2021年6月11日
#750 流 大 『チームを愛する気持ち、チームを強くしたいという気持ち』
自分ではもう若くないと言いながらも成長著しい流大選手。その成長の理由を聞きながら、シーズンを振り返ってもらいました。(取材日:2021年6月上旬)
◆めちゃくちゃ楽しかった
――2021シーズンはどうでしたか?
まずはすごく楽しいシーズンでした。久しぶりに最初のプレシーズンからチームで活動できたので、キツいこともみんなで乗り越えてきましたし、長い時間を一緒に過ごしたので、それだけチームに対する愛情も大きかったです。色々な選手と関わりを持つことが出来たので、結果を除けば、すごく楽しいシーズンでした。
――1年目以来の"キャプテンではないシーズン"でしたが、それについてはどうでしたか?
いやー、めちゃくちゃ楽しかったですよ(笑)。純粋に毎回の練習、試合を楽しめたので、やっぱりキャプテンって大変だったんだなと思ったことと、より亮土さん(中村)を助けたいという想いを持っていました。
――次は中村キャプテンと推薦した本人ですが、中村亮土キャプテンはいかがでしたか?
素晴らしいキャプテンシーで、言葉よりも自分のパフォーマンスでチームを引っ張ってくれました。本来、キャプテンはパフォーマンスで引っ張ることがいちばんだと思うので、素晴らしいキャプテンだったと思います。その分、他のこととか、チームのカルチャー、ウイニングカルチャー、練習での態度など、そういうところは僕が絶対に見逃さないようにして、そういうところで助けられればと思っていました。そういう部分で亮土さんが気を遣わなくていいように手助けできたと思いますし、推薦して間違いなかったと思っています。
――選手としてもかなり成長したと思いますが、自分自身ではどうですか?
プレーについても充実していたと思います。サントリーにはタレントが多いので、どうやって彼らを活かしてあげるかと常に考えながらプレーしていました。自分でも経験ある選手だと認識しているので、ゲーム中の試合の動かし方とか、コミュニケーションの部分は、チームに貢献できたシーズンだったんじゃないかなと思います。
◆もっとトライを
――自らのトライ数だったり、トライする選手のサポートに入っている回数がかなり増えたように感じました
今シーズンからジェイソン(オハロラン/アシスタントコーチ)がチームに加わったんですが、彼と色々な話をする中で、プレーシーズンの時に「サポートをいちばんに意識しよう」という話をしました。僕自身も世界のラグビーを見ていると、9番がトライをするシーンであったり、サポートでボールをもらうシーンが多いので、僕自身の幅を広げる意味でも必要なことだと思いましたし、かなり意識してシーズンに臨みました。
トライをする機会もありましたし、自分がラックからパスをした後に味方のラインブレイクを予測して、そこに走って内側でパスをもらってチャンスを広げるというプレーは、今までのシーズンではほとんどなくて、今シーズンはそこがかなり増えたと思うので、シーズン前にターゲットにしていたことはクリア出来たと思っています。
――そこをターゲットにして、そのシーズンですぐに出来てしまうということは素晴らしいですね
ジェイソンが練習の後、試合の後、毎回レビューをしてくれて、「ここはもっとこう走った方が良いんじゃないか」とか、サントリーにはラインブレイク出来る選手が多くて、テビタ・リー、尾﨑晟也、サム・ケレビなど、色々な選手がラインブレイク出来るので、彼らがどういう状況でボールをもらえれば、このエリアに来るだろうと、いつも予測しながら練習をしていました。例え後ろでラックが出来たとしても、そこから戻ればいいだけの話なので、色々イメージをしながら、あとジェイソンからのレビューを繰り返しながら身につけていった感じです。
――まだ足りないと感じる部分はありますか?
もっとトライを取れると思うんですよ。得点をするということを、もっと自分自身に課したいと思っています。
◆バランスを常に意識
――キックも安定していましたね
スポットでキッキングコーチが来てくれて、スキルセッションで色々と指導してくれましたし、キックの考え方、スキルのポイントなどもそうですし、あと毎回レビューをしてくれたり、練習前に色々なポイントの話をしてくれたりしてくれました。
僕はパスよりもキックに個人練習の時間を割くことが多いので、そこはかなり意識していやっていましたし、サントリーというチームとして、パスが多くて、ラインブレイク出来る選手が多いので、相手はそこを警戒してきます。その分、裏のスペースを支配できれば、より強いチームになれると思っていたので、キックもとても意識して取り組みました。
――キックが向上した要因として、キックのどこが良くなったと思いますか?
ひとことで言うと、バランスを常に意識しています。キックを蹴る時に自分の軸足と身体のバランスを意識して練習していて、それがキックのスキルに繋がっていると思います。
――サポートの部分であったり、キックであったり、コーチから良い指導を受けたと思いますが、それは流選手が求めていたから指導してもらえたということですか?
僕がどういう選手かということを理解してくれていると思うので、それに対してアドバイスをしてくれましたし、僕自身ももっともっと上手くなりたいという想いがあるので、質問をしたり、常にコミュニケーションを取るようにしていました。
◆普通にパスを出すこと
――ボーデン・バレット選手とハーフ団を形成しましたが、どうでしたか?
皆さんが思われている通り、素晴らしい選手であることは間違いないですし、9番として一緒にプレーしていて楽しい選手で、本当に貴重な経験をさせてもらいました。ボーディー(ボーデン・バレット)自身もラインブレイクが出来る選手であり、パス、キック、全ての能力が高いので、僕が目指すプレーをするというより、そういう周りの選手の繋ぎ役をするということが、僕自身のいちばんのポイントでした。
――バレット選手のいちばん引き出したいところはどこでしたか?自ら走るのも好きなのではないかと思いましたが
ボールを渡せば何かしてくれるので、普通にパスを出すことです(笑)。少しでもミスマッチがあったり、ギャップがあれば走るので、そういう時は早めにパスを出すようにしていました。
――バレット選手は1シーズンだけですが、来シーズンに向けてその部分は?
サントリーはボーディーに頼ったチームではなくて、チーム自体のレベルも高くなっていますし、日本人選手のレベルがとても高くなったので、1シーズンだけだったことは寂しいですが、ボーディーが抜けたからどうこうなるチームではないと思っています。ヒカル(田村煕)もすごく成長したと思いますし、ギッツ(マット・ギタウ)やボーディーとポジション争いをしたからこそ、得られたものがあると思うので、次のシーズンではヒカルが相当能力を発揮すると思いますし、何も問題はないと思っています。
◆一緒になってリーグを作っていく
――来シーズンの課題は何ですか?
キックについては良くなったと思っていますが、ハーフとしてはパスもすごく大事なので、パスのスキルをもう一度見つめ直して取り組もうと思っています。あとは最初に言ったサポートした後に得点できるような嗅覚、ランニングコースを見極めていきたいと思います。
――日本代表についてはどうですか?
今後、選ばれるかは分かりませんが、またチャレンジしたいという気持ちが芽生えてきているので、身体は何ともないんですが、今はしっかりと心を休めてからチャレンジしたいと思っています。
――新リーグになることについてはどうですか?
ほとんど違いを感じていることはないです。僕としてはプロ契約をさせてもらっている立場なので、チームに対してしっかりと結果を出すことが大事だと思っています。あとは、リーグの運営側だけに色々と求めるんじゃなくて、選手側からも何かアクションが出来たら良いなと思っています。それが具体的に何かということは分かりませんが、一緒になってリーグを作っていくという気持ちがあります。これから長く愛される日本のリーグであって欲しいと思っているので、その基盤を作っていかなければいけないと思っています。
――将来的に考え、コーチングなども考えていますか?
選手の後はコーチとして成功したいと思っているので、色々なコーチがどういうことを考えているか、コーチング方法、ミーティングの進め方など、そういう部分を感じ取りながら話を聞いています。今は色々なコーチから刺激を受けています。
――コーチによってやり方が違いますよね
全然違います。参考にすることは大事だと思いますが、真似するのは良くないと思っているので、自分なりの芯を持ちながらやることを大事にしたいと思っています。
◆ライバルとして戦う
――同じポジションの齋藤直人選手に、グラウンドの中で色々と指導している場面を見かけますが、そういうところでも何か意識しているんですか?
コーチングする立場じゃないと思っているので、まずは競争相手と認識しています。あとは、僕もポジションが約束されているわけではないですし、スキルや身体の能力に関しては、直人の方が長けている部分が多くあると思っています。ただ、自分が経験したこと、大事にしていることは、惜しみなく伝えたいと思っているので、直人も大越元気も勉強熱心で、頻繁に質問をしてきたり、上手くなりたいという想いが強い選手たちだから、それに対して助けてあげたいという気持ちを常に持って接しています。ただ、いちばんは競争相手で、ライバルとして戦うという気持ちを常に持っています。
――ライバルに対して助けてあげるということは、先輩から受け継いで来たことですか?
そうですね。今まで一緒にやった先輩たちもそういうことをしてくれましたし、サントリーというチーム、そして日本のラグビーを強くしたい、良くしたいという気持ちをいちばんに持っています。それこそ直人は、これからサントリー、日本代表を背負っていく選手だと思っているので、一緒に成長したいという想いを持ってやっています。
――ライバルが成長することで自分の成長にも繋がるということになりますか?
そうですよ。いつもプレッシャーは感じています。プレッシャーがあるからこそ自分が成長したいと思えるので、やっぱりライバルの存在は歓迎すべきものだと思っています。
◆めちゃくちゃ緊張します
――オフに入ってからはゴルフ三昧と聞きましたが、引退後はゴルファーも目指しますか?
そうですね。コーチングと一緒にゴルフのシニアプロを目指そうかなと思っています(笑)。やっぱりリフレッシュが出来ますし、適度な運動にもなりますし、最近になってゴルフは奥が深いなと思っています。スクラムハーフとして大事なこともゴルフから学べると思っています。
ゴルフはメンタルスポーツだと思うので、心の切り替えの大事さとか、本当に色々なことを考えるので、本当にメンタルが強い人がプロとして残っているのかなと、別世界から思っています。
――ここは決めたいというパットの時には緊張しますか?
めちゃくちゃ緊張します。余裕でラグビーより緊張しますね。ただ、楽しみながら出来て、リフレッシュ出来るので、良い趣味を見つけたと思っています。
――いつから始めたんですか?
2020年8月くらいからです。コロナの影響で室内で集まることやお酒を飲むことが出来なかったので、少人数で外で出来ることと考えたらゴルフかなと。
◆ひとりひとりがしっかりとやるべきことをやるという規律
――2021シーズンはあと一歩で優勝できませんでした。次に優勝するためには何が必要だと思いますか?
まだ僕自身は決勝の試合も見返していないですし、このオフを使って色々と考えようと思っているので、今はまだ明確な答えは無いんですが、いま振り返ってもパナソニックは強いチームだったと思います。規律ある非常に素晴らしいチームで、ペナルティーをしないという規律だけじゃなく、ひとりひとりがしっかりとやるべきことをやるという規律があって、決勝の舞台でその辺を学ばせてもらいました。僕は本当にサントリーのことが好きで、このチームで優勝したいという気持ちが強いので、これから色々と考えてやりたいと思っています。
――あのような場面でやるべきことをやるために、いちばん大切なことは何だと思いますか?
練習からいつもファイナルを想定しながらやることが大事ですし、それはチームとして色々な積み重ねがあるから出来ることだと思っているので、チームの約束事やチーム内のルール、小さいことでも浸透させて、チームとして強くなることが大事だと思います。試合に出る15人や23人だけがやってもダメで、チーム全体がより高い意識をもってやることが大事だと思います。
――その中での自分自身の役割は何だと思いますか?
僕自身もう若くはないと思っているので、もっと若い選手がサントリーを作るという強い気持ちを持たなければ、正直ダメだと思います。もっとチームに対して関りを持つ、単に発言するということも大事なんですが、チームを愛するとか、チームを強くしたいという気持ちを持っていれば、もっと違う行動が生まれると思うので、今シーズンも結構やったんですが、もっと若い選手がチームを盛り上げて引っ張っていくようなアプローチをしていきたいですね。
あとサントリーは、ここ何年間だけ強いということではダメで、ずっと強くなければいけなくて、毎シーズン決勝に進むようなチームで、リーグの中でも強い存在でなければいけないと思っています。そういうチームが作れるように、若い選手にどんどんアプローチしていきたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]