SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2021年6月18日

#751 田村 煕 『自分が動かす』

ボーデン・バレットという世界のトップ選手とポジション争いをした今シーズンの田村煕選手。得たもの、成長したこと、そして次のシーズンで目指しているラグビーについて聞きました。(取材日:2021年6月上旬)

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◆個人としての悔しさはもっと強い

――トップリーグ2021決勝から時間が経ちましたが、今の気持ちは?

優勝すると思っていたので悔しいです。チームとしての悔しさもありますし、個人としての悔しさはもっと強いシーズンでした。今シーズンはスタメンで出場したのが1試合でしたし、10試合あった中で出場時間は200分くらいなので、単純計算で3試合も出場していないことになります。昨シーズンは出場時間も多かったんですが、今シーズンは後半残り20分くらいから出場することが多かったので、自分の中で何かを成し遂げられたシーズンではなかったかなと思います。その中で、メンタル的な部分、我慢するという部分は、チームのために出来たのかなと思います。

――プレーを見ると成長していることを感じましたが、自分自身ではどうですか?

そういう試合もあったと思いますが、欲が出るというか、「自分だったら、もっとこう出来た」という想いだったり、スタメンで出ていないことでのネガティブな想いというよりは、最初に出る選手で大体ゲームの中身が決まってしまうので、そうなった時に、「試合には勝ったけど、自分としてはもっとこうした方が良かったかな」と思うことが毎試合ありました。ただ、チームが勝つことがいちばん大事で、新しいサントリーのスタイルにフィットすることが大事だと思ったので、たらればになりますけど、決勝で負けた時には「もっともっとこう出来たら、結果は違ったかもしれないな」と思えたことは、成長できていることかなと思います。

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――後半の途中から出場して、そこから試合の流れを変えることは、やはり難しいですか?

難しいですね。スタメンで出場する時と準備は変わらないんですが、いつ出場するか分かりませんし、試合の流れを変えるということは、ただ思いっきり走ればいいということではありません。時間帯や点差、チームの運動量がどういう状況で、どこにフォーカスしなければいけないのかというところは、試合をずっと見ていないと分からないことなので、試合が終わった後に気疲れするというところがあります。

――プレーで成長したと感じているところは?キックの判断や正確性など、成長していたのではないでしょうか

試合の途中から出ると、ひとつのミスで流れが変わってしまうことがあって、逆に言うと、自陣からアグレッシブに色々なことにチャレンジするというチャンスも少ない。「こうなったらこうしよう」、「ここではこう判断しよう」と、イメージしながらキックの練習をしていましたし、そこにはこだわってやっていました。

――イメージ通りに実行できたんですね

後半から大きく崩れた試合は無かったと思います。

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◆ちゃんと試合に出たい

――スタンドオフには海外のトップ選手が来ることが多いのですが、ボーデン・バレット選手のプレーを見て感じたことは?

意識してやっているかは分かりませんが、常に楽しいプレーというか、自分がしっかりと活きるようなプレーをしたいとチャンスを伺ってやっていると感じましたね。強みを出すことを意識してプレーしていると感じました。
バランスが大事だと思うんですが、やっぱり海外の選手に比べると日本人の考え方は、ビッグゲームになればなるほど、硬いプレーが多くなる中で、自分の強みを忘れないでプレーするという考え方のところは、大事になってくるのかなと思いましたね。

――バレット選手は1シーズンだけでしたが、来シーズンはどうしたいと考えていますか?

そろそろちゃんと試合に出たいですね(笑)。ちゃんとゲームに関わりたいというか、作りたいというか。そこはパフォーマンス、そして信頼を勝ち取るしかないんですが、もうちょっと試合に出ないと、レビューすることが難しいかなと思います。自分でもどうしてもリザーブとしての目線になってしまいますし、試合をしながら経験しないといけないポジションだと思っています。

――先ほど、「自分だったらこうする」という話がありましたが、それは試合全体でそういう見方をしているんですか?

全体的にですね。この試合、このプレーという部分じゃなくて、キャラクターが変わればラグビーが大きく変わることは仕方のないことですが、今までのサントリーのラグビーでのボールの動かし方であれば、トライになっていないところで、バレットだったりサム・ケレビ、テビタ・リーだったり、そういう強烈なキャラクターがいることで、トライまで行けてしまう部分もあると思います。

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そういう選手が怪我をしてしまったり、相手が強くてなかなか抜けなくなった時に、勝っている時には見えない細かな部分というところが、勝負が分かれる部分であったり、チームがこだわらなければいけない部分だと思っています。「勝っているからいいや」、「負けているから直そう」ということではなく、どんな時でもチームとして軸を持たなければいけないこだわりの部分が絶対にあります。

ただ、そういう選手がいるということも、新しいサントリーの良さになっていくと思っているので、今シーズンは結果的に最後に負けてしまいましたが、何か新しいものが見えるかもしれないと思い、チームにコミットしてきたつもりです。最後で勝つために来シーズンは細かいところも伝えていった方が、もしかしたらチームとしても良くなるのかなと思いましたね。

――今シーズン感じたことを伝えていくことで、来シーズンはどこが変わりそうですか?

僕はあんなに一発で取り切れる選手ではないですし、動きの中で細かいコミュニケーションとか、意思の疎通とか、そこが僕が取れるいちばんの強みだと思うので、誰かに頼るというのではなく、チームとしてボールを持ち、全員が動いてどこからでもトライを取れる、1人1人がそれぞれのポジションでしっかりと動けるようになる、ということなのかなと思います。

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◆チームが良くなると思うことはちゃんと言う

――具体的にプレー面で成長を感じた部分はありますか?

リーダーミーティングにも参加させてもらい、アタックのリーダーとしてやらせてもらった中で、後半から出場することが多くて、今までだったらチームの流れを読んだりするよりは、自分のプレーを出したいという想いがありました。今シーズンは直人(齋藤)と出ることが多かったので、直人も自信を持ってプレーしていて、もちろんスタメンで出たい想いがある中、前半から「こうなったらこうしよう」というコミュニケーションが取れていたので、僕らは若いハーフ団ですけど、あまりパニックするようなことは無かったかなと思います。そこは良い意味で、チームにコミット出来ていたのかなと思います。

――良い意味で、より落ち着いているように感じました

自信が少しずつついてきたところもあるので、今シーズンはもうちょっと試合に出たかったですね。「前半から出たら、どうやって試合を組み立てられるかな」というところが楽しみにしていた部分でした。

――そこが来シーズンの楽しみでもありますね

そうですね。

――課題は何か見つかりましたか?

「もっとこうしたらいいんじゃないのかな」という部分は、メンタル的にも厳しいところはありましたが、シーズンが始まった当初は出来ていた部分があります。出場時間が今シーズンのようになって、メンタル的に難しい状態になってしまった時でも、それをしっかりと受け入れて、思ったことはチームのためにアプローチ出来たということがあったと思います。ですので試合に出るから言う、出ないから言わないということではなく、チームが良くなると思うことはちゃんと言うべきだと思いました。今シーズンの結果から、来シーズンはそうした方が良いと思えた部分でもあると思います。

――スキル面での課題は?

やっぱり決勝などを見ていると、ゴールキックは大事だと思います。今シーズンはなかなかチャンスがない中、練習中から相当蹴って準備したんですけど、試合に出れば絶対に決められる自信はありましたし、キックは大事だと改めて思いましたね。
ゴールキックは、練習をしていれば上手くなるものではなくて、色々なプレーで乗ってくることでゴールキックにも集中できると思うので、そういう意味でもプレーの質を高めて、ゴールキックの精度に繋がるよう、全体的に上げていきたいと思います。

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◆選手が言ったことがチームに浸透している印象

――中村亮土キャプテンはリーダーを多く作り、そのリーダーに任せるスタイルを取りましたが、実際にやっていてどうでしたか?

そのやり方は良かったと思います。亮土さんは身体を張ってプレーする選手なので、そこに集中してもらってチームを引っ張ってもらえれば、周りはついていきたくなりますし、選手同士でやってきたことは間違っていなかったと思っています。あと、選手が言ったことがチームに浸透している印象を持っています。

――リーダーグループの1人としての課題はありますか?

アタックのリーダーは、ボーディー(ボーデン・バレット)、ユタカさん(流大)、直人、僕の4人だったんですけど、「もっとこうした方が良いんじゃないか」と直人も思うことがあって、2人で話していたこともあります。そこをリザーブだろうが先発だろうが、しっかりと伝えるということが大事になってくると思います。

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――どうやって行っていこうと思っていますか?

新しいアタックコーチのジェイソン(オハロラン/アシスタントコーチ)が来たり、ミルトン(ヘイグ)が監督になってから、どのやり方にも正解は無くて、ひとつだけ大事なことは、「選手がどうしたいか」というところだと思います。違和感を感じた部分は言わなければいけないと思いますし、日本のクラブで、日本人が3分の2を占めているクラブで、そこに外国人の監督、外国人のコーチが入っているので、日本人の感覚を分かってもらうために、僕らがもっと伝えなければいけないと思います。そこを任せてしまうと、手詰まりとなった時に引き出しが無くなってしまうと思うので、グラウンドに入るまでのイメージ共有とか、グラウンド外のところでさらに細かく詰めていけば、もっと良くなると思っています。

――今シーズンは特に選手主導のスタイルだったと思いますが、実際にやってみてどうでしたか?

ミルトンも厳しいところは厳しいですけど、これまでにないくらいタレントが多かったですね(笑)。初めてのやり方で得たものも大きかったんですが、どのポジションにもタレントがいるようなチームになり、普通にやれば強いのは分かっているので、雑なチームにならないように、精度であったり本当に細かい部分も、選手同士で抜け目がないようなチームにしていかなければいけないと思います。

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◆目の前のことからやっていく

――日本代表への想いは?

やっぱり試合に出ないと、選ぶ側が参考にするものがないので厳しいですよね(笑)。もちろんチャンスがあれば選ばれたいですが、間違えちゃいけないことは、どれだけ日本代表が良い結果を残して、憧れる存在になっても、あくまでもチームで試合に出て、チームでしっかりと結果を出すプロセスの中で評価してもらうということだと思います。チームにコミットしてやることでそういうチャンスが生まれると思うので、まずはチームでのスキル、自信を持ち、チームに対して結果を残せるような選手にならなければと思います。先を見て足元がおぼつかないじゃないですけど、しっかりと目の前のことからやっていくしかないと思っています。

――チームの全員が悔しさを持っていると思いますが、試合に出られない悔しさなど、来シーズンは良い意味で田村選手が爆発してくれそうですね

溜めて抑えきれないくらいです(笑)。その溜めている想いが、マイナスな方向に行かないようになったことが、シーズン中の成長かもしれません。もし優勝していたら、来シーズンも今シーズンのやり方を踏襲して、僕はその中にもう一度ハマっていくことになったかもしれませんが、決勝で負けたことで想いが溢れてきたのは確かですね。

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――来シーズンは大切なシーズンになりそうですね

そうですね。サントリーに来て1年目は試合に出られなくて、2年目は決勝で神戸製鋼にボロ負けして、3年目はシーズンが途中で終わってしまい、4年目のシーズンが今シーズンでした。僕はサントリーでまだ3シーズンしかプレーしていないんです。その間、カップ戦では全試合に出場して、思ったようにやらせてもらい、日本人だけでも決勝まで進んだ自信があるので、そこは僕以外の試合に出られていない選手にも思ってもらいたいですし、イメージは出来ているので、あとは伝え方とか伝え続けることとか、そこが出来れば面白くなるんじゃないかなと思っています。

――選手としての来シーズンのテーマは何ですか?

簡単に言うと、自分が動かすということですね。エゴとか自分の勝手なやり方じゃなくて、しっかりとコミュニケーションを取って、しっかりと自分のパフォーマンスを出した上で、後悔が無いようにというか、「こう思っていた」ということが無いようなシーズンにしたいと思います。もちろんシーズン中には、勝ったり負けたりすることはあると思いますが、目の前の結果が悪かったから止めるということではなく、そういう部分も含めて、チームとして動かすためにやっていく、自分の絵をしっかりと共有して、それがチームの絵になるように動いていきたいと思います。

自分のプレーはもちろんですが、そのイメージを合わせることが10番は大事だと思うので、それが出来つつあった中で、試合に出られていないということが難しかったところなので、試合に出て共有することがベストだと思います。試合に出るイメージは出来ていますし、あとはそこで自分が責任持って動かしていけるかだと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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