズン前の合宿で一歩が出なかったことで、自分が大事にしていた部分が崩れたということです。今は当時と比べれば厳しい環境ではないので、その環境の中でやっていて、自分の中で甘えが出てきてしまったのかなとも思います。
――エディー・ジョーンズ監督を経験していない若手選手についてどうですか?
今の若手は賢いと思います。僕はやらされてやっていましたけど、今の若手選手は自分で考えてやっていますし、スタッフに意見も言えますし、その中で自分のなりたい姿を目指してやっていると思います。
◆新たな成長のために引退を決めた
――引退してコーチを目指すという考えはありませんか?
まずは社員ということもありますが、僕がコーチは無理でしょうね(笑)。まず自分の意見を伝えることが出来ないですし、その意見で相手に何かをさせることが出来ないです。ユタカ(流大)はミーティングとかでも発言するので、素晴らしいなって思っています。その分、自分でもちゃんとやっているから、自信を持って言えるのだなと思いますね。
――意見を伝えるということは、今後の仕事でも重要だと思いますが、そこはどうしていきますか?
困りますよね(笑)。今までは何かを伝えるというよりも態度で示してきたので、そこが悩みどころですね。ただ、このチームにいることで、その辺は勉強させてもらったので、また新たな成長かなと思います。そのために引退を決めた部分もあります。
――ラグビーだけじゃなく、仕事も大切にしてきたんですね
僕はラグビーだけでやっていけるような人間じゃないんです。それだけを突き詰めるって面白くないなって(笑)。良い意味で息抜きが出来る場でもありましたし、家族との時間もそうで、ラグビーを気にせずに過ごせる時間が作れたのは良かったと思っています。
◆自分の中でやり切った感がある
――思い残すことはありますか?
このチームではないと思います。もしプロでやっていて、他のチームからオファーが来れば、また新たな気持ちでやっていけるとは思いますけど。仕事でも3~5年くらいで異動がありますし、同じチームで11シーズンもやってきて、また新たな気持ちでやっていくということは難しいですね。まぁ、昔はプロになるという選択がほとんどなかったですよね。だから、僕の中でプロというのは特例であって、プロになるという考えが浮かばなかったですね。
――後悔などもありませんか?
ないですね。意外とサッパリしていますよね(笑)。自分の中でやり切った感があるのかもしれないですね。
――後輩の社員選手のお手本になれたと思いますか?
自分の中で人にはそれぞれの考え方があると思っているので、その人の捉え方ですかね。自分自身としては、後輩がいるから後輩のためにという気持ちはあまりなかったので、変な話、態度を変えることも特にありませんでした。だから、僕の姿がどう映ったかは、その人次第かなと。
――後輩に何かメッセージはありますか?
まずはしっかりと自分を見つめて、試合に出られていない選手であれば、どうやれば試合に出られるのかを考えて取り組むことがいちばん大切だと思います。試合のメンバーは選ぶ側の考えもあるので、その考えに合わせていくのか、それとも自分を貫くのか、その部分も含めて考えて取り組めば良いと思います。
◆100%でやり切って、その後に感情がついてくる
――改めて、ラグビーの魅力は何ですか?
辛いことも嬉しいことも、チームとして出来ることが大きいですね。みんなが練習から100%でやり切って、その後に感情がついてくるというところが楽しかったところですね。
――今後もチームメイトは大切な存在ですか?
そうですね。何事も個人で出来るものではないので、チームとして一緒に上り詰めることが面白いと思います。そこで支え合えることも面白いところだと思います。同じことをやらないと分かち合えない部分があると思うので、そこがいちばん大事なところでもあるかなと思います。
――今後の楽しみは何ですか?
不安しかないですよ。社員でしたけど、ラグビーがほとんどで、仕事は他の社員の人と比べたら少ししかしてこなかったわけなので、新入社員の気持ちで臨まなければいけないと思っています(笑)。乗り越えれば自信がついていくという経験をしてきたので、そこは新入社員とは違うアドバンテージかなと思います。
どういう業務になるか分かりませんが、これまで培ってきたことは自分のプラスになると思うので、それをどう繋げるかが大事だと思っています。12年目の社員の人と僕とでは本当に大きな差があるので、自分の得意なところで勝負するというか、そういうことを考えてやっていかないといけないと思います。
――不安に思うことも大切なことですよね
そうですよね。不安がなければ色々と解決できないと思います。不安があって、そのプレッシャーで失敗して、そこから学んで次に繋げるという成長を描かないと上手くいかないかなと思います。
――楽しみですね
不安です(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]