2021年6月25日
#752 小澤 直輝 『遂行力』
小澤直輝選手が毎試合安定した好プレーを発揮できる秘訣は、体力や技術はもちろんのこと、抜群の思考能力にあるのではないでしょうか。そんなことを感じつつ進めたインタビューとなりました。(取材日:2021年6月中旬)
◆1日でも早くフィットしなければいけない
――日本代表としてサンウルブズ戦に先発出場し、60分間プレー、出来はどうでしたか?
いやー、まだまだだったなと思います。自分の中で役割は理解したつもりなんですが、そこが詰め切れていないと思うので、まだチームから求められているところまで達していないのかなと思います。チームとしてのプランがあって、それを実行していく中で、自分の強みも出さなければいけないんですが、そこが出し切れなかったかなと思います。
――課題や改善点などは、もう整理できていますか?
まずは役割とチームのプランの理解だと思うので、しっかりとゲームプランを理解して、役割を遂行することだと思います。具体的に言うと、ブレイクダウンに入る入らないという判断のところ、ワークレートのところで、もっとアピールしていかなければいけないと思います。ブレイクダウンには必要な時に入るという判断をしなければいけないんですが、サンウルブズ戦を見返した時に、アタックでもディフェンスでも「僕が入っておけば良かったな」と思うシーンがありました。
――そこでの迷いがあったんですか?
そうですね。やっていることがサントリーとは違うので、ここで自分が寄った方が良いのかというところで迷いがあったと思います。
――どのくらいでフィット出来そうですか?
いま合流して2週間くらいですが、このツアーは時間がないことは分かっているので、1日でも早くフィットしなければいけないと思っています。
――その自信はありますか?
もうやるしかないですね(笑)。
◆もう目の前のことを100%やるだけ
――サンウルブズにもサンゴリアスのメンバーがいましたが、試合をしてどんな感じでしたか?
いつもやっているメンバーが相手チームにもいて、新鮮な気持ちで楽しんでやっていました。
――サンゴリアスのメンバーのプレー振りはどうでしたか?
みんな良いパフォーマンスをしていたと思います。
――この後、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦、アイルランド戦と続いていきますが、課題は?
決してチャンスは多くないと思うので、毎日の練習から、何が出来て何が出来ていないのかをレビューして、プランニングしていこうと思います。
――シーズンが終わって休みなく日本代表の活動がスタートしましたが、大変な部分とレベルの高いところでやる楽しさと、どちらが大きいですか?
もちろん大変さはあるんですが、久しぶりの日本代表ですし、更に相手もライオンズですし、もうやるしかないという感じですね(笑)。もちろんキツいこともありますが、新しいものが出来上がっていく、まとまっていく感じというものを楽しみたいと思います。
今は自分の知らない部分を、また知ることが出来ているという感じですね。まだまだ自分自身に足りない部分があるなと思います。もう目の前のことを100%やるというだけかなと思います。
――目の前のことに集中できないこともありますか?
不安があると、人って集中できなくなると思うので、そういう不安をグラウンド内外でひとつずつ消していくことが大事かなと思います。最終的には練習で不安を消すことになるんですが、プランが無いまま練習をしても自信には繋がっていかないので、そういうプランニングはグラウンド外でやるべきことだと思います。
――そういうプランニングは、いつもひとりでやっているんですか?
動画を見て考えることもありますし、僕は日本代表での経験が多くはないので、経験ある選手に話を聞いたりしています。
◆本当に勝ちたかった
――トップリーグ2021の決勝から時間が経ちましたが、悔しさは?
そうですね。本当に勝ちたかったですね。2021シーズンは勝つことも出来たシーズンだったと思うんですよ。チームとしてもまとまりがありましたし、それを選手としても感じていました。また練習ではノンメンバーから激しいプレッシャーがありましたし、実際に強かったので、そういうところの意識も高まってきていたシーズンで、勝てなくて本当に悔しいですね。
――なぜ勝てなかったと思いますか?
いくつか理由はあると思うんですが、純粋にパナソニックの方が自分たちのラグビーをしていたと思います。あぁいう場ではどちらが自分たちのラグビーを出せるかだと思うので、それに尽きると思います。
――あの様な場で自分たちのラグビーを出し切るということが難しいんですね
そうですね。僕たちも相手の分析をして、相手のラグビーを出させないようにするんですが、遂行力が大事になるのかなと思います。
◆自分の中で判断するタイミングと、そこに向けてのアプローチ
――個人としてシーズンを通して良いパフォーマンスをしていたように見えましたが、自分自身の手応えは?
本当に充実したシーズンにはなりました。これに関しても役割の部分だと思うんですが、チームが自分に何を求めているか、それに対して自分はどうやって貢献できるか。あと試合での役割をポジションごとにしっかりと理解して、試合に臨んでいました。
試合のメンバーやどのポジションで出るかによって役割も変わってきますが、例えば僕がボールキャリアーにならなければいけない試合では、その役割を果たせるように頑張りますし、仕事量やブレイクダウンへの働きかけなどがメインの役割になる場合は、その役割に集中するようにしていました。
――ブレイクダウンで目立っていたと思いますが、成長した部分や向上した部分は?
ブレイクダウンで絡むのも、周りが相手を倒してくれなければ始まらないので、まずは味方がすぐに相手を倒してくれること、そしてそこからの入るスピードは意識していました。あと、ペナルティーになったら仕方ないですし、自分が行けると思ったタイミングで入って、それに対してレフリーがダメだと言えば離すように意識していました。自分の中で判断するタイミングと、そこに向けてのアプローチという感じですかね。
――それは試合を積み重ねないと得られない部分ですか?
バックローの選手で、練習からブレイクダウンでボールを取り返している選手もいますし、試合が全てではないと思います。その部分を切り取った練習もするんですが、どちらかと言うと、チーム練習の中で意識しながら取り組んでいました。そして、その練習のレビューをして、また練習してということを繰り返してきましたし、他の人のプレーを見て学ぶこともあります。もし自分が試合を見る立場になった時に、「このタイミングであそこにいたら入れるな」とかを考えたりもします。
――チームの中で同じように考えている人はいるんですか?
バックローの選手は結構考えていると思いますよ。桶谷もジャッカルのタイミングが上手いですし、バックローの選手はそこを武器にしようとしている選手が多いと思います。
――同じポジションの選手と情報共有をしたりするんですか?
僕の場合、試合を見ていて「このタイミングで入れそうだ」と感じたことは、その選手に伝えたりします。逆に僕はあまり言われないかもしれないですね。
――いつ頃からブレイクダウンのプレーに手応えを感じていましたか?
途中で終わってしまった2020シーズンくらいからですかね。
◆ひとりひとりが成長しようとする意欲が高かったシーズン
――これまでにないくらいチームにはタレントが揃っていたと思いますが、それの良かった点と足りなかった点は何だと思いますか?
バレット(ボーデン)はじめ世界的な選手の個人の能力は、とても高いなと感じましたね。例えば、キックの処理もそうですし、スピードとか、「うゎーホントに助かったー」というシーンがたくさんあって、そういう部分では本当に助けられたと思います。チームとしてその選手たちに頼っていたイメージはないですし、ひとりひとりが成長しようとする意欲が高かったシーズンだった思います。
――選手が自分で考えるということが定着してきたように感じますが、その辺は?
それはあると思います。今までの与えられたものをしっかりと遂行するという形から、自分たちで考えて、どうしなければいけないのかという形に、選手たちがフィットしてきたのかなと思います。
――実際にやるとなると難しいことだと思いますが、あまり時間がかからずに出来るようになリましたね
最初は大変でしたよ。何をやったらいいかというよりも、違和感がすごくありました。しっかりとしたリーダーシップグループがあって、その人たちからのメッセージの影響もあると思います。
◆カルチャーグループ
――中村亮土キャプテンをはじめとするリーダーシップグループはどうでしたか?
亮土自身は変わらずプレーで引っ張って、周りの選手がまとめていくような形でしたね。真壁さん(伸弥/サンゴリアスOB)がキャプテンをやった時も同じような感じだと思いますが、当時よりもリーダーグループの選手は多いと思います。それに加えて、ノンメンバーがゲームメンバーにすごくプレッシャーを掛けていましたね。
リーダーグループの他にカルチャーグループがあって、僕はそっちに入っていて、そのグループで大越元気がリーダーシップを発揮して、グラウンド内外問わず、サンゴリアスをどう良くしていくかを考えていました。元気は言いにくいことも色々と言いましたし、そういうところで一体感を持てたと思います。カルチャーグループとして、グラウンド外のところでもっと色々とやりたかったんですが、コロナウイルスのために、そこは出来ませんでしたね。
――カルチャーグループがいちばん大切にしたことは何ですか?
気づける選手を増やすということですね。チームって小さいことで良くなったり悪くなったりすると思うんですが、そういう小さいことにどれだけの選手が気づけるか、そういう選手を1人でも増やすことを考えて取り組みました。
チームが違うベクトルを向いてしまう時は、例えば違う方向を向いている選手がいても気づかなかったり、気づいても放置したりしてしまうと思うんですが、そういうところに気づいて、みんなで戦っていかないとチームとして強くなれないと思います。
――その部分はサンゴリアスとしてずっと取り組んでいくんですか?
ここは絶対に大事なことなので、これからも継続していきます。やっぱりリーダーが頑張っていないと他の選手はついていかないと思うんですよ。頑張っていない人から嫌なことを言われたら、話を聞かないじゃないですか。元気自身が頑張っているから説得力がありましたし、嫌なことを言われてもそれが正しいことであれば、しっかりと受け止めなければいけないですよね。
カルチャーグループは大越元気がリーダーで、大志(村田)、僕、後はプロの若手として晟也(尾﨑)、外国人をまとめるサミー(セミセ・タラカイ)が周りで支えていました。シーズンの最初の頃によく話をしましたし、チームが一体感を持つためのどういう取り組みをするかという話もしました。
◆グラウンドに立ち続ける
――来シーズンに向けての課題は何ですか?
まず重要なポイントとしては、年齢を重ねてきているので、しっかりとグラウンドに立ち続けること。今シーズンはそれが実行できたので、次のシーズンでもそこが大事になると思います。
――日本代表での課題は?
自分の中でサントリーと比べると、日本代表での役割の理解度は低いと思うんですよ。だから何を求められているのかをしっかりと理解するところだと思います。コーチやスタッフと話をするだけじゃなく、周りに良い選手がたくさんいるので、そういう選手から学ぶことも多いと思います。
――与えられることよりも自分で見つけるということですか?
言われることもあると思いますが、その中でも自分の良さをどう出していくかが重要だと思います。受け身だけじゃ良くないと思うので、しっかりと発信もしていきたいと思います。
――6月26日にブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦となりますが、意気込みをお願いします
時間は限られているので1日1日を大切にして、ライオンズ戦に向けてチームとして良い準備をしていきたいと思いますし、その成果を出したいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]