SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2021年7月 2日

#753 中靍 隆彰 『本当に小さなことを1年を通して積み重ねる』

シーズン終盤になって復活し、14番で登場した中靏隆彰選手。終盤での戦いの中で経験した悔しさ、そしてそこから見えてきた来シーズンへの課題を聞きました。(取材日:2021年6月中旬)

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◆タラレバばかり

――2021シーズンのトップリーグ決勝を振り返って、どうでしたか?

結果は負けなんですが、試合の映像を何度見返しても「勝てたな」と思えるような、本当にタラレバなんですけど、「あそこであぁしていれば」というところばかりで、悔しい思いしかないですね。

――次に勝つためのポイントは見えていますか?

今回の結果が実力だと思いますし、もし来シーズンの決勝でまた戦うことになったら、その時に一発勝負で、「あの時にあぁしておけば良かった」と思わないようなプレーを出来るのか、というところだと思います。本当に小さなことを1年を通して積み重ねられるかどうかだと思うので、日々の練習から小さなことを大事にしないといけないと思います。

――そこが足りなかった部分だ思いますか?

そうですね。チームとしてはディシプリンの部分で、アンラッキーな部分もあったとは思いますが、そういうところは簡単には変えられない部分なのかなと思います。みんな思うところはあると思いますし、日本代表に行っているメンバーや海外に帰っている外国人メンバーなどが戻ってきて、また集まった時には、みんなでどうやったら優勝できるのかを考えていかないといけないと思います。

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――まだ悔しさが残っていますか?

相当悔しいですね。それ以前からやっていましたが、特に2020シーズンが中断してから、自分の中で人生でいちばんトレーニングをしてきていて、本当に2021シーズンが楽しみでした。怪我が続いて試合に出られなくて、それでもどこかで自分の出番があるはずと考え準備をしてきて、なんとかプレーオフでは出場することが出来ました。そして、最後の最後であのような悔しい終わり方になりました。

本当にどっちに転ぶかというような展開で、勝っていれば最高の結末でしたし、今までの苦労も報われたと思いますが、負けてしまいましたし、なおかつ対面(福岡堅樹選手)にあのような形でやられて全部を持っていかれましたからね。

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◆なかなか次に進むことが出来なかった

――ラグビーマガジン7月号の表紙を見ると、主役と脇役という形になってしまっていて、勝っていれば逆になっていたかもしれないですね

勝っていれば主役になっていたとは思わないですけど、引退することは知っていたので、未練なく綺麗には辞めさせないと思っていたんですが、悔しかったですね。負ければ彼がMVPになるだろうと思っていましたし、勝てばバレット(ボーデン)がMVPになるだろうとは思っていたので、そういった部分でも悔しかったですし、ラグビーマガジンの表紙を見た瞬間も悔しかったです。自分は今まで何をやってきたんだろうと、チーム関係者やファンの皆さんに申し訳ない気持ちになりました。家族もずっと応援してくれていて、家族が誇りに思って欲しいと思っていた中で、いちばんダサい形になってしまって、なかなか次に進むことが出来なかったですね。

――たとえ表紙に載ったとしても、あのような形であればその雑誌は買わないですか?

いや、買いました(笑)。店舗で買うのにはためらいがあったので、ネットで買いました。悔しさはすぐに慣れたり忘れたりすると思うので、ちゃんと手元に置いておこうと思いました。無理して手元に置いておこうとしているわけじゃなくて、僕はこれまで悔しいことがあればすぐに次の行動に移してきたつもりだったんですが、今回は自暴自棄になったと言うか。勝っていれば家族やチームメイトと、我慢していたものを気持ちよく食べられただろうという想いもありましたし、あと一歩のところで何か変わっていれば、全然違うオフだったと思うと、虚しくなってくるという感じでした。

――復活はしましたか?

まだ悔しい想いはありますが、だいぶ前を向いています。

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◆更にチームを加速させるイメージ

――怪我で試合に出られなかった時に、さすがの中靏選手にも余裕がなかったように見受けられましたが、どうでしたか?

2月や3月に怪我をして、それが続いて、自分としては大したことないと思ったんですが、MRIを撮ったら治るまでに2ヶ月以上かかると言われました。治る頃にはシーズンが終わると思いましたし、あれだけ準備してきたことを試合で出すこともなくシーズンが終わるのかと思うと、プレーして報われないならまだしも、プレーする機会もないのかと。ただ、その中でも出来ることをやり切ろうと思ってやっていました。

――その怪我からよく間に合いましたね

リハビリをしていて、身体的には間に合うとは思いましたが、全勝しているチームという状況、そして練習試合も少なくて、試合のメンバーに入るためのアピールする機会がない中で、試合に出るための道筋が見えなかったです。そのために焦りがありましたね。試合に出れば活躍できるという自信はあったので、「試合に出してくれ」という思いだったんですが、その機会がないという感じでした。

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――試合に出たら、自信の通り、力を発揮できましたか?

自分が思うようなパフォーマンスではありませんでした。トライを取りまくって、プレーを楽しんでいる無敵感というか、そういうイメージをしていましたし、シーズンが始まってチームを見ていると、とても強いなって感じていて、その中で自分もプレーして、更にチームを加速させるイメージを持っていたんですが、プレーオフに向けてチームを加速させられるような感じではなかったですね。

――試合を楽しむことは出来ましたか?

いきなりプレーオフで、負けたら終わりのクボタ戦、パナソニック戦だったので、振り返ると緊張感の方が大きかったかなと思います。ガチガチに緊張したわけではありませんが、余裕を持って楽しんだ感じではなかったですね。

――来シーズンに向けた課題は何になりますか?

こうなりたいというイメージはたくさんあるんですが、一気に変わるということはなかなか無くて積み重ねしかないと思うので、今まで積み重ねてきた自分にまた少しずつ積み重ねていくしかないと思います。その中で、怪我をしないということは大事にしたいと思っています。

メディカルも気を遣ってくれていますが、怪我をしやすい箇所のトレーニングは続けていこうと思いますし、怪我をした状況は、雨が降った次の日の練習で、グラウンドがぬかるんでいたところでステップを切ったら滑って怪我をしてしまったので、取替式のスパイクを履いていたら滑らなかったんじゃないかとか、そういうところにも気を付けてやっていこうと思いました。あと、食事などは気を遣っているつもりなので、その辺は引き続き気を付けていこうと思います。

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◆世界一を凌駕するほどの努力ではなかった

――日本代表についてはどうですか?

絶対に日本代表に選ばれたいかと言われるとそうでもなくて、ほとんど考えていないですね。サントリーでのことに関しては、絶対にそうは思わないんですが・・・。サンゴリアスのウイングは日本代表じゃないと出られないのかと言うと、絶対にそんなことは無いですし、例え日本代表のウイングがサンゴリアスにいたとしても、絶対に試合に出てやると思っています。ただ、年齢も年齢なので、サンゴリアスが全てですね。

そもそも日本代表には入ったことがなくて、2017年にサンウルブズには選ばれました。サンウルブズがなければ、もしかしたら日本代表に選ばれていたかもしれませんが、それも運命かなと思っています。日本代表に選ばれたことがないので、それ以上のことは想像がつかないですね。

――では、少しずつ積み重ねていった先の目標は?

やっぱり優勝したくて、そのために必要なことは枝葉のように細分化していくと思います。いちばん上には優勝があって、この1ヶ月くらい色々と考えた中で、昨年のこのインタビューで、上手くいかなかった時にどうするかという質問に対して、その時の自分の答えは、上手くいかなかったのであれば、それは自分の努力が足りなかったからと答えていました。

確かにそうだなと、2021シーズンは優勝できませんでしたし、福岡堅樹に良いところを全部持っていかれたんですが、彼は世界一のウイングと言ってもいいくらいの選手だと思いますし、これまで努力はしてきたつもりでしたが、世界一を凌駕するほどの努力ではなかったんだなと思いました。

その想いを原動力に、またコツコツ積み重ねていって、来年の今頃に振り返った時に結果が出ていれば、何か意味付けが出来るかなと。今から意味付けすることは出来ませんが、コツコツやっていって振り返った時に、あの時にあの経験があったからと思えると思っています。

――その時にはラグビーマガジンの表紙を飾って、今年のラグビーマガジンと並べたいですね

そうですね(笑)。今はラグビーマガジンの方には感謝しています。

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◆僕の役割はとにかくトライを取ってくること

――2021シーズンはまた新しいサンゴリアスになったと思いますが、チームとしての成長をどの辺りに感じましたか?

やっぱり与えられるだけじゃなく、みんなで考えて、リーダー陣を中心に選手主体になってやって、ある程度の結果が出たということは、来シーズンに向けて自信になると思いますし、その中で来シーズンはプラスαで何か変えていかなければと思っています。

――みんなで考えてやるという方法が、なぜ上手くいったと思いますか?

亮土(中村)やユタカ(流大)だったり、リーダー陣が優秀で、若手選手たちに考えさせるようにすることが上手だったと思いますし、プロ選手が増えたことで良かった部分は、若いプロ選手も増えたことで、若い選手も責任感を持って取り組めたことだと思います。今までは数人のプロ選手がコーチたちと話し合いをして、社員選手がその内容の落とし込みを受けるという形でしたが、社員選手もプロ選手に引っ張られて、良い形で主体性を持てたかなと思います。

――中靏選手は社員選手ですが、元々周りを引っ張っていた方じゃないですか?

いやー、僕は引っ張るタイプじゃないですよ(笑)。全員が引っ張っても意味はないと思うので、僕は引っ張ってくれる人の指示通りに動く方で、その中で自分で考えて準備をして、チームにもコミットする方ですかね。

人それぞれに役割があると思っているので、自分の分析ですけど、そういうキャラクターじゃない僕が、そういうことをする必要はないかなと思っています(笑)。周りのリーダーたちは、僕の役割は周りを引っ張ることじゃなくて、とにかくトライを取ってくることと思っていると思うので、そこに集中しています。

自分としてもその役割を受け入れていますし、今年で31歳になるんですが、そういう役割は年齢で決まるものでもないと思うので、自分の役割を全うすることを考えています。

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◆もっとハードに出来た部分があったんじゃないか

――来シーズンにプラスαしなければいけない部分は、現時点で何か見えていますか?

2021シーズンはある程度は上手くいったと思いますが、まだポテンシャルでやっていた部分があったかなと思います。僕がそういうタイプじゃないので強要するわけじゃないですが、もっとハードに出来た部分があったんじゃないかなと思います。

これまでのサンゴリアスって、悪く言うと、ハードワークをする時と主体性をもってやる時とが、時代ごとに交互にあったと思います。緩くなって上手くいかなくなると、厳しくなって、また厳しくなると、今度は主体性を持ってやるという形になって、2021シーズンは主体性をもって取り組んで、ポテンシャルの部分があって、2位という結果になったと思います。

逆に言うと、これだけポテンシャルがある中で、更に厳しく追い込んでやっていたら、もっと良い結果を残せたんじゃないかと思う反面、主体性を持ってやったことで、みんなでラグビーの面白さを感じることも大事なことだなと思ったり、まだ考えがまとまらない状況ですね。大切なのは、何が優勝に繋がるか、ということだと思います。

――ウイングとしてのスピードは上がっていますか?

順調に来ていたと思っていたんですが、怪我をしてプレーオフに入ってからは、今までよりも速くなった感じは無かったので、また調整をしていきたいと思っています。衰えたとは思っていないので、来シーズンの楽しみにしたいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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